潤とキャナダ(脚本)
〇空港のエントランス
2050年。
松ヶ丘潤と元嫁の離婚が成立して子供の親権は松ヶ丘潤が持つことになった。
元嫁はすでにパートナーがいて、その彼と海外で暮らすらしい。
松ヶ丘潤(まつがおかじゅん)「じゃあな」
松ヶ丘潤の元嫁「それが最後の言葉ってわけ?」
松ヶ丘潤「・・・・・・」
松ヶ丘潤の元嫁「ハア・・・・・・ とことんつまらん男だわね、アンタって。 私もう行くから。 さよなら」
彼女は最後の最後までそういうものが必要だったんだろう。
でも、つまらないとかつまるとか分野が違いすぎる。
完全に専門外だ。
そういう愚直というか極端すぎる考えが破滅をもたらした。
松ヶ丘潤「達者で暮らせよ」
俺が言えるのせいぜいその程度のことだった。
だって、こういうときなんて言うべきなんだろう。
手荷物検査で引っかかって戻ってくんなよとか言うべきなのか?
分からん。
松ヶ丘潤の元嫁「は? マジキモっ それを面白いって思ってんのが本当無理なんよ。 引くわ〜最後の最後までつまんないとかそんなことあるんだ」
松ヶ丘潤「・・・・・・」
元嫁は背を向けて立ち去ろうとした。
松ヶ丘潤「カゼ引くなよ! 車に気をつけろよ! 夜に出歩くなよ! 変な路地に入るんじゃねーぞ!」
元嫁は中指を立てて去って行った。
〇豪華なリビングダイニング
元嫁と別れてしばらく経ったある日。
松ヶ丘潤「篤輝、お前髪伸ばしすぎ! 似合ってねーよそれ」
松ヶ丘篤輝(まつがおかあつき)「僕は父さんにも母さんにも似ていないからね」
松ヶ丘潤「なんだよそれ。 切れよ。 父さんの言うことが聞けないのか」
松ヶ丘篤輝「急に何? こうなるまで散々ほったらかしにしておいて今更言われても。無理でしょ(笑)」
松ヶ丘篤輝「2人のせいで僕はこんな風になったんだよ? 信じられないでしょ。驚いた? 昔の僕しか知らないんだから当然だよね」
松ヶ丘篤輝「浦島太郎にでもなった気分? ブハハッ、やめてよ。冗談きついって」
松ヶ丘潤「・・・・・・」
松ヶ丘篤輝「じゃあ、部屋で勉強するから」
〇豪華なリビングダイニング
松ヶ丘愛(まつがおかあい)「お金」
松ヶ丘潤「何に使うんだ?」
松ヶ丘愛「なんだっていいでしょ! もういい。いらない」
〇豪華なリビングダイニング
松ヶ丘潤「・・・・・・」
松ヶ丘潤「チッ、どいつもこいつも」
〇SNSの画面
人型猫型オートペット(ペットタイプの自動人形)予約開始🎉
松ヶ丘潤「・・・・・・」
人型猫型オートペットは俺が勤めている会社が何十年もかけて製作したAI搭載のロボット。
本物の猫の見た目をしていながら2足歩行で歩いて、人と同じように会話をすることが出来る。
家事や育児や教育も可能。
自分で学習して成長する機能も備わっている。
ペットモードにすれば4足歩行で歩いて猫と同じ動きをする。
唯一無二のロボットだ。
欠点はない。
人間の感情や行動に欠点のようなものがあったとして、多くの人がそれを欠点だと言っても俺は認めたくないな。
認めたくないけど、あいつや自分の子供を見ていると分からなくなる。
本当に欠点はないと言えるだろうか。
いや、あろうがなかろうが関係ない。
猫型オートペットは猫そのものなのだから。
猫に欠点がないことと同じだ。
松ヶ丘潤「俺は・・・・・・」
コネで少し安くなるとはいえ1000万円する代物だ。
少しくらい躊躇があるのが普通だろう。
そう考えると今の俺は普通ではないのだろう。
だって、躊躇などあるはずもない。
私は会社の仲間に電話した。
松ヶ丘潤「私だ。 オートペットの件なんだが、ああ、家で必要になった。 ハハッ、そうだよ。 新しいワイフを迎え入れる準備は整ってるさ」
松ヶ丘潤「勿論正気だよ。 この感情をどうにかするにはオートペットが最適なんだ。 とにかく、大至急で頼む」
〇豪華なリビングダイニング
数日後。
ピンポーン。
インターホンが鳴った。
松ヶ丘潤「来たか」
〇おしゃれな玄関
俺の期待とは裏腹に玄関のドアを開けると会社の仲間がいた。
わざわざ俺をからかいに来たんだ。
会社の仲間1「また結婚式にお呼ばれすることになりそうだね」
松ヶ丘潤「ハハッ、永遠の愛があるってことを証明してやるさ」
会社の仲間2「笑えない笑えない。 あなた本当に大丈夫? 今ならまだ間に合うわよ。 悪いことは言わないから他のことにお金使いなさい」
松ヶ丘潤「君に俺の何が分かる? 離婚もしていない、子供に嫌われてもいない君に」
会社の仲間2「・・・・・・」
会社の仲間1「行こう。 アイツに今必要なのは愛なんだよ」
会社の仲間2「でも・・・・・・」
会社の仲間1「くどいな。 まだ分からないのか? 確かにお前の言う通り引き返せるかもしれない。 だけどな、額が額だ」
会社の仲間1「それほどなんだ。 そしてアイツはもう買っちまってる。 もう引き返せないんだよ」
松ヶ丘潤「もういい。 お前らありがとう。 今日はもう一人にしてほしい」
会社の仲間1「おう。 何かあったらいつでも言えよ」
会社の仲間2「じゃあまたね」
〇おしゃれな玄関
松ヶ丘潤「どいつもこいつも。 勝手なことばっか言いやがって。 って、ん?」
鉢の方に何か気配を感じて目を向けると、そいつはいた。
人型猫型オートペット「あ、どうも。 人型猫型オートペットです」
松ヶ丘潤「・・・・・・」
そういう感じで来るんだ。
てか、あいつらもっとなんか一言言ってから出てけよ
ビックリするだろうが。
動揺と苛立ちと嬉しさが込み上げてきて俺の思考は停止した。
松ヶ丘潤「・・・・・・」
人型猫型オートペット「あの・・・・・・」
松ヶ丘潤「猫モード」
人型猫型オートペット「NONONONONO」
松ヶ丘潤「リアルだな! いや、真面目にやれ! これはテストなんかじゃない。 本番なんだ」
人型猫型オートペット「いきなりそんな、困ります。 猫モードってちょっと恥ずかしいっていうか」
人型猫型オートペット「なんかもっと親密になってからがいいかな〜なんて」
なんだこいつ。
いささか人間すぎやしないか?
会社で何度か話したことがあったけど、ここまで人間臭くはなかった。
こいつもしかして売り物ではないのか?
松ヶ丘潤「お前1日2日で、そこまで感情を乗せて喋れるわけないだろ。 バレバレだぞ」
人型猫型オートペット「あれ、何も聞いてないですか? おかしいな。 隠しているつもりなんてないんです」
人型猫型オートペット「私は最近までラボにいたんです。 ゴミ捨てとか掃除とか手伝っていました」
人型猫型オートペット「それで、何日か前に急にラボの人から今回の話があって、是非お願いしますって感じで」
人型猫型オートペット「ラボにはまだ在庫があるし、私のデータは保存されているので関係者に1台くらい売っても問題ないんだとか」
ん? ちょっと待て。
いやいや、おニューのオートペット欲しかったわ!
血の気引いてきた。
あー、クラクラする。
マジか。
普通に、本当の意味でゼロから関係を築いて行きたかったんだが。
100あるやつとゼロから関係を築くみたいなやつはもう散々やってきたんだが。
友達や知り合いを作るのもある意味関係を築くみたいなことだろ。
これからだって散々やるやつじゃんそれ。
全然違うだろ!
なんていうか、子供を育てる的な?
一緒に成長して行くのが醍醐味だろう!
今のこの状況ですでに成長を遂げたもの同士が一緒に暮らすってなんか嫌じゃね。
少なくとも新しい家族を迎え入れる感じではない。
いや、新しい家族を迎え入れることに違いはないのだが、ほとんど人間なんだもん。
ほとんど他人と一緒に生活するみたいなもんだぞこれ。
俺の感覚が間違ってんの?
なんか腹立たしい。
とはいえ今ここでこいつに『チェンジで』って告げるなんて出来っこない。
見た目が猫じゃなかったら遠慮なんてしない。
いくらでもチェンジしてやるのに。
クソッ!
こんな猫猫しいやつにそんな気の毒なこと言えっかよ!
松ヶ丘潤「そうか。 なら問題ないな」
やつの言ってることは全然入ってこなかったので雑に話を合わせた。
人型猫型オートペット「はい!」
松ヶ丘潤「来い! キャナダ。 シャワールームで洗ってやるよ」
人型猫型オートペット「え? は、はい!」
松ヶ丘潤「お前の名前はもう決めていた。 今日からお前はキャナダだ。 俺の知り合いに可愛いカナダいや、キャナダ人の女性がいてな」
松ヶ丘潤「少し前に夢で見たんだ。 もうずいぶん会っていない。 とにかく、そのときしっくりきたんだ。 変か? 変だよな」
キャナダ「いえ、いいです! キャナダ! へへへ。 私ラボでは番号で呼ばれていたので。 なんか嬉しいです」
松ヶ丘潤「そうか。 ならよかった。 改めて、よろしくな! キャナダ!」
キャナダ「はい! よろしくお願いします!」
俺と『人型猫型オートペット』キャナダのクールな日常生活が始まった。
「きょうの猫村さん」のハイテクバージョンみたいですごい。主人公の「いささか人間すぎやしないか?」とか「猫猫しいやつ」ってセリフがシュールすぎて悶絶。実物と対面した後にひたすら困惑&葛藤し続ける心の声もリアルで読み応えありました。この先どんなシチュエーションでも面白くなる予感しかない二人ですね。
生身の人間との関係に疲れ、ロボットにその代役を望む時代がきっとくるんだろうなあと思わされました。何はともあれ、自身が愛情をもって誰かに接することができるのがいいですね。
表紙がめっちゃかっこいいですね!!
人型猫型オートペットが面白いです。
次の活躍がみたいですね!