終わりの鐘と、はじまりのチャイム(脚本)
〇古い倉庫の中
かちゃかちゃ、と2人が料理をする音が住処である倉庫に響く。おしゃべりなノーアも疲れているのか、口数は普段より少なかった。
クレイ・トゥーリス「ただいまー」
コリン・アルデンヌ「(クレイの胸に飛び込む)」
クレイ・トゥーリス「あはは、ただいまコリン」
ノーア・ヴィスコンティ「おかえり~、俺も忘れないでよね」
クレイ・トゥーリス「ノーアもただいま」
ノーア・ヴィスコンティ「はい、おかえり。もうすぐ夕飯出来るから、手伝ってくれない?」
クレイ・トゥーリス「りょーかい」
誰も一言も話さない。食器が擦れる音だけがこの場を支配していた。それでもなお、心地よいと感じるのは、3人だからだろう。
これからもずっとこの3人で幸せに暮らしていけると信じて。
〇森の中
うっそうと茂った森。穏やかな木々のざわめきが辺りを支配している。
しかし、そんな優雅な森の空気には似つかない甲高い木を打つ音が辺りに響く。
ニコラス・オルレアン「──999!!1000!!1001!!」
何やら若い青年が剣術の練習をしているようだった。彼の名前はニコラス・オルレアン。名門貴族出身の青年である。
ニコラス・オルレアン「はあ・・・はあ・・・まだ、まだ足りない・・・」
青年は流れる汗もそのままに剣を振り続ける。まだ、まだ、と呟きながら。
イアン・サルフォイア「ニコラス。お前はここに居たのか」
やって来たのはイアン・サルフォイア。騎士団長を代々務める貴族の嫡男である。
ニコラス・オルレアン「イアン!!何でここが分かったんだい?出来るだけ人には知られないようにしてたんだけどな」
イアン・サルフォイア「最近森に出入りしている青年がいると聞いてな。もしかしたらと思っていた」
ニコラス・オルレアン「あっちゃぁ・・・今度こそはバレないと思ってたのに・・・イアンは何でもお見通しだなぁ」
イアン・サルフォイア「当たり前だ。こっちはお前が小さい頃から一緒に居るんだ。分からない方がおかしいだろ」
イアン・サルフォイア「それにお前は努力家だ。隠れて練習していないで堂々とれば良いのに、いつもコソコソと練習する。なぜ、胸を張って練習しない?」
ニコラス・オルレアン「いや、まぁ・・・それは・・・」
ニコラス・オルレアン「そぅちの方がカッコいいじゃん?なんか本の主人公みたいで」
イアン・サルフォイア「はぁ・・・お前は相変わらずだな」
ニコラス・オルレアン「誉め言葉として受け取っておくよ♪」
ニコラス・オルレアン「でも、それだけじゃないんだろ?イアンが俺を探しに来るってことは」
イアン・サルフォイア「ああ、その通りだ。よく分かったな」
ニコラス・オルレアン「そりゃ、伊達に何年もいるわけじゃないからね」
ニコラス・オルレアン「で?今日はどうして?」
イアン・サルフォイア「スラムに行きたい」
ニコラス・オルレアン「は?スラムに行きたい?なにバカな事を言ってるんだ・・・?次期騎士団長がどうしてあんな所に・・・?」
イアン・サルフォイア「調査だよ。”能力者たち”の」
ニコラス・オルレアン「おいおい、嘘だろ・・・スラムにも能力者がいるってのか?」
イアン・サルフォイア「ああ、しかもかなり厄介な能力者たちが」
ニコラス・オルレアン「どういうことだ?」
イアンの話によると、スラムに突如現れた能力者たちは街のあちらこちらに現れては人々から食料を強奪しているらしかった。
ニコラス・オルレアン「そんなのスラム街では日常茶飯事じゃないのか?どうしてイアンがわざわざそこに行きたがるんだよ?」
イアン・サルフォイア「話は最後まで聞け。 俺が調査したいのはその能力者たちじゃない」
ニコラス・オルレアン「は?一体どういうことだ?」
イアン・サルフォイア「その強奪を繰り返す能力者たちに私刑を加えているという奴らが居るんだ」
ニコラス・オルレアン「私刑?」
イアン・サルフォイア「ああ。しかもまだ幼い子供たちがな」
ニコラス・オルレアン「その子たちも能力者なのか?」
イアン・サルフォイア「ああ。俺はそれをこの目で見てきた」
ニコラス・オルレアン「あんた前も行ったのかよ!」
イアン・サルフォイア「あーまあまあまあまあ・・・?そんなことはおいおい話すとして」
ニコラス・オルレアン「はあ・・・ で、その子たちがどうしたって?」
イアン・サルフォイア「こちら側で育てたい」
ニコラス・オルレアン「おいおいおいおい・・・嘘だろ?スラムの連中をこっちに引き入れるつもりかよ」
ニコラス・オルレアン「大体スラムの連中にこっち側の常識が身に付くわけ・・・」
イアン・サルフォイア「10歳」
ニコラス・オルレアン「!?」
イアン・サルフォイア「一番年下だと思われるやつは見たところ10歳ぐらいだ。お前の弟と同じぐらいだ」
イアン・サルフォイア「そんなやつがスラムで大人相手に戦ってるんだ。助けてあげたいと思うのが当然だろう」
ニコラス・オルレアン「あんたはホント人の弱点を突いてくるよな・・・」
ニコラス・オルレアン「しょうがない。その話乗ってやるよ」
イアン・サルフォイア「感謝する」