リーパー・ファイナンス

さざえと金平糖

エピソード1(脚本)

リーパー・ファイナンス

さざえと金平糖

今すぐ読む

リーパー・ファイナンス
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇モヤモヤ
  突然ですが、クイズです!
  あの世で、最も要らない物は何でしょう?
  ヒントは、生前に使っていた物です。
  わかりましたか?
  ───答えは、『金』です!
死神「ええええええええええええええええええええええええええっ!!!!!???!?」
懸衣翁(けんえおう)「なんじゃ!いきなり叫びおって!」
奪衣婆(だつえば)「急にどうしたっていうのさ!」
死神「だ・・・だって、お金が必要無いなんて初めて知ったんだ!」
死神「懸衣翁(けんえおう)や奪衣婆(だつえば)だって、お金を持っていない死者に対して厳しいんでしょ?」
死神「六文銭を払えない死者は三途の川を自力で渡らせるって噂を聞いたよ!?」
死神「だから、お金が不要、というのは変じゃない?」
奪衣婆(だつえば)「うーん・・・」
懸衣翁(けんえおう)「厳しいというよりはのぉ・・・」
懸衣翁(けんえおう)「もともと、渡し船も渡し賃も無いんじゃよ」
死神「無いのっ!?」
懸衣翁(けんえおう)「六文銭というのも、現世の奴等が勝手に決めた設定じゃ」
奪衣婆(だつえば)「罪がない人は橋を歩いて渡れるし、そうでない人は川を歩いて渡れば良いのよ」
死神「で・・・でも、現に渡し船はあるし、お金を渡さないと乗せてくれないんでしょ?」
奪衣婆(だつえば)「渡し船は、ボランティアの人が善意で船を出して乗せてあげてるだけ」
奪衣婆(だつえば)「一度に乗せて運べる人が限られてるから、その六文銭という概念を使わせてもらってるの」
死神「そ・・・そうだったんだ・・・」
懸衣翁(けんえおう)「お金を貰うと、何故か嬉しいからのぉ〜♪」
奪衣婆(だつえば)「テンション上がるわよね〜♪」
死神「え、えぇ〜〜〜・・・」
死神「じ・・・じゃあ、貰って嬉しいってことは、お金が必要なんでしょ?」
懸衣翁(けんえおう)「いいや?」
懸衣翁(けんえおう)「必要無いから、川にポイじゃ!」
死神「えええっ!?捨てちゃうの!?」
死神「っていうか、川にポイ捨てはダメッ!!!」
懸衣翁(けんえおう)「すまん、すまん!」
奪衣婆(だつえば)「とにかく、お金なんて捨てるくらい需要は無いのさ」
奪衣婆(だつえば)「お金を使って買う物なんか、死後の世界に無いだろう?」
奪衣婆(だつえば)「死後の世界に欲が無いから、そもそも使い道が無いのさ」
死神「地獄の沙汰も金次第、と言うじゃないか!」
懸衣翁(けんえおう)「それが通用するのは現世だけじゃあ〜」
奪衣婆(だつえば)「金でどうにかできる罪なんてない!」
奪衣婆(だつえば)「どうにかしようとする、そのやましい心を罰するんだからね!」
死神「う、う〜〜〜ん・・・」
死神「困ったぞ・・・」
懸衣翁(けんえおう)「何が困るんじゃ?」
死神「・・・僕、お金を使って新しいことを始めようと思ってるんだ」
奪衣婆(だつえば)「始めるって?何を?」
死神「みんながお金を三途の川に捨てるから、川の深さが浅くなってきてるでしょ?」
死神「川がお金で埋まったら大変だから、どうせならお金を必要としてる所に持っていけたら良いな・・・って思ってたんだ」
懸衣翁(けんえおう)「なるほど、それで真っ先に儂らのところに来たんじゃな?」
死神「うん!お金にこだわりがあるのかと思ってたんだけど」
死神「三途の川を浅くしてる張本人だとは思わなかったよ・・・」
奪衣婆(だつえば)「六文銭を三途の川に投げ捨てるなんて、もうしないわ!」
懸衣翁(けんえおう)「儂もじゃ!面倒でもちゃんと回収箱に入れるようにするぞ!」
死神「次から気を付けてね?」
死神「・・・でも、お金を必要としてるのはやっぱり現世だけなのか」
懸衣翁(けんえおう)「そういえばお前は、現世をあまり知らないのだったな?」
死神「うん・・・全く覚えてない・・・」
奪衣婆(だつえば)「なら、この行き場のないお金を現世に戻してやったらどうだい?」
死神「現世に?・・・」
懸衣翁(けんえおう)「現世なら、いくらでも金を欲しがる奴がたんとおるだろう」
死神「現世!・・・うん!・・・行ってみる!」
死神「いずれは死神として、現世から死者を導かなきゃいけないしね!」
死神「先輩達のように上手く連れてこれるかわからないけれど、」
死神「僕、やってみる!!!」
死神「早速準備してくるねっ!!行ってきまーす!!!」
懸衣翁(けんえおう)「おう、気を付けてな〜」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
懸衣翁(けんえおう)「あの子がついに、死神になったか・・・」
奪衣婆(だつえば)「金のために生を受けて、金のために死んだあの子が・・・」
懸衣翁(けんえおう)「あの子は、金と共にある運命なのかもしれぬ」
奪衣婆(だつえば)「これも因果なのかしら・・・」
懸衣翁(けんえおう)「こればかりは儂らに分からない・・・」
「せめて、あの子の行く末に、救いがあらんことを・・・」

〇霊園の入口
  ──現世──
死神「よーし、着いたぞー!」
死神「まずはお金を欲しがってる人を見付けないとね!」
死神「お金を欲しがってる人はいるかなー?」

〇墓石
死神「・・・お、人間発見!」
死神「なんかお墓に語り掛けてるみたい。声掛けてみよう!」
金藤 一(こんどう はじめ)「・・・私はどうしたら良いだろう?」
金藤 一(こんどう はじめ)「よりにもよって、お前と同じ──」
死神「こんばんは〜♪」
金藤 一(こんどう はじめ)「え・・・わぁっ!?」
金藤 一(こんどう はじめ)「しっ・・・死神っ!?」
金藤 一(こんどう はじめ)「で、出たあぁ────────!!!!!!!!!!!!」
死神「ま、待ってよ〜!」

〇霊園の駐車場
金藤 一(こんどう はじめ)「死神なんて!私はまだ・・・」
死神「待って〜!!」
死神「お金、欲しくないの〜?」
金藤 一(こんどう はじめ)「なっ・・・」
金藤 一(こんどう はじめ)「金・・・だと?・・・」
金藤 一(こんどう はじめ)「死神が金なんて、どういうつもりだっ!?」
死神「まぁまぁ、そう邪険にしないでよ」
死神「僕はお金を必要としている人を探してるんだ」
金藤 一(こんどう はじめ)「金なら欲しい!・・・と言いたいところだが」
金藤 一(こんどう はじめ)「騙して私をあの世に連れ去るつもりだろう!?」
死神(お金を渡したいだけなんだけどなぁ・・・)
金藤 一(こんどう はじめ)「私はまだ、死ぬ訳にはいかないんだっ!!」
死神「べつに、今すぐは死なないよ?」
金藤 一(こんどう はじめ)「え?」
死神「僕は、君を迎えに来た訳じゃ無い」
死神「言ったでしょ?お金が欲しいかって」
死神「欲しいの?欲しくないの?」
金藤 一(こんどう はじめ)「ううぅ・・・」
金藤 一(こんどう はじめ)「・・・欲しい。とてつもなく欲しい!」
金藤 一(こんどう はじめ)「妻に先立たれ、娘を守れるのが私しかいないのに、先日私はガンだと宣告を受けた!」
金藤 一(こんどう はじめ)「治りもしないガン治療をしながら仕事を続けられるかも分からない!」
金藤 一(こんどう はじめ)「娘が一人で生きていくにしても金が必要だ!」
金藤 一(こんどう はじめ)「なぁ、頼む!たかが先の知れた私の余命なんかいくら減らしても構わないっ!!だから、金をくれっ!!!」
死神(うーーーん、困ったぞ・・・)
死神(ただお金をあげて終わりにしたかったけど難しいな・・・)
死神「・・・・・・いくらあれば良い?」
金藤 一(こんどう はじめ)「い、いくら?・・・」
金藤 一(こんどう はじめ)「10億!・・・いや、100億っ!!・・・」
死神「君の命はそんな金額に堪えられないよっ!!」
金藤 一(こんどう はじめ)「なん・・・だって?・・・」
死神「三途の川に沈んでたお金だから、生きた人間の生気を奪うんだ」
死神「そんな金額を受け取る前に、君が三途の川に沈む羽目になるよ?」
死神「それに、残された娘さんがそのお金に触れれば、娘さんも死んじゃうかもね?」
金藤 一(こんどう はじめ)「・・・じゃあ、いくらなら出せるんだ?」
死神「残念だけど、君の命は1億も堪えられない」
死神「余命を考えないなら数千万、もう少し長く生きたいなら数百万しか渡せない」
金藤 一(こんどう はじめ)「そう・・・か・・・」
金藤 一(こんどう はじめ)「・・・・・・」
金藤 一(こんどう はじめ)「私の余命を、半年だけ残せる金額にしてくれ」
死神「半年?・・・良いけど、どうして?」
金藤 一(こんどう はじめ)「・・・娘が今、大学受験でね」
金藤 一(こんどう はじめ)「試験の合否がどうであれ、一段落着いてからの方が良いと思ってな」
金藤 一(こんどう はじめ)「最後に誕生日も祝ってやりたい・・・」
死神「・・・・・・」
金藤 一(こんどう はじめ)「・・・どうせ、余命3年と言われたんだ」
金藤 一(こんどう はじめ)「ターミナルケアが始まる前に終わらせた方が良いだろう」
死神「本当に、それで良いの?」
金藤 一(こんどう はじめ)「もう少し生きたい、とは思うけどね」
死神「生きないの?」
金藤 一(こんどう はじめ)「ガンでなければ、そう思うさ」
金藤 一(こんどう はじめ)「私は妻に先立たれた。同じガンだ」
金藤 一(こんどう はじめ)「妻の最期を知っているだけに、私は同じ苦しみに堪えられる気がしない」
金藤 一(こんどう はじめ)「そして、私の苦しむ姿を、娘に見られたくない・・・」
金藤 一(こんどう はじめ)「だから、私が元気なうちに・・・頼むよ」
死神「・・・・・・・・・」
死神「わかった・・・」
金藤 一(こんどう はじめ)「本当に・・・金だ!・・・」
死神「じゃ、半年後・・・迎えに来るね?」
金藤 一(こんどう はじめ)「ああ・・・」
金藤 一(こんどう はじめ)「ありがとう・・・」

〇川沿いの道
  半年後──
金藤 一(こんどう はじめ)(・・・呆気ない。まさか散歩中に転んだ時の頭の打ち所の悪さで逝ってしまうなんてな)
金藤 一(こんどう はじめ)(本当に、私の余命は半年だった・・・)
死神「こんばんわ~」
金藤 一(こんどう はじめ)「わっ!!」
死神「久し振り!」
金藤 一(こんどう はじめ)「久し振りだな」
死神「大丈夫?やり残したことは無い?」
金藤 一(こんどう はじめ)「エンディング・ノートも通帳も、遺影用の写真も全部わかるようにしておいた」
死神「さすがだね!」
金藤 一(こんどう はじめ)「余念は無いよ」
死神「そう、じゃあ・・・」
死神「行こうか。冥土の旅路へ・・・」
金藤 一(こんどう はじめ)「ああ・・・よろしく頼むよ」
  ──この日、死神は初めて死者を冥土へ導いた。
  本来の寿命より短いながらも、心の整理をつけて導かれた死者は驚くほど従順だった
  死者をどう導くかで苦戦する死神業界では衝撃的かつ革新的な出来事だった
  残りの余命と引き換えに死神が金を与える方法は【リーパー・ファイナンス(死出の支度金)】と呼ばれるようになったという・・・

コメント

  • 死者本人がこの世に未練を残さないための支度金を三途の川から調達するなんて、目から鱗のアイデアですね。誰も困らないし川が浅くなるのも防げるし、いいことづくめなんだ。まさか人助けをする死神の話でほっこりとした気持ちになれるとは。

  • 三途の川底の六文銭で死神がファイナンス、、、驚きの着眼点と展開力にビックリです。こういう設定は大好きです!
    それと、キャラクター紹介が「非公開」で見られないような気が…(小声)

  • すごく切なくなるお話でした。
    確かに現世でお金があっても死んだら持って行けませんしね。
    相続というものもありますが、お金より大事なもの、あると思います。

成分キーワード

ページTOPへ