シュミそーぶ!

マツモトスギ

第3話「動画を撮るのが趣味です。」(脚本)

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〇生徒会室
  生徒会室
???「・・・さて」
???「ひとまず、今回の会議はここまでにしましょう。 皆さん、お疲れ様でした」
生徒会役員「お疲れ様でした〜!」
???「・・・」
???「・・・最後に少しだけ、お時間を頂けますか?」
???「以前からお話していた、趣味捜索部の件ですが・・・」
???「・・・」

〇黒
???「・・・今月いっぱいで、締め切ることになりました」

〇黒
  第3話
  「動画を撮るのが趣味です。」

〇学校のプール
浜崎愛奈「あー、お腹すいたなーアイス食べたいなー眠たいなー・・・」
浜崎愛奈「あーアイス食べたいなーアイス食べたいなーアイス食べた──」
谷口理依奈「あーもう、うっさいわね! アイスくらい自分で買ってきなさいよ!?」
浜崎愛奈「えー、りいちゃんが買ってくれたアイスの方が美味しく感じるのになー?」
谷口理依奈「は?別に変わんないでしょそんなの・・・」
中川ひまり「あはははっ、楽しそうだね2人とも?」
山口優奈「あははは・・・」
浜崎愛奈「ってか部長? あの松本って人、本当に来るんですか?」
浜崎愛奈「1年ですよね?掃除当番だったとしても、遅い気が・・・」
谷口理依奈「やっぱり面倒くさくなって、帰っちゃったんじゃないの?」
浜崎愛奈「えー、せっかく部員が見つかって安泰だと思ったのになぁ・・・」
谷口理依奈「仕方ないわよ。別に、まだ何も言われてないんだし、ゆっくり探せばいいじゃない」
山口優奈「・・・ひ、ひまりちゃんは、来てくれると思う・・・?」
中川ひまり「私は、来てくれるって信じてるよ?」
山口優奈「で、でももし来なかったら・・・ ずっと始められないよ・・・?」
中川ひまり「あははっ、大丈夫だよ? まだ撮影する時間は全然あるからさ?」
山口優奈「う、うん・・・」
浜崎愛奈「ねぇねぇりいちゃん? アイス買いに行こうぜよ!?」
谷口理依奈「いや、私はいいわよ・・・ この後撮影だし、お腹壊しても困るから・・・」
浜崎愛奈「ちぇーっ、りいちゃんつまんなーい」
谷口理依奈「つまんないとか、そういう問題じゃ・・・」
浜崎愛奈「まあいいや!ちょっと行ってきやす!」
谷口理依奈「はぁ・・・。もうあんたはアイス食べるのが趣味でいいんじゃないの・・・?」

〇黒
  ・・・
  ──ヤバい
  ヤバいぞこれは・・・
  終わらない・・・

〇教室
松本裕樹「掃除が終わらねぇええええええええ!!!!!!!!!!!」
  掃除。
  汚いものや散らかったものを片付け、綺麗にする事。
  掃除をすれば、その場所は確実に綺麗になっていく。
  だが、俺の場合は違ったのだ。

〇教室
  ブゥウエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエクショオオオンッ!!!!!!!!!!!!!!
松本裕樹「やっ!やべぇ棚がっ!!!」
先生「な、なっ!?大丈夫か松本くん!?」
松本裕樹「あっ、大丈夫です・・・ すみません・・・」
先生「いやはや、焦ったよ・・・ 怪我が無くて良かった良かった・・・」
先生「・・・と、とりあえず、落ちたものは先生が片付けておくから、君には廊下の方をお願いしようかな」
松本裕樹「はい・・・」

〇学校の廊下
  ブウッウエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエクショオオオオオオオオオオオン!!!!!!!!
松本裕樹「うっ!うあああっ! あっぶねえぇえええええええっ!!!!!!!!」
生徒A「なんだ!?窓が割れたぞ!?」
生徒B「えっ、マジかよ!? 先生呼んできた方がいいよな?」
生徒A「あっ、いいよ俺行ってくるわ!」
松本裕樹(ああ、最悪すぎる・・・)

〇教室
  ──そんなわけで、俺が掃除をすればするほど、学校中がめちゃくちゃになってしまうのだ。
先生「ま、松本くん・・・ 君はもう帰りなさい・・・」
松本裕樹「嫌ですっ!!! 僕が散らかした以上、責任を持って片付けますっ!!!」
先生「ああ、いや、その・・・うん。いや気持ちはありがたいんだけどね・・・?」
先生「ただ、そういう体質なら、無理しない方がいいと思うんだけ──」
松本裕樹「大丈夫です!!!!僕は何も問題ありません!!!!むしろ絶好調です!!!!」
先生「・・・ええ?」
松本裕樹「逆に先生の方こそ無理してません!?ええいいんですよ!!ここは全部僕がやっておきますので!!!先生は休んでてください!!!」
先生「・・・」
松本裕樹(よおおおおおしっ!!!!!!掃除だっ!!!!!掃除するぞおおっ!!!!)
松本裕樹「・・・」
松本裕樹「・・・ふぇあっ?」
松本裕樹「むっ!むごごごっ!!! はっ!はああああっ!!!!!!!」
  ブッウッエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエクショオンッ!!!!!
先生「・・・」

〇まっすぐの廊下
浜崎愛奈(ふふーん♪ アイス♪アイス♪)
浜崎愛奈(今日もアイスが私を待っている〜♪)
浜崎愛奈(・・・)
浜崎愛奈(そういえば、松本くんは結局見当たらなかったなぁ・・・)
浜崎愛奈(うーん、やっぱり本当に帰っちゃったのかなぁ・・・?)
浜崎愛奈(まあ、決めるのは本人だしなー。 しょーがないのか・・・)
浜崎愛奈(・・・)
浜崎愛奈(それよりも、アイス! アイスが私を待っているっ!)
浜崎愛奈(安心して?今すぐ!今すぐに迎えに行ってあげるから!)
浜崎愛奈「・・・ん?」
???「──ですか!?」
浜崎愛奈「・・・あれ?なんか聞こえる・・・?」
浜崎愛奈「あそこは・・・校長室・・・」
浜崎愛奈「・・・なんだろう?」
???「失礼・・・します」
???「・・・」
浜崎愛奈「うっ、うわああっ!!!!」
???「・・・危ないですよ。 廊下は走る場所ではありません」
浜崎愛奈「あっ!でっ、出たな! 鬼の生徒会長!中村詩音!」
中村詩音「別になんと呼ばれようと構いませんよ。 それよりも・・・」
中村詩音「一つお聞きしたいことがあります」
浜崎愛奈「・・・はて?」
中村詩音「ひまりさんに、お伝えしたいことがあるのですが・・・ 今、どこにいるかわかりますか?」
浜崎愛奈「えっ、部長ですか? ・・・校庭のプ──」
中村詩音「校庭のプールですか。 わかりました。ありがとうございます」
浜崎愛奈「ええっ!?あ、いやちょ、待っ!!」
浜崎愛奈「・・・」
浜崎愛奈「・・・部長」
浜崎愛奈「・・・後は頼みましたぜっ!!!! 私はアイスを手に入れて来るのでっ!!」

〇学校のプール
谷口理依奈「ねぇ部長?」
中川ひまり「ん?」
谷口理依奈「私、どんな動画を撮るのか何も知らないんだけど・・・」
山口優奈「・・・あっ、私も」
中川ひまり「あははっ、大丈夫大丈夫。 ちゃんと台本も作って来たよ?」
谷口理依奈「えっ、台本!? そんな本格的にやるものなの・・・? これ・・・」
山口優奈「どうしよう・・・覚えられるかな・・・あははは・・・」
中川ひまり「あはははっ、全然大丈夫だよ? そんなに長い動画を撮るわけじゃ無いからさ?」
谷口理依奈「なんか信用できないわね・・・」
山口優奈「ま、まあでも、台本があった方が、わかりやすいもんね・・・?」
谷口理依奈「ま、まあとりあえず、ちゃんと内容を考えてあるなら良かったわ」
谷口理依奈「部長の場合 「え?まだ決めてないよ?」 とか言いかねないから・・・」
中川ひまり「そう?」
山口優奈「確かに・・・言いそうだね・・・」
谷口理依奈「・・・ってか部長? 台本あるなら今配ってくださいよ?」
谷口理依奈「今のうちに、軽くでも目を通しておいた方がいいと思うんだけど?」
中川ひまり「すごいね、熱心だね?りいちゃん?」
谷口理依奈「いっ、いや別に・・・ ただその方がやりやすいと思っただけよ」
山口優奈「私も、先に読んでおきたいな・・・?」
中川ひまり「あはははっ、わかった。いいよ? 先に渡しておくね?」
山口優奈「結構・・・本格的だね・・・?」
谷口理依奈「よくこんなの一晩で作る気になるわね・・・」
谷口理依奈「まあいいわ。 ありがとう。早速読ませてもら──」
???「皆さん。 お疲れ様です」
谷口理依奈「ギッ!」
中村詩音「・・・ひまりさん」
中川ひまり「お疲れ様だね?しーちゃん?」
中村詩音「・・・今日は世間話をしに来たわけではありません」
中村詩音「・・・あなたに、趣味捜索部の事でお伝えしたい事があります」
中川ひまり「ん?」
中村詩音「以前からお話していた、部員の件です」
中村詩音「あなた達は勝手に部活動を作って校内活動をしていますが、それは学校側から認められた行為ではありません」
中村詩音「なので、正規の部活と同じ条件・・・」
中村詩音「"部員5名以上"」
中村詩音「という条件を満たすことが出来なければ、今後校内での活動は禁止する・・・」
中村詩音「そう、お伝えしましたね?」
中川ひまり「うん。そうだね」
中村詩音「そして、その件なのですが・・・」
中村詩音「先週、校長から連絡がありまして」
中村詩音「・・・」
中村詩音「・・・今月」
中村詩音「・・・今月いっぱいで、部員を確保できなければ、趣味捜索部は廃止してもらいます」
中川ひまり「・・・」
谷口理依奈「はああっ!? 何それ!?意味わかんない!?」
山口優奈「あっ、理依奈ちゃん・・・」
谷口理依奈「ふざけんじゃ無いわよ!?!? 今月いっぱいって・・・!!!」
谷口理依奈「今日・・・28日でしょ!?!? 後2日でどうしろってんのよ!?」
中村詩音「・・・仕方のないことです」
谷口理依奈「はぁ!?!?」
中村詩音「私たち生徒会は、あくまでも学校の規律の範囲内で活動しています」
中村詩音「ゆえに、校内でそう決まってしまった以上、どうする事もできません」
谷口理依奈「・・・」
山口優奈「り、理依奈ちゃん・・・? 一旦落ち着こう・・・?ね?」
山口優奈「し、仕方ないよ。それにほら・・・ 部室とか使えなくなるだけだし、校外でなら今ま──」
谷口理依奈「嫌だ・・・っ・・・」
谷口理依奈「私も・・・そう思ってたっ・・・わよ・・・っ・・・でも・・・っ!!!」
谷口理依奈「あの部室が無かったら・・・っ・・・!! 私っ・・・!みんなと・・・っ・・・!!!」
谷口理依奈「嫌だっ・・・!!!!嫌だよっ・・・!!!!」
山口優奈「理依奈ちゃん・・・」
中村詩音「・・・今日お伝えしたいことは、以上です」
中村詩音「もし、仮に期日内で部員を確保することが出来たら、申請の方をお願いします」
中村詩音「・・・それでは」
???「ちょっと待ってよ・・・」
中村詩音「・・・?」
浜崎愛奈「・・・今の話、全部聞いてた」
浜崎愛奈「・・・ねぇ、会長さん?」
中村詩音「・・・なんでしょう?」
浜崎愛奈「校長から連絡が来たの・・・先週だって言ったよね?」
中村詩音「・・・はい」
浜崎愛奈「なんで・・・なんでもっと早く言ってくれなかったの・・・?」
中村詩音「・・・」
浜崎愛奈「いくらなんでも・・・急すぎるよ・・・こんなの・・・」
中村詩音「・・・仮にですよ?」
中村詩音「もし、先週私がそうお伝えしたとして・・・ あなたは部員を確保出来たのですか?」
浜崎愛奈「・・・えっ」
中村詩音「あなたは、この状況に対して、少しでも行動したのですか?」
中村詩音「全て・・・。 ひまりさんに任せっきりだったのでは無いですか?」
浜崎愛奈「っ、それは・・・」
中村詩音「期限なんて、まだ先だろう。部長が何とかしてくれる。 そんな考えだったのでは無いですか?」
浜崎愛奈「・・・」
中川ひまり「・・・ありがとう。まーちゃん」
浜崎愛奈「部長・・・?」
中川ひまり「後は私に任せて?」
浜崎愛奈「あっ、はい・・・」
中川ひまり「・・・」
中川ひまり「知ってるよ?」
中村詩音「・・・はい?」
中川ひまり「説得、してくれたんだよね? 校長のこと・・・」
中村詩音「・・・!」
中川ひまり「わかるよ。 しーちゃんだって、あの場所を失いたく無いのは同じだよね?」
中村詩音「・・・」
中川ひまり「だって、あの場所はしーちゃんが──」
中村詩音「・・・私はあくまでも、自分がやれることをやっただけですから」
中川ひまり「・・・」
浜崎愛奈「説得・・・?」
浜崎愛奈「あっ!まさか・・・」
谷口理依奈「なっ、なによ・・・?」
浜崎愛奈「さっき、アイスを買いに行った時・・・ 校長室から出て来た会長に会ったんだ・・・」
浜崎愛奈「何か、言い争ってる感じだったけど、あれって・・・」
谷口理依奈「・・・」
谷口理依奈「・・・そうだ!私も見たわ!」
谷口理依奈「何日か前だけど、放課後、校長室に入って行くところ・・・」
中村詩音「校長は、頑固ですよ。本当に・・・」
中村詩音「毎日通っても、一度たりとも考えを変えることはありませんでした」
中村詩音「・・・絶対に、私がなんとかしようと思ったんですけどね」
中村詩音「・・・こんなことなら、愛奈さんの言う通り、先に伝えておくべきでした」
中村詩音「自分のくだらない過信が、返って仇となりましたね・・・」
中川ひまり「嬉しいよ」
中村詩音「・・・?」
中川ひまり「部員でも無いのに、私たちのために頑張ってくれたんだね」
中川ひまり「でも、ダメだよ? しーちゃんは、全部自分一人で解決しようとするからさ?」
中村詩音「・・・それは」
中川ひまり「あははっ、しーちゃんも、結構頑固だよね?」
中川ひまり「まあ、だからこそ、生徒会長なんて役目が務まるのかもしれないけどね」
中村詩音「・・・」
中村詩音「・・・とにかく、こんなところで話し合ってる暇なんてありませんよ」
中村詩音「もう、部員を見つけるしか、それしか方法は無いんですから・・・」
中川ひまり「まあ、そうだよね。そうするしか無いよね」
中村詩音「・・・なんであなたはいつも、そうやって余裕そうにしているんです?」
中村詩音「後・・・2日しか無いんですよ・・・? いいんですかそんなことで!?」
中川ひまり「まあまあ、ちょっと待っててよ。ね?」
中村詩音「・・・はい?」
中村詩音「・・・え?」
中村詩音「・・・えっ、なんですか誰か──」
松本裕樹「どっひゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」
中村詩音「いやっ!?いい、いええっ!?」
松本裕樹(あっ、やばい止まれない・・・)
松本裕樹「うばばばばばばばあ!!!!! あがあがががが!!!!!」
浜崎愛奈「ええっ!? 松本くん!?」
松本裕樹「あぶぶぶごぼぼぼぼっ!!! だっ・・・!!だずげでぇ・・・!!!」
谷口理依奈「いや、学校のプールで溺れるって・・・ どういうことよ・・・」

〇学校のプール
松本裕樹(あー、びしょ濡れだ・・・)
中村詩音「なんだ、ちゃんと部員を確保してるんじゃないですか?ひまりさん」
中川ひまり「うん。でも、まだ正式な部員じゃないんだ」
中村詩音「えっ、そうなんですか?」
中川ひまり「この後、ここで動画撮影会をするんだけど、それで決めてもらおうと思ってるの」
中川ひまり「入部するか、しないか。ね?」
中村詩音「でも、もしあの方が断った場合、まずいのでは・・・?」
中川ひまり「そうだね。そしたらやばいね?」
中村詩音「・・・」
中村詩音「ひまりさん?」
中川ひまり「ん?」
中村詩音「私、祈ってますから」
中村詩音「彼が、入部してくれる事を」
中川ひまり「あははっ、ありがとうね?」
中村詩音「もし、入部しなかったら・・・」
中村詩音「この私、生徒会長の権限で無理矢理にでも・・・」
中川ひまり「あははっ、なにそれ?やばいね?」
中村詩音「まあ、それはまた別の話です。 とりあえず、彼が入部したくなるくらい、楽しんでくださいね」
中川ひまり「そうだね。最高の撮影会にするね?」
中村詩音「では、私はこれで・・・」
中川ひまり「うん。お疲れ様だね?」
中川ひまり(ふふっ)
中川ひまり(頑張らないとね)

〇学校のプール
  ──遂に来てしまった。
  今日のメインイベントである、趣味捜索部の動画撮影会。
  この撮影会で、俺は決めなければならない。
  入部するのか、しないのか。
  選択肢はたったの二つ。
  だが、この先の高校生活を大きく変える事になる。
  俺は、ひたすらに頭を悩ませていた。
  ・・・のだが
松本裕樹「・・・」
浜崎愛奈「まっ!松本様っ!!!」
浜崎愛奈「おっ!お願いですから!!!!」
浜崎愛奈「入部してくださいいいいいっ!!!!!!」
谷口理依奈「あ、あんたのこと、べ、別に認めたわけじゃ無いけど・・・!」
谷口理依奈「いっ、いいのよ? 入部・・・してくれても・・・」
山口優奈「ねぇ2人とも・・・? やめなよ・・・?こ、困ってるよ?」
中川ひまり「あはははっ、可愛いね?」
中川ひまり「という事で、撮影会始めるよ?」
浜崎愛奈「えぇ?唐突だなー・・・ まだ内容も聞かされて無いのに・・・」
谷口理依奈「私も、台本もらったけど、結局読めてないわ・・・」
中川ひまり「ふふっ、大丈夫だよ。 とりあえず、松本くんと、まーちゃんにも渡しとくね?」
浜崎愛奈「おっ!すごい!台本だ! 本格的ですね!?」
松本裕樹「僕で・・・務まりますかね・・・?」
中川ひまり「全く問題ないよ?」
中川ひまり「そういえば、松本くん? 水着は持って来てくれた?」
松本裕樹「ああ、はい。一応・・・」
中川ひまり「ふふっ、よかった。 途中で使うから、用意しておいてね?」
松本裕樹「は、はぁ・・・」
中川ひまり「それじゃ、早速やっていくよ?」
中川ひまり「まずは、台本の確認をしよっか」

〇学校のプール
  ──こうして、趣味捜索部の動画撮影会が幕を開けた。
谷口理依奈「ねぇ部長・・・? これ、部長が考えたんですか・・・?」
中川ひまり「うん。そうだよ?」
谷口理依奈「センス・・・無いわね・・・」
谷口理依奈「こんなのでいいの・・・? だって、ネットに投稿するんでしょ?」
中川ひまり「あはははっ、私は楽しめればそれで良いと思うよ?」
谷口理依奈「はぁ・・・」

〇学校のプール
中川ひまり「はい、いくよ? 3、2、1・・・」
浜崎愛奈「あー、あー、なんだかあの人、残念な感じだねぇ・・・」
谷口理依奈「ほんと、もっと堂々とすればいいのに 情けないわ」
浜崎愛奈「はぁ・・・。まあいいや。 私たちはもっとかっきょ──」
浜崎愛奈「こっ!きょっ!」
中川ひまり「ふふっ、ごめんね? もう一回かな」
浜崎愛奈「えー、そんなー・・・」
谷口理依奈「あんた噛みすぎよ全く・・・」

〇学校のプール
松本裕樹「うっ!うおおおおおおおお!!!!」
松本裕樹「なっ!なんだこれはっ!」
松本裕樹「みなぎる・・・溢れる・・・!」
松本裕樹「うおおおおっ!!!! なんだか泳ぎたくて仕方がないっ!!!」
松本裕樹「うおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
松本裕樹「──っ!?」
山口優奈「だっ、大丈夫・・・?」
松本裕樹「痛ってぇええええええ!!!!!!!! 足っ!!!足挫いたっ!!!!! うああああああああああああああ!!!!!!!!!」
松本裕樹「死ぬうううっ!!!!! 死んでしまううううっ!!!!」
松本裕樹「・・・」
浜崎愛奈「えっ、ほんとに死んだ・・・? 無いよこんなの台本に・・・」
谷口理依奈「はぁ・・・。 もうめちゃくちゃだわ・・・」

〇学校のプール
山口優奈「あ、あのっ・・・! とっても・・・素敵でした・・・!」
谷口理依奈「ねっ!?ねぇねぇ王子様!? 私も、王子様と一緒に泳ぎたいですっ!!!」
松本裕樹「ふふっ、いいよ・・・。 一緒に、泳ご──」
松本裕樹「・・・あっ、ごめんなさい。 屁が出ました」
谷口理依奈「もうこの王子様いらないわ」
山口優奈「そうね」
松本裕樹「えっ、ちょ、待って!? 台本と違うって、ねえちょっと!?」
松本裕樹「おーい!!!ちょっとみんなあああああ!!!!!!!??????」

〇学校のプール
  ──そして
中川ひまり「はい、カット」
中川ひまり「・・・」
中川ひまり「うん。いいね?良い感じだね?」
松本裕樹「おおっ、やった・・・。やっと終わった・・・」
  ──約2時間半。
  何度撮り直しをしただろうか。
  少なくとも、失敗の連続だったのは間違いない。
  それでも、俺たちはこうしてやりきったのだ。
谷口理依奈「はぁ・・・。 疲れたわ・・・こんなにかかるなんて・・・」
浜崎愛奈「はぁ・・・。 言葉って難しいね・・・辛いんだね・・・」
山口優奈「でも・・・」
山口優奈「と、とっても、楽しかった・・・!」
中川ひまり「あはははっ、良かったね? みんな本当にお疲れ様だね?」
浜崎愛奈「まあでも、私も結構楽しかったですよ?」
浜崎愛奈「こうやって、みんなで一つの事を頑張るって・・・。 青春!って感じがしますし!」
谷口理依奈「ま、まあ、悪く無かったわ・・・ 内容はアレだけど・・・」
松本裕樹「・・・」
中川ひまり「ねぇ、松本くん?」
中川ひまり「今日の撮影は、楽しかった?」
中川ひまり「シュミそーのみんなと、こんな風に活動してみて、どうだった?」
松本裕樹「・・・」
松本裕樹「・・・楽しかったですよ。 でも・・・」
中川ひまり「・・・?」
松本裕樹「こんなに素敵な人たちと・・・僕みたいなのが一緒にやっていけるのかな・・・って」
中川ひまり「それは、どういう事?」
松本裕樹「僕は・・・嫌われ者なんです」
松本裕樹「中学の時から、ずっと変人扱いされて来て、高校に入ってからも、そんな感じ・・・」
松本裕樹「誰も、僕の事を受け入れてくれる人なんていない・・・」
中川ひまり「・・・」
松本裕樹「正直、いじめられた事だってありますよ。 でも、仕方ないんです」
松本裕樹「僕が・・・僕がいるだけで、みんなを不幸にしてしまう・・・」
松本裕樹「だから、皆さんの事も、きっと・・・」
???「ちょっと、何バカな事言ってんのよ!?」
松本裕樹「・・・?」
谷口理依奈「さっきから黙って聞いてたけど、何なの!?」
松本裕樹「・・・何でもありませんけど」
谷口理依奈「・・・バカっ」
松本裕樹「・・・はい?」
松本裕樹「おまっ、なっ、何しやがるっ!?」
  ──小柄な少女から、受けた一撃。
  痛い。
  心が、痛い。
谷口理依奈「あんたね!? どうしてそんなに自分を卑下するのよ!?」
松本裕樹「はあっ!? お前に何がわかるっ!!??!!?? どうせいじめられた事も無いくせによ!?」
谷口理依奈「あるわよっ!!!!私だってっ!!!!」
松本裕樹「・・・え?」
谷口理依奈「・・・金持ちだからって、妬ましいっていじめられた事もあったし、ましてやこんな性格だから・・・」
谷口理依奈「・・・でも、ここのみんなはね? 受け入れてくれたのよ・・・こんな私を」
松本裕樹「・・・」
谷口理依奈「私も自分が嫌いだったわ・・・ 何度も考えを改めよう・・・性格を良くしようって・・・ずっと悩んでた・・・」
谷口理依奈「でも、ここに入って、これが私なんだから、そのままで良いんだって・・・」
谷口理依奈「みんなが私の事を受け入れてくれたのと同時に、私も、自分の事を受け入れられたのよ・・・」
松本裕樹「・・・」
谷口理依奈「ねぇ、覚えてる?」
谷口理依奈「私、自己紹介の時に、あんたの事認めたくないって、言ったわよね?」
谷口理依奈「あんたのその、いかにも自分の事大嫌いみたいな雰囲気・・・」
谷口理依奈「昔の自分を見ているみたいで、腹が立ったわ・・・」
松本裕樹「・・・」
谷口理依奈「でも、さっきの撮影中のあんたを見て・・・」
谷口理依奈「・・・ちょっとくらいなら、認めてあげても良いかなって、思ってたところなのよ?」
谷口理依奈「あんな感じで、バカ騒ぎして・・・ 確かに変態っぽいし、気持ち悪いけど・・・」
谷口理依奈「でも、そうやって自分を受け入れられずに、ナヨナヨしてるあんたより、全然マシだわ」
松本裕樹「・・・そう、ですか?」
???「私も・・・そう思うよ・・・?」
山口優奈「今日の松本くん・・・すごくはしゃいでた・・・」
山口優奈「あ、あんなに、楽しそうな顔・・・するんだなぁって思って・・・」
浜崎愛奈「そうだよー、何が周りを不幸にするってさ? 私も、今日めっちゃ楽しかったよ?」
浜崎愛奈「昨日なうつべ一緒に観た時だって、この人面白いなーって、思ったし!」
松本裕樹「みなさん・・・」
  ──信じられない。
  こんなに、優しい世界があるというのか?
  俺を、受け入れてくれる場所・・・。
松本裕樹「・・・」
松本裕樹「・・・ううっ・・・っ・・・っ・・・」
中川ひまり「ふふふっ、どうしたの? そんなに泣かないで?」
松本裕樹「だって・・・っ・・・こんな・・・こと・・・っ・・・!」
中川ひまり「・・・辛かったんだね?」
松本裕樹「・・・え?」
中川ひまり「でも、もう大丈夫だよ?」
松本裕樹「部長・・・さん・・・」
  ──学生ってのは、最悪だと思っていた。
  大人と違って、人を見かけだけで判断して、嘲笑する。
  でも、それは違ったのだろうか。
  あいつらが、異常だったのだろうか。
中川ひまり「ねぇ、松本くん?」
中川ひまり「人生を楽しく生きるにはね? 趣味も大事だけど・・・」
中川ひまり「まずは、自分の事を好きだって言えるようにならないとね?」
中川ひまり「自分の愛し方を知る。 それが出来た時、きっと色んな事を、好きになれると思うんだ」
中川ひまり「自分が愛する物事。 それが、趣味なんだから。ね?」
  ──自分を好きになる事、愛する事。
  今までの俺には、無い概念だった。
松本裕樹「・・・」
松本裕樹「・・・っ」
松本裕樹「・・・ふっ」
松本裕樹「・・・考えた事も無かったです。そんな事」
松本裕樹「・・・なんだか、笑っちゃいますね」
中川ひまり「ふふっ、良い笑顔だよ?それ」
松本裕樹「・・・」
中川ひまり「ねぇ、松本くん」
松本裕樹「・・・はい?」
中川ひまり「さっきの笑顔さ? もう、決まったんじゃない?」
松本裕樹「・・・」
中川ひまり「聞かせてほしいな。 キミの答えをさ?」
松本裕樹「・・・」
松本裕樹「・・・ええ」
  ──答え。二つは無い、たった一つの結論。
  周りの人にあれこれ言われようが、どれだけ悩んだとしても、結局は一つの選択へと収束する。
  ならば、受け入れるしかない。
  自らが、導き出した運命を・・・。
松本裕樹「・・・これからも」
「・・・!」
松本裕樹「・・・よろしく、お願いします。みなさん」
  ──決めた。
  自分の意思で決めたのかは、わからない。
  でも、俺は答えを出したのだ。
  今確かに、俺は決断をしたのだ。
  運命を、受け入れたのだ。
中川ひまり「あはははっ、最高だね?やばいね?」
中川ひまり「こんなに嬉しい事は無いよ?ね?」
松本裕樹「・・・あはは、そうですか」
浜崎愛奈「へへっ、そう言ってくれると思ってたよー?」
浜崎愛奈「また一緒になうつべ観ようぜぃ?ねっ?」
山口優奈「わ、私も、あまり頼りないと思うけど・・・。 よろしく・・・ね?」
谷口理依奈「ふふん。私に認めてもらえるよう、頑張りなさいよ?」
松本裕樹「・・・ふふっ」
中川ひまり「って事で、松本くんの答えも聞けたし、廃部も阻止出来そうだし、動画も取れたし、もう思い残す事は何も無いね?」
中川ひまり「ふふっ、なんだか気分がいいな」
中川ひまり「そうだ。撮った動画、編集して完成させないとね?」
中川ひまり「明日やるつもりだったけど、今日で仕上げちゃおうかな?それが良いよね?」
中川ひまり「というわけで、今日はありがとう。 みんなお疲れ様だね? ゆっくり休んでよ?」
山口優奈「すごいね・・・?あんなやる気のひまりちゃん・・・久々だよ・・・」
浜崎愛奈「ねー?よっぽど嬉しかったんだろうなー」
谷口理依奈「ってかそもそも、あの部長に編集任して大丈夫なのかしら・・・?」
浜崎愛奈「あー、大丈夫。 動画の内容自体が酷いから、もうこれ以上酷くなりようが無いと思うよ?」
山口優奈「あはは・・・」
  ──俺には、何も無い。
  ずっと、そう思って生きて来た。
  でも、この人たちとなら、きっと・・・
  何かを、見つけられる気がする。
松本裕樹(・・・)
松本裕樹(ってか俺ずっと水着じゃん!? 寒っ・・・!!)
松本裕樹(早く帰って、風呂に入りたいっ!!!)
松本裕樹「すっ!すみません皆さん!!! ちょっと、めっちゃ寒いので、先帰りますね!?!? それではっ!!!!!」
浜崎愛奈「あ、うん!お疲れさ──」
浜崎愛奈「って、速っ!?!?」
  昨日と今日と、色々ありすぎた。
  心も、体も、ものすごく疲れている。
  それなのに・・・。
  なぜだろう。とても体が軽かった。
  まるで、疾風の如く。
  半裸の俺は、夜の校舎を走り去って行くのだった。
  ──つづく。

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