あっちの渋谷で待ち合わせ -スクエアビジョンからの報せ-【フルボイス】

TapNovel公式【フルボイス】

あっちの渋谷で待ち合わせ(脚本)

あっちの渋谷で待ち合わせ -スクエアビジョンからの報せ-【フルボイス】

TapNovel公式【フルボイス】

今すぐ読む

あっちの渋谷で待ち合わせ -スクエアビジョンからの報せ-【フルボイス】
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇渋谷のスクランブル交差点
  夏の渋谷がこんなに輝いていて色鮮やかだったなんて知らなかった。
  掌を空にかざす。
  間違いなく僕の手で、滑らかで健康的な肌が日差しを浴びている。
  渋谷で好きな人と待ち合わせて好きなところに行けるなんて、自分の人生にそんな事が起きるなんて・・・
ゆき「ゆうたさん、どうかした?」
ゆうた「なんでもない!」
ゆうた「楽しいなって」
ゆき「私も」
  そうだ、この子にとっても貴重な時間なんだ。
  残された時間、全力でゆきちゃんの想いを叶えたい。
ゆうた「次さ、ゆきちゃんが一番行きたいところに行こう」
ゆき「じゃあ記念のプリクラ撮りたいな」

〇渋谷の雑踏
  スクランブル交差点の信号待ちで、お爺さんとお婆さんを見つけた。
  若い人の中で目立つけど、落ち着いてて二人の世界があってなんだか素敵だ。
  あんな未来、僕は想像したことさえなかった。
ゆうた「お年寄りのご夫婦で、渋谷を歩けるってなんかいいな」
ゆき「余裕があって素敵。憧れる」
  お年寄りにも理解があるんだ。
  なんていい子なんだろう。
  あんな未来・・・
  僕に・・・

〇ゲームセンター
  プリクラなんてずいぶん撮ってないのに、操作を任されてしまった。
  慣れない事がバレないように、頭をフル回転させて説明を読んで撮影した。
  二人のぎこちない笑顔のプリクラは恥ずかしくもなんだか嬉しい。
  でも、どこか違和感が残った。
  次になにをしたいか聞くと、僕の希望することをしたいと懇願されてしまった。
  どうすればゆきちゃんにとって少しでも有意義な記憶になるか全力で考えた。

〇カウンター席
  知識がなさすぎて準備なんてほとんどしなかったけど、人気のカフェだけはリサーチしておいて良かった。
  とっても喜んでくれた。
  ただカフェで過ごして、違和感は強くなった。
  食べ物の好みや知識、その反応まで、すべて予想と違った。
  凄く親近感を感じた・・・

〇渋谷駅前
  スクランブル交差点の信号で止まると、大型ビジョンが強く光った。
  誰もが立ち止まって大型ビジョンを見あげる。
  スクエアビジョンから
  みなさんへお報せです
  この世界で会いたい人と過ごせる時間は
  残すところ1時間となりました
  どうか残りのひと時を
  悔いのないようお過ごしください。

〇公園通り
  僕らはしばらく無言で歩いた。
ゆき「私はこのまま、一人で死んでいくのかもしれないってよく思うの」
ゆき「だからこんなに素敵な事が起こるなんて思いもしなかった」
ゆき「ありがとう、ゆうたさん」
ゆき「独りぼっちの部屋に帰って、また一人分のお味噌汁を作るなんてなんか想像できないな」
  ゆきちゃんが表情もなく一人で夕飯を食べているところを想像したら、たまらない気持ちになった。
  どう思われてもいい。
  可能性にかけたい。
ゆうた「最期に、僕が行きたいところに行っていいかな?」
ゆき「もちろん!」
ゆき「ゆうたさんと一緒なら、どこでも嬉しい」

〇施設の展望台
  東急デパートの祭事場についた。
  開催されているのは終活フェアだ。
  そろそろ考えたいと思ってた。
  ゆきちゃんは驚いた様子もなく、一緒にまわってくれた。
  ゆきちゃんがなにも質問してこない事に甘えて、僕はなにも説明しなかった。
  一時間後、スクランブル交差点にもどった。

〇渋谷駅前
  交差点は人で埋め尽くされていた。
  スクエアビジョンから
  みなさんへお報せです
  僕とゆきちゃんは自然に手を繋いだ。
  時間と肉から解放されたひと時も
  そろそろ終わりをむかえます。
  どうか現実の日々で
  この旅が明日への糧となることをお祈りしています。
ゆき「しがみついてもいい?」
ゆき「もしかしたら、ギュってしてればこのまま吹き飛ばされずにいられるかもって」
  ゆきちゃんを強く抱きしめた。
ゆき「幸せ」
  最期の瞬間、今日一番の勇気をふり絞った。

このエピソードを読むには
会員登録/ログインが必要です!
会員登録する(無料)

すでに登録済みの方はログイン

成分キーワード

ページTOPへ