ミチル、鳥になる(脚本)
〇おしゃれなリビングダイニング
母ちゃん「みちる、早く御飯食べないと学校に遅れるわよー!」
鈴村家の朝は母ちゃんの小気味よい一声から始まる。
ミチル「はいはい、おはよー・・・」
親父「お、起きたかみちる。お早う」
出勤前の親父が新聞越しににっこりと微笑む。
「チルはいっつもギリギリだよねー」
先に食卓に着席していた2つ年上の姉貴が、からかうように俺を見る。
そう。今日もいつもと変わりない朝だった。
家を出て、あの交差点を渡るまでは──
〇市街地の交差点
ミチル「やっべ、遅刻しそう・・・!」
二学期初日から恥ずかしい思いはしたくない。
俺は急いで交差点に飛び出した。
────その時。
〇市街地の交差点
ドンと強い衝撃と共に躯が宙へ浮き上がり、やがて重力に押し戻されるようにアスファルトにぐしゃりと叩きつけられ──
俺は完全に意識を失ったのだった────
〇黒
「・・・・・・」
「・・・・・・?」
ミチル「・・・・・・!?」
ミチル「・・・・・・・・・誰?」
ミチル「いや、てか何? あ、いや、鳥か・・・」
「あれ、確か学校に遅刻しそうで、交差点をダッシュしてその時トラックとぶつかって・・・」
ミチル「・・・・・・」
ミチル「まさかコレ・・・俺?」
ミチル「・・・・・・・・・・・・・・・」
ミチル「俺がアイツでアイツが鳥で鳥がインコでインコがウん・・・むぐっ!」
「騒ぐな。鬱陶しい」
ミチル「あ、俺用事があるので帰ります」
???「こら待て。まずは話を聞け」
???「この姿が怖いのだな? ならば変身しよう」
ミチル「余計怖っ! なんか怖っ! 熱っ!!」
???「ふむ、これも駄目か。ならば」
ミチル「急に美女!? どんなビューティーコロシアムだよ!」
エヴァ「何を言っているのかわからんが、話を続けさせてもらおう」
エヴァ「私はエヴァ。あの世の番人だ」
エヴァ「察しの通り、お前は死んだのだ」
エヴァ「ちょうど一週間前、トラックに轢かれてな」
ミチル「・・・・・・ そうか。 やっぱり俺、死んだのか」
ミチル「・・・短い人生だったな」
エヴァ「それで、なぜお前がその姿になったかだが」
ミチル「・・・ごくり」
エヴァ「それが、私にもよくわからんのだ」
ミチル「・・・・・・え?」
エヴァ「本来、死者はすべからく三途の川を渡る」
エヴァ「その際に死者は川の通行料として 六文銭を支払うのだ」
ミチル「六文銭・・・聞いたことがあります。 確か成仏するために必要・・・なんですよね?」
エヴァ「そうだ。 しかしお前はなぜかその六文銭を持っていなかったのだ」
エヴァ「払わざるもの通すべからず。あの世の掟だ」
ミチル「どの世も同じか・・・」
エヴァ「おそらくその銭バグで、行き場のないお前の魂がその辺の青い鳥という器に入ってしまったんだと思うが」
ミチル「銭バグ・・・ それで? 俺はどうしたらいいんでしょうか」
エヴァ「仔細がわからんからな。 この世の生は終わり、あの世に渡る術もない」
エヴァ「とりあえずその姿のままその辺を羽ばたいてきてはどうだ?」
ミチル「とりあえずって何!? 人の人生!!」
エヴァ「まあ待て。 お前達の世界には、青い鳥は幸福を招くという言い伝えがあるのだろう?」
エヴァ「生と死の狭間にいるお前にしか為し得ない何かがあるかもしれんぞ?」
ミチル「俺にしか為し得ない・・・何か」
エヴァ「これを渡しておく」
エヴァ「私の元にテレポートできるエアーチケットだ。火急の用に使うがよい」
ミチル「・・・ 色々とツッコミたいが、まぁいいか」
〇綺麗な一戸建て
ミチル「結局ここに来ちまったな」
ミチル「俺が死んで、みんなショック受けてるだろうな・・・」
ミチル「ん? あれは・・・」
保険外交員「では失礼します。 どうかお気を落とさずに」
母ちゃん「ありがとうございます。 よろしくお願いします」
ミチル「母ちゃん・・・」
「お母さん・・・」
ミチル「親父、姉ちゃん・・・」
「よかったね!」
ミチル「・・・え?」
母ちゃん「そうね、みちるが死んでから涙が枯れるほど泣いたけど・・・」
母ちゃん「もう元気出していかないと駄目よね!」
親父「生命保険にも入っていたから助かったよ」
姉ちゃん「保険屋さんから連絡くれたんでしょ? 仕事が早いよねー」
母ちゃん「新聞に載ったからね。 あっという間に手続き進めてくれて感謝よ」
ミチル「お前ら、立ち直り早すぎだろ・・・!」
〇開けた交差点
ミチル「たくあいつらときたら・・・ ん? さっきの保険外交員?」
保険外交員「はい、保険金が入ったらすぐに現金化して家に置いておくよう指南しました」
保険外交員「口座に入れたままでは振込詐欺に遭うからと言ったらホイホイ信じましたよ」
保険外交員「一週間後には家に大金があるはず。そこに押し入ればよいかと」
ミチル「何だ? 保険金を、現金にして、家に置いておけ? で、押し入る、だと・・・?」
ミチル「これって、まさか・・・」
ミチル「強盗計画!?」
〇電脳空間
エヴァ「おお、早速チケットを使ったのか」
ミチル「火急の用、できたんで。 ・・・ 何か、雰囲気変わったような」
エヴァ「模様替えをした。 TKぽくていいだろう」
ミチル「・・・・・・ 何のことだかわかりませんが、 エヴァさん、事件です!」
エヴァ「お前こそ何かを彷彿とさせるな。 で? 何があった」
ミチル「強盗です!」
エヴァ「Go To? あぁ、確かに今流行って・・・」
ミチル「違います! 俺の家に、保険金目当ての強盗が!」
〇電脳空間
エヴァ「なるほど。 その保険外交員が手引きして強盗計画を進めているというのだな?」
ミチル「おそらく。 家族みんなは知らずにのほほんとしてます」
ミチル「危機を伝えたくてもこの姿じゃあ取り合ってもらえないし・・・」
エヴァ「鳥だけにな。 仕方ない。これは最終兵器だったのだが・・・」
ミチル「もう最終兵器!?」
ミチル「・・・これは?」
エヴァ「虹玉(にじだま)という。 これに口付けすると、一時間だけ人間の姿に変われるのだ」
エヴァ「ただし、生前と同じ姿にはなれない。 人の形をした架空の存在となるのだ」
エヴァ「他にも制約があるが今日のところは割愛する」
ミチル「・・・そうですか。 それでも有り難いです。 強盗日に使います!」
エヴァ「何だか誤解を生む言い回しだがまあいい」
エヴァ「姿形は選べるから、なりたいと思う人物を思い浮かべて口付けするがよい」
エヴァ「・・・楽しむな」
〇綺麗な一戸建て
勇者ミチル「さて、悪を裁くといったらこの格好だよな」
勇者ミチル「こんな形で勇者になる夢が叶うとは思わなかったぜ」
勇者ミチル「今日鳥の姿で偵察に来たときに、アタッシュケース持って銀行から帰ってきたからな。 大金入ってるのバレバレだっつーの」
勇者ミチル「『この家に強盗に入ります!』ってさっき公衆電話から匿名で110番しといたから、警察もじきに来ると思うが・・・」
勇者ミチル「タイムリミットは残り45分・・・ それまでに強盗犯どもを排除するぜ!」
勇者ミチル「・・・ん?」
勇者ミチル「あいつらが強盗犯だな・・・!」
勇者ミチル「くっそ、警察はまだ来ないのかよ・・・!?」
勇者ミチル「よし、かくなる上は、これで・・・」
勇者ミチル「この伝説の剣で、やるしかない!!」
勇者ミチル「ガラスを割りやがった・・・! くそ、行くぞ、勇者ミチル・・・!」
警官「そこで何をしている!!」
警官「お前らが強盗犯だな!?」
勇者ミチル「いや躊躇は!?」
警官「死にたくなければ、大人しくしろ」
勇者ミチル「あんたも相当、ヤバいヤツだな・・・」
〇おしゃれなリビングダイニング
あの後三人は強盗未遂で逮捕され、家族への事情聴取も終わり・・・
俺も元の?鳥型に戻ってしまった
ミチル「心配で見に来てみたが・・・みんな元気そうだな」
お前にしか為し得ない何かがあるかもしれんぞ?
ミチル「・・・できたのかな。 俺にも、家族を守ることが」
姉ちゃん「あ! 見てみて~、 窓の外に青い鳥がいるー!」
母ちゃん「あら、可愛い」
親父「綺麗な色だな~、艶もいい」
姉ちゃん「迷い鳥かな? ねーお母さん、お父さん、 この子飼いたいー!」
母ちゃん「あらどうする? お父さん」
親父「母さんがいいなら、僕はいいよ」
姉ちゃん「やったぁ! じゃあみんなで鳥かごとエサとアクセサリー買いに行こー!」
「おー!!」
「あ、鳥ちゃんお留守番お願いねー!」
ミチル「・・・」
ミチル「なんて、陽気な家族なんだ・・・!」
ミチル「俺・・・居ていいのか? 宙ぶらりんな鳥の姿だけど、 今まで通り、この家に・・・」
ミチル「・・・・・・」
ミチル「どうしよう、嬉しい・・・」
ミチル「今の俺に出来ることって何だろう? 留守番して、お出迎えして・・・」
ミチル「いいやそんな何気ないことじゃない」
ミチル「もっと根本的な幸せを与えたいんだ」
ミチル「"俺"は死んだ。 でも魂は生きている」
ミチル「青い鳥になって俺が存在する意味、 今はまだ分からないけれど・・・」
ミチル「今回のように誰かを守ったり、 助けたりすることが、 幸せを導く一歩だとしたら──」
ミチル「俺は頑張ってみたい。 困っている人に、手を、羽を差し伸べたい」
ミチル「早速エヴァに相談だな。 聞きたいこともまだまだあるし・・・」
ミチル「・・・ とりあえず、エアチケ何冊かもらっとこ」
Fin
青い鳥、見た目すごく可愛かったです☺️
強盗を食い止めるには鳥の姿では無理だなあと心配していたけれど、人間に変われる手段があってホッとしました🥹
あの世に行ってしまったので元の姿で家族と過ごすことは出来ないけれど、またみんなで暮らせることになったのは良かったと思います。
全体的に感動するところが多くてうるうるしながら読みました。
幸せを呼ぶ「青い鳥」とチルチルミチルのミチルがかかっているんですね。鳥の姿のままで強盗の征伐はさすがに無理でしたが・・・魂さえ残っていれば、それを入れる器が違う形でも愛する人たちに何かしてあげられるという発想が素敵です。