うちの父、ちょっと厨ニ患ってる

ななん

読切(脚本)

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〇明るいリビング
  能田家──
  うちには二人の男が住んでいる。
  ガシャーン!
妹「どうしたの?!」
兄「あぁ、たいしたことじゃねぇよ」
父「そうだ! おまえは引っ込んでろ!」
父「描くことはおろか読みもしねぇくせに 漫画のことに口突っ込むんじゃねぇ!」
妹「・・・・・・」
  二人は漫画描きだ。

〇漫画家の仕事部屋
  兄 能田龍弥 20歳
  つい最近、描いた漫画がSNSでバズって編集部の目にとまり、プロデビューすることになったラッキーボーイ
  得意分野は異世界ファンタジー

〇書斎
  父 能田忠生
  働きながら長年漫画を描くことを続けている。
  プロデビューこそしていないが
  SNSにはそこそこフォロワーのいる
  熟練絵描きだ。
  好きなジャンルはエロティックSF
  ふたりはジャンルは違えど、
  同じ界隈に存在している。
  そう──
  好敵手(ライバル)である

〇女の子の一人部屋
  ふたりは兄が漫画を描き始めてから
  ずっと、なんだかんだ言い争っている。
  それは現実に留まらず
  ネット上でもずーっと。
  実は二人のこと こっそり私も
  フォローしてるんだよね☆
妹「見ーちゃお」

〇SNSの画面
兄「明日重大発表があります! まだ言えませんがいいご報告ができるかと思います!」
モブ「なんだろう!」
妹「わくわくします!」
父「もったいぶらずに今言えばいいのに」
父「煽りスキルだけが一流なのは 初心者だって言ってるようなもんだな」
兄「なんと!!」
兄「この漫画が、紙と電子両方で、 書籍化することが決定しましたー!」
モブ「おめでとうございます!!」
モブ「待ってました!」
妹「すごいですね!」
父(ぐぬぬ・・・・・・)
父「書籍化して色んな人の目に止まるのが そんなに重要だろうか」
父「あれが人気だとは ファンタジーも廃れてしまったものよな」
父「まぁ、仕方ないよな 大多数の人は俺の作品を楽しめる域に 達してないんだから」
兄「これもフォロワーさんや読んで下さっている皆さまのおかげです!」
兄「本当にありがとうございます!」
父(うぐ・・・・・・)
父「偽善者ぶりやがって・・・」

〇SNSの画面
兄「そして!」
兄「感謝の気持ちを込めて、 購入して下さったかたの中から 抽選で5名様に!」
兄「イラスト描き下ろしのサイン付き色紙を プレゼントさせていただきます!」
モブ「当たりますように」
モブ「届きました!」
モブ「さっそく応募します!」
妹「欲しいー!」
父「・・・・・・」
父「色紙なんているか?」
父「俺なら絵描きらしくおまけ漫画くらい描くがね」
父「フリマサイトで売られるのを 予知できないとは」
妹(お義父さんったら・・・)

〇女の子の一人部屋
妹「もっと落ち着けばいいのに・・・」
妹「あっ もうこんな時間!」

〇明るいリビング
妹「お義父さん! そろそろ出ないと暗くなっちゃうよ」
父「・・・・・・」
妹「・・・・・・」
  私は父のスマホをチラ見した。
  父だって頑張っているんだ
  お話は起承転結うまくまとまっていて、
  描線も繊細できれい。
  女の子の胸やおしりはこだわりがあって
  男ウケしそうだし、表情も可愛い。
  私は漫画を読まないからわからないけど
  素人目には普通に上手だと思う。
  再婚したときからずっと見てるけど
  着実に上達していると思う。
母「忠生さんはね、 龍ちゃんみたいに絵がとっても 上手なのよ!」
妹「・・・・・・」
  今までいっぱい努力してきたんだ
  なのに、簡単にお兄ちゃんに
  抜かされちゃった
  結果が伴わなくて、辛いよね・・・
  お兄ちゃんに当たり散らしちゃう気持ちも
  わかるような気がする・・・
妹「お義父さん、 お母さんのお墓参りに行く約束だったでしょ」
父「あ、あぁ・・・」
父「そうだったな」
父「木綿子・・・」

〇墓石
父「木綿子、来てやったぞ」
父「ほぉら、お前の好きな 米粉のドーナツだぞ」
妹「・・・・・・」
兄「・・・・・・」
父「俺の世界観を理解できる域に達しているのは まだ木綿子だけだ」
父「他の奴は皆、異世界やら性転換、 ハーレムとやらに逃げたがる」
兄「需要があるからな」
父「だが俺は描き続ける。 わかってくれなければそれでいいのだ」
父「お前だけはずっと読んでくれるだろう、 木綿子」
父「お前の為に 俺の偉大なる物語を永久に語り続けるよ」
「・・・・・・」
兄「母さんてさ・・・ コイツのどこが良かったんだろうな」
妹「普通だから・・・ 変な人に惹かれたんじゃない・・・?」
兄「あぁ、 変な土産いっぱい集めてたもんな・・・」
兄「普通自分のこと偉大とか言うヤツ 好きになんねぇよな・・・」
父「なんだと!?」
父「編集に助言されてしかモノを描けない作者は三流だ」
父「自分ひとりの作品だと堂々と言えない作品は 所詮その程度なんだよ」
兄「はぁ!?」
兄「“りゅりゅ”はメシ食うために漫画描いてるんで」
兄「喜ばすのは自分じゃなくて読者。読者ね」
兄「読んでくれる人がいなかったら プロ作者は死ぬんで」
兄「編集に従うのは当たり前なんだよ」
兄「勝手にてめぇと一緒にすんじゃねぇよ」
妹「ちょ、ちょっと・・・」
妹「お母さん・・・ ごめんね・・・ こんな家族で──」
兄「ん?」
父「何事だ、騒騒しい」

〇墓石
モブ「見て・・・あの人」
モブ「やべぇな・・・」
父「?」
モブ「あの、ちょっと話聞こえちゃったんですけど」
モブ「漫画家のりゅりゅ先生ですか!?」
モブ「オレ、大ファンなんです! 握手してください!」
父「──」
妹「──」
モブ「あの噂、本当だったんだね」
モブ「あぁ、男のオレでも惚れそうだぜ」
妹「噂・・・?」
モブ「あぁ!」
モブ「新人漫画家りゅりゅの顔面偏差値は クソやべぇ」
モブ「作品以上に見る価値アリってな・・・!」
兄「──なっ!」
モブ「まさか、こんなにイケメンとは 天は二物を与えず・・・」
妹「えーと・・・ それは・・・」
妹「やだっ、風が・・・」
父「──」
父「フードがっ・・・!」
兄「うっ・・・」
兄「クソッ・・・! なんだよこのクソ親父はよ・・・っ!」
モブ「親父!?」
妹「はい・・・」
妹「その人はりゅりゅではなくて うちの父です」
父「・・・・・・」
妹「スケープゴートの最後の望み── 通称BlackQuiltとは彼のことです・・・」
モブ「げっ・・・」
モブ「あの、『イタい漫画家(インディーズ部門)殿堂入り』の・・・!?」
モブ「こ、こ、ここの国宝級イケメンが・・・!?」
父「そうだが?」
  見慣れ過ぎて忘れていた──
  父 能田忠生(32)
  死ぬほど顔が良かったわ

〇墓石
モブ「まぁいっかそっちでも!」
モブ「イケメン先生! サインください~!」
父「生憎だが──」
父「こんなことでサインをねだられても 了承し得ない」
父「絵描きに顔など不要だ」
父「俺の話を熟読して出直して来い」

〇明るいリビング
妹「噂って不確かなものよね・・・」
  あれからSNSをチェックしてみたが
  やはり兄はイケメンと囁かれ
  父(BlackQuilt)がイケメンだと
  流出することはなかった
父「おい! 風呂上がったぞ! さっさと次入れ」
妹「はいはーい」
  誤解はされたままだけど
  別にこれでいいのかも知れない
  父と兄は今日もペンを走らせ続ける
  それぞれの熱い想いを紙に込めて

コメント

  • こんばんは

    やだ、風が...てたところからまさかまさか、と思い顔を出したらやっぱりーー!しかも国宝級のイケメン(光輝く数々のエフェクトに爆笑です!)
    すっごく面白かったです!

    しかも二パターンの漫画家がキレイに表現されていてお互いの漫画家という職業に対する考え方が対比されてて分かりやすいです!

    これは知識が豊富でないと書けない作品ですね!
    すごい!二人が分かり合う日はくる?
    いやないか😂

  • 前半の伏線と後半の種明かしの展開が絶妙に面白かったです。前半では「負け惜しみばっかの父親、情けなっ」と思っていましたが、フードが取れた後の姿を見ると、国宝級の超絶イケメンが描くエロティックSFに俄然興味が湧いてくるから不思議。読者も顔面偏差値の正義には勝てないなあ。

  • もしかして初作品ですか?
    そうは思えないほど、完成度が高くて面白かったです。
    考え方の違うプロの言い分て、中々かき分けるの難しいですよね…すごい!
    しかもお父さんのあの大逆転の仕方は、意表をついていてやられました笑

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