実弾は命を空包は屍を

jloo(ジロー)

実弾は命を空包は屍を(脚本)

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〇入り組んだ路地裏
男「ひぃぃっ、助けてくれ」
  私は、目の前の男を殺そうと銃を向けている。
  だが、この男の反応はおかしい。
  怯えて逃げ惑う人、逆に怒り狂う人。生死を賭けた場面では、人間の本性が垣間見えるはずだ。
男「金なら、いくらでも出すから。なあ、助けてくれよ」
  この男からは、生き残ろうとする意思が感じられない。だからこその、違和感だった。
補佐役「おい、エリン。どうした、早く殺せ」
  私は、政府のエージェントとして、特別な訓練を受けてきた。
  勘が正しければ、この男は何かを隠している。
男「ひぃいいいいいいいっ!」
  逃げ出す男の、背中を見送る。
補佐役「おい、何しているんだ! 逃げちまうぞ!」
エリン「いえ、これで良いんです」
エリン「あの男は、まだ何かを隠しています。後を、追って確かめましょう」
補佐役「何だと。それは、本当か?」
エリン「ええ。彼が向かう先にきっと、私たちが求めているものがあるはずです」
補佐役「分かった。だが、もしもお前の判断が外れたら、その時は分かってるな?」
エリン「はい、分かっています」
  私たちは後を追い、路地を走る。

〇荒れた倉庫
  やがて男は、人気のない倉庫へと入って行く。
  ここが、彼の目的地なのだろうか。様子を窺うために、身を潜める。
補佐役「あいつは・・・・・・」
  補佐役の男が、何かに気づいたようで銃を構える。
補佐役「さっきの男の隣に立っているのは、マフィアのボスだ。奴ら、裏で繋がっていやがったのか」
エリン「そのようですね」
補佐役「へへへ、お前の勘のお陰だ。後は、俺に任せろ。絶対に、手を出すなよ」
  執拗に、念を押される。彼は、手柄を独り占めにしたいのだろう。
  止めるのも面倒なので、好きにさせることにした。
補佐役「動くな。政府直轄の捜査官だ。大人しくすれば、危害は加えない」
補佐役「っ・・・・・・」
  だが、警告もむなしく。次の瞬間、彼の眉間は撃ち抜かれていた。
  スナイパーが、どこかに潜んでいるらしい。おそらく、私の位置も既に筒抜けだろう。
  諦めて、彼らの前に姿を現す。
エリン「お招き頂いて、光栄です。マフィアのボスさん」
マフィアのボス「やはり、気づいていたか。私が、君をこの場所に招き寄せたことを」
  先ほど尾行していた男は、私を連れて来る役目を担っていたのだろう。
  スナイパーを待機させていたことから、事前に計画されていたことが分かる。
マフィアのボス「君のことは、知っている」
マフィアのボス「エリン君。君はエージェントにしては、洗脳が甘いようだな」
エリン「政府は、任務に支障が無い限りは洗脳を強化しません」
マフィアのボス「だからこそ、君をスカウトしたい。君なら、政府から私を守ってくれると期待しているんだ」
エリン「何のために、そんなことをしなくてはならないのですか?」
マフィアのボス「それを話す前に、君の境遇について説明しよう」
マフィアのボス「政府のエージェントは、中学校の成績上位者を対象に無作為に選定される」
マフィアのボス「洗脳を掛けるには、そのぐらいの年齢が丁度良いらしい」
マフィアのボス「そして、対象者の両親は殺される。政府にとって、邪魔にしかならないからね」
マフィアのボス「覚えていないかもしれないが、君の両親も政府のエージェントによって殺されているんだ」
エリン「朧気ながら、その時のことは覚えています」
マフィアのボス「ほう、洗脳を受けたにも関わらずか?」
エリン「私の両親を殺したエージェントの姿までは見えませんでしたが、両親の悲鳴が今でも耳に残っているんです」
マフィアのボス「恨んでいるのかい? その、エージェントを」
エリン「はい。もっと言うと、エージェントを差し向けた政府も含めてのことですが」
マフィアのボス「私の手足として働くなら、復讐の手助けをしてやっても良いが?」
エリン「お断りします。私は、貴方を信用出来ない」
マフィアのボス「そうか、残念だ。だが、君は必ず私の元へと訪れるだろう。憎しみの感情が、そう簡単に消えることは無い」
  マフィアのボスの言葉を背に、私は拠点へと引き返す。
  どうやら、無事に帰してくれるようだ。
  補佐役の男の死亡については、帰った後に厳しく問い詰められることだろう。
  それに、新しい補佐役も探さなければならない。やることは、山積みだ。

〇謎の部屋の扉
フミ「おかえり、エリン。あれ、補佐役はどうしたの?」
エリン「死んだ」
フミ「あらー、大変だね。また、新しい人を見つけないと」
エリン「そうだね。そう言えば、フミの補佐役は優しそうな人で良いよね」
フミ「でしょー、あの人は本当に優しいんだよ。あたしも大好き!」
エリン「あはは・・・・・・」
フミ「エリンも、新しい補佐役は優しいと良いね!」
フミ「それじゃあ、私は行くから」
  フミは、この拠点で一番の親友だ。
  他のエージェントと違って、彼女だけは唯一話が通じるからだ。
  洗脳を施されたエージェントと言うのは、基本的に感情の起伏が少ない。
  それに比べて、フミは正反対だ。見ていて、飽きることが無い。
エリン「それにしても、マフィアのボスのことが頭から離れないな」
  彼に協力すれば、本当に両親を殺したエージェントに復讐することが叶うのだろうか。
  私は、雑念を払うように首を振る。
  今の私は、政府のエージェントだ。逆らえば、ただでは済まないだろう。
  時が来るまでは、とにかく任務をこなすこと。今の私に出来ることは、それぐらいしか思いつかなかった。

〇入り組んだ路地裏
補佐役「エリン、後方に敵影! 応援を頼む」
エリン「了解」
  通信機越しに聞こえてきた声に返事をすると、すぐに駆け出す。
  私の新しい補佐役、と言っていいのだろうか。フミの補佐役を務めていた男が、今の私のパートナーだ。
  彼女が言っていた通り、彼は優しい。
  負傷したフミが調整を行う間だけの約束だが、もし彼が補佐役なら私も上手くやっていけると思う。
  テロリストたちが、こちらに向かってくる。
  私は、それに対するために銃を構える。
エリン「ぐ・・・・・・痛い」
補佐役「どうした、エリン。まさか、こんな時に頭痛か?」
  この頭痛は、洗脳の負荷による影響だ。エージェントの中には、そのまま死んでしまう者もいるらしい。
補佐役「しっかりしろ。せめて、テロリストを撃退してから倒れてくれ」
エリン「はい・・・・・・」
  銃を構える手に、力が入らない。このままじゃ・・・・・・
テロリスト「うぅっ・・・・・・」
  だが彼らは私たちの姿を捉える前に、何者かに襲撃されて命を落とす。
フミ「・・・・・・・・・・・・」
補佐役「フミ。どうして、こんなところにいるんだ!? 調整は、どうした!!」
  彼女はこちらをぎろりと睨むと、手に持った銃を構えた。
  その照準は、私たちの方に向いている。
補佐役「フミ、何しているん・・・・・・」
  銃弾が、彼の眉間を貫く。血飛沫が舞い、身体が崩れ落ちる。
エリン「何で・・・・・・。フミ!!」
フミ「私の、ダーリン。エリンなんかに誑かされて、駄目じゃない」
フミ「貴方は、私だけのもの・・・・・・そうでしょう?」
エリン「違う。私はフミが調整を行っている間だけ、補佐役についてもらっていただけで」
フミ「うるさい! あなたに、私の何が分かるの!?」
エリン「・・・・・・どういうこと」
フミ「いっぱい殺したらダーリンが褒めてくれるから、私頑張ったんだ!」
フミ「エリンの、両親を殺した時。あなたのことも殺してやろうと思っていた。その時は、止められちゃったけどね」
エリン「あなたが、私の両親を殺したの?」
  銃口が、突きつけられる。
  私は、動けない。ただ、その引き金が引かれる瞬間を待つことしか出来なかった。
フミ「さよなら」
  銃声が、響く。だが、痛みはない。
  恐る恐る目を開くと、目の前ではフミが血を流して倒れていた。
マフィアのボス「エリン、迎えに来たよ」
  そこにいたのは、マフィアのボスだった。
  だけど、私の声は届かない。口を開こうとするが、身体の自由が利かなくなっていた。
マフィアのボス「ああ、可哀そうに。もう、限界だったか」
「・・・・・・・・・・・・」
マフィアのボス「聞こえているか分からないが、一つだけ君に隠していたことがあってね」
「・・・・・・・・・・・・」
マフィアのボス「私は、君の両親と旧知の仲だった。よく、酒を飲み交わしてはしゃいだっけな」
「・・・・・・・・・・・・」
マフィアのボス「目的は、一緒だったよ。両親の復讐を果たすため、政府のために殺しを続けてきた君とね」
「・・・・・・・・・・・・」
マフィアのボス「私は、君の両親と一つ約束をしていたんだ」
「・・・・・・・・・・・・」
マフィアのボス「俺が面倒を見れなくなったら、お前が代わりに死ぬまで娘の面倒を見てくれ」
「・・・・・・・・・・・・」
マフィアのボス「それが、彼の遺言だった。今、その約束を果たすよ」
「・・・・・・・・・・・・」
  しばらくの静寂の後、路地に一発の銃声が響いた。

〇高層階の部屋(段ボール無し)
大統領「な、何だね君は。ここが、大統領の公邸と知ってのことか?」
大統領「な、その銃は・・・・・・。まさか、私を殺すつもりで・・・・・・」
大統領「か、金ならやる。いくら欲しいんだ、あ?」
マフィアのボス「復讐とは、虚しいものだな」
  この世には、どうしようもない悪意が満ち溢れている。
  救いようの無い世界で、希望の一つも見いだせないで、死んでいく者も多い。
マフィアのボス「私のような悪人が、人助けをする羽目になるとはな」
  時に悪人が、誰かにとっての正義に成り得ることもある。
  彼の行ったことは、間違っているのかもしれない。それでも、人は歩み続ける事しか出来ないのだ。
  誰も知らない、幸福を目指して。

コメント

  • 善人か悪人かに関わらず、他人を意のままに操って利用しようとする人間には手痛いしっぺ返しがくるということでしょうか。最初の補佐役、フミ、大統領など、結局は自分で自分の命を縮めたようなものでしたね。両親の復讐という目的を失ったエリンがこれからどこに向かって歩むのか。ハッピーエンドともちょっと違う切なさの残るラストでした。

  • 親を殺されるなど過酷な経験をしたら、彼女のように冷たい?冷めた?人間になってしまうんですね。
    それだけ辛い経験だと言うことですよね…。
    誰を信じて良いかわからなくなりますよね。
    でも、マフィアのボスは本当に味方だったしお父さんの友人だったのは驚きでした!

  • 善と悪はまさに背中合わせなんだと感じさせられました。エリンちゃんに悪意をもったふみちゃんには理解できませんが、人の感情というのはどういう形で変化するのかも感じ取れるストーリーだとおもいます。

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