〇川に架かる橋
ユウイチ「・・・お？　着信だ」
ユウイチ「タクヤからか 今から公園に来いって・・・珍しいな」

〇黒背景
　　友達に理由もなしに呼び出されたとしたら、何が待ち受けてると思う？
　　ちなみにその友達ってのはコイツ
　　クラスメートだ
　　小学生からずっと一緒で、親友というには気恥ずかしい、腐れ縁といった関係
　　ルックスは悪くない奴だから、彼女でも出来てそれを紹介──いや、自慢でもされるのか
　　もしかしたら、俺に気のある女子を紹介してくれるなんて嬉しい展開も──
　　そんな男子高校生らしい妄想は、見事に裏切られた

〇公園のベンチ
タクヤ「お、来たなユウイチ」
ユウイチ「ようタクヤ なんだよ、急に呼び出して」
ユウイチ「理由聞いても既読スルーだしよ」
タクヤ「・・・腐れ縁のお前にはさ、最初に伝えておこうと思ってな」
ユウイチ「気味わりいな 神妙な顔しやがって」
タクヤ「少し、言いにくくてな」
　　胸騒ぎがした
　　こいつがこんな息の詰まるような顔をしたのなんか、見たことなかった
ユウイチ「・・・転校、とか？」
タクヤ「・・・」
　　奴が目を丸くした瞬間、思い出が駆け抜けた
　　小学生の夏休み、毎日ラジオ体操に行ったこととか
　　中学の時、好きな女子の名前が違って、マジでほっとしたとか
　　・・・そして、沈黙が破られた
タクヤ「はっはっは！ 転校？　そんなんじゃねえよ！」
ユウイチ「なんだ、ちげーのかよ」
タクヤ「ってか転校だったらLINEで済ませるっての」
ユウイチ「そこは直接言えよ」
ユウイチ「・・・それで、なんだよ」
タクヤ「俺な・・・」
タクヤ「スー・・・ハー・・・」
ユウイチ「お、おい・・・深呼吸するようなことかよ」
タクヤ「・・・」
タクヤ「言うぞ？」
ユウイチ「言えよ！ さすがにうぜーよ」
タクヤ「俺な・・・」
タクヤ「関西弁、喋ることにするネン」
ユウイチ「は？」
タクヤ「せやから、関西弁で喋るから頼むワ」
ユウイチ「・・・なんで？ 俺ら完全に関東生まれ関東育ちじゃん」
タクヤ「昔っから憧れててん 関西弁に」
タクヤ「ほら、お前も知っとるやろ？」
タクヤ「ごっつ小っちゃい時から、お笑い番組観て育っててんやんか、ワテ」
ユウイチ「ワテ!? いやエセ関西弁って、聞いててきついぞ!?」
タクヤ「そら最初はエセ関西弁ヤデ でも使うとったらすぐに馴染むヤロ」
タクヤ「留学生かてほら、日本語喋ってたらいつの間にかペラペラやん」
ユウイチ「そりゃお前、留学生の場合はさ、手本になる日本人が周りにいるからじゃん」
ユウイチ「俺らの場合、周りに関西人いねーだろ」
タクヤ「昔も今も、先生はテレビジョンやで！」
ユウイチ「誇らしげに言うことじゃねーな」
タクヤ「それに卓球の金メダリストが言うとったで」
タクヤ「小っちゃい頃、右利きやったのを左利きに改造したんやって」
タクヤ「分かるか？」
タクヤ「世の中にやって出来ないことなんてないねん！」
ユウイチ「誰がどこを引き合いに出してんだよ」
ユウイチ「それによ その金メダリストは試合に勝つって目的があったんだろうけど」
ユウイチ「お前は一体何のためにやるんだよ」
タクヤ「そんなもんお前、関西弁喋りたいからに決まっとるがな」
ユウイチ「だからそれは何でだと聞いてんだ！」
タクヤ「なんや急に──哲学か？」
ユウイチ「哲学ではねーわ！ 理由を聞いてんだよ！」
タクヤ「ああもうアカンアカン、ラチがあきまへん！」
ユウイチ「なんでおめーが迷惑がってんだよ！」
タクヤ「とにかくや 今日はそれを伝えたかったんや」
タクヤ「急にワテが関西弁になったら、あんさんパニくるやろ」
ユウイチ「あんさんって・・・ なんか別の方言も混じってねーか？」
タクヤ「そらそこは手探りやで」
タクヤ「関西弁で会話するのなんて初めてやさかい、内心ドキドキやねん」
タクヤ「インディジョーンズになった気分や」
ユウイチ「例えてんなよ もともと冒険するとこじゃねーんだよ」
タクヤ「せやけどジョージ」
ユウイチ「誰がルーカスだ」
タクヤ「・・・」
ユウイチ「はあ・・・」
ユウイチ「・・・どうしても喋りたいのかよ、関西弁」
タクヤ「最初に言うたやろ 憧れやねん」
ユウイチ「憧れって言ったってよ・・・」
タクヤ「・・・」
ユウイチ「・・・はあ・・・ 何かスゲー疲れた」
ユウイチ「もう、いいんじゃないの やりたいようにやったら」
ユウイチ「俺に話し掛けるだけなら迷惑ってもんでもねーしな」
タクヤ「は？　ナニ言うてんねん」
ユウイチ「ナニって、何が？」
タクヤ「ワテ、これからはいつでもどこでも関西弁やで」
ユウイチ「ええ!?」
タクヤ「家でも学校でもや」
ユウイチ「い、いや それはやめておいたほうが・・・」
タクヤ「今日はとりあえず腐れ縁のあんさんに報告したまでヤデ」
タクヤ「ほな！」
ユウイチ「お、おい・・・」
ユウイチ「・・・」
　　友達に理由もなしに呼び出された挙げ句
　　「今日から関西弁使うネン」と宣言されたら、人はどうすると思う？
ユウイチ「・・・」
ユウイチ「・・・」
ユウイチ「・・・ナンデヤネン」
　　言うしかないよな