オレが左でお前が右で(脚本)
〇教室
クラスメート「お、タクヤ、トイレ?」
タクヤ「せやで、トイレやで」
クラスメート「「カワヤ」チャウン?」
タクヤ「カワヤは関西弁てわけでもないやろー フツーにトイレやと思うでー」
クラスメート「そうかー、フツーにトイレかー」
「あははは!」
タクヤが関西弁を使い出してから一週間
周囲が戸惑いを見せたのは最初だけ
なんだかんだで面白がって、みんなすぐに受け入れた
受け入れるか? 普通・・・
タクヤ「あれ、髪、切ったん?」
クラスメート「あ、分かるカー? セヤネンー」
「きゃはは!」
女子ウケがいいのもなんか納得いかん
顔が良ければなんでも許されるのか?
ユウイチ「はあ・・・」
〇高い屋上
ユウイチ(みんな、順応するもんだなー)
突然、関西弁をしゃべり出す高校生・・・
あいつが気味悪がられたり、つまはじきにされたとしても、俺だけは味方だ──
──とかなんとか決意したことは墓場まで持っていこう
タクヤ「お、おったおった」
ユウイチ(ち、タクヤか 今は話したくないな・・・)
ユウイチ(でもコイツ、人が真剣に考え事してても平気で声掛けてくんだよな)
タクヤ「なんやユウイチ どしたん? 暗い顔して」
ユウイチ(ほらきた 聞こえてないフリしよう)
タクヤ「・・・なんや、そういうことかいな」
タクヤは俺の肩をポンとたたいた
タクヤ「シュレーディンガーの猫、やな?」
ユウイチ「万能じゃねえからな、その言葉 人の悩み分かってるふうに言ってるけど」
タクヤ「なんや、悩みやなんて大げさやな」
タクヤ「おおかた、ワテの関西弁がスムーズに受け入れられて戸惑ってんねやろ?」
ユウイチ(くそ、いらねー時だけスルドイんだよな、コイツ)
ユウイチ「そんなんじゃねーよ」
ユウイチ「あと「ワテ」ってやめろ 今どきの関西人は使ってないらしいから」
タクヤ「・・・」
タクヤ「オレも、違和感はあったんや」
ユウイチ「あったのかよ」
タクヤ「まあええやんけ、それは お前にちょっと話したいことがあってな」
ユウイチ「なんだよ・・・ 今度は九州弁しゃべりたいとか?」
タクヤ「なんで縁もゆかりもないトコの方言しゃべらなアカンねん」
ユウイチ「どの口が言ってんだよ」
タクヤ「お、ツッコミがさえとる、珍しいな」
ユウイチ「うるせーよ あと「珍しい」のイントネーション、むかつくな」
タクヤ「そやねん、「めず『ら』しい」、言うねんな! 「大気圏」とおんなじイントネーションやで!」
ユウイチ「カッケー言葉引き合いに出すなよ ・・・あと「赤ワイン」もな」
タクヤ「せやな! 「白ワイン」もやな!」
ユウイチ「ずるいぞ、取るなよ めず「ら」しい・・・なら、「掛け布団」もだな」
タクヤ「せやな! あと「敷き布団」もやな」
ユウイチ「おい、また取ったろ」
タクヤ「今のはお前が悪いで 「取ってくれ」言わんばかりやん」
ユウイチ「ちっ・・・もういいから、用件を言えよ」
タクヤ「それから「ワンコイン」もそうやろ?」
ユウイチ「・・・」
タクヤ「それから「黒魔法」に「白魔法」や 取らせへんで!」
ユウイチ「・・・なら、「サンシャイン」もだな」
タクヤ「いつまで言うとんねん」
ユウイチ「・・・」
タクヤ「本題やで オレの悩み聞いてんか」
ユウイチ「ちっ・・・ お前こそ悩みなんてねーだろ」
タクヤ「そら決めつけやで自分」
ユウイチ「じゃあ、なに悩んでんだよ」
タクヤ「・・・」
ユウイチ「ん? おい、悩みって──」
タクヤ「それじゃあ、今から言うから、耳かっぽじって聞くんやで、自分」
タクヤ「ええか、我がことや思うて聞くんやで、自分」
ユウイチ「お前、相手のこと「自分」って言ってみたいだけだろ」
タクヤ「分かるかー?」
ユウイチ「分かるよ いいから早く言えよ、どうせ大した悩みじゃねーんだろうけど」
タクヤ「大した悩みやあらへん、か・・・ せやな、そうかもしれん」
タクヤ「というのも、オレの中ではもう、答えは出てることやから」
ユウイチ「答えが出てるんなら、悩みでもなんでもねーじゃん」
タクヤ「いやこれ、どっちかいうたらユウイチに関係することやねん」
ユウイチ「俺に関係? なんだよ・・・」
タクヤ「オレ、ずっと考えててん 関西弁が生きるのはボケやない──ツッコミやって」
ユウイチ「・・・つまり?」
タクヤ「オレ、これから先はツッコミにまわるわ ユウイチ、覚悟しときや」
ユウイチ「はあ? 俺がお前にツッコまれる? 馬鹿言うなよ」
ユウイチ「大体俺、好きこのんでボケねーし」
タクヤ「勘違いしとるなあ、ユウイチ」
タクヤ「ボケるボケへんやないねん」
タクヤ「お前、天然やん ツッコミ放題やで!」
ユウイチ「俺が天然!? どこがだよ」
タクヤ「すでに天然やん 天然の奴は自分のこと天然て気付かれへんねん」
ユウイチ「だったら本当に天然じゃない奴はなんて言えばいいんだよ」
タクヤ「ヘリクツばっかりこねるやん」
ユウイチ「ヘリクツじゃねーよ フツーの理屈だよ」
タクヤ「ほな、お前が天然やいう、実例挙げたるわ」
タクヤ「移動教室の時あったやん」
ユウイチ「そ、それは・・・」
タクヤ「お前ドアの取っ手のバー、ガタガタやってる思たら、「鍵、掛かってる」言うて、引き返してきたやん」
タクヤ「でも鍵あいてたやん」
タクヤ「ただの引き戸やん、「ガラガラ」いうて開けるとこ、お前一生懸命押し引きしてたやん」
ユウイチ「あれは取っ手が悪いんだよ 見るからに「つかんで引っ張れ」みたいな形して」
タクヤ「はー! 天然を取っ手のせいにしよったで」
ユウイチ「ああいうのは天然じゃなくて、早トチリっつーんだよ」
タクヤ「早トチリやて よう言うわ、言葉の魔術師やで」
タクヤ「この間の休み時間もあったやん 人がレーサーの話で盛り上がっとったら──」
ユウイチ「それはいいだろ」
タクヤ「お前なんやいきなり割り込んできて、「オレも魔王、好きや」言うて」
タクヤ「それシューベルトやん オレら言うてんのシューマッハやん」
ユウイチ「だからそれも早とちりというか、聞き違いでだな」
タクヤ「聞き違いて・・・ベルトとマッハなんて一文字も合うてへんやん!」
タクヤ「どない耳しとんねん まあ百歩ゆずって聞き間違いはええわ」
タクヤ「なんやねん「魔王、好き」て、どこの高校生やねん」
タクヤ「おとーさーん、おとーさーん! 耳鼻科がやって来るよー! 言うて」
ユウイチ「それは言ってねえよ・・・っていうか別にいいだろ! 耳鼻科が来る分には、ただの医者じゃねーか!」
タクヤ「ツッコむやん! ツッコまれたくないから言うてツッコミにシフトするやん!」
ユウイチ「そ、そんなんじゃねえよ」
タクヤ「それからやな──」
タクヤ「──あれもそうやで」
ユウイチ「・・・なんで俺の右に立つ?」
タクヤ「立ち位置やん ボケがそっちやん」
ユウイチ「それは漫才コンビ次第だろ」
タクヤ「せやったら、なおさらそっち立っとってもええやん」
ユウイチ「嫌なんだよ、心理的に」
タクヤ「ええやん!」
ユウイチ「良くねえ!」
タクヤ「ええやん!」
ユウイチ「良くねえ!」
「ぜえぜえ・・・」
ユウイチ「・・・おい、タクヤ」
タクヤ「なんや」
ユウイチ「これいつまでやんの?」
タクヤ「誰が言うてんねん!」
タクヤ「もうええ、立ち位置はゆずったるわ!」
タクヤ「せやけど今度から覚悟しときや!」
タクヤ「スキあらばツッコんだるさかいに!」
タクヤ「ほな!」
・・・チャイムが鳴った
ユウイチ「「ほな」っつったって、おんなじ教室じゃねえか」
ユウイチ「なんで俺がツッコまれなきゃなんねーんだ ぜってー、逆だろ」
ユウイチ「はあ・・・」
ユウイチ「どこが天然ヤネン」