カイキン

朱宮薫

カイキン(脚本)

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〇古いアパートの部屋

〇黒背景
  ドイツの法律では16歳
  サウジアラビアの法律ではそもそも禁止
  そして我が国日本の法律では20歳から

〇シックなバー
  言わずとしれたアルコール解禁年齢である

〇古いアパートの部屋
  そして明日12月15日
  俺こと中島稔は満20歳を
  めでたく迎えるのである

〇古いアパートの部屋
  いや、めでたくねぇ・・・

〇古いアパートの部屋
  誕生日を無事迎えることが出来ても
  内心めでたい気持ちにはなれなかった

〇事務所
  高校卒業後すぐ就職した俺は
  今や勤続3年に差し掛かろうとしている

〇大衆居酒屋
  今までは定期的に行われる飲み会の
  アルコールをなんとか回避することが
  できていた

〇大衆居酒屋
  ひとつは年齢のおかげ
  ひとつは社会的な背景のおかげで

〇クリスマスツリーのある広場
  けれど色々なことが落ち着いた今年の冬

〇黒背景
  まだまだ飲み会を忌避する企業が多い中
  うちの企業はやることに決まった

〇事務所
社長「今年の忘年会は中島の誕生日を兼ねた 飲み会にするぞ!」

〇黒背景
  と、社長の鶴の一声で

〇黒背景
中島稔「(頼んでないけどな・・・)」

〇大衆居酒屋
  今までの飲み会では下座に座って
  飲み物や食べ物の手配をして
  アルカイックスマイルを顔に浮かべて
  話を聞いていればよかった

〇大衆居酒屋
  けれど今年はアルコールを飲むことになる

〇病院の診察室
  心配症、もとい用意周到な俺は
  事前にパッチテストを行った

〇病院の診察室
  結果は話題だった〇〇アームもかくやと
  いわんばかりの腫れ具合だった

〇事務所
  それでも上の人間には逆らえない
  下の人間の哀しい性

〇黒背景
  サプリを買って
  一杯だけ飲んでなんとか凌ごう

〇古いアパートの部屋
  腹を決めて寝床につこうと思ったその時
  俺の携帯が鳴った
  社長からだった

〇古いアパートの部屋
中島稔「はい」

〇黒背景
社長「おー、中島 夜遅くに悪いな まだ起きてたか」

〇古いアパートの部屋
中島稔「ええ、大丈夫ですけど・・・」

〇黒背景
社長「今、時間大丈夫か?」

〇古いアパートの部屋
中島稔「はい」

〇黒背景
  社長は目下の人間にもこういう確認をとる

〇黒背景
社長「実はな 飲み会に参加する人間のうち 半数以上が都合が悪くなってな 飲み会を開くのが難しくなるそうなんだ」

〇古いアパートの部屋
中島稔「それは・・・」

〇古いアパートの部屋
  (願ったり叶ったりだ)

〇古いアパートの部屋
中島稔「いいですよ、別に」

〇古いアパートの部屋
  (中止になっても)

〇黒背景
  流石にこの言葉は飲み込んだが
  そうなっても一向に構わなかった

〇黒背景
社長「だからな、中島」

〇古いアパートの部屋
中島稔「はい」

〇黒背景
社長「俺とサシで飲まないか?」

〇古いアパートの部屋
中島稔「はい!?」

〇黒背景
  なんでそうなる

〇黒背景
社長「な、せっかくの誕生日だ 美味い酒飲ませてやっから」

〇古いアパートの部屋
中島稔「いやいや、流石に・・・ 俺パッチテストで酒弱いって出てますし あんま飲まないと思いますし」

〇黒背景
  言い訳もしどろもどろだ
  誰が20歳の誕生日に上司とサシで
  飲めるものか

〇黒背景
社長「量は飲めなくても質のいい酒の ほろ酔い加減はいいものだぞ」

〇黒背景
  社長は押しが強い
  ぐいぐい来る

〇古いアパートの部屋
中島稔「いや、ホント腕が真っ赤に なっちゃうんで 本当に遠慮しときたいんですが」

〇黒背景
社長「じゃあ寿司でも食うか お茶で乾杯だ それならいいだろ」

〇古いアパートの部屋
中島稔「本当に明日でなくてもいいんですが」

〇黒背景
  (冗談抜きでマジで)

〇黒背景
社長「せっかくの可愛い部下の新成人 酒が呑まなくても祝ってやりてぇ じゃねぇか 美味いもの食ってよ」

〇黒背景
社長「飲まなくても酒舐めるだけでもさ 一番最初の酒の思い出が 嫌な思い出だったらつれぇじゃねぇか 来たくないか?」

〇黒背景
  そんなこと言われたら言葉に詰まる

〇黒背景
  飲みニケーションなんて言葉が
  何世代前の言葉になりつつある今
  社長はこうしたコミュニケーションの
  取り方だ

〇黒背景
  多少強引だが人の良さが滲み出る
  飲み会なんてしなくても態度でわかる
  そんなもの

〇古いアパートの部屋
中島稔「行くに決まってるじゃないですか」

〇黒背景
  今までのこころと裏腹に
  ぽろりと出た

〇黒背景
社長「よし、きた じゃあまた明日な おやすみ、よく寝ろよ」

〇黒背景
  言われた言葉に全くと言いながら
  笑いがとまらなかった
  明日誕生日を迎える自分と
  待っているであろう未来を想像して

コメント

  • 私は社長の世代に近いと思うので、部下にこうして接する気持ちがわかります。幸い理解がある感じの上司だから、主人公のお酒を飲むことへの概念がいい意味で変わればいいなあとおもいますね。お酒は誰と飲むかによって味が変わる、経験済みです(笑)!

  • 飲みニケーションなんて言葉なくなればいいのになんて思いました笑お酒が飲みたいだけの口実にしか聞こえませんもん笑本当にお酒を飲まずにすんだのか気になりますね笑

  • あとがきを読んで、うまい!お酒だけに!ってなりました。主人公さんはお酒ダメみたいですが…。気持ちが上向いて良かったですね。
    立ち絵や会話がリアルで、働いている19歳の人らしくて良いです。社長さんも「お酒を勧めてくるから困っちゃうけど、いい人」という感じがよく伝わってきました。本当にあった出来事を綴った日記を読んでいるようで、味があります。

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