読切(脚本)
〇本棚のある部屋
朝7時。
目が覚めた。という気がした。
自分を含めた周りの環境を見渡す。
初めての一人暮らしに相応しい軋むベット。
立ち上がり、カーテンから漏れる光へと近づく。
〇住宅街の道
見える景色は今日も変わらない。僕が選んだ場所のまま。
〇本棚のある部屋
「さぁ、残りわずかな春休みを楽しもう」
ひとしきり伸びをして1時間ほどの時間をかけて身支度を整える。
明日からは社会人だ・・・
〇アパートの台所
レンジで温めた豆乳にインスタントコーヒーを小さじ2杯。
蜂蜜をかけてゆっくりと混ぜる。
コーヒーの匂いがつい最近届いた幼い手紙を思い出させる。
〇白
『20の僕へ。』
授業の一環で書いたのだろうか。
今とあまり変わらない角ばった文字。
〇教室
「20の僕へ」
「20の僕は毎日青春していますか?」
・・・
「・・・好きな人はいますか?」
「僕はいますよ。好きな人」
「結婚を視野に入れて毎日を行動してくださいね」
・・・
「お酒はぐびぐび飲んでいるのでしょうか?」
いっぱい飲める人がかっこいいと僕は思っています。
「・・・」
「・・・色々言いましたけど、未来の僕」
好きに生きてください。
「僕はつまらない世界で満足する様な男ではないので」
「毎日を工夫して生きてください」
「過去の僕より」
〇本棚のある部屋
我ながら尊大な態度に笑ってまう。
・・・
僕が僕に書いた手紙らしい。
ねぇ、過去の僕。
〇黒
僕は君の好きな人のことを
もう、思い出せないよ。
お酒だって好きじゃない。
君の考えるつまらない世界で僕は満足できてしまう。
おかしいよね。
漫画の中のキャラクターたちは
勇者になっても
悪役令嬢になっても
冒険して
恋愛をして
世界を救っているのに
僕は一般的な生活を維持するのに精一杯だよ。
・・・
大人になるってもっとキラキラしたものだと思っていたのにね。
毎日を過ごしているだけで歳は増えていくんだ。
〇本棚のある部屋
──
──マリッジブルーみたいなものかな。
就活で相当心を病んでしまったか・・・。
・・・
明日行く会社のルートでも見に行こうかな。
〇開けた交差点
──
〇街中の道路
ここが会社か・・・。
なんの変哲もない。
よくある中小企業。
〇小さい会議室
面接では熱く語った自分の気持ちも
今となっては思い出せない。
〇黒
そんなもの。
〇街中の道路
踵を返して家路を急ぐ。
〇開けた交差点
そんな僕と逆行するように
もたもたと歩くスーツ姿の女性が1人。
僕の横を通りすぎる
ふわりと香る優しい匂いに
ふと、目が奪われた
──
「あれぇ・・・。この付近だと思うんだけどなぁ・・・??」
「私は今どこにいてどの方向に進めるのかなぁ・・・?!!」
ぼそぼそと独り言を言っている怪しい女性。
歳は同じくらいだろうか・・・。
普段なら見なかったことにしていたかもしれない・・・が。
──
地図を印刷した紙を持つスーツ姿の女性に
数ヶ月前まで就活生であった自分が重なって見えて
ほっておけなくなった。
榊原透「・・・あの、どこへ行こうとしてます?」
榊原透「僕も最近越してきたばかりだからあまり自信ないけど・・・」
汐見透華「!!ありがとうございます!!」
汐見透華「この会社に行きたくて・・・ 行けなくて・・・」
助かった!とばかりに喜び、地図に丸をつけた会社名を指差す女性。
(僕を釣るためにわざと独り言を言っていたのか??と、思えなくもない・・・)
榊原透「(・・・あれ、この会社明日から僕が勤める会社じゃ・・・)」
榊原透「それならすぐそこの・・・あの建物ですよ」
〇街中の道路
汐見透華「・・・あぁっ!?!あれ?!ありがとうございます!!」
なんだ〜結構近くに来れてたんですねー!と言いながらぱっと上がる顔
──嬉しそうな表情に光が当たって
色素の薄い柔らかな黒髪が茶色く光る。
──それがあまりにも綺麗で
──嬉しそうで、
つられて僕も笑ってしまう。
榊原透「見つかって良かったです・・・実は明日から俺も・・・」
────
「──あっ??!!」
彼女の声と僕の声が驚きと喜びで互いに響く。
〇教室
──
──ねぇ。過去の僕。
明日からの僕はちゃんと青春できるかもしれないよ?
だって過去の僕が好きな人のことを思い出せたんだ。
──
おっちょこちょいで転校する日を間違って僕に伝えた彼女。
君はそのことを恨んでたよね。
──でも、好きだったよね?
彼女のことを忘れたくなるくらい
・・・ねぇ、今の僕も君と同じ人が好きだ。
〇街中の道路
──
──
(つまらない毎日から抜け出す工夫、してみるね。)
青春を取り戻す!
主人公が20歳という区切りに過去の自分と向き合い自己考察し、ささやかでも前に進む光をみれたことがとてもよかったです。ほんの少しの意志や行動でパッと変われることもあるものですよね。
子どもの頃に思い描いていた大人になれてるか?というとまったくなれていません。笑
読んでて爽やかな気持ちになれました。
最後に再会した彼女も気になって、いいことありそうだなぁって思いました。
もう共感しかないです。子どもの頃ははやく大人になりたかった!大人がキラキラしてみえた。実際になってみたら日々の生活に必死。でもこのお話を読んで、もっともっと楽しんでみよう♪と思えました。あきらめたらそこで終わり!毎日ただ過ぎていくのも平凡な幸せなのかもしれないけど、冒険すること、挑戦することはきっともっと毎日を楽しく輝かせてくれる♪大人へのエールのような作品ですね!