旅立ちの日の前に

らいら

旅立ちの日の前に(脚本)

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〇可愛らしい部屋
タルニャン「夜明けまであと6時間・・・か」
  彼の名はタルニャン。
  勇者である。
  とてもそうは見えないが、生まれた時から勇者と定められている。国の偉い人が選んだ。
タルニャン「16歳になったから、明日の朝から冒険の旅に出なきゃいけないんだけど、正直まったく行きたくない」
タルニャン「魔王を倒す究極魔法をおぼえるために、1年間に及ぶ長く険しい、レベル上げの冒険をしなけりゃならない。・・・」
タルニャン「ゲームに例えると・・・」
タルニャン「1年間、周回するようなもんだよ!無理!」
タルニャン「そこで俺は考えた。冒険に行かずに済む方法を。この日のために計画を練ってきたんだ・・・」
タルニャン「これが完璧な計画を記した──」
  ??「勇者様・・・勇者さま!」
タルニャン「え?だれ?」
ミカエラ「来ちゃった!」
タルニャン「いや誰?勝手に部屋入らないで」
ミカエラ「戦乙女三姉妹の長女ミカエラ!です! 明日からあなたと一緒に旅に出るミカエラですよう」
タルニャン「あぁ、キミが・・・?!」
  戦乙女三姉妹ーー
  魔王を倒すために勇者と共に冒険に繰り出すことが定められている。運命の3人の乙女たちのことである。
  明日の朝、タルニャンが出発する折に、【⠀旅立ちの交差点】で出逢うことになっている。伝統でそう決まっている。
タルニャン「なんでここにいるの? 出発は明日だよ」
ミカエラ「勇者様に早く会いたかったんです!幼い頃から憧れてましたから」
ミカエラ「妹たちに先越されないようにしないと。だから抜け駆けです!えへへっ」
タルニャン「1年も一緒に旅するんだから、明日まで待てなかったの・・・?」
タルニャン「とにかくさ、帰ってよ。明日に備えて今日は寝ないといけないんだから」
ミカエラ「え?イヤです」
タルニャン「なんでだよ。もう俺はキミのこと覚えたからそれでいいでしょ?」
ミカエラ「・・・先ほど聞き捨てならないことを仰っていましたね?」
タルニャン「!!」
タルニャン(しまったー!マル秘ノートを読まれてる!!)
  タルニャンの計画。それは・・・・・・
  今夜のうちに魔王城に忍び込んで、魔王を亡き者にしようという作戦である。
  魔王は今ごろ悠長に惰眠を貪っているだろう。勇者伝説は周知のことなのだ。勇者が倒しに来るのは1年後。それまで魔王は安泰
ミカエラ「伝説では勇者は──1年間に及ぶ険しい冒険の末に、魔王を倒す究極魔法をおぼえる。それナシで行けるんですか?」
タルニャン「もう途中まで読まれてしまったから言うけど、この日のために気配を消す魔法だけを習得したんだ。すべては・・・」
タルニャン「1年も旅するのがめんどくさいから。出発前にサクッと終わらせてやるのさ!」
ミカエラ「さすがは勇者さま!今夜なら魔王城も警備が手薄かもしれませんね」
タルニャン「だからさっさと出発しないと。船の手配もしてあるんだ。魔王の住む島までここから2時間かかるからね」

〇漁船の上
  タルニャンは計画通り、あらかじめ手配していた船に乗り込んだ。
タルニャン「よし・・・!」
タルニャン「って、よしじゃないよ!なんでキミもいるの?」
ミカエラ「お供するに決まってるじゃないですか!わたしは、勇者さまとともに魔王を倒す運命の戦乙女ですもの」
タルニャン「キミ、気配殺せないでしょ」
ミカエラ「うっ・・・」
タルニャン「船で待っててよ」
ミカエラ「そんなーーーー!!」

〇山道
  一方その頃・・・
アムネリス「まさかこんな大事な日にミカエラ姉様がいなくなるとは」
蝶々「だからって夜中に捜さなくても・・・」
アムネリス「心当たりはあるの。あの女、抜け駆けして勇者様に会いに行ってるのよ」
蝶々「!?」
蝶々「1人だけ目立とうとして?そんな姑息な!」
アムネリス「とにかく勇者さまのご自宅に行くわよ、蝶々」
蝶々「わたしたちは3人で戦乙女。勝手な行動は許さない」
蝶々「旅の果てに勇者さまと結婚するのはわたしよ!」
  伝説では、歴々の勇者は旅を終えたあと、戦乙女三姉妹のうちの誰かを嫁に迎えたという。1度の例外もなく
アムネリス(負けないわ。蝶々にも、もちろんミカエラ姉様にもね)

〇砂漠の基地
  ここは魔王城。
  彼は城に住む・・・
キュウ「はぁ・・・」
キュウ「まさかボクが魔王だなんて。誰も思わないだろうな」
キュウ「お父様が、魔王に飽きたといって異世界に転生してしまい、兄様たちも次々に異世界転生」
キュウ「残ったボクが、必然的に魔王の座に就いてしまった。9番目の息子だから名前さえつけてもらってないのに」
キュウ「1年後に勇者が倒しにくるはずだけど、適う気がしない。ボクが半人前すぎて」
キュウ「それにボク今のところ何も悪いことしてないのに、なんで倒されなきゃいけないの?」
キュウ「勇者には悪いけど、今夜のうちに始末させてもらおう。彼が力をつける前に」
キュウ「彼の部屋に忍び込んで襲えば1発でしょ 幸い、テレポートの魔法使えるし」
キュウ「よし、行こう」

〇可愛らしい部屋
キュウ「あれ?」
キュウ「勇者がいない」
キュウ「あの・・・」
キュウ「どなたですか?」
アムネリス「そっちこそどなた!?」
蝶々「ゆ、勇者さまですか?」
キュウ「違います」
  勇者不在の勇者の部屋だった──

〇砂漠の基地
タルニャン「・・・」
ミカエラ「・・・」
タルニャン「魔王が出かけているとは・・・」
ミカエラ「仕方ないから帰りましょうか・・・」
ミカエラ「帰って寝た方がいいと思います」
タルニャン「今から帰っても寝る時間なく出発になる。このまま逃げるか・・・」
ミカエラ「逃避行ですか?そうしましょう、一緒に逃げましょう!」
タルニャン「やっぱ帰る」

コメント

  • 考えてることが同じで、どっちも戦いたくないなら、そのままでいい気もするんですよね。
    勇者も子ども相手に大人気ないことはしたくないでしょうし。笑

  • 短いストーリーの中でうまく話が展開されていて、最後まで楽しく読ませて頂きました。「旅立ちの日の前に」タイトルもセンスがあって素敵です。

  • すれ違いまくってて笑いました。みんななかなか会えないこの感じが面白いです。かわいいキャラクターばかりなのも楽しかったです。妹さん2人でも魔王様が倒せそうですが、勇者様が倒さないと結婚できない流れだから2人もこのまま待つんでしょうか。敵同士なのにほほえましいです。

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