洗濯と、選択と、宣託。(脚本)
〇風流な庭園
早朝6時
晴着「今日もいい天気だなぁ〜」
布神家の朝は早い。
長男・晴着(はるき)は庭先で洗濯物を干していた
Tシャツを干しながら見上げる空には、
朱色の大きな鳥居が朝日に照らされ輝いている
〇神社の本殿
鳥居の中央に掲げられた木製の額には、
僕の実家の神社の名前が記されている
『洗濯神社』
僕は神社の息子だ
糸織「朝ごはん食べるわよー♪」
朝拝を終えた姉・糸織(しおり)が戻ってきた
2年前、宮司だった母が交通事故で亡くなり、姉ちゃんが神社の後を継いだ
「洗濯神社」とは、その名の通り
「お洗濯の神社」だ
お祀りしているのは「水」の神
生活の中で最も邪気を吸う
「布(服)」の穢れを「水に流す」
つまり、
「神様が洗濯をしてくれる」という訳で日々、様々な布を持った人が参拝に訪れる
小さな神社だけど、地元では有名だ
〇実家の居間
父「おはよぉ〜」
いつも最後に起きてくるのは父さん
〇昔ながらの銭湯
父さんは神社の境内にある
「水神コインランドリー」を運営している
物珍しさで、意外と人気のある
コインランドリーだ
〇実家の居間
父「牡丹さん、おはよう」
父さんは祖霊舎(仏教で言うところの仏壇)に手を合わせ、母さんに挨拶をしている
糸織「晴着! あなた今日、学校休みなんだから たまには家のこと手伝いなさいよ」
晴着「はぁ〜い」
これが布神家のいつもの日常だ
ピンポーン
玄関のチャイムが鳴り
「宅配便でーす」という声が聞こえた
〇広い玄関(絵画無し)
晴着「デカっ!なんだこの荷物・・・」
玄関先には大きな段ボール箱が置かれ、
配達員は既に居なくなっていた
父「随分と大きな荷物だなぁ! 神社宛てか?」
晴着「送り主も書いていない・・・」
箱を開けると、大量の衣服を包んで
パンパンの風呂敷が入っていた
晴着「もしかして、誰かが神社で供養して欲しい服を送ってきたのかな?」
父「うちは郵送でのお焚き上げ やってないんだけど・・・」
父「たまにいるんだよなぁ リサイクルショップ代わりに要らない古着送りつけてくる人が・・・」
一先ず、中身を確認するため
風呂敷を開けて服を出していく
父「ん?」
すると中程から、ボロボロの真っ赤なふんどしが出てきた
前垂れには、奇妙な円陣のようなものが墨で描かれている
父「なんだ、これ・・・」
父がふんどしに触れた瞬間────
晴着「わぁーーー!?」
父「ウッホーーー!? ドコドコドコ(ドラミング)」
晴着「父さんがゴリラに!? ていうかもうバナナ食ってる!!!!」
糸織「ドコドコ聞こえたけど 晴着、ドラムでも始めたの?」
糸織「ぎゃあぁぁーーー!?!?」
晴着「わぁーーー!!」
父「ドコドコドコ!!!!(ドラミング)」
糸織「晴着っ! 早くゴリラから離れて!」
晴着「違うんだ! このゴリラは父さんなんだ!」
糸織「!? このバナナの食べ方はゴリラ歴長いわよ!?」
〇実家の居間
緊 急 家 族 会 議
糸織「良かった・・・ お父さん、意思の疎通は図れるみたいね」
父「ウホホ・・・」
晴着「どうなってるんだよ・・・」
糸織「呪物、ね」
晴着「ジュブツ?」
糸織「「呪い」よ あのふんどしには呪いが掛けられていたの」
父「きっと誰かが、我が家に呪いをかけようと あのふんどしを送り込んだんだな」
「喋れんのかよ・・・」
晴着「でも誰が?何のために?」
糸織「わからないけど・・・」
(ふんどし触るの自分じゃなくて 良かった〜・・・)
糸織「とにかく今は、お父さんに掛けられた呪いを解くことを考えましょう!」
糸織「お父さん、こっち来て! 私がお祓いするわ!」
3時間後──
糸織「全っっっ然ダメだわ・・・」
姉ちゃんのお祓いも虚しく、
父さんは未だゴリラのままだ
糸織「すごく強力な呪いみたい・・・ 私にはもう・・・」
父「そんなぁ・・・」
晴着「父さぁん・・・」
糸織「ちょっと待って」
「?」
糸織「お父さんもうこのままで いいんじゃないかしら?」
「!?」
糸織「強いし、カッコイイし、 もうお父さんゴリラの方が・・・」
晴着「・・・姉ちゃん、ワシントン条約って知ってる?」
糸織「・・・・・・」
父「モグモグ・・・」
晴着(あぁ神様・・・! どうか、父さんを元の姿に戻してください!お願いします!)
〇実家の居間
突然水しぶきが舞い、
そこには着物姿のビショ濡れの男性が立っていた
「!?」
水の神・ランドリー「呼んだか?」
晴着「あなたは・・・?」
糸織「晴着、警察に電話よ」
水の神・ランドリー「一旦落ち着け」
父「あなたはもしや、 我が家の祭神、水の神様ですか!?」
水の神・ランドリー「いかにも。私は洗濯神社の祭神 「laundry(ランドリー)」」
晴着「国際派!?」
水の神・ランドリー「ところで・・・」
水の神・ランドリー「布神家は喋るゴリラを飼ってるのか?」
糸織「ワシントン条約って知ってます?」
水の神・ランドリー「まあいい、何の用だ?」
晴着「父がこの赤いふんどしに触れたら ゴリラになっちゃったんです!」
〇実家の居間
水の神・ランドリー「これに触れたのか・・・」
父「一体誰がこんなことを・・・」
水の神・ランドリー「恐らく「厄病神」だ」
晴着「厄病神?」
水の神・ランドリー「布が吸ったUnlucky(厄)を洗い流す、 私のPowerを嫌っているのだ」
晴着(国際派だなぁ・・・)
水の神・ランドリー「恐らく、私に嫌がらせをするために 宮司の一家に呪物を送ったのだろう」
晴着(巻き添えか・・・)
父(巻き添えだな・・・)
糸織「巻き添えってことね」
水の神・ランドリー「・・・・・・」
水の神・ランドリー「まあいい」
水の神・ランドリー「心配するな 私が呪いを解いてやろう」
糸織「本当ですか!?」
水の神・ランドリー「我が宮司の一族の頼みだ 力になろう」
水の神・ランドリー「ただし、一気に解くのは無理だ」
水の神・ランドリー「強力な呪いゆえに 少しずつ解いてゆかねばならぬ」
水の神・ランドリー「というわけで 私もしばらく布神家にとどまろう」
父「良かった〜〜!! ドコドコドコ(ドラミング)」
「ビクゥッ!!」
糸織「あ、ところで神様 登場した時にビショビショにした床 掃除してくださいね?」
水の神・ランドリー「・・・・・・」
こうして、布神家と神様の共同生活が始まった
〇昔ながらの銭湯
神様との生活にも慣れてきたころ──
ゴリラになった父の代わりに、
僕と神様はコインランドリーを管理することになった
水の神・ランドリー「人が使う布に稀に着く 特別な穢れを洗い流すことが 父の呪いを解くことに繋がるのだ」
店先には新たに
「特別な汚れ落とします」と書かれた
看板を設置した
その後、
神社に持ち込まれた曰く付きの布の事件を追ったり、コインランドリーに訪れた人の悩みを解決したり、
父さん(ゴリラ)の代わりに神様が学校の三者面談に現れたり、
厄病神が襲撃にきたりするけど・・・
それはまた、別のお話──
流石プロ、お話がうまい…
洗濯神社の現実にありそうなリアルな設定が好きです
長閑で温かな空気感の中に現れる非日常要素に笑ってしまいました。ふんどしの送り主の正体や、水の神・ランドリー様(←国際派)の来歴など、続きが気になる要素満載ですね!
大変奇遇なのですが、私も「洗濯」をテーマにしたコンテスト作品を作ったので、惹かれて読ませていただきました。
意思疎通出来るゴリラならむしろちょっとなりたいかも笑
ランドリーはなんか不遇な扱いを受けるオーラが滲み出てますね。