40(脂重)

72

そんな年頃(脚本)

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〇綺麗なリビング
  私は泣いていた。友人の「マユちゃん」からの連絡を受けて。共通の友人が亡くなったのだ
  3人とも同じ年。小学生の頃からのくされ縁といえば聞こえは良いが、実際はそうでもない
  特に亡くなった友達「のりちゃん」とは

〇教室
  のりちゃんは昔から、自由奔放の割に自己主張が強かった。数人でいる時には盛り上がるキャラクター
  そんな彼女だからか、1対1の2人きりになると、私は会話に困る事が多かった
  聴いてほしいという感じで話してくる彼女
トキメ「わかる、わかる」
  共感したり、こちらが驚いたりする時には喜んでいたが、何かアドバイスをする時にはあんまり聞き入れないところがあった
  一緒にいる時、私は度々何かに我慢を感じていた

〇教室
  マユちゃんはマユちゃんで天真爛漫な人だった。でも自己主張は少なかった
  自分の世界を持ちながらも、他人の世界も大切に考えていた
  私は自分に正直に生きる二人が羨ましかったのかもしれない。だから一緒に過ごす事が多かったのだと、昔の事を振り返っていた

〇葬儀場
  のりちゃんのお葬式は家族葬で行われた
  本当ならお葬式前に、お線香をお供えに行くべきだったが、仕事があった事等から、マユちゃんと後日伺う事にした
  なので、最後に顔を見てあげられなかったかった事は申し訳なく感じていた

〇昔ながらの一軒家
  お葬式から約一週間後の休日、マユちゃんと待ち合わせをして、のりちゃんの家を訪ねた
  事前に連絡していた事もあり、家に着くとすぐに旦那さんが出て来られた
のりちゃんの旦那さん「まだドタバタしていて散らかっていますが、どうぞ中へ入ってください」

〇古風な和室(小物無し)
  私達は仏壇に行き、それぞれ線香をお供えした
  旦那さんはお茶とお菓子を出してくれた。それから少し沈黙の時間となった。口火をきったのはマユちゃんだった
マユちゃん「のりちゃんは・・・のりちゃんは何か病を患っていたんですか。私達、最近はあまり連絡もとっていなかったから・・・」
  私達3人の中心はマユちゃん。そのマユちゃんが結婚して、子育てに追われるようになってから、めっきり会わなくなっていたのだ
のりちゃんの旦那さん「のり子の死は突然だったんです。数年くらい前から夜寝ている時のイビキや、時々寝息が止まる事がありました」
のりちゃんの旦那さん「睡眠時無呼吸症候群だったようですが、私もイビキは大きかったし、二人共似たような感じだったもので」
のりちゃんの旦那さん「だから私ものり子もあまり普段から気にしていなかったんです」
のりちゃんの旦那さん「うちは自営業の酒屋。健康診断なんかもすることはなく生活をしていて」

〇テーブル席
  のりちゃんの家で1時間ほど話をした後、私とマユちゃんは二人で久々に喫茶店へ行った
  こんな機会でもなければ、またしばらく会わなくなるような気がしたから。多分それはお互いに感じた事
  お店について、飲み物を注文すると、また沈黙の時間が流れた。天真爛漫なマユちゃんも大人になってどこか変わっていた
トキメ「マユちゃん、子育てで忙しいって聴いていたけど、のりちゃんはどうだったのかな。私全然連絡とってなかったから」
  そう、マユちゃんとは時々連絡をとっていたけど、のりちゃんとはほとんど連絡もとっていなかったのだ

〇テーブル席
マユちゃん「のりちゃん・・・私もそんなに。子供もいて幸せそうだったけど。自分が育児大変だったから・・・」
マユちゃん「あんまり幸せそうな家庭の話しを聞きたくなくなっちゃって。別に嫉妬とかじゃないんだけど」
トキメ「そっか・・・それって私もかも。特に離婚してからは距離おいちゃってたかもしれない」
  なんとなく二人共が、気まずい思いをしていた事がわかってきた

〇様々な蝶
  10代から20代に比べ、30代を越えるとだんだん同級生同士でも背景に変化が出てくる
  子供がいる家庭、私のように離婚した人、そもそも未婚のままな人。また親の介護をしている人もいる
  どれが幸せでどれが不幸かなんてわからない。なにせどれも現在進行形中だから
  ただ、人の人生とはどうしても比べてしまう時がある。芸能人みたいな人には何にも思わないけど、身近だった人程比べやすい
  子供の頃の純粋だった頃が、急に懐かしくなっていた。40手前のおばさんが二人そろえば、当然考えそうなことだけど
  私とマユちゃんも、いつの間にか昔の話で盛り上がって、お互い笑い合って話していた

〇テーブル席
  そして再び、のりちゃんの話に戻った。のりちゃんには二人の子供がいる
  若い頃に結婚した事もあり、上が高校三年生、下が高校一年生で、二人とも男の子なのだとか
マユちゃん「ある程度大きいとはいえ、まだ二人とも高校生じゃあ可哀想だよね」
マユちゃん「一人残された旦那さんも。のりちゃんも浮かばれないよね」
トキメ「そうかしら」
  何故か冷めた言葉が出てきた
マユちゃん「どうしたの、トキちゃん」
  何故か不快な何かが、頭の中でグルグル回っていた
トキメ「のりちゃんは特に苦しくもなく、急に亡くなったんだよね」
トキメ「だったら、二人の子供と優しい旦那さんと、幸せの中で亡くなったんじゃない」
トキメ「残されたお子さんや旦那さんは可哀想だけど、のりちゃんは幸せだよ」
  私・・・何を言ってるんだろう。ただ言葉がわっと溢れ出た
マユちゃん「トキちゃん、どうしたの」
トキメ「私には何もないから。好きで独り身な訳でもないし、子供だって欲しいし」
トキメ「今私が死んでも何も残らない。悲しむ人はいるかもしれないけど、家族として悲しんでくれる人なんて誰もいないんだから」
  そんなつもりじゃなかったのに、私は号泣していた。しかも友達が亡くなったのに、最低な言葉をひたすら口にして

〇風
マユちゃん「トキちゃん、我慢ばかりしなくていいんだよ」
マユちゃん「私だって今日、久々にトキちゃんと会って嫉妬したんだから。同じ年なのにそんなに若くて。この差は何だろうって」
マユちゃん「のりちゃんにだって、生活習慣病じゃんって心の中でちょこっと思っちゃったし」
マユちゃん「トキちゃんはまだ色んな幸せを選べるでしょ。子供のいる私は確かに幸せだけど、トキちゃんの幸せの可能性はとても魅力的だよ」

〇テーブル席
マユちゃん「トキちゃん、またずっと本音を溜め込んでたんだね。久々なんじゃないの、トキちゃんの号泣」
  思い出した。元旦那と別れた数ヶ月後も、我慢の糸が切れてマユちゃんに号泣していた事
  泣いたのはそれ以来だった
トキメ「マユちゃん、ありがとう。また勝手に気持ちを冬眠させていた」
  ようやく涙が止まってきた
マユちゃん「トキちゃんは昔から、何気ない事はぽんぽん話すのに、辛い事は話さないから。冬眠よりもセミの幼虫みたい」
マユちゃん「出てくるまでが、長すぎるって。心の健康管理も大切なんだよ」

〇駅のホーム
  喫茶店を出てからお互い帰る事にしたが、駅まで一緒に歩く事にした
  私は心の闇を吐き出した事で、すっかり気持ちが楽になっていた
トキメ「マユちゃん、今日はありがとう。途中変な事たくさん言っちゃったけど、ナイショにしてね」
マユちゃん「トキちゃん、私もトキちゃんに変な事言っちゃった。トキちゃん、これからはもっと連絡とりあわない?」
トキメ「うん。これからもよろしくね」

〇綺麗なリビング
  我が家に帰り、お風呂に入る。髪の毛をとかしながらビールを口にふくんだ
  やってる事はオバサンだけど、心の中は10代のようだった
  時には本音を言ってみたり、号泣をしたり。笑う事も含めて、自分の様々な感情を出す事は大切な事なのだ
  そしてやっぱり結婚したい。出来る事なら子供だって欲しい。40歳目前だけど、多くの人と同様な事で、自分も幸せになりたい
  出来るかどうかは分からないけど、それが私の本音なのだ

〇新緑
  40歳になる前に再婚する事は、もはや難しそうだ
  だけど再婚に向けた準備は、これまでかなり頑張ってきた
  そろそろ脱皮の時期だ
  でも私はいったい、どんな人を求めているんだろう。そこが分からないと、次に進めないような気がして、もどかしく感じていた

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