40(脂重)

72

人参のグラッセ(脚本)

40(脂重)

72

今すぐ読む

40(脂重)
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇綺麗なリビング
  のりちゃんが亡くなってから、マユちゃんと連絡を取り合う機会がかなり増えた
  心の闇を溜め込まない、そんな練習もふくめて小言を話す私
  誰か私の相手を探そうと、それとなく何かを聞き出そうとするマユちゃん
  きっかけはともあれ、私達の関係は再び学生時代の延長の線路に沿って、進み出していた

〇休憩スペース
  再婚を目指して、街コンにも何度か参加していた
  数人の方とマッチングして、何度か遊びにも行ったけど、だいたい2回くらいで続かなくなった
  長続きしない理由は私の方の問題。本気で再婚を考えると、どうしても慎重になってしまうのだ
  最初にマッチングする時、私は相手の見た目や喋りやすさを意識している。見た目は良いか悪いかというより、しっくりくるかどうか
  その後会った時からは、お仕事の事や生活習慣、趣味などを改めて確認していく。そこで割と引いてしまう私が現れる

〇テクスチャ
  仕事が交替制の勤務の方は、生活習慣が合わせづらい。、食べ物の好き嫌いも重視した。私の健康にも影響が出るから
  もっとも多く引っかかるのは趣味について。趣味に熱心すぎる方については、正直ついていける自信がない
  元旦那のラーメン愛、それに納豆味噌汁を思い出してしまう事もだが、元旦那よりも熱量が溢れている趣味をお持ちの方もいる
  スポーツ観戦、アニメ好き、元旦那同様のラーメンマニア。悪いとは言わないが、私はとても受け入れられなかった

〇小さい会議室
  職場は相変わらず女性が多い。まったく男性がいない訳ではないけど、同じ職場の人と再婚したら、なんだか仕事がぎこちなくなる
  年齢的に中途半端な私。とてもじゃないけど、誰か紹介してよなんて事は言えない
  通勤途中も含めて、仕事を通じて出逢いを探すのは困難そうだ。それでも通勤時のアンテナは立てていたけど

〇綺麗なリビング
  マユちゃんからは時々、同年代独身男性の情報が入ってくる
  SNSでのやりとり。だいたい最初の方の文章には、「そんなにお勧めではないんだけど一応ね」という言葉が入っている
  なにせ同年代の独身男性。見た目にお勧めしていない時は、太っていたり、頭の毛が薄かったり
  仕事に難がある人は、自営業がうまくいってなかったり、「いい人なんだけど、転職が多くて」なんて人など
  後は離婚経験者。子供がいる人、いない人。実家で両者と生活している人など
  多分悪い人達ではないんだろうけど、そもそも情報元のマユちゃん自身がお勧めしていない人なので。ちょっと

〇土手
  趣味を通じて・・・だけどジョギング中はとても人に声なんてかけられない。それに私自身、薄い化粧と汗まみれの顔だし
  そんな事の考えから、自転車に乗る機会が増えていった
  ただ、化粧はばっちりだが、人とのすれ違いは一瞬。同じ方向の人についても、並列で走る事はかなりの迷惑
  そのため目的地の方で、出逢いを求めるように設定してみた
  ショッピングモールや、観光地的な場所など
  人は沢山いる。でも一期一会の相手に声をかけるなんて、それは「ナンパ」そのものだ
  やっぱり街コンが一番理にかなっているのだろうか
  邪念まみれのサイクリング。購入して初めて、ついにパンクをしてしまった

〇自転車屋
  次の週末、早速自転車屋さんへ修理に行った
店員さん「スミマセン、パンクの修理はすぐに済みますが、ちょっと混んでるのでお時間を頂きますけど。大丈夫でしょうか」
  確かに普段よりも混んでいた。ただその分色んな人の自転車も見れる
トキメ「いいですよ。たまには色んな自転車を見て楽しんでみます」
  自転車も色々だけど、部品やヘルメット、自転車用の洋服まで、以外と見て楽しめそうな物は多くある
おやっさん「おっ、お嬢ちゃん来てたのか。これやるよ」
  急に現れたおやっさん。そして何故か、筒状のパッケージのポテトチップスをくれた
トキメ「あっ、ありがとうございます」
  なぜか店員さんが笑っていた
店員さん「それ、賞味期限間近なんだよね。親父の奴どっかからそれ、たくさん貰ってきて」
店員さん「賞味期限に気がついたのが今日だから、慌てて色んなお客さんに配ってるんだよね」
  えっそうなの・・・
おやっさん「いいじゃんか、ちょうど今日は混んでるんだし、食いながら待っててもらえよ」
  そういえば、同じポテトチップスを食べてるお客さんがチラホラと

〇自転車屋
  あの男の人も、ポテトチップス食べてる
  あっ、目があった
  おじぎされたから、反射的におじぎを返してしまった
男の人「今修理されている自転車僕のなんです。待たせてしまってスミマセン」
  そういう事か・・・
トキメ「大丈夫ですよ。ポテトチップスも頂きましたし」

〇自転車屋
男の人「パンクですか。パンクは割と運ですよね。僕なんかホチキスの針踏んでパンクした事もありますから」
トキメ「ホチキスの針ですか。そんなの道路に落ちてるんですか。っていうか、そんなものでもパンクしちゃうんですか」
男の人「だから運なんですよ」
  なんだか・・・変な人。つかみどころが無いというか、色々経験豊富そうな感じもして。それでいてあまり主張が無い人
トキメ「私はトキメ。お兄さんのお名前は」
まるた「「まるた」です。まるい性格の太郎っていうのが両親の想いだったらしいんだけど」
まるた「漢字にした時に「丸太」っていうのが格好悪かったようで、ひらがなにしたんだとか。変でしょ」
  変だ。確かに。でも最近出逢った人の中では、一番温かい感じがした

〇水玉2
トキメ「あのーお友達になってくれませんか」
まるた「はい・・・でも今日はお互い自転車の修理ですから、また今度改めてお会いした方が良いですよね」
トキメ「ありがとうございます」
  思わずおもいっきり頭を下げてしまった。私の運命の人かもしれないと思うと、途端に顔も直視出来なくなってしまっていた

〇自転車屋
  連絡先の交換をすると、割と早々にまるたさんは店員さんに呼ばれた。修理が終わったのだ
  もしかしたら連絡先の交換が出来た事は、ギリギリなタイミングだったのかもしれない
  その後の私は再びポテトチップスを食べながら、自転車用品を見て回っていたが、頭の中は「まるた」さんの事でいっぱいだった
  久しぶりにドキドキしていた。街コンの事なども思い出しながら、今日の出逢いの味わいを、より楽しんでいた
  修理が終わった。パンクの原因は分からなかったが、穴が開いていた事は確かだった
  私は勝手に、パンクの原因は運命の演出だと思い始めていた

〇テーブル席
  まるたさんと連絡を取り合い、後日ランチをする事になった
  喫茶店でのランチ。お互いハンバーグをメインとしたセットメニューを注文した
  些細な雑談をしていると、サラダとスープが運ばれてきた。それから約10分後、ライスとプレートが運ばれてきた
  プレートの中にはデミグラスソースのかかったハンバーグと、ポテトサラダ、人参のグラッセ、インゲンが乗っかっていた
  まるたさんはポテトサラダをフォークですくって食べると、軽くにんまりとした
まるた「僕はハンバーグが大好きなんだ。それにポテトサラダも。2つとも乗っかっていると、なんだか幸せなんだよね」
  ちょっと子供っぽく見えるところも、可愛く見えた
  次に人参のグラッセをフォークで刺して、持ち上げて軽く眺めてから口にした
まるた「小さい頃、人参のグラッセは苦手だったんだけどね・・・でもある時思ったんだ」
まるた「好きなものを食べる時に苦手な食べものがあったのなら、それは好きな食べ物が美味しくなるためのスパイスなんだって」
まるた「今では人参のグラッセも大好きだけどね」

〇幻想
  数ヶ月後、私は3つ年下の「まるた」さんと再婚をした
  彼を好きになったのは、人参のグラッセの話から
  元旦那は分厚いチャーシューのような人だった。魅力的だけど一緒に居続けると疲れてしまう
  我慢しやすい私だから。苦手な人参のグラッセに優しさを見せた、まるたさんに惚れてしまったのだ
  さぁ、私の2つ目の物語の幕開けだ

成分キーワード

ページTOPへ