めずらしい客

阿楽溟介

めずらしい客(脚本)

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〇シックなバー
  これは今から数年前の
  とあるバーでの出来事です
  カウンター席には男性客が一人──
男(・・・)
???「ねえ、明日が何の日か分かってるの? 大事な日なんだからね!」
???「誰に言っとるんじゃ君は そんなことは私が一番よく分かっとる」
男(・・・)
マスター(・・・)
マスター「お客さん、盗み聞きは感心しませんな」
男「なな、何を言うんだ 人聞きの悪い・・・」
マスター「珍しいVIPルームの先客ですからな」
マスター「探偵のあなたなら、姿の見えないお客さんが何者なのか気になることでしょう」
男「分かってるじゃねーか」
男「若い女とジイさんの二人組のようだな」
マスター「相変わらずの地獄耳ですな」
マスター「しかし見過ごせませんな 人にはプライバシーというものが──」
男「固いこと言うなって」
男「マスターにもゆずれない性分があるだろう?」
男「例えば店内のエアコンの温度!」
男「マスターはサーファーだから暑いの平気かもしれないが」
男「俺には暑過ぎる!」
男「もっと設定温度を下げてくれてもいいだろう」
マスター「あいにく私は冷え性でしてな」
男「そうかい 冷え性なら仕方がねーな」
男「そして俺は探偵だからな 盗み聞きするのも仕方がねーよな」
マスター「何を無茶苦茶な・・・」
男「なあ頼むぜ 前にも言ったけど、俺ヘコんでんだよ」
男「あさっての夜、どこにも行けなくなっちまってさ」
男「マジで、今年に限ってどうして・・・」
男「だから今夜くらい楽しんでいいだろう?」
マスター「そういえば、ずいぶん前からそのことでボヤいてましたな」
マスター「はあ・・・仕方ありませんな どうぞご勝手に」
男「サンキュー、マスター!」
男(・・・よし 会話だけで職業を当ててやるぜ)
???「明日の予定、ちゃんと頭に叩き込んでるでしょうね」
???「だから誰に言っておるんじゃ君は」
男(よし、イメージが湧いてきたぜ・・・)
男(うん・・・)
男(こんな感じか)
男(スケジュールを気にしてるな)
???「明日の天気は穏やかみたいだけど」
???「天気など気にしても仕方あるまい」
???「雨が降ろうが槍が降ろうが、明日しかないのじゃから」
男(中止できない大事な仕事・・・)
???「試運転して良かったわ」
???「少しだけ、ブレーキが利き過ぎてる気がするの」
???「ふーむ 私は気にならんかったが、君が言うならそうなのじゃろう」
???「明日に向けて、少し調整しよう」
男(試運転にブレーキ・・・)
男(レーサーと整備士か! イメージ変わるぜ!)
男(きっと明日デカいレースが──)
男(──ん? 何か妙なにおいが)
男「マスター、何かにおわないか? 犬とか猫とか、そういったにおいだ」
マスター「・・・はて? 私は何も感じませんが」
男(何かにおうんだがな・・・まあいいか)
男「なあマスター 奥の客の会話、気になるだろう?」
マスター「いいえまったく」
マスター「VIPルームの会話が聞こえるはずもありませんし」
マスター「それにあの方々のお仕事も直接お聞きしましたからな」
男「なんだ、そうだったのか 彼らは仕事の関係でここへ?」
マスター「いえいえ 当店の特製フードの評判を聞きつけたとのことで」
マスター「お酒はそっちのけで食べてばかりですな」
男(まあ、確かに酒は・・・)
男「明日のためにも、二日酔いになるわけにはいかねーよな」
マスター「おや、彼らの職業がお分かりですか?」
男「ああ レーサーと整備士なんだろう?」
マスター「は? レーサーと・・・?」
男(違うのか!?)
男「い、いやあ・・・ハッハッハ! さっきのは忘れてくれ!」
マスター「フフ・・・ かしこまりました」
男(・・・落ち着け名探偵!)
男(客の会話をよく聞くんだ)
???「メンテナンスは私に任せておけ 君らも体調は万全じゃろうな?」
???「大丈夫よ 毎年、明日のために調整してるんだから」
???「私たちの足を信じてちょうだい」
男(毎年? 「私たち」ってことは、チーム戦なのか?)
男(マシンメンテナンスが必要で、女たちが走る?)
男「──ってそれ、レースの話にしか聞こえねーぞ!!」
???「さて、そろそろ出るかの」
???「そうね もう一度ルートを確認したいし」
男(くっ・・・もう帰るのか)
男(一体彼らは何者なんだ!)
マスター「どうしましたお客さん 目に接着剤でも入りましたか?」
男「ほ、ほっといてくれ 俺は耳だけで推理を・・・」
???「絶品料理じゃったよ ありがとうマスター」
???「ごちそうさま!」
マスター「またのお越しを」
男(なんだ? 女が二人!?)
  ──そして扉の閉まる音
マスター「どうかされましたか?」
男「いや、背中越しに聞いた足音が変でよ・・・」
男「なぜか女の足音が二人分──」
男「──そうか!」
男「悪いマスター、すぐ戻るぜ!」

〇幻想空間
  男は慌てて店を出て、通りを見渡しました
  客の姿はもう見当たりません
  雪が降っていました
  男は身震いをして店内へ戻りました

〇シックなバー
マスター「お気付きのようですね」
男「ようやくな あの「におい」は勘違いじゃなかったんだ」
男「女のほうは四本足の動物だった」
男「客の正体は、サンタクロースとトナカイだったんだな」
マスター「ご名答」
男「明日はクリスマスイブ・・・明日の夜が彼らには大事ってことになる」
男「ちっ・・・サインもらいたかったぜ」
男「しかし、ソリを引くトナカイってのはメスなのか?」
マスター「オスの角は冬には抜け落ちますからな 冬に角のあるトナカイはメスですな」
男「へー 一つ勉強になったぜ」
男「さて、俺もそろそろ帰るとするか」
男「よっと」
マスター「しかし、珍しい年もあったものです」
男「まったくだぜ」
男「2015年・・・ 今年のことは忘れられそうにない」
マスター「クリスマスに満月とは・・・ お客さんも大変ですなあ」
男「まあ、仕方ないさ」
男「みんなのクリスマスをぶち壊したくはないし」
男「サンタさんたちの声も聞いちまったからな」
男「あさっての夜は大人しくしているさ」
  狼男は晴れやかに笑うと、バーを後にしました

コメント

  • いろんな珍しいお客さんが大集合なバーですね。それにしても会話だけで推理とは意外に難易度高めで、でも答えをきいたら納得できました。男の耳がやたらよかったのも謎でしたがそういうことだったんですね。こちらも最後に謎がとけてスッキリ。

  • おお〜。最後の一文まで気がきいていて…すみずまで餡の詰まった鯛焼きのようで…(陳腐ですみません)満足感がありました。日程がトリック的に組み込まれているというのは面白いですね。オリジナリティを感じます。この日に生まれた子がいたら、いわば狼男に愛された子どもですね。

  • サンタクロースとトナカイがVIPルームに居て、お客の探偵が狼男だなんて、発想がとても斬新で面白かったです。それでは、マスターの正体は何でしょうか?

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