お前は消火器と言われたが・・

Kazunari Sakai

御礼(脚本)

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〇空
  人は誤解したまま人生の転機を向かえる事もある。

〇オフィスビル
  エ―ス出版社。
  この出版社に、会社や上司と折り合わない一人のジャ―ナリストがいる。
  そして彼は・・・
  本日がこの出版社での
  最後の出社だ。

〇個別オフィス
  エ―ス出版社部長室。
  デスクワ―クをしている男性が、この出版社のやり手部長、近藤啓介だ。
  
  (ドアからノックする音)
近藤啓介「どうぞ」
  ドアが開き、30代男性が入って来る。
  彼は平田隼人。
  政治記事を得意分野とするジャ―ナリストだ。
近藤啓介「今日までだったな。気持ちの整理は出来たか?」
平田隼人「はい、長い間お世話になりました」
近藤啓介「アイエス出版なら君のセンスを必ず生かせるはずだ。 期待してるよ」
平田隼人「本当にそう思っていますか? 向こうでも自分のポリシーを曲げるつもりは無いですけどね」
近藤啓介「ハァ」
  平田の横柄な態度に
  近藤は深いため息は吐く
近藤啓介「君の目を見れば私は相当嫌われているようだな」
近藤啓介「誤解がないように言っておくが、君がそのポリシーを変えない以上、君の記事はここで使えない・・・理解出来ないか?」
平田隼人「理解するのは無理ですね。 まあ、どこへ行っても自分が必要とされるまで待つだけですけど」
近藤啓介「なあ平田」
近藤啓介「世の中にはいつか必要になるかもしれないが、そのまま使われず終わるものも数多くある」
近藤啓介「例えばあの消火器みたいに」
  近藤が見つめる部屋の片隅に消火器がある。
近藤啓介「一流のジャ―ナリストを目指すなら、いつまでも消火器ではダメだと思うがな」
近藤啓介「アイエス出版では君の考えが変わる事を祈りたいね」
平田隼人「ご忠告ありがとうございます。ではこれで」

〇オフィスビル
平田隼人「消火器── 最後までバカにしてるよな近藤のヤツ」

〇中規模マンション
  その夜。
  平田の住むマンション。

〇シックなリビング
  ソファーに座り、テレビ画面を無表情で見つめる平田。
  ドアが開き妻の裕子が入って来る。
平田裕子「まだ寝ないの? 初日の遅刻は絶対ダメだからね」
平田隼人「・・・」
  考え込む平田隼人
平田裕子「いつまで気にしてるのよ」
平田隼人「えっ?」
平田裕子「近藤さんが紹介してくれた大手の出版社でしょ・・・ 信じてあげれば」
平田隼人「聞き分けの悪い部下を排除したいから 追い出したんだよ」
平田隼人「最後は消火器って命名されたよ」
平田裕子「消火器なら真っ赤に染まって可愛いじゃないの」
平田隼人「バカ言うなよ」
平田裕子「誰に何を言われようが、貴方は突っ走ればいいのよ。私が応援するから」
平田隼人「君は相変わらずプラス思考だよな。 分かったよ。頑張ってみます」
平田裕子「それと・・・ 前から思ってたけど・・・」
平田隼人「何だよ?」
平田裕子「近藤さんと貴方、案外似た者同士かもよ」
平田隼人「冗談はよせ」

〇空
  翌朝

〇大企業のオフィスビル
  アイエス出版社。

〇異世界のオフィスフロア
平田隼人「いきなり連載ですか?」
山田雄二「ああ、腐敗した政治について鋭く切り込んだ記事を期待している。次号から掲載だから遅れるなよ」
平田隼人「本当に私でいいのですか?」
山田雄二「何だよ、自信無いのか? 近藤から聞いている人材とは思えないな」
平田隼人「えっ? 近藤部長とお知り合いですか?」
山田雄二「ああ。 アイツは元々ここのジャ―ナリストで俺はその時の同期」
山田雄二「当時の部長と仕事が噛み合わなくて、ここからエ―ス出版に移ったからな」
平田隼人「知りませんでした。でも何故近藤部長は私をここに?」
  山田は机の引き出しから用紙を取り出し平田に渡す。
山田雄二「それ、君が書いた記事だろ。 近藤がどうしても読んでくれって、ここの社長に直談判に来てさ」
平田隼人「ここの社長に?」
山田雄二「まあ、当時近藤と仕事が噛み合わなかった部長が今ここの社長だけどね」
平田隼人「えっ?」
山田雄二「社長も近藤の推薦なら是非ともここでと、 即採用が決まったよ だから俺も君にはむちゃくちゃ興味があるけどね」
  自分を恥ずかしく思う
  自分を一番理解してくれた人に気づかないとは・・・
平田隼人「俺、 誤解してました。 最低な野郎ですね。 近藤部長へ謝りに行かないと・・・」
山田雄二「いやいや気にするな、君がここで活躍をする。それが一番の恩返しだから。期待してるぜ」
山田雄二「白木君。ちょっと来て」
  白木真理、山田に近づく
白木真理「何でしょうか部長?」
山田雄二「彼がこの前教えた君の上司になる平田君だ」
白木真理「白木真理です。私も政治部門のジャ―ナリストを目指してますので、ご指導宜しくお願いします」
平田隼人「平田隼人です。こちらこそ宜しく」
山田雄二「白木君、早速だが平田君に各フロアーの説明をしてやってくれ。トイレの場所も分からないでは困るしな。ハハハ」
白木真理「了解しました。それではご案内しますね」

〇行政施設の廊下
  会社の通路を平田と白木が歩く

〇行政施設の廊下
白木真理「平田さん、ここに来て良かったと思いますよ」
平田隼人「えっ?」
白木真理「平田さんの書いた記事を拝見しましたが、あの内容の記事はここで必ず目を引くはずです」
  平田、置かれた消火器前で立ち止まる
白木真理「どうかされましたか?」
平田隼人「いや、何でもないよ」
白木真理「変わってますね、平田さん」
平田隼人「んっ?」
白木真理「私、消火器見て笑う人初めて見ました」
平田隼人「ある人の顔が浮かんでね」
白木真理「あっ、分かった!」
白木真理「その人すぐに顔が真っ赤に染まる照れ屋さんでしょ」
平田隼人「ハハハ」
平田隼人「白木さんの発想は、僕の妻と同じだね」
白木真理「・・・」
  平田、消火器にお辞儀する
  白木、不思議そうな表情で平田を見つめる
平田隼人「引き留めてごめんなさい。では行きますか」
白木真理「はい」
  人は案外
  誤解したまま人と接しているのかもしれない
  何かの機会でその誤解がとければ
  違った道が開くかもしれない
  おしまい

コメント

  • 物語のキーアイテムである消火器の使い方が絶妙で感心しきり。いつかという時を待って、そのいつかが来ないまま終わる人生を消火器に例えるとは…。多くの人がハッとさせられる真理ですね。「消火器→顔が赤い」と発想する女性陣もあるあるで面白い。

  • その出版社によって色が違うというか、好まれる記事は違うんですよね。
    彼にとっては新しい会社が合ってるのかもしれませんね。

  • 私も苦手な上司がいました。いつも叱られてばかりで、他の同期には求められない企画書の提出を、毎回必要以上に求められ、とても厳しかったし理不尽だと感じていたけれど、結果その上司のおかげで、私は同期よりもはやく成長することができました。ただ優しいだけが愛情でなく、近藤さんのように厳しさの中の愛情ってありますね。

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