読切(脚本)
〇音楽スタジオ
とある地方の音楽スタジオ
ちさと「よしっ! これで今日の練習は終わりだね!」
りん「つ、疲れたぁ〜。 練習長すぎるよ・・・」
ちさと「まだ4時間しか練習してないよ?」
りん「『もう』4時間だよぅ! 私、お腹減った・・・」
さやか「そろそろ夜の9時だもんね。 みんなでジョンソンでも行く?」
あかり「いいですわね! 賛成ですわ!」
しえる「私、ハンバーグ食べたいです〜!」
〇ファミリーレストランの店内
某ファミリーレストラン
しえる「う〜ん・・・美味しい! 幸せ〜」
りん「ドラムはエネルギーたくさん使うもんねぇ。 ほら、いっぱいお食べ!」
あかり「それを言ったら、ボーカルのさやかさんもですわね!」
さやか(・・・・・・! (今、口の中がいっぱいで話せない!))
ちさと「私のパフェも来たよ〜! 練習の後はこれに限るよねっ」
私たちは色んな偶然が重なって出会い、
2年前にひとつのバンドを結成した。
バンド名は『エターナルズ』。
いつかプロになって、このメンバーでずっと好きな音楽が続けられるように、と。
そんな願いを込めてつけた名前だ。
下は中学2年生から上は高校3年生まで。
学校や学年はバラバラだけど、私たちはみんな同じ気持ちで音楽をやっている。
『絶対プロになる!』っていう強い気持ち。
さやか「明後日からフェスが始まるけど、 見たいバンド決まった?」
りん「私、スターステージの『湘南ポメラニアン』が見たいっ!!」
ちさと「そのバンド、聞いたことないなぁ・・・」
さやか「最近、有名になってきたバンドだよね」
ちさと「私、高校生バンドの『ジェリービーンズ』 聴いてみたいなぁ〜!」
さやか「私も! すっごく可愛いんだよね!」
あかり「すこし嫉妬してしまいますわね。 同じ高校生なのに」
しえる「来年は、私たちも出られるよう頑張りましょうね!」
〇通学路
夜の住宅街
りん「じゃあ、また明日! 練習でねっ!」
さやか「また連絡するねっ!」
明日はフェスでどのバンドを見に行くか、とか
スケジュールを決めたり、持ち物を決めたり
色々と忙しいんだろうな・・・
そんな楽しい予感がした。
〇教室
りん「ほぁ~・・・ フェスはついに明日だよ、さんちゃん!」
よつば「私のあだ名さぁ、どっちかっていうと 『よんちゃん』だけどね」
りん「名字の『三浦』からつけたつもりだったんよ・・・わかりにくかった!?」
よつば「まぁ、いーけど!」
よつば「ってか、聞いた?『ジェリービーンズ』、 フェスの出演キャンセルらしいよ!」
りん「ええっ!? そ、そんなことある!?」
ちーちゃんとさやっちが楽しみにしてたバンドだ。
私も楽しみにしてたんだけどな・・・
りん「理由!! なんでなん!?」
よつば「よくわかんないけど、メンバーの体調不良みたい」
りん「ありゃりゃ。 みんなに連絡せな・・・」
よつば「次の授業、体育だよ!! ほら、移動移動〜」
りん「あっ、ちょっ・・・!!」
〇音楽スタジオ
夜のスタジオは・・・
お通夜みたいな雰囲気だった。
さやか「残念だね・・・泣けちゃうよ」
ちさと「うっ・・・泣かないで、さやかさん」
さやか「ちさとちゃんも泣いてるよ・・・」
しえる「お二人とも、すごく好きなバンドだったんですね・・・」
りん「体調不良じゃ、仕方ない気もするけど・・・」
しえる「あかりさんは、どのバンド見たいんですか?」
あかり「えっ? わ、私は・・・」
あかり「『ジェット・エクストリーム・スーパーノヴァ』ですわ」
しえる「おおっ・・・なんかゴリゴリのやつ 私、ちょっと興味あります!」
しえる「一緒に見に行きましょうよ!」
明日からのフェスの話で持ちきりだった私たち。
そのとき、あかりさんの電話が鳴った。
あかり「もしもし。・・・はい」
あかり「わかりました。今からですのね」
りん「どうかしたんですか?」
あかり「いつもお世話になっているライブハウスからでして・・・」
あかり「人手が足りないので、今から手伝いに来て欲しいんですって」
りん「こんな時間から?」
もう夜の9時だ。
いったい何があったんだろう?
さやか「とりあえず、行ってみよっか? みんな、時間は大丈夫?」
ちさと「もちろん!」
りん「お世話になってるしね。 じゃ、レッツゴー!」
〇ライブハウスのステージ
オーナー「本当にありがとう! 助かったよ」
オーナー「ごめんなさいね。急な機材変更で」
さやか「いつもライブで使わせてもらってますから!」
りん「お世話になってまぁす!」
元気よく挨拶すると、オーナーはにっこりと笑って言った。
オーナー「・・・合格じゃない? えりちゃん」
誰かに話しかける。
奥から出てきたのは、私たちにとっても意外な人だった。
さやか「『ジェリービーンズ』のえりさんっ!!?」
さやか「ど、どうしてここに・・・」
えり「ふふっ。 明日、ここでライブする予定だったから」
えり「メンバーの体調が悪くて、出られなくなっちゃったけどね」
えり「で、代わりに演奏してくれる人を探してたわけ!」
ちさと「・・・ど、どうして私たちにっ!?」
えり「前にここのライブハウスで演奏してたの、 見たことがあったから」
えり「でも、あなたたちだけに声をかけたわけじゃないのよ」
オーナー「色んな人に声をかけたの。 でも、みんなタイミングが悪くてね」
えり「『忙しい』って断った人もいた。 来てくれたのはあなたたちだけ」
オーナー「優しくて、ラッキーで、 ドキドキさせてくれる子たちがいいねって話してたのよ!」
えり「そういうこと!」
えり「だから・・・ 良かったら、演奏聴かせてくれないかな?」
私たちは顔を見合わせた。
『こんなことって、ある!?』
こういう偶然が重なること・・・
なんて言うんだっけ?
さやか「もちろん! ・・・喜んで!」
あかり「みなさん、準備はいいかしら?」
ちさと「いつでも、バッチリだよっ!」
しえる「私たちは、プロになるんですから!」
りん「いつだって、『奇跡』を起こしていくよ!」
〇ライブハウスのステージ
これは奇跡というよい彼女達の想いが勝ち取った勝利ですね! 自分達の夢に向かって精進を重ね、他のバンドにも興味と羨望のまなざしを持つことのできる彼女達は、これをステップにどんどん羽ばたいていってくれる気がします。小さくて、でもスケールの大きさを感じさせられたストーリーでした。
偶然から繋がる色んな縁っていいですよね。
彼女たちが出会ったのも偶然で、ライブハウスへ行くことになったのも偶然で。
まっすぐな彼女たちの思いが伝わったのかな、とも思いました。
青春ど真ん中の空気感が伝わってきて気持ちよく読めました。みんな真っ直ぐで感情や熱意がストレートに湧き出ている感じですね。