喜寿 みつけた(脚本)
〇屋敷の門
色葉家
〇古風な和室
みさご「ひとよ、起きて」
みさご「あんた8時に寝て──11時間も寝てるわよ」
ひとよ「じゃ、キリよくあと1時間」
みさご「起きてるじゃない」
ひとよ「今日は活躍するぞ〜 あり? 何だったっけ」
みさご「今日も──誕生日」
〇古いアパートの居間
つとむ「俺がやったのか?」
つとむ「二日酔いに寝不足──スピーチ考えてねぇ」
みさご「お父さんまたこんなに作って!」
みさご「ホラ食べちゃって。忙しいわよ!──あっ美味。これも。今日出しちゃおうかしら。よしいただき」
ひとよ「朝ご飯なくなった」
つとむ「実は隠してたのよ」
ひとよ「エンゲル係数に喝を入れて、いただきます」
つとむ「食費と家賃に気をつけろってスピーチしよう。いやそんな歳じゃないか」
つとむ「でかい家だけあったって損だぞ。溜まり場になる。昔、花一が野球部の合宿に──」
ひとよ「行かなくていいの?」
つとむ「受付も頼まれてんだった!」
けいな「めでたし」
ひとよ「婆ちゃん! お誕生日おめでとう」
けいな「ありがと、今日はいずれ祝日になる。そんな気がするの」
みさご「お義母さんも早く食べてね、作りすぎがまだ隠してあるでしょ?」
ひとよ「鋭い」
ピンポーン
けいな「我が誕生日会に、ついに徹夜組が」
〇広い玄関
はないち「晴れそうだね〜」
ひとよ「花にい! 早いね」
はないち「うーん。喧嘩しちゃって」
みさご「和子ちゃんと?」
はないち「この前の立て篭もり事件を解決した件で追い出された」
みさご「手伝いはいいから仲直りしてきなさい」
はないち「恋二がいればね」
はないち「それで夜通し声をかけたけど、寝ちゃっててドアが開くことはなかったんだ」
みさご「その不気味なタフさ、治しなさい」
〇広い厨房
みさご「あー忙し」
はないち「希三起こす?」
ひとよ「はい卵 お姉はね、おやつの時間に朝ご飯食べるんだよ」
みさご「ついでに割って混ぜて」
ひとよ「泡立て器探さなきゃ。台所なんでこんなに大きいの」
みさご「お爺ちゃんがお店始めてすぐ辞めたのよ。お父さんの料理癖も台所のせいかも」
はないち「お客さん来るのお昼からだよね。最後の掃除するよ」
みさご「お願い。私がやると穴開くまで続けちゃう」
みさご「卵これだけ!? 花一、買い出しもお願い!」
みさご「ん? ひとよ、どこいった」
〇田舎の一人部屋
のぞみ「4月から社会復帰か 合格はしたけれど──」
のぞみ「落第したらどうしよう。就職落ちたらどうしよう。上司の機嫌取ることになったらどうしよう」
ひとよ「お姉、おね──」
ひとよ「わっ」
のぞみ「そろそろ来ると思った」
ひとよ「たまの早起きにやることがそれか!」
ひとよ「やめろ」
のぞみ「ごめん。嫌われたらどうしよう」
ひとよ「嫌わないよ」
ひとよ「ね、すまほ貸して」
〇広い厨房
みさご「ひとよ! サボんないで堂々と休みなさい」
ひとよ「ごめんなさーい」
みさご「突っ走るクセがあるわね。誰に似たのか」
みさご「色葉家全員か。私含め」
みさご「笑ってる暇ないわよ、いよいよ始まるわ」
〇広い和室
けいなの同級生「ベージュのマフラー。米寿だけに」
けいな「まだ喜寿。同級生でしょ。その紫のお着物よこしなさい」
けいなの同級生「置き物といえばあんたの本。もっといいのくださる?」
けいな「真心の詩集、傑作よ国宝よ」
けいなの同級生「良いのは表紙の刺繍だけ。大体、還暦で心の詩集配ったのに」
けいな「刺繍は孫のデザインよ。最高よ。でも詩も最高よ読めよ」
けいなの同級生「孫が4人もいていつでも会えるなんて幸せ者!」
けいなの同級生「ぎゃっ、今回の詩もひどい!」
かりんとう
孫がフンと勘違い
あーおかし
お焼香
紹興酒楽しみでこぼす
いい香り
けいなの同級生「そぐわないわよお祝いに。あんたの真心クソ不謹慎」
元生徒「色葉先生お元気そうで」
けいな「人間将棋の佐藤くん。お久しぶり」
元生徒「51年卒の山本です」
けいな「ああ人間競馬の」
けいなの同級生「次々来るわね詩才も人格も破綻してるのに」
けいな「色んな人の恩師だもの」
〇広い玄関
つとむ「たらいま」
みさご「ちょうどいいとこに。忙しくて──どなた?」
つとむの同級生「三次会だって聞かなくて──」
みさご「あらーどうぞごゆっくり」
つとむ「腕が鳴るぜ」
出馬打診「突然に失礼いたします」
みさご「ええほんと ──ほんとおめでたいですねえ」
出馬打診「色葉美沙五さん、ぜひ我が党から知事選に立候補を!」
みさご「は?」
出馬打診「地域住民にアンケート調査しました」
出馬打診「求める人物像欄で90%に名指しされていたのがあなたです」
みさご「狂った地域ねえそんな所の首長になりたくありません」
出馬打診「では市長」
みさご「お断り」
出馬打診「市議会議員」
みさご「あのね、当選すればいいもんじゃない。いい政策を考えて自分がやるべきと思ったら立候補します」
みさご「人のために何をできるか、自分で必死に考えるのが大事よ」
出馬打診「ではいつか立候補いただける!?」
みさご「聞け」
編集者「遅くなりましたBee出版の者です」
みさご「出版?」
編集者「色葉恵七先生と約束が」
みさご「ど、どうぞ」
「お邪魔します」
〇広い和室
つとむの妹「花ちゃん立派になって〜恋ちゃんもきっと元気ね」
はないち「希三が閉じ籠ったのは、恋二のせいだと思ってます」
つとむの妹「──ごめん」
ひとよ「婆ちゃん大変! 編集の人が」
けいな「忘れてた。でもまだまだお客さんいるわ」
はないち「僕がここ繋ごうか?」
けいな「ダメよ祝福は私のもの」
はないち「え〜どうしよう」
〇田舎の一人部屋
ひとよ「お姉起きてる?」
みさご「予期せぬ客がいっぱいで大変なのよ!」
のぞみ「何したらいいの。失敗したらどうしよう」
のぞみ「わっ」
ひとよ「似てる」
みさご「ほんとに大丈夫?」
ひとよ「コスプレ好きだよね? お姉にしかできないよ」
みさご「無理しなくていいのよ」
のぞみ「何やるの」
ひとよ「影武者」
〇古めかしい和室
のぞみ変装中「おおおお待たせしました」
編集者「なんでも橘先生の恩師だとか」
のぞみ変装中(教え子のコネ使ったんだ)
ひとよ「お茶です。お菓子です」
編集者「さ、刺身? お茶請けの、アジ──」
のぞみ変装中「あわわわ失敗した。きっともうダメなんだあ」
編集者「いえ絶品です」
編集者「さっきの、お孫さんですか?」
のぞみ変装中「いも──孫です!」
編集者「──聞いていた印象と随分違いますね。滅茶苦茶だから関わるななんて言われたんですが」
編集者「詩集の方はと──」
だるま
目がなかったので書いてあげる
まんまるだ
クレジットカード
全部切り
ジットしててクレんカと泣かれる
編集者「──いい刺繍ですね」
のぞみ変装中「こんな詩が!?」
編集者「表紙の」
のぞみ変装中「あ、それほどでも」
編集者「これも先生が?」
のぞみ変装中「はい私が。あっ」
編集者「刺繍でお仕事しましょう! 詩の方は、世に出してはいけない!」
のぞみ変装中「はい。炎上したらどうしよう」
編集者「ではそういうことで!」
のぞみ変装中「ん?」
のぞみ変装中「大失敗」
〇屋敷の大広間
「バンザーイ! バンザーイ!」
出馬打診「当確確実!」
つとむの同級生「結婚はいいぞ!」
はないち「僕はなぜ1人で2人も胴上げしてる?」
ひとよ「お料理!」
はないち「お菓子ばっかりだけど」
ひとよ「痛恨のミス!」
のぞみ変装中「ダメだったどうしよう」
はないち「史上初ネガティブなお婆ちゃん!?」
ひとよ「お姉だよ」
はないち「相変わらず器用」
のぞみ変装中「お婆ちゃん名義で刺繍やることになった。迷惑かけたらどうしよう」
はないち「希三には負担が大きいね?」
ひとよ「ご、ごめん、あたしのせいで──」
はないち「ひとよはいつも頑張ってるよ」
〇広い和室
みさご「ようやく片付いた」
ひとよ「母さーん。あたしのせいでお姉が」
みさご「突っ走るなって言ったのに」
みさご「何とかなるわ。どうやってもお婆ちゃんほど傍若無人になれないもの」
のぞみ「春から大学だし。外に出て頑張るきっかけになった」
みさご「大学!? 受かっ、ていうか受けてたの? 来年度も部屋にいるとばかり」
ひとよ「ほらあ」
みさご「何よ泣きっぱなしで」
ひとよ「お姉は刺繍プレゼントするし勉強がんばった、花兄は働くし」
ひとよ「あたしだけ婆ちゃんに何にもしてあげられない」
みさご「気にしないわよ、聞いてみな。お婆ちゃんはあんた達がいるだけで──」
玄関「おーい!」
「来た?」
〇広い玄関
たいぱち「帰ったぞ!」
はないち「今日だったんだ退院。片付けで忙しいから代わるね」
たいぱち「電話みたいな対応」
ひとよ「なんだ爺ちゃんか。だって健康なのに無理やり入院するんだもん」
たいぱち「うわっ」
のぞみ「帰ってこなかったらどうしようかと」
たいぱち「心配してくれるのは希三だけじゃ〜」
玄関の外「・・・」
のぞみ「ひとよ! お婆ちゃんを!」
けいな「あら泰八さん。おかえり」
たいぱち「最高のプレゼントじゃろ」
ひとよ「入っていいよー!」
れんじ「久しぶり──」
けいな「恋二!?」
れんじ「ひとよがさ、婆さんのために来いってしつこくて」
ひとよ「恋兄に会わせてあげようと思って お姉も手伝ってくれたんだよ」
けいな「ありがとう。みんな呼んできて」
れんじ「いやっそれは」
のぞみ「喧嘩になったらどうしよう」
たいぱち「説得してやる。ワシが婿に来た時なんてもっとヤバかった」
れんじ「爺さんはいいや。婿入りしてまず土地広げたらそりゃキレられるって」
ひとよ「呼んできた!」
みさご「あんたのせいで希三は浪人するしお婆ちゃんはクソポエム書くしお爺ちゃんなんて刑務所入ろうとしたのよ!?」
たいぱち「まだ諦めとらんぞ」
れんじ「半分はオレ関係ないけど、ごめん」
つとむ「ま、よく帰ってきたじゃねえか」
れんじ「怒ってねーの? 二度と敷居跨ぐなって」
つとむ「たぶん花一がボコす」
れんじ「なるほど」
〇広い和室
れんじ「大人気ミュージシャンの伴奏で、誕生日と合格と出馬と結婚式と退院? と凱旋祝いの、」
みさご「出馬しない。あと恋二、売れてるフリだけはやめなさい」
れんじ「うれしいひなまつり、行くぜ!」
みさご「そうよ! 今日ひな祭り!」
ひとよ「すっかり忘れてた」
つとむ「今からお雛様出してやる」
ひとよ「どうして〜?」
のぞみ「もう疲れた」
はないち「祝い事を楽しむのが色葉家、ってことになってるから」
たいぱち「ワシが決めた」
けいな「やりましょ! 2人とも、ほんとに頑張ってくれたもの」
みさご「もうひと祝い、ね!」
AI-G3と同様に「なし」さんの書く会話の応酬はキレッキレでクセになります。家族全員明るいのに一人だけ名前に反してネガティブの塊みたいなコスプレのぞみさんがいい味出してますね。刺繍と詩集で、「詩の方は世に出してはいけない」が地味にツボ。毎日お祝い事をする色葉家は別の意味でも「おめでたい」一家ということかな。
人が入れ代わり立ち代わりで、ドタバタわちゃわちゃ、あー昔の田舎はこんな感じだったなーと懐かしく感じてしまいました。人の情と家族愛に溢れたステキな物語ですね。
来客がたくさんで、わちゃわちゃしていたけど、お祝い事がたくさんあったりして、幸せな空間で幸せな1日だったんだなあと思いました😌
子供の名前の頭文字が、はれのひになっているところも、縁起が良さそうで、私もハッピーな気分になりました😆