8本目:大原ヒロトについて(脚本)
〇渋谷の雑踏
人は、大なり小なり悩みを抱えている
〇川に架かる橋
──1月20日
大原 ヒロト(──ここから)
大原 ヒロト(川に飛び込んだら死ねるかな?)
天草 アヤメ「──お兄ちゃん 買ってくれてありがとう!」
天草 アイ「まさかリサイクルショップに 一条さんのグッズがあるなんてな」
天草 アイ「アヤメに見つけてもらうために 置いてあったのかも・・・」
天草 アヤメ「お兄ちゃん どうしたの?」
天草 アイ「えっ?あぁ あの人。 なんか 大丈夫かな?って」
天草 アヤメ「大丈夫って?」
大原 ヒロト「外野がうるさいな」
〇綺麗な一戸建て
〇シックな玄関
ヒロトの父「おい!学校も行かず どこをほっつき歩いていた」
ヒロトの父「位置情報も切って」
ヒロトの母「ママ 心配したのよ」
大原 ヒロト「そんなの 僕の自由だろ」
ヒロトの父「お前・・・警察に補導されて 推薦入試に響いたらどうする」
ヒロトの父「ご近所に顔向けもできないぞ!」
ヒロトの母「そうよ!他のママから 褒めていただいているのに」
ヒロトの母「素行不良で取り消しになったら 恥ずかしくて出歩けないわ」
大原 ヒロト「・・・何だよ。 お父さんもお母さんも」
大原 ヒロト「『推薦』『推薦』ってさぁ!!」
「待ちなさい──って何をするんだ!!」
いつからか 父も母も
”大原ヒロト”より
”自慢の大原ヒロト”を
求めるようになった
「うるさいんだよッ!!」
「ヒロト!! ぐっ 放しなさい!!」
それが嫌で たまらなくて
”大原ヒロト”なんて
『死んでしまえばいい』と
腹の底から思っていた
「ヒロトはこんな子じゃないわ・・・」
ほら
〇白い校舎
──数日後
〇学校の廊下
「大原!」
大原 ヒロト「支倉先生」
支倉 レン「お母さんから聞いたよ。 数日前から寝込んでたんだってな?」
支倉 レン「体調管理はしっかりしておけよ」
大原 ヒロト(僕の事情 知らないのか・・・)
大原 ヒロト「それを言いに来たんですか?」
支倉 レン「あぁ いや。卒業まで2ヶ月だろう?」
支倉 レン「実は後悔しているんだ。 お前に目をかけてやれなくて」
大原 ヒロト「先生・・・」
支倉 レン「お前は”自慢の生徒”だからな!」
支倉 レン「3年間全ての試験で 490点から500点はいないぞ!」
支倉 レン「たいしたもんだ! 俺の息子にも見習ってほしい──」
大原 ヒロト「・・・結局 先生が好きなのも ”自慢の大原ヒロト”なんですね」
”自慢の大原ヒロト”
支倉 レン「なんだって?」
そんなもの消してやる
大原 ヒロト「いえ。失礼します」
〇通学路
──放課後
大原 ヒロト(スマホに遺書は残した。 あとは場所を選ぶだけ・・・)
大原 ヒロト「ここで事故があったのか」
大原 ヒロト「・・・僕が死んだ後」
大原 ヒロト「お父さんもお母さんも後悔して ”大原ヒロト”に花を供えてくれるかな」
大原 ヒロト「・・・ないな。 自分で自分の花 買っとくか」
〇街中の道路
──フローリスト・ハナサカ前
大原 ヒロト(ここにするか)
〇お花屋さん
店長・花咲「──いらっしゃいませ」
謎の男(この青年・・・)
大原 ヒロト「お供えする花が欲しいです」
店長・花咲「どのような場面でのご利用でしょうか?」
大原 ヒロト「どのようなって?」
店長・花咲「例えば お葬式でしたら 供花・花輪・献花と──」
大原 ヒロト「葬式の前に供える」
店長・花咲「でしたら訃報(ふほう)の枕花ですね」
店長・花咲「枕花はアレンジメントになりまして──」
謎の男「・・・花咲さん。 ご遠慮いただきましょう」
大原 ヒロト「なんだよ あんた・・・」
謎の男「あなたから漂っているのですよ」
謎の男「”死臭”がね」
店長・花咲「死臭!?」
謎の男「おおむね ご自身で供花を用意し 現世を去るおつもりでしょう」
謎の男「あなたのような人間は 飽きるほど見ているのでね」
謎の男「分かるのですよ。私には」
店長・花咲「君は・・・ 死ぬおつもりだったのですか?」
大原 ヒロト「あんたらに関係ないだろ・・・」
店長・花咲「なぜ 死を考えたのですか──」
黙れ!
黙れ 黙れ 黙れ!
大原 ヒロト「黙れぇぇぇ!!」
〇おしゃれなリビングダイニング
──7歳の冬
ヒロト「──弱きを助け 強きをくじく!」
ヒロト「正義の味方!キュウセイバー!」
ヒロト「怪人め!この僕がやっつけてやる!」
ヒロトの父「ぐわぁぁぁ〜」
ヒロト「正義は勝つ!」
ヒロトの母「二人とも危ないわよ」
ヒロトの父「おもちゃの剣だし平気さ」
ヒロトの母「ヒロト。宿題は終わってるの?」
ヒロト「・・・まだ」
ヒロトの母「まず宿題が先でしょ?」
ヒロトの父「明日までに終わらせればいいんだ 今じゃなくてもいいだろ?」
ヒロトの母「でも・・・」
ヒロトの父「ヒロト!お母さんが 怪人デモデモダッテに変身した!」
ヒロトの父「キュウセイバーに変身して お母さんを解放してくれ!」
ヒロト「怪人デモデモダッテ! この僕がやっつけてやる!」
ヒロトの母「もぉ〜!怒ったわよ〜!」
あの頃は良かった
父も母も 僕自身を
「”大原ヒロト”という人間を 愛してくれていたから」
〇お花屋さん
大原 ヒロト「・・・」
店長・花咲「これまた派手に壊しましたね」
謎の男「商売道具が・・・」
大原 ヒロト「・・・僕 捕まりますよね」
大原 ヒロト「捕まったら推薦も 取り消しになりますよね」
店長・花咲「”推薦”?」
大原 ヒロト「高校の推薦入試です。 ・・・もう どうでもいいけど」
大原 ヒロト「あの二人 怒るだろうなぁ! 『なんてことしてくれたんだ』って」
大原 ヒロト「『俺たちに恥をかかせて』って」
今の父と母が
愛しているのは
僕の威を借り
称賛を浴びる自分自身
大原 ヒロト「僕は愛されたかっただけなんだ」
大原 ヒロト「昔みたいに」
大原 ヒロト「愛してほしいのに 愛されないなら」
大原 ヒロト「僕なんていらない」
謎の男「なるほど。漂う死臭は これが原因だったのですね」
謎の男「要するに ご両親はあなたを ”飾りか何か”として見ている と」
謎の男「その現状に耐えられず 自ら死を望んだ と」
店長・花咲「・・・」
謎の男「『僕なんていらない』──ですか」
謎の男「でしたらお望み通り ”死”を差し上げましょう」
大原 ヒロト「鎌ッ!?」
大原 ヒロト「嘘だろッ!?」
謎の男「残念ながら 本物です」
謎の男「それはさておき。 言い残すことはありますか?」
謎の男「”仕事”は手短に済ませたいので」
怖い
嫌だ
大原 ヒロト「助けて!僕は死にたくない──」
「なんだ」
「生きたいんじゃないですか──あなた」
〇黒背景
〇お花屋さん
大原 ヒロト(あれ?生きてる・・・?)
謎の男「──花咲さんなら そう動くと思ってましたよ」
店長・花咲「あなたもズラすと思っていました」
大原 ヒロト「なんで僕を守ったんだよ・・・?」
店長・花咲「放っておけなかったからです」
店長・花咲「人として・・・いや 私自身として」
大原 ヒロト「私自身?」
店長・花咲「かつての私も過ちを犯しました。 君のご両親のように」
店長・花咲「君の声は トゲとなり 私の心に深く刺さりました」
店長・花咲「息子の姿と重なって見えたのです」
店長・花咲「悲しいでしょう。苦しいでしょう?」
店長・花咲「・・・とても 寂しいでしょう?」
〇黒背景
僕 寂しいよ
僕を見てよ
「僕はここにいるんだよ」
〇お花屋さん
大原 ヒロト「うぅっ・・・」
謎の男「・・・人間は皆 不完全な生き物」
謎の男「だからこそ対立し 対話し 理解を深めていく必要がある」
謎の男「心と心の対話を」
謎の男「あなたは彼らと対話しましたか?」
謎の男「『どうせ理解しないから』 『無意味だから』と死を利用し」
謎の男「対話を放棄しませんでしたか?」
謎の男「そうならば あなたの親が 愛し方を間違えているように」
謎の男「あなたもまた やり方を間違えている」
店長・花咲「・・・偽善と思われても構いません」
店長・花咲「もし 君がこの世を去ったら ご両親は後悔するでしょう」
店長・花咲「『どこで何を間違えたのか?』 『修復出来たのではないか?』と」
店長・花咲「掛け違えたボタンなら 一つずつ元に戻せます」
〇綺麗な一戸建て
まずは対話してみましょう?
急がず 慌てず 少しずつ──
大原 ヒロト(お父さん お母さん)
〇シックな玄関
「ヒロト」
対話・・・
大原 ヒロト「お父さん お母さん。 少し、聞いてください」
「僕──」
〇街中の道路
──2月26日
フローリスト・ハナサカ前
〇お花屋さん
店長・花咲「一ヶ月前はどうなるかと思いましたが」
店長・花咲「すっかり元通りになって。 さすが あなたの力ですね」
店長・花咲「・・・あの青年。どうなりましたかね」
謎の男「亡くなってはいませんよ」
謎の男「亡くなった場合 ”上”から通達があるはずなので」
店長・花咲「あなたも気にかけていたのですね」
謎の男「まぁ・・・」
店長・花咲「あなたが怒りをあらわにする姿は 初めて見ました」
店長・花咲「まるで”人間”のようで」
謎の男「誰のせいで・・・」
店長・花咲「おぉ 怖い。さて 仕事の時間──」
支倉 レン「──懐かしいな」
支倉 レン「どうも。貴方が 大原が言っていたオーナー・・・」
支倉 レン「──”親父”?」
まさに”トロフィーチャイルド”ですね。。。昔も今も存在する、親の満足感しか生まないアレですね。
今回は、ヒロトくんに対して、フローリスト・ハナサカ内で2人から正論を浴びせ続けるシチュエーションww 頑なな心を力ずくで解す荒療治が奏功ですね!
そして、謎の男さんの正体のヒントも散りばめられていますが、そんな彼の目的が気になります!