幼馴染のようです

危機綺羅

幼馴染のようです(脚本)

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〇幼稚園の教室
  俺には幼馴染がいる
  お互いに両親が忙しいこともあって、出会いは保育園だった
  一目見て、可愛いと思った
  おそらく記憶にある中で、可愛いという表現を初めて使った瞬間だと思う
  それ以来、俺は幼馴染にべったりだった。
  小学生になっても、中学生になっても。高校も一緒の場所を選んだ
  きみさえいれば他になにもいらない。本気でそう思っていた
  なのに──

〇通学路
  この光景はなんなんのだろう

〇幼稚園の教室
  私には幼馴染がいる
  両親が忙しいおかげで、私は彼と出会えた
  こけた頬も細い体も、不思議と好きになれた。安っぽい表現かもしれないが、運命を感じていた
  小学生になっても、中学生になっても、私は彼から離れることがなかった。高校だって一緒になれた
  しかし彼は私との関係を変えようとしない。いつまでも幼馴染のままだった
  だから──

〇学校の屋上
辻浦ユウ「付き合ってくれる? 本当に!?」
  私は彼に危機感を与えた。顔くらいしか知らない男と恋仲になった
  でも、今だけのことだ
  きっと彼は諦めないでいてくれる。だって私と彼は、運命の相手なのだから

〇通学路
宇都宮リクオ「なあ、そいつ誰だよ」
  彼女と歩いていると、突然僕らの行く手を阻むように男が現れた
  見覚えはある。確かクラスメイトだったはずだ
直江ルル「紹介してなかったな。私の恋人だ」
  隣にいるルルが返事をした
  彼女の友人だろうか? 僕と彼女も同じクラスだし、そうであってもおかしくはない
宇都宮リクオ「そうなのか? ユウ」
  彼は僕の名前を知っているらしい。少し申し訳なく思う
  彼は僕の返事を待っているようで、じっと見つめてくる
  僕は肯定代わりに頷いてみせた

〇通学路
  目の前の二人は恋人らしかった
  しかし、脳がその事実を受け入れようとしない
  俺が可愛いと思う人──好きな人は、すでに別の誰かのもの
  そんな事実、受け入れていいはずもなかった
直江ルル「いつ紹介しようかと思っていたんだがな。ちょうど会えて助かったよ」
  助かった? ふざけるな! 俺は──
  俺は、なんだ? 幼馴染?
  そうだ。俺は結局のところ幼馴染でしかない
  その関係で満足していたのだから、誰が恋人に選ばれようと文句は言えない
  自分の馬鹿さ加減に絶望する
  俺はなぜ、大好きな人と恋人になろうとしなかった!?
  今すぐにでも膝をつき、泣きわめきたい気分だった

〇通学路
  彼はショックを受けているようだった
  運命の相手に恋人ができてしまったのだ。きっと計り知れない傷を負っただろう
  私の心も同様に傷んだ
  これで私は、彼にとって汚れたものに等しい存在となったからである
  それでもいい。汚れた私であっても、きっと彼は手を差し伸べてくれる
  今度こそ、自ら運命を手繰り寄せてくれる!
辻浦ユウ「大丈夫? なんだか顔色が悪いけど・・・」
  ユウが彼を心配している
  そうだ、そうやって彼に余裕を見せてやれ。嫉妬させてやってくれ
  その分、彼は燃え上がり、私を熱く抱きしめてくれるだろう!

〇通学路
宇都宮リクオ「大丈夫だ。ただ、少し待っていてくれ」
  彼はもともと血の気の薄い顔色を、さらに青白くさせていた
直江ルル「体調が悪いなら、家に帰った方がいい」
直江ルル「それとも・・・それを押してでも私たちに用があるのか?」
  ルルの言う通りだった。体調不良なのに、そこまでする用とはなんだろうか
  彼はルルと僕が恋人なのを知って、ショックを受けていたようだった
  ──もしかして、彼はルルのことが好きだったのでは?
  だとすれば、このまま待っているのは、まずいのかもしれない
  ルルと彼は友人らしい。まかり間違って、彼の行動が彼女の心を揺らしてしまったら?
  不安になって、僕はルルの手を引いた

〇通学路
辻浦ユウ「体調がよくないなら、早く帰った方がいいよ」
辻浦ユウ「──行こう、ルルさん」
  二人が行ってしまう。ショックで体が上手く動かない。二人を引き止められない
  ダメだ! ようやく分かったんだ。俺はお前とどうなりたいか
  もう遅いかもしれない。それでも、言わなきゃダメなんだ!
  体が動かなくてもいい。せめて、声を
  今の気持ちを、関係を変える言葉を、一言でいい
  息を吸い込んだ。そして──

〇通学路
  好きなんだ!
  ユウに手を引かれ、彼に背中を向けたとき、なによりも渇望してやまなかった言葉が聞こえた
  振り返る。彼が握りこぶしを作りながら、口を開けていた
  間違いなく、彼の言葉だった
  たった一言が私の胸に溶け込んでくる。ようやく、ようやくその言葉が聞けた
  彼が運命を掴んでくれた。私を、自分のものにしようとしてくれた
  返事は決まっている。呆然としている隣の男など、もう必要ない──

〇通学路
直江ルル「──私も、お前が好きだったんだ」
  彼の告白に、ルルは受け入れる返事をした。そして僕の手を振り払う
  こんなの、こんな終わりあんまりだよ
  僕だって君が好きなのに。恋人になったはずなのに
  僕の方が先に告白したんだぞ。僕はルルの恋人なんだぞ!
  それなのに、彼はルルのなんだっていうんだ!?
  怒りのままに彼をにらむ
  ルルが彼に近づいていく。僕との距離が離れていく
  行かないで
  僕の口が開く前に、彼が言葉を続けた──

〇通学路
宇都宮リクオ「ユウ、俺と付き合ってくれ!」
辻浦ユウ「は?」
直江ルル「ん?」

〇通学路
宇都宮リクオ「今更遅いかもしれないけど、俺はお前が好きだ。幼馴染じゃなく、恋人になりたい!」
直江ルル「待て待て待て。言う相手が違うだろう? 私と付き合いたいんだよな?」
宇都宮リクオ「え、ユウの彼女さんだよな? なんで俺があんたと?」
直江ルル「なにを言ってるんだ!? 私たちは幼馴染じゃないか!」
宇都宮リクオ「俺の幼馴染はユウだぞ。なあ、ユウ?」
辻浦ユウ「いやいや、知らない知らない! 僕はきみの名前だって知らないよ!?」
宇都宮リクオ「ははは、なにを言ってるんだよ。俺たち保育園からの仲じゃないか」
辻浦ユウ「怖い怖い怖い! なんでそんなにフランクなの!?」
直江ルル「冗談がきついぞ。保育園からの付き合いといえば、やっぱり私じゃないか」
宇都宮リクオ「同じ保育園なの? 偶然ってのはあるもんだな」
直江ルル「保育園どころか、小学校も中学校も、今だってクラスすら一緒だろう!?」
宇都宮リクオ「──あ、そういえば見たことあるかも! もし本当なら、結構な偶然だな」
辻浦ユウ「えっと・・・二人は知り合いじゃないの?」
直江ルル「運命の相手だ」
宇都宮リクオ「初対面だな」
辻浦ユウ「認識に差があり過ぎるでしょ!」
宇都宮リクオ「ユウもさっきからどうしたんだ? 確かに告白されて驚いただろうけど」
辻浦ユウ「告白っていうか・・・え? 僕? 本当に僕に告白したの?」
宇都宮リクオ「同性からの告白なんて、気持ち悪いか?」
宇都宮リクオ「──そうだよな。今まで単なる幼馴染だったし・・・」
辻浦ユウ「そこ、そこから違う! やっぱり幼馴染じゃないって!」
宇都宮リクオ「保育園のころ、一緒に遊んだだろ?」
宇都宮リクオ「それから今日まで話してないけどさ」
辻浦ユウ「怖い怖い怖い怖い! 恐怖の度合いが一つ上がったよ!」
辻浦ユウ「それでよく幼馴染だって言えたな!?」

〇通学路
辻浦ユウ「・・・ルルさんもさ、運命の相手っていうぐらいだし、この人と深い仲なんだよね?」
宇都宮リクオ「おいおい、他人行儀だな。リクオでいいって」
辻浦ユウ「うるさい! 喋んな!」
直江ルル「深いどころか運命の赤い糸で繋がっている。リクオもそう認識しているはずだ」
宇都宮リクオ「運命の赤い糸とか怖いな・・・ユウ、この人メンヘラじゃないのか?」
辻浦ユウ「僕もちょっとそうかもと思い始めてる」
直江ルル「リクオ! まだすっとぼける気か? お前はずっと私にべったりだったじゃないか!」
直江ルル「小中高と登校から下校まで、アストラル体を常に私の傍に送っていただろう? 負のソウルがつかないよう、私もエーテル体でそれを」
辻浦ユウ「訂正するよ。確実にメンヘラだと思ってる」
宇都宮リクオ「お前の彼女さん、ヤバいな」
宇都宮リクオ「だいたい、俺のアストラル体はユウにべったりだったっていうのに。ユウもしっかり俺のアストラル体をエーテル体で守ってくれて」
辻浦ユウ「うるさい! 喋んな!」
直江ルル「あまりリクオにきつく当たらないでくれ。お前を当て馬にしたことは謝るから」
辻浦ユウ「別にそれが理由じゃ──」
辻浦ユウ「当て馬?」
直江ルル「リクオがなかなか素直にならなかったからな・・・」
直江ルル「嫉妬を煽ろうと、お前と付き合ったんだ」
辻浦ユウ「最悪の事実が判明した!」

〇通学路
辻浦ユウ「整理すると、なんだろ・・・」
宇都宮リクオ「俺はユウと幼馴染、付き合いたい。ルルさんとは初対面」
直江ルル「リクオは私の幼馴染で運命の相手。ユウは当て馬だな」
辻浦ユウ「僕はリクオ君と初対面で、告白された。さらにルルさんにフラれた」
辻浦ユウ「・・・最悪だな!」
直江ルル「まあそう気を落とすな。次があるさ」
辻浦ユウ「きみにフラれたせいなんだけどね!?」
宇都宮リクオ「そのさ、お前さえよければ・・・俺を次の相手に」
辻浦ユウ「しないよ! アピールのタイミング厚かましすぎるでしょ!?」
宇都宮リクオ「ダメか。やっぱり、お前の中にはまだルルさんがいるんだな・・・」
辻浦ユウ「もういないよ。なんならあとを濁してるだけだよ」
直江ルル「リクオ、二番目でもいい。私を受け入れてくれないか?」
宇都宮リクオ「ごめん。ルルさんとは初対面だし、メンヘラの人はちょっと」
辻浦ユウ「どの面下げて言ってるんだ?」
直江ルル「そうか・・・」
直江ルル「だが私たちは幼馴染同士だ。まだチャンスはある。ユウ、負けないからな?」
宇都宮リクオ「確かに、よく考えれば三人とも幼馴染か!」
宇都宮リクオ「俺だって、ルルさんに負けないぞ。ユウに好きになってもらう!」

〇通学路
辻浦ユウ「・・・・・・」
辻浦ユウ「なに見てるの? 僕はきみらとは幼馴染じゃないよ。宣言することなんてないよ!」
宇都宮リクオ「ははは、言ってくれるな。ユウ!」
直江ルル「まずはまた、幼馴染から始めようというわけか。ふふふ、まったくお前は・・・」
辻浦ユウ「なにを仕方のない奴、みたいに言ってるの?」
辻浦ユウ「おい、爽やかに笑うな! 違うって言ってるでしょ!」
宇都宮リクオ「つれないこと言うなよ、幼馴染」
直江ルル「そうだぞ、幼馴染」

〇空
  僕は、きみたちと、幼馴染じゃなぁあああああああああい!

コメント

  • ゆう君は完全に二人の気持ちの行き違いの餌食になってしまって気の毒です。途中から、りくお君が狂って!しまってどんどん一人で妄想を突き進むところが、おかしい通り越しておもいっきり楽しかったです。

  • 幼馴染と恋愛はよくある話です。最初は男が男に恋愛感情を持つのはおかしいと思ったが、別に不思議ではないのかもしれない。だって同性婚の夫婦が現実にいるから。

  • わわわ。誰の記憶が確かなんだ!?矛盾だらけでわけがわからんけど綺麗な三角関係だってことだけはわかった。さぁてどの恋が最後には実るのかしら?本当の意味でね♪続きがきになる、、、

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