海辺の村(脚本)
〇海岸の岩場
僕は日本中を歩いて旅している。
今日は、海辺の小さな村にやってきた。
浅田カズマ(きれいなところだなぁ・・・)
小川サト「おや、見かけないお方ですね」
浅田カズマ「わ!!」
浅田カズマ「すみません、僕、旅の途中で・・・」
浅田カズマ「浅田カズマといいます」
小川サト「ほほほ、それはそれは」
小川サト「よくこんな田舎まで来てくださいましたねぇ・・・」
浅田カズマ「はは・・・きれいなところですね」
小川サト「ええ、美しい海と、あの灯台だけが、この村の自慢です」
おばあさんはそういうと、小さな灯台を指さした。
小川サト「他にはなぁんにもありませんが・・・」
小川サト「どうぞゆっくりしていてください、浅田さん」
浅田カズマ「ありがとうございます!!」
浅田カズマ(なんだろう、あの灯台・・・)
浅田カズマ(なんだか不気味だな・・・)
小川サト「おや・・・?」
小川サト「サヤカじゃないか、サヤカ、こっちに来て挨拶しなさい」
冬田サヤカ「・・・・・・」
浅田カズマ「あ、こんにちは・・・」
冬田サヤカ「こんにちは・・・」
小川サト「すみませんねぇ、無口な子で・・・」
小川サト「サヤカはこの村でただ一人の子どもでしてね」
浅田カズマ「そうなんだ、よろしくね、サヤカちゃん」
僕がそういうと、サヤカは少し笑ってこちらを見た
冬田サヤカ「うん。よろしくね、お兄さん」
ずいぶんと田舎に来てしまったと思ったが、村の人も優しそうだし、僕はしばらくここに滞在することにした。
〇海岸線の道路
しかし次の日から、妙なことが起こり始めた。
浅田カズマ「あれ、靴ヒモが・・・」
浅田カズマ「ず、ずたずたじゃないか!! なんでこんなことに・・・」
小川サト「おやまぁ・・・それはきっと猫のしわざですねぇ」
浅田カズマ「ねこ?」
小川サト「このあたりは魚が取れるから猫が多いでしょう、よくいたずらされるんですよ」
浅田カズマ(そういうものか・・・?)
その次の日は・・・
浅田カズマ「よし、新しい靴ヒモに変えたし、これでだいじょうぶ・・・」
浅田カズマ「いてっ!!!!」
浅田カズマ「な・・・靴の中に画びょう!?」
浅田カズマ「ん?」
冬田サヤカ「・・・・・・」
浅田カズマ「あ、ちょっと!」
浅田カズマ(この村、なにかおかしいんじゃ・・・)
浅田カズマ「まぁ、明日には出発するつもりだしな・・・あまり騒がないでおこう」
冬田サヤカ「・・・・・・」
〇海岸線の道路
その日の夜、僕は誰にも告げずに村を出発しようとしていた。
浅田カズマ「よし、荷物は全部持ったな」
浅田カズマ「ん?誰かいるのか?」
浅田カズマ「サ、サヤカちゃん!どうして──」
冬田サヤカ「どうして?」
冬田サヤカ「出発は明日って言ったのに!」
浅田カズマ「聞かれていたのか・・・ 予定が変わって早く出ることになったんだよ」
浅田カズマ「挨拶できなくてごめんね、じゃあ・・・」
冬田サヤカ「行かないで!」
浅田カズマ「え!?」
冬田サヤカ「この村は、人が減ってもうすぐ無くなるの・・・だから私、お兄さんがずっとここにいてくれたらって──」
浅田カズマ「もしかして、それで靴にいたずらを?」
冬田サヤカ「──ごめんなさい」
浅田カズマ「村のことを大切に思っているんだね。 でも僕は、自分の足で世界中を歩いて旅するって夢があるんだ」
冬田サヤカ「自分の足で・・・世界を・・・」
浅田カズマ「だからここには残れない。 ごめんね、サヤカちゃ──」
冬田サヤカ「自分の足で──」
浅田カズマ「サヤカちゃん?」
サヤカちゃんが、ポケットから小さなナイフを取り出した。
浅田カズマ「──!! 何をする気だ!!」
冬田サヤカ「自分の足で歩けなくなればいいのね・・・?」
彼女はナイフをまっすぐこちらに向けて突進してきた。
浅田カズマ「やめろっ!くそ・・・」
冬田サヤカ「行かないで!この村がなくなったら、私──」
僕はナイフを振り払い、彼女を押さえつけた。彼女はいつしか気を失っていた。
〇海岸の岩場
浅田カズマ「──お世話になりました」
小川サト「いえ、とんだご迷惑をおかけして、申し訳ありません」
浅田カズマ「あの子は・・・サヤカちゃんは?」
小川サト「灯台に、閉じ込められました」
浅田カズマ「え?いったいどうして・・・」
小川サト「この村では、罪を犯した人間は、昔から灯台に送られとります。 自分の間違いを認めるまで、ずっとあそこにおるんです」
浅田カズマ「そうなんですか・・・」
浅田カズマ(未遂だったのに、ちょっと気の毒だな・・・)
小川サト「この村になくなってほしくない気持ちはみんな同じです。 ですがサヤカは──── いえ、なんでもありません」
浅田カズマ「そうですね・・・ありがとうございました。僕はこれで」
小川サト「ええ、お気をつけて」
僕は村を出た。
サヤカが閉じ込められている、あの灯台に見送られながら。
『この村になくなってほしくない気持ちはみんな同じ』・・・・・・
本当に、サヤカ一人がやったことなのか?
僕を村から出したくないのは、みんな同じだったんじゃないか?
だとしたら、本当の犠牲者は、すべての罪を被ったサヤカ・・・
灯台のレンズが、朝日を反射して光った。
僕は考えるのを止めた。
錆行く漁村の何か奥に秘めたミステリーですね。旅人がその地の美しさに一旦は、ゆっくり滞在したいと思わせたような静かな村が、過疎化現象により人々の心をむしばんでいるという構図が、現実問題のようで悲しかったです。
普段あまりホラー作品は読まないのですが題名に引き付けられ読んでみるととても面白かったです。ホラーでありながらも読んだ後まで残る作品でとても素敵だなと思いました
ホラー作品ですが、旅人のカズマと内向的な村人との対比が鮮やかに描かれていて惹きつけられます。怖さとともに充実した読後感があります。