スティンガーファミリー

蛯名茶々丸

♯1 下層街の三兄弟(脚本)

スティンガーファミリー

蛯名茶々丸

今すぐ読む

スティンガーファミリー
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇飲み屋街
  ここは下層街
  飲んだくれとろくでなしが
  集まる掃き溜めの街
  ──なんて評するのは中層上層だけで
  住人達は酔っ払いなりに
  楽しく暮らしている
  そんな街の小さなタバコ屋に
  ふらりと少年が立ち寄った
キール「よぉおっちゃん、調子どうよ?」
タバコ屋のおっちゃん「ぼちぼちだな・・・ いつものでいいかい?」
キール「うん、赤マルカートンでね」
  中年男性はのそのそと
  店の奥に引っ込み
  注文通りのカートンを持って
  これまたのそのそと
  戻ってきた
タバコ屋のおっちゃん「ほらよ」
キール「さんきゅ〜」
  キールは代金を手渡すと
  大きめのカートンに入った
  タバコの箱をひとつ取り出す
タバコ屋のおっちゃん「未成年にタバコ買いに 来させるたァ 相変わらずだなぁ親父さんは」
キール「へへ、今更いいって 気分転換にもなるし」
  キールはからからと笑うと
  箱からタバコを一本取り出し──
  ポケットから出したマッチで火をつけた
  その動作は完全に手馴れている
キール「おこぼれも もらえちゃうしね」
タバコ屋のおっちゃん「ははは、お前さんの 悪ガキ具合も 変わらんなァ!」
タバコ屋のおっちゃん「弟と喧嘩して 街半壊させてたのが 懐かしいやな!」
キール「よせよおっちゃん 昔の話だ」
  談笑するキールの足元に
  丸々と太った猫が擦り寄ってくる
  キールがしゃがんで
  その猫の首周りを撫でると
  グルグルと甘えてきた
タバコ屋のおっちゃん「そういやお前さん家 引越しは来月だったか」
タバコ屋のおっちゃん「寂しくなるなぁ」
キール「心配すんなよ こいつの毛並みが恋しくなったら また顔出すさ!」
街の猫「なぅ!」
  最後に猫の頭を
  ひと撫でしてから
  キールはその場を去っていった

〇入り組んだ路地裏
  キールが歩を進めるたび
  道は暗く狭く、
  退廃的な雰囲気が増していく
  紫煙をくゆらせるキールの隣を
  酔っ払い二人が
  酒瓶片手に肩を組んで
  通り過ぎていく
飲んだくれ「よォキール! またおやっさんの おつかいか?」
酔っ払い「気をつけてェ・・・ 帰るんじゃぞぉい・・・」
  笑顔でひらひらと
  手を振り返しながら
  キールは路地の奥へ進んだ

〇地下室への扉
  やがて小さな酒場にたどり着いた
  キールは──
  扉の前でタバコを
  踏み消してから中へ入った

〇怪しげな酒場
キール「ただーいまぁー」
  扉につけられたベルと
  キールの間延びした挨拶が
  店内に響くと──
  すぐに小さな足音が
  聞こえてくる
リーニャ「おかえりなさい! キールお兄ちゃん!」
シアン「・・・おかえり、兄さん」
  花のような笑顔と
  少し不満げな目が
  キールを出迎えた
  元気に抱きついてきた妹を
  愛おしげに抱きしめ返してから
  キールはキョロキョロと
  店内を見回す
キール「あれ、親父いねーの? あれだけ急がせといて?」
シアン「上の方に報告に行ってるんだ」
シアン「手配とか色々大変らしいぞ でももうじき帰ってくると思う」
キール「ふーん」
リーニャ「それよりお兄ちゃん! お片付けも一段落したから コーヒー淹れたんだけど、いる?」
キール「おー!いるいる! ありがとなリーニャ!」
リーニャ「えへへ・・・ それじゃあ座って待っててね!」
  リーニャは嬉しそうに笑って
  カウンター裏へまわっていった
  ルンルン気分で席についた
  キールだったが──
  席についているシアンの前に
  置かれたコーヒーカップを見て
  一気に不満げな表情をとる
キール「あーお前先にもらってんじゃん ズリーぞこらぁ」
シアン「さっさと帰ってこないのが悪い どうせ一服してきたんだろ まだ匂うぞ」
キール「えっマジ?」
  慌てて服の匂いを嗅いで確認する
  キールを横目に
  シアンはゆったりと
  コーヒーを楽しむ
シアン「ふぅ、やっぱりリーニャの コーヒーは絶品だ・・・ 上にいったらカフェでも 開けそうだな」
キール「お前のは カフェオレだろが子供舌」
シアン「うるさい」
  いつも通りのやりとりが
  繰り広げられる中
  不意に扉が開いた

〇怪しげな酒場
カルーア「ちょおっといいかね? チミ達ぃ」
  入り口に立っていたのは
  何やら怪しげな男
  取り巻きを引き連れ
  ジロジロと店内を見渡している
シアン「・・・なんだあんたら」
  不躾な視線を送る男達に
  シアンが問いかける
カルーア「俺はカルーア ちょいと人にゃ 言えねぇお仕事をしてるもんだ」
カルーア「風の噂に聞いたんだが この店はもうじき 閉店するそうじゃないか」
カルーア「上層街へお引越しなんて 羨ましいねぇ」
  ニタニタと意地の悪い
  笑みを浮かべながら
  カルーアは話を続ける
カルーア「そこでだ この場所を我々の 新事業の拠点として 譲ってただけないかね?」
カルーア「もちろんタダでとは言わない 駄賃は払うし礼節は尽くすさ」
カルーア「今回はその交渉のために 店長さんにお話を伺いたいのだよ」
カルーア「会わせてもらえるかな? ボウヤ達ぃ?」
シアン「何を勝手なことを・・・!」
  険しい表情で
  食ってかかるシアンを
  キールがそっと押し留める
キール「まぁまぁ落ち着けよ」
キール「じきに街を出る俺達が 決める事じゃねェさ」
キール「こういうのは後から来る 仲間の仕事だ」
  キールは棚から
  酒瓶を取り出すと
  カルーアへ差し出した
キール「これ、俺のおすすめ アンタにやるよ」
キール「だから店をどうこう言うのは 来月以降にしちゃくれねェかな?」
  人懐っこい笑みで
  差し出された瓶を
  カルーアはゆっくりと
  受け取った
  直後──

〇壁
  その酒瓶でキールを殴りつけた
  瓶が割れ
  中の酒が辺りに飛び散る
カルーア「こんな安酒で 丸め込もうなんざ 生意気なガキだなぁオイ」
カルーア「黙って店長 呼んでこいってんだよ!!」
  カルーアは甲高い怒鳴り声を
  上げながらすぐ側の椅子を
  蹴り飛ばした
  キールは俯いたまま
  雫を滴らせていたが
  すぐにパッと元の笑みに戻る

〇怪しげな酒場
キール「いやぁ悪い悪い これでも俺の安月給じゃ 結構な贅沢品なんだけどな」
リーニャ「キールお兄ちゃん! 大丈夫!?」
  カウンター裏から
  リーニャが駆け出してくる
キール「心配すんな 大丈夫大丈夫」
  リーニャを見たカルーアは
  先程の怒りとは一転
  またニタニタと笑いを浮かべる
カルーア「ほぅ 随分いいのがいるじゃないか」
カルーア「ここを出たらその娘っ子使って "花屋"でも開こうってのか? ははははは!」
シアン「貴様!!」
  下卑た言い方に
  シアンが怒りに叫ぶ
  キールの表情が
  明らかに変わったその時──

〇怪しげな酒場
アドニス「ウチのガキ共が、なんだって?」
  店主アドニスの大きな手が
  カルーアの頭を鷲掴みにしていた
カルーア「ぎぁあああ いだだだだだ!!!」
アドニス「冷やかしなら 帰れカス共」
子分「か、カルーアさん!!」
カルーア「ひ、引き上げるぞ! 覚えてろよ!!」
  子分よりも
  小物感満載のセリフを吐きながら
  カルーアは逃げていった

〇怪しげな酒場
キール「おー親父 おかえりー」
  キールはテーブルに置いた
  カートンから一箱とって手渡した
リーニャ「パパ、おかえりなさい!」
アドニス「んー」
  ぶっきらぼうながらも
  返事を返し
  早速タバコに火をつけた
  リーニャも
  安心した笑みを浮かべている
アドニス「ありゃ最近調子乗ってる 新興勢力の小物だ」
アドニス「用心棒雇ったらしいから お前らも気をつけろよ」
「はーい」
  兄妹が元気に返事をする中
  シアンだけが
  兄の背中を見つめていた
シアン(なんで・・・)
シアン(なんで何も 言い返さないんだよ・・・)
アドニス「さてと・・・」
  アドニスが見つめる先にあるのは
  先程の騒動で
  びちゃびちゃになった床・・・
アドニス「シアンとお嬢は先帰れ キールは残って後片付けだ」
キール「はぁあ!?なんで!! 酒瓶割ったのあいつらじゃん!!」
アドニス「叩き割ったのは奴らでも それを出したのはお前だろ それに・・・」
アドニス「また1箱 抜き取りやがって・・・ これで何回目だ?」
キール「げ、いつの間に・・・」
リーニャ「が、がんばってお兄ちゃん! お家でお夕飯作って 待ってるからね!」
  キールからすれば
  面倒この上なかったが
  かわいい妹に応援されたからには
  がんばるしかないのだった・・・

〇怪しげな酒場
キール「わぷ」
  キールがしぶしぶ
  瓶の破片を片付けていると
  後ろからタオルが投げつけられた
アドニス「・・・忘れてるようだから 言っておく」
アドニス「ごろつきだったお前らを サツから買ったのは 俺とお嬢だ」
アドニス「余計な無茶して その金を無駄にはするなよ」
キール「・・・分かってるよ」
アドニス「その分くらいは働いてもらうぞ それが終わったら 残った荷造り手伝え」
アドニス「安月給は嫌なんだろ?」
キール「うわ、どこから 聞いてたんだよアンタ・・・」

次のエピソード:♯2 襲撃者たち

成分キーワード

ページTOPへ