世界の罪(脚本)
〇街中の公園
聖也「や、やめて・・・」
聖也「やめてよお姉ちゃん!」
秤「・・・」
私は今日
聖也「お姉ちゃん・・・どうして・・・」
秤「・・・ごめんね」
家族を殺す
〇血しぶき
〇古いアパート
唐突だけど家は貧乏だ
両親も祖父母も、毎日真面目に働いている
それなのに家にはお金がない
理由はわかっている
稼ぐ以上に使っているからだ
でも浪費家って訳じゃない
〇綺麗な病室
突然大病を患った母の高額な手術代
〇実家の居間
父方の祖父母が遠縁の親戚に騙されて背負わされた借金の返済
それ以外にも様々なトラブルの対応にお金が必要だったからだ
〇アパートのダイニング
おまけに両親も祖父母も、勤め先から理由もなくリストラされたり
勤め先が倒産したこともある
その度に収入は減り、借金が増える
みんな真面目に生きているはずなのに、なぜか我が家には不幸が続くんだ
そのせいで、私たちは苦しい生活をしている
私だって、弟だって、人様に迷惑を掛けたことなんてないのに
なぜ私達ばかり、こんな目に会うのだろう
私達の何が悪いのだろう
そんなことを自問自答していた、ある日のことだった・・・
〇血しぶき
秤「・・・」
秤「・・・ん」
秤「・・・ん?」
秤「・・・何ココ・・・夢?」
管理者「・・・」
秤「だ、だれ!」
管理者「僕は君達を救いに来た者さ」
秤「・・・は?」
管理者「まぁいきなりそんなことを言われても困るよね」
管理者「でも事実なんだ」
秤「・・・はぁ」
管理者「君達は清廉潔白に生きているのに、いつも苦しい思いをしている」
管理者「理不尽に思っているはずだ」
秤「それはそうだけど・・・」
管理者「君も学費と生活費を稼ぐために、毎日勉強と仕事に追われている」
管理者「友人と遊ぶことすらできずに」
秤「仕方ないでしょ、そうしなきゃいけないんだから!」
秤「私が働いて、それで皆が生活できるなら・・・」
管理者「それだけじゃ済まなくなる」
秤「は?」
管理者「今後は、もっと大きな不幸が君達に襲い掛かるだろう」
秤「ちょっと、いい加減にして!なんでそんなことが・・・」
管理者「わかるのさ、別世界の君達を見ていればね」
秤「・・・何言ってんの?」
管理者「別世界、いや並行世界といった方がわかりやすいかな」
管理者「そこには君達と同じ人間がいる」
管理者「そして並行世界の君達が犯した罪は、この世界の君達の罪でもある」
管理者「君達家族の不幸は、その罪に対する世界線を超えた罰なんだよ」
秤「意味わかんないんだけど・・・」
管理者「論より証拠だ」
秤「な!?」
管理者「さて、僕も・・・」
〇古いアパート
秤「ここは・・・私の家? でもどっか違うような・・・」
管理者「ここは並行世界の君達が住む家さ、そして・・・」
秤「あ、あれは・・・」
秤「おじいちゃん」
管理者「そう、この世界の君の祖父だ」
秤「こんな夜遅くにドコへ?」
管理者「後をつけてみようか」
管理者「今の僕らは霊体のようなもの、尾行にはうってつけだ」
秤「・・・」
〇公園のベンチ
謙二郎「ふんっ!」
・・・「ぐぎゃ!!」
秤「!!?」
管理者「どうやら、貧しさに負けて強盗をしてしまっているようだ」
秤「そ、そんな、お祖父ちゃんがそんなこと・・・」
秤「家族で誰よりも真面目で、正義感が強い人なのに・・・」
管理者「並行世界は全く同じじゃない、個々の性格にも財政状況にも微妙な違いがあるんだ」
管理者「さあ、そこで君の出番だ」
秤「私?」
管理者「そう、このままではこの世界で犯した祖父の罪を、君の世界の祖父まで背負うことになる」
秤「な、何で!?」
管理者「別世界の祖父が犯した因果を君の祖父も共有しているためだ」
管理者「だから・・・」
秤「だから?」
管理者「君がこの世界の祖父を殺す必要が有る」
秤「はぁ!?」
管理者「罪を打ち消すには、それ以上の重い罰でなければならない」
管理者「命をもって償わせるんだ、君の手で」
管理者「別世界の罪が君達に影響を及ぼすにはタイムラグがある」
管理者「その時間内に、コチラで罪を精算させるんだ」
管理者「そうすれば君の祖父に被害は及ばない」
秤「できる訳ないでしょ!違う世界だって、私のおじいちゃんなのよ!」
管理者「しかし、できなければ君の祖父が・・・」
秤「だいたい、そんな話信じられる訳ないでしょ!」
秤「何が並行世界よ!こんなの夢に決まってる!」
秤「さっさと帰してよ!」
管理者「そうか、それは残念だ」
管理者「だが忘れないで欲しい」
管理者「この世界の祖父が行った行為で、数名が重体になっている」
管理者「その罪が一つとなって襲い掛かったら、君の祖父がどうなるのか」
管理者「まぁ、その気になったら夢で僕を呼んでくれ」
管理者「待っているよ」
秤「誰がアンタなんか・・・」
〇アパートのダイニング
秤「何だったの?いったい・・・」
謙二郎「おはよう、秤」
秤「あ、おはよう、おじいちゃん」
〇公園のベンチ
〇アパートのダイニング
秤「!?」
謙二郎「どうした?」
秤「う、ううん、なんでもない」
謙二郎「そうか、じゃあ仕事に行ってくるよ」
秤「うん、いってらっしゃい」
〇血しぶき
その日、おじいちゃんが仕事先で亡くなった
なぜか頭上から工具が落ちてきて、頭に直撃したらしい
近くには誰もいなかったのに・・・
〇黒
秤「まさか・・・本当に?」
〇血しぶき
管理者「気が変わったかい?」
秤「・・・どうすれば良いの?」
管理者「僕は世界の管理者、均衡を司る者」
管理者「平行世界で異変があればすぐにわかる」
管理者「異変があれば君に知らせよう」
管理者「そして君は、並行世界の家族の罪を償わせるんだ」
管理者「家族である君の手で」
秤「・・・」
管理者「ちょうど別世界で異変を感知したばかりだ」
管理者「今ならまだ間に合う」
管理者「行ってみようか」
〇古いアパート
秤「あれ?おじいちゃんがいる」
管理者「別世界だからね」
秤「私のおじいちゃんは亡くなったのに・・・」
管理者「並行世界はいくつもある、ここも前回とはまた別の世界」
管理者「そして、全ての平行世界が繋がっているわけじゃない」
管理者「唯一「要」と呼ばれる世界のみ、全ての並行世界と繋がり因果を共有している」
管理者「そしてその要の世界が・・・」
秤「私たちの世界・・・」
管理者「そういうこと」
秤「最悪・・・理不尽にもほどがあるでしょ」
管理者「泣き言を言っても始まらないよ、早速この世界の咎人に会いに行こうか」
秤「・・・」
〇公園のベンチ
秤「アレは聖哉?」
秤「学校からの帰りかな?でも家に向かってないような・・・」
管理者「追ってみようか」
〇電気屋
聖也「・・・」
秤「聖哉、まさか万引き・・・」
管理者「この世界の咎人は彼だね」
秤「ま、まって!私に弟を殺せって言うの!?」
管理者「この世界のね」
秤「できる訳ないでしょ!!」
秤「それに万引きで殺さなくたって良いじゃない!!」
秤「盗った物を返せば・・・」
管理者「彼は先日、万引き現場を見られ逃走する時に警備員を振り払った」
管理者「その際に振り払われた警備員が階段から落下、死亡している」
管理者「物を返しても命は戻らない」
秤「・・・そんな」
管理者「彼自身、そのことには気付いてないけれどね」
秤「・・・」
管理者「できないならそれでも良い、ただ君の世界の弟君がどうなるかは保証できないよ?」
秤「アナタ世界の管理者なんでしょ!アナタが何とかしてよ!」
管理者「それができるくらいなら君に声を掛けたりしないさ」
管理者「これは君にしかできないんだ」
秤「・・・く」
管理者「さて、どうする?」
管理者「自分の世界の弟か、この世界の弟か」
管理者「その気になったら実体化してあげるよ」
秤「私・・・私は・・・」
秤「・・・」
〇街中の公園
秤「・・・」
秤「・・・ぐ」
聖也「ん?」
秤「!?」
聖也「アレ?お姉ちゃん」
聖也「お姉ちゃんも今帰ってきたの?」
秤「聖哉・・・」
聖也「いっしょに帰ろ」
秤「・・・」
聖也「僕ね、きょう学校のテストで100点取ったんだ」
秤「・・・そう」
聖也「すごいでしょ~」
秤「そうだね・・・」
秤「・・・」
聖也「・・・」
聖也「どうしたの?気分悪いの?」
秤「・・・」
聖也「お姉ちゃん?」
秤「・・・」
秤「どうして・・・」
秤「どうして万引きなんてしたの?」
聖也「!?」
秤「どうして・・・」
聖也「ごめんなさい・・・」
聖也「少しでも家のためになればって」
秤「・・・」
聖也「とったものは全部返すよ、まだお金には替えてないから・・・」
秤「・・・おそいよ」
聖也「え?」
秤「もう、遅いんだよ・・・」
聖也「お、お姉ちゃん!?」
秤「ごめん・・・聖哉・・・」
聖也「お姉ちゃん!何を・・・」
聖也「や、やめて・・・」
聖也「やめてよお姉ちゃん!」
秤「・・・」
聖也「お姉ちゃん・・・どうして・・・」
聖也「ぐぅっ!」
秤「・・・ごめんね」
聖也「ぐっ!が!あっ!かっあ!!」
秤「聖哉!ごめん!ごめんなさい!」
聖也「お・・・おねぇ・・・ちゃ・・・」
秤「ごめん・・・」
聖也「が・・・」
聖也「・・・」
秤「・・・聖哉」
「・・・」
秤「!!?」
秤「う・・・」
「うぁああああああああ!!!」
〇アパートのダイニング
秤「・・・」
聖也「お姉ちゃん、おはよう」
秤「・・・聖哉」
聖也「どうしたの?顔色が悪いけど?」
秤「そ、それは・・・」
秤「!!?」
聖也「お、お姉ちゃん?」
秤「ご、ごめんなさい・・・」
聖也「お姉ちゃん!しっかりして!どこか痛いの!?」
秤「うぅ・・・」
〇血しぶき
管理者「迷いながらも実行時は躊躇がない」
管理者「やはり彼女が適任だな」
管理者「無数の世界には常に過ちを犯す者がいる」
管理者「これからも、せいぜい頑張ってもらおう」
管理者「世界の均衡が保たれるまで・・・」
〇アパートのダイニング
秤「ごめんなさい、ごめんなさい・・・」
聖也「お姉ちゃん・・・」
〇古いアパート
こうして、私の家族を殺し続ける日々が始まった
家族を守るための、家族殺しが・・・
~END~
秤のいる世界だけが並行ではなく各パラレルワールドの放射状の中心点になってしまっているということかな?これ以上ないほどに逃げ場のない理不尽な世界観が恐ろしくも面白い作品です。
平行世界の”罪”にかかる設定や、秤さんの葛藤や罪の意識などが、濃密に詰め込まれた1話ですね。読み応えがハンパなくて衝撃的です!
秤さんの苦悩と、彼女の生きる世界の家族を愛する心の描写から、カテゴリはヒューマンになるのでしょうかね。
並行する世界の存在を知らなければ、自らの力でなんとか這い上がろうとしたりするかもしれませんが、その存在を知ってしまった以上、もう後戻りできないかもしれませんね。別の世界にいる自分、なかなか興味深いです。