Story#0540:クリスタルとグレイの子(脚本)
〇霊園の入口
シルエット3「知恵ある子は、父を喜ばせ、愚かな子は母の悲しみとなる」
土の中に横たえられた棺に、多くの人が涙と共に花を捧げていた。
シルエット6「・・・・・・」
シルエット3「君は行かないの?」
シルエット6「驚カセテシマウカラナ」
シルエット3「そう。でも、君は一番”悲しい”のでは?」
シルエット6「・・・・・・」
シルエット3「お互い歳を取ったよね。でも君は、全く姿が変わらない」
シルエット6「人工生命体ハ、歳ヲ取ラナイモノダ」
〇綺麗な教会
シルエット1「シスター朱目!」
朝早く、庭先を掃除していると近所の子どもたちが教会にやってきた。
シルエット6「変なものが公園にいる!」
二人は教会の庇護対象の一つである”新しい子供”だ。自分もそうなのだが種類は違い、カノンはインディゴ、シェリはレインボーだ
シルエット1「とにかく、早く来て!」
シルエット6「早く、早く」
二人に引っ張られて公園に行く。どうしたのだろう。
〇大樹の下
公園に来たが、特に変わりはない。
シルエット6「あそこだよ、木の上」
子供たちの指差す先に、謎の生命体がいた。グレイ種族に分類される、異星人だった。
シルエット6「昨日見つけたんだ、猫かと思ったけど違くて」
シルエット1「どうしよう、シスター」
私は二人と木の上の一体を落ち着かせるために、笑いかけた。
シスター朱目「大丈夫、任せて」
私は木の上のグレイ型異星人に話し掛ける。
シスター朱目「降りてきませんか?」
猫のように、”降りられない”のではないかと思ったが、その細身のグレイは器用にするりと降りてきた。
〇シックなリビング
私はグレイを家に入れWSAに電話を掛けた。
シスター朱目「もしもし、アイ・エル市教会支部の朱目です」
シスター朱目「子供たちが公園でグレイを見付けて、今家にいるんですが」
エージェント遠野は、電話が終わって五分後に来た。
シルエット3「わあ、珍しい。このグレイ、感情がある」
グレイは通常、感情を持っていない。
シスター朱目「”差異”ですか」
エージェントは頷く。精神構造が通常個体と異なる突然変異を、我々は”差異”と呼ぶ。
シルエット3「うん、間違いない」
グレイは不機嫌そうに声を上げる。
シルエット6「ナニヲシニキタ」
シルエット3「僕はエージェント遠野。君を調べに来たんだ」
シルエット6「ナニ?」
シルエット3「解剖とかはしないから、安心してよ」
〇シックなリビング
シスター朱目「あなた、お家は?」
エージェント遠野が帰った後、ふと思い訊ねてみた。エージェントとのインタビューで、WSAサイトへの収容を断っていたからだ。
シルエット6「なイ。しばらク公園デ暮ラス事ニナルダロウ」
シスター朱目「明日、朝から雨ですよ?家で暮らしませんか」
シルエット6「アリガタイ」
〇シックなリビング
この奇妙なグレイ型異星人がここに来て一年が経った。
シスター朱目「お菓子を作ったよ!食べる?」
シルエット6「タベル」
無言で口を動かしていたグレイに、私は質問をぶつけてみた。
シスター朱目「ノラ(グレイの名前。Nola-3662)は、何で地球に来たの?」
シルエット6「私ハ、生マレタ時カラ周リト違ッタ。我々ニトッテ、感情ヲ持ッテ生マレタ事ハ不快ナ事ダッタヨウダ」
その一言で、全てを感じ取った。クリスタルNSPである私には、感情的なことはすぐに、読めてしまう。
シルエット6「”不良品”トシテ”処分”サレソウニナッタカラ逃ゲテキタ」
嗚呼、やはり。
シルエット6「泣カナイデ」
〇シックなバー
行きつけのバーに呼び出され、青い珊瑚礁を飲んでいた。
シルエット3「君が呼んでくれるとは。どうしたんだ?」
とても珍しい”感情を持つグレイ”は、俯いたまま聞いてきた。
シルエット6「先日、朱目ヲ泣カセテシマッタ。”悲シミ”ヲ癒スニハドウシタライイ?」
何だ、そんなことか。元気付けようと笑って答えた。
シルエット3「僕の場合、旅行なんかに行くね。色々な国の建造物や自然環境を眺めている内に悲しみを忘れることが出来るよ」
シルエット6「ソウカ」
シルエット3「今度、僕の休暇と彼女の休暇が重なるから、良かったら、君たちを連れて行こうか?」
〇沖合
シスター朱目「見てください。海ですよ!」
毎週金、土、日の休みには、三人で山や海、温泉などの観光地に赴いた。
シルエット6「地球ニハ、コンナ景色ガアルノカ」
シルエット3「面白い?」
シルエット6「朱目ガハシャグノガ面白イ」
シルエット3「そうなんだ。彼女は可愛い」
シルエット6「・・・・・・」
〇映画館の座席
シスター朱目「ハラハラドキドキですね」
シルエット6「興味深イ」
映画が終わった後、グレイは遠野に言う。
シルエット6「遠野。朱目ガ好キカ?」
シルエット3「ええと、友達みたいなものだよ」
シルエット6「本音ハ?」
シルエット3「好きだよ。でも、僕の仕事は、危ないこともあるし、彼女はシスターだ」
シルエット6「ソウカ。デハ、」
シスター朱目「何を話してるの?」
シルエット6「何デモナイ」
〇霊園の入口
シルエット3「そう。彼女はずっと、君を置いていくことを哀しんでいたよ」
シルエット6「置イテカレテナド、イナイ」
シルエット3「どういうこと?」
シルエット6「私ハ不死身ダ。コノ身アル限リ、彼女ノクリスタルの輝キハ、色褪セナイ」
シルエット3「でも、君は泣いてる」
シルエット6「──ソウダナ。オ互イサマダ」
天寿を全うした彼女の葬儀、二人で泣きながら笑った。