乃子さんに推されたい

中村朔

第2話 乃子さん、初めての推し(脚本)

乃子さんに推されたい

中村朔

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〇廃列車
乃子「う、うらめしや・・・」
P 「ストップ」
乃子「え」
P 「もっと元気よくいってみようか?」
乃子「・・・幽霊なのにですか?」
P 「目新しさがないんだよね! もっと時代のニーズを積極的に取り込んでいかなきゃ!」
乃子「元気な幽霊ってニーズあるんでしょうか・・・」
P 「何が流行るかわからない時代だからさ。 ほら、誰か来た!」
乃子「う、うらめしやっ!」
訪問者A「さすが心霊スポット、何かいそうだな」
訪問者B「何か出てきたらどうしよう!」
乃子「・・・・・・」
P 「・・・また見えなかったみたいだな」
乃子「うう」
  私は押井乃子(おしいのこ)、新米の幽霊です。
  幽霊が成仏せずに現世に残るには、怖がられたりして人間に認知されること、つまり『推し』を得る必要があります。
  私は推しを得るため、心霊スポットで地道に営業をしているのですが・・・
P 「また誰か来たぞ! 今度はヒップホップ調でいけ!」
乃子「えっ! う、うらめしYAっ・・・!」
訪問者C「なんも出ねーなー、帰ろうぜ」
乃子「・・・・・・」
  存在感が薄すぎて誰にも認知されず、推しを得られずにいるのです。

〇荒廃した教室
乃子「・・・戻りました」
紫怨「今日もダメだったみたいだねぇ」
P 「俺も何人もプロデュースしてきたけど、これだけ人に見えない霊って珍しいぞ」
乃子「存在感なくてすみません・・・」
紫怨「諦めて成仏したらどうだい」
乃子「そ、それはいやです・・・!」
紫怨「そんなに爽介くんに会って告白の返事聞きたいのかい? 健気だねぇ」
乃子「それは・・・」
  私が現世に残りたい理由、それは爽介くんに告白の返事を聞きたいからです。
  私は爽介くんに告白した直後に、車にはねられて死んでしまったので・・・
乃子「それもありますけど・・・諦めたくないんです」
P 「やる気があるのは結構だが、お前、強制成仏まであと1日だぞ」
乃子「はう」
紫怨「まあ、人間、向き不向きってのがあるしね」
乃子「はう」
霊司「送別会の準備しておきます」
乃子「はうう・・・爽介くん」
紫怨「そんなに会いたいのかい。 あんたさ、そもそもどうして好きになったんだい。その爽介って子のこと」
乃子「・・・私、生きてたときも存在感が薄くて。あんまり人に認知されなくて」
乃子「だから学校でもいつもひとりで。 ていうか存在すら知らない人も多くて」
乃子「欠席しても先生に気づかれなかったり・・・」
P 「忍者かお前は」
乃子「ある時、先生に頼まれて雑用をしてたんですけど、爽介くんがひとりで大丈夫かって手伝ってくれて・・・それで」
P 「それくらい誰にでも言うんじゃないの」
乃子「わ、わかってますよ! 爽介くん優しいし、きっと他の人が困ってても同じように助けたと思います・・・」
乃子「でも、誰かに応援してもらえたことがすごく嬉しくて・・・前向きに生きていこうって気になったんです」
乃子「私、自分が大嫌いだったけど・・・1人でも応援してくれる人がいるならがんばろうって、自分を変えてみようって」
乃子「だから・・・このまま諦めたら自分を変えることができなかった気がして、それも嫌なんです」
P 「でもやる気だけじゃ推しは得られないからな」
乃子「ですよね・・・」
紫怨「成仏する前にひと目だけ爽介くんに会いに行ったらどうだい」
乃子「会いたいですけど・・・でも・・・」
乃子「ちょっとだけ行ってみようかな・・・」
P 「バカヤロウ! 日和ってんじゃねぇ!」
乃子「ひっ!」
P 「自分を変えたいんだろ? 胸張って会いに行きたいんだろ? だったら諦めるなよ! お前ならできるって!」
乃子「・・・Pさん」
P 「お前が消えたら誰が事務所の借金を返すんだ!」
乃子「それは私の肩に乗っけないで・・・」

〇廃列車
P 「とうとう最後の1日だな」
乃子「ちなみに、私が現世に留まり続けるにはどれくらいの推しが必要なんですか?」
P 「そうだな・・・1日あたり1000人ってところだな」
乃子「えっ! 1000人!? そんな・・・絶望的じゃないですか・・・」
P 「だな。でもまだ終わったわけじゃねえよ」
乃子「ですけど・・・ムリですよ・・・」
乃子「私、もう消えちゃうんですね・・・」
P 「・・・・・・」
乃子「結局、私、変われなかったなぁ・・・」
P 「あのな。そーゆーの一瞬じゃねーんだよ」
乃子「え?」
P 「誰でも人生を変える一瞬はあるよ? でもその一瞬で生まれ変わるわけじゃねえだろ」
P 「きっかけは一瞬でも継続してがんばらなきゃ人は変わらないんだよ」
P 「だからお前が諦めない限りダメだったことには・・・どうした変な顔して」
乃子「いや、急にまともなことを言うから・・・」
P 「傷つくな!」
乃子「・・・そうですね。 諦めないで信じてみます」
P 「まあ、誰か来ないことには始まんねーけどな」
乃子「・・・あっ。誰か来た?」
女子高生「・・・・・・」
乃子「様子がおかしいですね」
P 「肝試しじゃないな。自殺志願者か?」
乃子「そんな! だめ・・・!」
女子高生「私が死んでも、きっと誰も気づかないよね・・・」
P 「なんかお前みたいなこと言ってるぞ」
乃子「・・・だめ」
女子高生「生きててもいいことなかったけど、これでおしまい・・・」
乃子「だめーーーっ!!」
女子高生「! だ、誰!?」
P 「声が届いた!」
乃子「あ、あの、私・・・幽霊です・・・」
女子高生「え?」

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