6本目:一条アキについて(脚本)
〇渋谷の雑踏
人は、大なり小なり悩みを抱えている
〇ラーメン屋
──11月18日
〇ラーメン屋のカウンター
女性「──ちょっと。ラーメンまだ?」
間宮 シノブ「もうしばらくお待ちください」
女性「・・・トモヤ!じっとしてて! これだから人気の店は嫌なのよ」
女性「ってパパ またスマホ!?」
男性「あっ!!」
女性「『今日はドラマの最後の収録でした♪』」
女性「『大きな花束 貰いました〜♪』」
女性「『久々にアイドルになれて嬉しかった♪』」
女性「リツイート」
女性「『アキちゃん マジ天使! それに比べて鬼嫁ときたら──』」
男性「ち 違うんだ。これはその──」
女性「もう我慢の限界!!」
女性「アンタと結婚したのが間違いだった!!」
女性「そんなに一条アキが好きなら その女と結婚しろよ ロリコンッ!!」
男性「ロリッ・・・なんだとッ!!」
間宮 シノブ「ど どうしよう・・・!」
「アンタら!痴話喧嘩ならよそでやれ!」
「おい 聞いてんのかッ!?」
〇劇場の楽屋
──前日
一条 アキ「──ねっ かわいく撮れた?」
アキのマネージャー「うん。ちゃんと撮れてる」
一条 アキ「さすが 私の専属マネ。 あとでSNSに投稿しよっ」
一条 アキ「ってか この花束凄いよね。高そう」
アキのマネージャー「『SNSで話題の花屋に頼んだ』って スタッフの方が話してたよ」
一条 アキ「話題の花屋?」
アキのマネージャー「なんか お花の相談だけじゃなくて お客の悩みにも応えてくれるんだって」
一条 アキ「へー。調べてみよっと」
一条 アキ「・・・また”吹雪”って奴 私のアカウントに悪口 書いてる!」
アキのマネージャー「えっ?」
一条 アキ「『アンタってホントに演技下手(笑)』」
一条 アキ「『足 太い短い(笑) これがホントの大根役者』」
一条 アキ「人が気にしてること 毎回 指摘してきやがって・・・」
アキのマネージャー「アキ。しばらくSNS禁止。 代わりに私が投稿を続けるから」
一条 アキ「なんで!?」
アキのマネージャー「なんでって気付いてない? 最近 アンチのことばかりで」
アキのマネージャー「このまま放っておいたら 病んでいくのが目に見える」
アキのマネージャー「アキの仕事はアンチと向き合うこと? 違うよね?」
アキのマネージャー「アキの仕事はファンを大切にして 自分自身を磨くことだよね?」
一条 アキ「──ホント」
一条 アキ「”ユキ姉”がマネージャーで良かった」
一条 アキ「ユキ姉の言う通り しばらくSNSは見ない!」
ユキ「アキ・・・」
一条 アキ「はー お腹ペコペコ! 早く片付けて帰ろっ!」
ユキ「うん」
マネージャー・ユキは
私より5秒前に産まれた姉で
「今日のご飯 何?」
「キムチチゲ」
「あっ いいね!」
昔から真面目で
何でも出来て
私が芸能界に入ると話したときも
心配だからって着いてきて
愚痴の一つも吐かない
まさに”人格者”
一条 アキ「準備出来た!」
ユキ「車のエンジン付けるから 先に行ってるね」
私はそんな姉が大好き
一条 アキ「だけど」
一条 アキ「”完璧な性格”に怖くなるときがある」
〇タワーマンション
──数日後
〇綺麗なダイニング
一条 アキ「ふわぁ・・・」
一条 アキ(うわぁ ユキ姉。休みなのに仕事?)
一条 アキ(私のこと 全然気付いてない)
一条 アキ(集中しすぎでしょ──)
〇SNSの画面
〇綺麗なダイニング
ユキ「アキ!いつからそこにいたの!?」
一条 アキ「ちょ ちょっと前・・・」
ユキ「本当?気付かなくてごめんね」
ユキ「朝ご飯 作るね!」
「久々の休みって なんだか落ち着かないね」
一条 アキ「うん。そうだね・・・」
一条 アキ(ユキ姉が見てたページ)
一条 アキ(”吹雪”のアカウントだった)
一条 アキ(吹雪・・・雪・・・ユキ・・・?)
一条 アキ(まさか”吹雪”って”ユキ姉”・・・?)
一条 アキ「ユキ姉 ちょっとトイレ行ってくる──」
〇清潔なトイレ
一条 アキ「『一条アキの顔まん丸(笑)』 『何の取り柄もない女優(笑)』」
一条 アキ「全部 ちょっと前の投稿・・・」
そんな──
一条 アキ「うっ・・・」
一条 アキ「ううっ・・・!」
「アキ?大丈夫?お腹痛いの?」
一条 アキ「・・・ユキ姉 ひどいよ。 私の隣でバカにしてたんだね」
一条 アキ「ずっと・・・ずっとずっと!!」
「ちょっと何のこと──」
一条 アキ「とぼけないで!! ”吹雪”で私の悪口書いてるくせに!!」
一条 アキ「ユキ姉のこと 信じてたのに!!」
「SNS 見たの? 私『禁止』って言ったよね!?」
一条 アキ「私に見られたくなくて 『禁止』って言ったんでしょ!!」
一条 アキ「最低ッ!! 大嫌いッ!!」
「・・・本当に 私が悪口を 書いてると思ったんだ」
「最低なのはどっちよ。 私の気持ち 理解しないで」
「アキなんて知らない!」
〇綺麗なダイニング
一条 アキ(帰ってこない・・・)
一条 アキ(言いすぎたかな・・・)
一条 アキ(いや ユキ姉が悪いんだもん)
一条 アキ「はぁ もう嫌だ」
一条 アキ「この間の花 枯れてる・・・」
一条 アキ「あっ!」
〇劇場の楽屋
アキのマネージャー「なんか お花の相談だけじゃなくて お客の悩みにも応えてくれるんだって」
〇綺麗なダイニング
一条 アキ「花屋に行けば 悩みに応えてくれる・・・」
一条 アキ「あった! ”フローリスト・ハナサカ”」
〇街中の道路
──フローリスト・ハナサカ前
一条 アキ(良かった。他の人 いない)
〇お花屋さん
店長・花咲「いらっしゃいま──」
店長・花咲「んん?」
一条 アキ「あの。前にここの花束を貰って」
一条 アキ「『悩みに応えてくれる』って聞いて」
店長・花咲「ええ。私の出来る範囲で、ですが」
一条 アキ「・・・信じてた人に裏切られて。 どうしたらいいか分からなくて」
店長・花咲「『裏切られた』とは?」
一条 アキ「優しい振りして 裏で 私の悪口言ってて」
店長・花咲「なるほど。お相手の口から 直接聞いたのですか?」
一条 アキ「口っていうかネットで・・・」
一条 アキ「でも 焦ってたから本人です!」
店長・花咲「そうですか。普段 お相手は どのような行動をされていますか?」
一条 アキ「どのような行動?」
一条 アキ「送り迎えをしてくれたり 好きな物 買ってきてくれたり」
一条 アキ「料理とか洗濯とかやってくれたり・・・」
店長・花咲「なるほど。私でしたら」
店長・花咲「嫌いな人物に対して 世話を焼こうと思いませんし」
店長・花咲「一緒に住みたいとも思いません。 あなたはどうでしょうか?」
一条 アキ「・・・私もそう思います」
店長・花咲「これは私の憶測に過ぎませんが」
店長・花咲「悪口に悩むあなたを守りたくて 一人で闘っていたのだとしたら」
店長・花咲「しかし運悪くその場を 目撃されてしまったとしたら」
店長・花咲「名前が近いからと勘違いされたなら──」
もしも そうだとしたら。
なんて私は──
一条 アキ「どうしよう ユキ姉に酷いこと・・・」
店長・花咲「謝るなら早いほうがいい。 放置して元に戻ることはありません」
一条 アキ「・・・そうですね。すぐに謝ります」
店長・花咲「くれぐれも機械で済ませないように」
店長・花咲「どんなに気まずくても あなたの顔と あなたの声で」
店長・花咲「──誠意を伝えてくださいね」
一条 アキ「・・・はい」
謎の男「一卵性双生児とは思いませんでしたね」
店長・花咲「驚きました。どこで着替えてきたのかと」
謎の男「・・・しかし大変ですね。あなたも」
謎の男「当初の目的は 花屋を利用して ”あの者”と接触を図ることでしょう?」
店長・花咲「えぇ。でも苦ではありませんし 彼らに重ねている部分もあるんです」
店長・花咲「・・・かつての私を」
謎の男「・・・そうですか」
店長・花咲「まだ お時間はありますよね?」
謎の男「申し上げにくいのですが。 残り4ヶ月が限界です」
店長・花咲「4ヶ月・・・3月まで か。 それまでに何とか──」
〇綺麗なダイニング
「おかえり。アキ」
一条 アキ「ユ ユキ姉」
ユキ「どこに行ってたの?」
一条 アキ(怒ってない?)
一条 アキ(怒ってないなら別にこのままで──)
駄目
ちゃんと誠意を伝えなきゃ
一条 アキ「ユキ姉 ごめんね。酷いこと言って」
一条 アキ「ユキ姉が”吹雪”のページ 開いてるの見て 疑って──」
ユキ「私こそ感情的になってごめんね アキに説明するべきだった」
一条 アキ「説明?」
ユキ「実は”吹雪”のアカウントを 訴えようと投稿を保存してたの」
ユキ「卑怯な奴を逃がさないように──」
「うぅ・・・ユキ姉 ごめんねえええ」
「ちょ ちょっと」
「ねっ!フラワーリース買ってきたの! カランコエって言うんだって」
「この間の花 枯れちゃったから──」
疑心暗鬼は負のスパイラルの起点、日々暮らしていてそう思うことも多いですが、本作もまさにその典型ですね。花咲さんの言葉の強さが光りますね!
そんな花咲さんの正体と事情も見え隠れしていて、謎の男さん共々、明らかにされるのを楽しみにしています。