彗星になる私、星が好きな貴方。

夜風しみる

読切(脚本)

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〇学校の廊下
  誰もいない、夜の校舎。
  ひんやりと辺りを漂う空気は、いつもと違って心地良い。
宵子「・・・」
  こんな事ならもっと早く決めれば良かった。
宵子「私は・・・、今日、死ぬの」
  誰にも聞こえない声で、自分だけに聴こえるように呟く。
  いつもならかき消されてしまうこの声も。
  今日だけは形を成していた。
宵子「行かなくちゃ・・・・・・」

〇学校の屋上
  階段を上がり、持っていた鍵を使って扉を開ける。
宵子「「屋上・・・」  「初めて上がったな」」
  冷たい風が頬を撫でる。
  もう11月だ。肌寒いのもしょうがないだろう。
宵子「上着、着てくればよかったかな・・・」
  辺りを見回しながら口に出した言葉。
  今から死ぬというのに。
  相変わらず自分の呑気さに呆れてしまう。

〇街の全景
  屋上のフェンス越しに見える景色は、なんだかとても綺麗だった。
  街に灯る明かりは、1つ1つが誰かの営みなのだろう。
  自分にはついに訪れなかった、普通の家庭の暮らし。
宵子「「死に場所・・・」 「ここにして正解だったな」」
  どれだけ手を伸ばしても掴めないと、はっきり理解できるから。
  今はその気持ちが大事だった。
宵子「・・・ふー」
  息を吐き、呼吸を整える。
  早る気持ちを抑えるように。
  この気持ちが変わらぬように。
宵子「・・・よし」
  覚悟を決め、フェンスに手を掛ける。
  腰ほどの高さのそれを、越えようとした瞬間。
  ──背後から声が掛けられた。

〇学校の屋上
「あー、いたいた!」
  見知らぬ顔。
  私の背後には、この場に相応しくない笑みを浮かべた少女がいた。
灯利「「抜け駆けするなんてずるいよ!」 「一声ぐらい掛けてくれてもいいじゃん!」」
  少女は姿を現すなりぺらぺらと喋り続ける。
  ・・・私がこれから何をしようとしてるのかが分からないのだろうか?
宵子「「あの・・・、忘れ物とかですか?」 「それに私は・・・」」
灯利「「忘れ物?」 「違う違う!私はお手伝いに来たんだよ!」」
  お手伝い?
  何を言っているのか分からないが、私はこれから飛び降りるんだ。
  邪魔するなら早く帰って欲しい。
宵子「「お手伝いなんて頼んだ覚えありませんけど・・・」 「それに私は忙しいので・・・」」
灯利「「えー?!それはひどくない?」 「屋上の鍵だって、私が準備してあげたのに!」」
宵子「は?」
  屋上の鍵・・・。
  確かにこれは数日前、私の下駄箱に入っていたものだが、それをこの人が用意した?
  にわかには信じがたい。
  だが、それならどうして彼女は此処にいるのだろうか?
宵子「「・・・何が目的ですか?」 「止めようとしてるなら・・・、無駄ですよ」」
灯利「「止める?」 「そんなことしないよ!」」
灯利「「むしろその逆」 「貴方が死ぬところ、見せて欲しいの」」
  死ぬところを、見せて欲しい?
  ・・・止められる物とばかり思っていたが、返ってきたのは意外すぎる言葉だった。
灯利「「毎日貴方が屋上の扉の前に来てるの見てたんだ」 「教室ではいつも暗い顔してるし」」
灯利「「だから分かっちゃったの!」 「あ、この人 死にたいんだって!」」
灯利「「屋上ってことは飛び降りでしょ?」 「人が飛び降りる所なんて中々見れないじゃない?」 「だから手伝ってあげたの」」
宵子「えぇ・・・?」
  語られたのはなんとも言えない内容だった。
  「死にたそうな人がいるから」
  「死ぬところを見てみたいから」
  そんなセリフを聞く方が、中々ない体験だと思うが・・・。
灯利「「まさか止めたりしないよね?」 「そうなったら私、かなしいなぁ」」
  ・・・どこかズレている反応。
  しかし、こんな奴に構って自分の決意を無駄に出来るわけがない。
宵子「「止めるわけないでしょう」 「私は、もうこんな世界で生きたくないんです」」
  確かめるように。
  強い言葉を吐く事でなんとか自分を保つ。
灯利「「そっか!」 「じゃあ此処で見てるから、がんばれ!」」

〇街の全景
  再び視線をフェンスの外へ移す。
  ・・・もう戻れない。
  戻らない。
宵子「・・・っ」
  いざその瞬間が来ると、やはり足が震える。
  これが恐怖?
  ・・・いや、そんなものと別れるために此処まで来たんだろう。
  覚悟を決めた。
  ・・・後ろからまた何かが聞こえる。
灯利「私ね!星が好きなんだー!」
灯利「「人が飛び降りたら流れ星みたいに見えるかなぁ?」 「そしたら私がお願いしといてあげるよ!」」
  背後から彼女は何かを喋っている。
  しかし、私には肝心なところが聞こえない。
  恐怖にすくんで頭ははち切れそうだ。
  ─もう、限界・・・・・・。
  ・・・・・・・・・。
灯利「「・・・・・・おー」 「星って言うか・・・、花火みたい・・・・・・」」
灯利「でも、ちゃんとお願いできたよ・・・」
灯利「「生まれ変わっても」 「また、私に星を見せて下さい、って」」

コメント

  • 怖い話ですね…。
    後ろから見てる少女に恐ろしさを感じました。
    彼女はどこか壊れてるのかな?と思いながら読んでたのですが、思いとどまることなく飛び降りてしまって…その後のセリフにゾクッとしました。

  • 「もう限界っ」て、結局星を見るために彼女を突き落としちゃったのかな、、涙 笑顔で人が死ぬのを見たいと言う可愛い少女に強い恐怖を感じました。

  • 自ら命を失おうとしている人より、その姿を見たいという人のほうが遥かに恐ろしいと感じさせられます。ただ見ているだけの彼女に恐怖を覚えました。

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