〇黒背景
　　──世は配信者戦国時代
　　星の数ほど配信者が生まれ
　　やがて再生数に伸び悩み消えていった
　　成功する者は、ほんの一握り

〇電脳空間
「お前本っ当ゲームの才能ねえな!!」
メル「煽ってくるわりにその程度かよ、ザコ虎」
メル「つめが甘いんだよ、つめが」
メル「なっ・・・!?」
とらぴー「うわーメルさん今日も口悪いな〜」
とらぴー「僕に即キルされちゃって、ほんと絶好調ですね♡」
とらぴー「はい、ざこつでーす」
とらぴー「うおっ!?」
とらぴー「うわ待って待って、こわいこわい」
メル「あたしにスペナイで喧嘩売るなんてな」
メル「百年はえーわ!!!!」
とらぴー「うわー、めっちゃ怒ってる・・・」
とらぴー「助けて誰か大人のひと〜」
メル「お前それ、また煽ってんだろ!!」

〇電脳空間
　　『今日の煽り合いキレキレだなw』
　　『やっぱ”とらメル”のコラボ配信は安定でおもろいわ』
　　『さすがゲーム実況者界の犬猿の仲！』
　　『公式ケンカップル♡』
とらぴー「ねえコメント、カップルとかまじで勘弁してください」
メル「へっ!? か、カップルって何だよ！」
メル「リスナーの教育ちゃんとしとけや、ザコ虎」
とらぴー「あー、はいはい」
とらぴー「うちのリスナーが何かすみません」
メル「ったく・・・」
　　『イチャついてんな〜』
　　『二人とも何だかんだゲームスキル最強だからいいよね』
　　『それな！スペナイ実況特に好き』
　　『いつか対戦じゃなく共闘も見てみたいな』

〇一人部屋
　　♪──
天宮 大河(あまみや たいが)「・・・」
「はい」
天宮 大河(あまみや たいが)「あ、どーも」
天宮 大河(あまみや たいが)「さっきは配信お疲れ様でした、──恵さん」
天宮 恵(あまみや めぐむ)「その呼び方、ゾワっとする」
天宮 恵(あまみや めぐむ)「普通に”メル”でいいんだけど」
天宮 大河(あまみや たいが)「あ、照れてます？ザコ虎の”とらぴー”から名前呼ばれて」
天宮 恵(あまみや めぐむ)「うるさ、配信外で煽る必要ないから」
天宮 大河(あまみや たいが)「はは、すみません。つい癖で」
天宮 恵(あまみや めぐむ)「で、何かあった？わざわざスマホから掛けてくるなんて」
天宮 大河(あまみや たいが)「ああ、そうだった。さっき」
天宮 恵(あまみや めぐむ)「さっき？」
天宮 大河(あまみや たいが)「カップルって言葉にめちゃくちゃ動揺してませんでした？」
天宮 恵(あまみや めぐむ)「は!? し、してねーよ!!」
天宮 大河(あまみや たいが)「いや、今もしてる・・・すごいな無自覚なんだ」
天宮 恵(あまみや めぐむ)「だから、してない！」
天宮 大河(あまみや たいが)「あんまり分かりやすいから、わざとバラしたいのかとすら思いましたよ」
天宮 恵(あまみや めぐむ)「はぁ!?」
天宮 恵(あまみや めぐむ)「んなもんはあり得ない」
天宮 恵(あまみや めぐむ)「そもそも何のメリットもないでしょ」
天宮 大河(あまみや たいが)「そうですね。僕も同意見です」
天宮 大河(あまみや たいが)「まさか犬猿の仲の”とらメル”が不仲配信で人気を稼いでるくせに──」
天宮 大河(あまみや たいが)「実際は付き合ってるなんて」
天宮 大河(あまみや たいが)「バレたら炎上確実！」
天宮 大河(あまみや たいが)「メルさんのガチ恋リスナーから刺されちゃうかも♡」
天宮 恵(あまみや めぐむ)「あんた本当、その煽り癖治した方がいーよ」
天宮 恵(あまみや めぐむ)「大体こんな口悪いあたしにそういう、物好きなファンはついてないから」
天宮 大河(あまみや たいが)「そんな事ないと思いますけど」
天宮 大河(あまみや たいが)「少なくとも僕はメルさんのこと、素敵な女性だと思ってますよ」
天宮 恵(あまみや めぐむ)「!」
天宮 恵(あまみや めぐむ)「また煽ってんの？」
天宮 大河(あまみや たいが)「あ、日頃の行いが悪くて信じられてないパターン」
天宮 大河(あまみや たいが)「ま、これからも仲良く不仲配信やっていきましょうよ」
天宮 大河(あまみや たいが)「僕はメルさんのこと」
天宮 大河(あまみや たいが)「最高のビジネスパートナーとも思ってるんで」
天宮 恵(あまみや めぐむ)「──うん」

〇白
　　やがて月日は流れ──

〇可愛い結婚式場
　　二人は結婚
　　おめでとー！

〇病院の待合室
「おぎゃー！」
「出産」

〇地球
　　そして
　　育児に奮闘した
　　また、その間にも
　　二人は変わらずストイックにゲーム実況を続けた
（お、投げ銭）
（家計が助かる〜）

〇白
　　再び時は流れ──

〇おしゃれなリビング
　　現在
　　日曜日の朝・天宮家のリビング
天宮 成輝(あまみや なるき)「うっ、うっ」
天宮 夢弥(あまみや ゆめみ)「あ、お兄ちゃん」
天宮 夢弥(あまみや ゆめみ)「おはよう」
天宮 成輝(あまみや なるき)「うう、ゆめみ、おはよ・・・」
　　このベソをかいている男こそ
　　天宮家の長男・成輝（なるき）
　　16歳になりたての男子高校生である
天宮 夢弥(あまみや ゆめみ)「またエゴサしてメンタルやられちゃったの？」
天宮 夢弥(あまみや ゆめみ)「だから言ったのに」
天宮 夢弥(あまみや ゆめみ)「お兄ちゃんはメンタルよわよわの根暗オタクなんだからエゴサは禁止！って。メンケアは大事よ」
天宮 成輝(あまみや なるき)「うう〜、正論・・・」
　　このド正論マシーンな少女は
　　天宮家の長女・夢弥（ゆめみ）
　　まだ11歳の小学５年生だ
天宮 大河(あまみや たいが)「朝から騒がしいね」
天宮 夢弥(あまみや ゆめみ)「あ、パパ昨日の耐久配信おつかれさま！」
天宮 大河(あまみや たいが)「労いどーも、夢弥」
天宮 大河(あまみや たいが)「成輝もなんか知らんが元気だしてね、おはよう」
天宮 成輝(あまみや なるき)「おはよ、父さん」
天宮 恵(あまみや めぐむ)「ゆめみ、なる、おはよう」
天宮 恵(あまみや めぐむ)「朝ご飯できたから食べてね」
天宮 夢弥(あまみや ゆめみ)「おはようママ！あさごはん♪」
天宮 成輝(あまみや なるき)「・・・オレも食べよっと」
　　すくすくと育った天宮家の子どもたち
　　しかし彼らには
　　裏の顔が存在する

〇コンサート会場
「『Naruくーん♡♡♡』」
Naru(ナル)「あはっ♡みんな今日もコメントありがと！」
Naru(ナル)「わ、有料アイテムだ！しかも一番高いやつじゃん！」
Naru(ナル)「ちょー嬉しい！えっと・・・お名前はカエデさん」
Naru(ナル)「『Naruくんのお声が聞けて今日もしあわせ♡』」
Naru(ナル)「『でも、最近のあでぃくとは人気すぎて』」
Naru(ナル)「『Naruくんが遠い人になっちゃいそうで寂しい！ぴえん』」
Naru(ナル)「そっか・・・さみしい思いさせちゃってごめんね、カエデちゃん」
Naru(ナル)「オレたちはいつでもファンのみんなのすぐそばに居たいと思ってるよ」
Naru(ナル)「こうして応援してくれる一人一人の想いがパワーになってる！」
Naru(ナル)「だからさ、これからも」
Naru(ナル)「オレだけ見ててカエデちゃん♡」
　　『まって、羨ましすぎる』
　　『さすが陽キャ担当！ファンサうま』
Naru(ナル)「わわ、アイテムいっぱい来た！」
Naru(ナル)「こんなにいっぱいありがと♡じゃあコメント読んでくね──」
　　天宮成輝の裏の顔
　　それは人気歌い手グループ”あでぃくと”の
　　陽キャ担当”Naru”
　　幼少期から両親のゲーム実況をする姿を見てきた彼は
　　『いつか自分もストイックで硬派なゲーム実況者になりたいな』と物心ついた頃からぼんやり考えていた
　　しかし
Naru(ナル)「撃って？いいよ、バキュン♡」
　　容姿端麗かつ歌の才能にも恵まれた彼は歌い手オーディション（勝手に応募された）に見事合格
　　なぜか自らの性格とは真逆の陽キャ担当となってしまい
Naru(ナル)（うう、このキャラやっぱり辛い〜・・・）
　　自分自身に抗いながら、グループのメンバーや家族に支えられつつ活動を頑張っている
Naru(ナル)（どうせみんな他のメンバーが本命だけどオレが不人気で何となくいけそうだからコメしてるんだよね）
　　短所は極度なネガティブ思考
Naru(ナル)（でも女の子から褒められるの嬉しい・・・真に受けちゃってバカみたいだけど嬉しいよぉ・・・うう、モテたい・・・）
　　なお、Naruにガチ恋しているファンは多いが本人に自覚はない模様

〇おしゃれなリビング
天宮 夢弥(あまみや ゆめみ)「あ、クライアントさんからメールだわ」
天宮 恵(あまみや めぐむ)「ゆめみ、仕事熱心なのはいいけど返信はご飯食べてからにしようね」
天宮 夢弥(あまみや ゆめみ)「はい、ママ」
　　天宮夢弥の裏の顔
　　それは家族全員のプロデュース、マネジメント等全てを担う裏方担当
　　彼女は11歳にして非常にIQが高い
　　どうすれば配信の視聴者数が増えるのか、どういう自己プロデュースが有効か
　　彼女の分析力はそれらを魔法のように導き出していく
天宮 夢弥(あまみや ゆめみ)「あ！もうすぐドキレンジャーの時間だわ！」
　　『鼓動戦隊！ドキレンジャー！』
天宮 夢弥(あまみや ゆめみ)「はぁ〜シノくん、今日もかっこいい・・・」
　　大人びた夢弥だが、年相応な部分もある
　　彼女は現在、特撮戦隊に”ドキドキブルー”として出演中の若手俳優・シノくんに夢中だ
天宮 夢弥(あまみや ゆめみ)「いつかシノくんに会いたい・・・」
　　『特報！』
天宮 夢弥(あまみや ゆめみ)「え？」
　　『イベント開催！ゲキレンジャーが君の街にやってくる！』
天宮 夢弥(あまみや ゆめみ)「嘘!?」
天宮 成輝(あまみや なるき)「どした、ゆめみ？」
天宮 夢弥(あまみや ゆめみ)「ゲキレンジャーに会えるの！こんなチャンスない!!」
天宮 恵(あまみや めぐむ)「へえ、日程は？ママと一緒に行こっか」
天宮 夢弥(あまみや ゆめみ)「えっと、10月10日みたい」
「10月10日!?」
「その日は朝から晩までスペースナイトの大会が・・・」
　　”スペースナイト”は二人が活動初期の頃からやってきた対戦型ゲーム、通称スペナイのことだ
　　ファンの間では”とらメルといえばスペナイ”と呼ばれるほど人気が高い
天宮 夢弥(あまみや ゆめみ)「スペナイは高頻度でやってるし今回くらい見送ってもリスナーは離れないわよ」
天宮 大河(あまみや たいが)「いや、いつもはソロで出てメルさんとバトってるんだけどね」
天宮 恵(あまみや めぐむ)「今回実は」
「同じチームで申し込んじゃって・・・」
天宮 夢弥(あまみや ゆめみ)「え！」
天宮 夢弥(あまみや ゆめみ)「ファンが待ち望んだ”とらメルの共闘”をやるってこと!?」
天宮 夢弥(あまみや ゆめみ)「それは・・・」
天宮 夢弥(あまみや ゆめみ)「仕方ない、って言わないわよ!?私に確認せずこんなビッグイベント申し込んでるのも解せない！」
「おっしゃる通り・・・」
天宮 夢弥(あまみや ゆめみ)「共闘配信なんて確実に視聴者数は伸びる・・・私としてもパパとママが協力するかっこいい姿を見たいわよ」
天宮 夢弥(あまみや ゆめみ)「でもシノくんには絶対会いに行くから!!」
天宮 成輝(あまみや なるき)（ゆめみも何だかんだまだ小学生だな・・・オレは巻き込まれないように静観しとこ）
天宮 夢弥(あまみや ゆめみ)「お兄ちゃんも何か言ってよ！」

〇白
　　天宮家の配信生活は前途多難のようです──