青い帽子のサンタクロース(脚本)
〇通学路
もうすぐ冬休みというある日。
颯太「あれはなんだろう?」
道路の真ん中に、青い小鳥が倒れている。
颯太「危ないっ!」
走ってくる車の前に、颯太は思わず飛び出した。車はクラクションを鳴らし、通り過ぎる。
ミア「ちょっと、きみ。危ないでしょ」
颯太「でも、小鳥が・・・」
颯太が、小鳥に手を伸ばそうとすると
ミア「待って!」
お姉さんは、ポケットから花柄のハンカチを取り出し、小鳥をさっと包んだ。
ミア「病気かもしれないから、素手で触っちゃダメだよ」
青い鳥「・・・」
ミア「残念だけど、息をしてないね」
颯太「埋めてあげなきゃ」
ミア「手伝うよ。私の名前はミア、高校生」
颯太「颯太です」
〇二階建てアパート
ふたりは、アパートのすみの空き地に、小鳥を埋葬した。
〇ダイニング(食事なし)
母さん「颯太、今週は雪になりそうよ」
母さん「そろそろ、冬のジャンバー出しなさいね」
颯太「う、うん」
颯太(どうしよう)
颯太は、大きなため息をついた
貯金箱をひっくり返す。
颯太「全財産522円!!」
颯太「これじゃ、新しいジャンパーは買えないか」
〇通学路
数日後
「颯太さ〜ん♡」
颯太「だれか呼んだ?」
目の前に現れたのは・・・
青い鳥「こないだは、ありがとうございました」
颯太「きみ、生きてたの?」
青い鳥「死にました。病気と寒さで、死んでしまったんです」
青い鳥「でも、あなたのおかげで魂が救われました」
颯太「よくわからないけど、よかったね!」
青い鳥「ええ。颯太さんのおかげです」
青い鳥「お礼にこれを受け取ってください」
足元に、青いふわふわしたものが置いてある。
青い鳥「ぼくの羽根を編み込んだ帽子です」
青い鳥「これをかぶると、動物や樹木の声を聞くことができるんです」
青い鳥「きっと、颯太さんのお役に立ちます」
颯太「ありがとう」
青い鳥「いつも近くで見守りしておりますね♡」
青い鳥は飛び立っていった
颯太「っくしゅん。とりあえず、かぶってみるか」
颯太「あったかい」
〇ゆるやかな坂道
「さむいよ。 おうち、帰りたい」
颯太「子どもの泣き声? だれもいな・・・あ、猫だ」
くわた「ここ、どこ? おうち、かえる」
颯太「迷子かな」
ミア「あ!颯太くん?」
ミア「・・・の猫?」
颯太「迷子みたいです」
ミア「名前わかるかな」
くわた「ぼく、くわた」
颯太「名前は、くわた」
ミア「くわた?ほんとだ。 首輪に”くわた”って書いてある」
ミア「そうだ!ちょっと待ってね」
ミア「SNSで”くわた”って猫を探している人がいる。連絡してみるね」
まもなく、飼い主さんが迎えにきて、くわたは、無事に家に戻った。
颯太「っくしゅん」
ミア「颯太くん、上着なしで寒くないの?」
颯太「大丈夫です」
颯太「いや、寒いです」
颯太「実は、ジャンパー破れちゃって」
颯太「叱られるから、母さんに話してないんです」
ミア「猫を助けて破れたって言いなよ。 きっとお母さん許してくれるよ」
颯太「そうかなぁ(いや、ない)」
ミア「ま、がんばって」
颯太「母さんだってもう何年も同じコートを着てるのに、買って欲しいとは言えないよな」
颯太「あーあ、猫よりもお金が落ちてないかなぁ」
〇ダイニング(食事なし)
「ただいま」
母さん「颯太、これどうしたの!」
母さんの手にはぼくのジャンパーが。
颯太「やばっ」
颯太(実は、猫を助けて・・・)
颯太(いや、正直に言おう)
颯太「木の枝に引っかけて、破れたんだ」
母さん「いつ!?」
颯太「3月頃?」
母さん「そんなに前から? どうしてすぐに言わないの!」
颯太(そりゃ怒られるから)
母さん「まったく、あんたって子は」
母さん「ぼうっと歩いてるからでしょ」
母さん「今年はボーナスだって減らされたし、」
母さん「新しいジャンパーを買う余裕なんて ないんだから」
颯太「別にこのままでも平気だよ」
母さん「母さんが嫌なの!」
母さんは目に涙を浮かべて怒っていた
どうして泣いているのか、わからないけれど
母さんが泣いていると、ぼくはなんだか困ってしまう。
〇商店街
明日はクリスマス。颯太は、母さんへプレゼントを選ぼうと商店街へやってきた。
颯太「はぁ。522円で何か買えるかなぁ」
ふと、前を歩いていたおばあさんが、よろよろとぶつかってきた。
颯太「だ、大丈夫ですか」
おばあさん「いいえ。お金を落としてしまったのよ。百万円」
颯太「ひ、ひゃくまんえん?」
おばあさん「孫が事故を起こして困っているから、送ってやらないと。どこにあるか、あなた知らない?」
颯太「えーっと・・・困ったな」
「向こうに駐在所があるよ」
颯太「駐在所で警察に相談して・・・」
おばあさん「だめよ!警察は、孫が逮捕されるわ」
おばあさん「お金を見つけてくれたら、あなたに1割あげるから、ね。探してちょうだい」
警察官「どうしました?」
颯太「助かった」
颯太は警察官に事情を話した。
警察官「おばあさんの話では、犯罪に巻き込まれている可能性があるね。お金を落としたということだけど、本当かどうか・・・」
「こっちよ。おばあさんが落としたところを見たわ」
颯太「じゃあ、ぼく、これで」
〇公園のベンチ
街路樹の声に導かれて、公園にやってきた。
「トイレの奥にあるベンチの後ろを見て」
地面に薄く積もった雪を払うと・・・
颯太「ポーチが落ちてる」
うさぎの刺繍のついたポーチの中には・・・
一万円札がぎっしりと入っている。
颯太(ど、どうしよう)
颯太はあたりを見回した。
雪がすべての音を飲み込むように、静まりかえっている。
颯太(このまま黙って持ち帰っても、だれも・・・)
どくん、どくん。
心臓の音が大きく耳に響く。
「・・・・・・」
颯太「どうして、みんな、なにも言わないんだよ!」
颯太は、強く息を吸い込み、封筒をポケットに入れて走り出した。
颯太(新しいジャンパーと母さんのコート、漫画の最新刊、ゲーム機、携帯電話、それから・・・)
風が頬に冷たくぶつかる。
欲しいものをありったけ思い浮かべてみようとするが、続かない。
〇商店街
颯太「あの、これ!」
警察官「どこで見つけたんだい」
颯太は見つけた場所を詳しく伝えると、名前も言わずに、その場を走り去った。
警察官「あ!待って」
〇二階建てアパート
颯太はそのままアパートまで走った。
颯太「なんで、走って逃げてきたんだろう。お礼をもらえばよかったかも」
颯太「結局、母さんのプレゼントも買えなかった」
ミア「颯太くん!」
颯太「ミアさん!」
ミア「会えてよかった。これ、着てみて」
ミアは大きな紙袋から、ジャンパーを取り出した。
ミア「ピッタリ!似合ってる!」
颯太「そうですか」
ミア「弟のなんだけど、あまり着ないうちに、すぐ小さくなっちゃって。よかったら着てもらえる?」
母さん「颯太?あの、どちら様ですか?」
颯太「母さん」
ミア「はじめまして。ミアと言います」
ミアは、これまでのことを母さんに話した。
小鳥を助けて埋葬したこと、
迷子の猫を保護したこと。
母さん「まぁ、颯太がですか?」
ミア「颯太くんは、優しくて、強くて、頼もしい小学生です!」
母さん「まぁ」
〇二階建てアパート
おじさん「すみません。田部颯太くんを探しているのですが」
母さん「颯太はうちの子ですけど」
おじさん「きみが、颯太くんだね」
おじさん「先ほどは、母が大変お世話になりました。本当にありがとう」
颯太「どうして、ここがわかったんですか」
おじさん「警察から話を聞いて、近くの小学校に問い合わせて、写真を見せてもらったんだ」
母さん「なんの話ですか?」
おじさんは、あのお婆さんの息子だった。
困惑している母さんに、おじさんが事情を説明した。
おじさん「颯太くんは、お礼も断り、名乗らずに帰ってしまったと聞きました」
母さん「そうなの?」
颯太「ぼくは、たまたま見つけただけだから」
颯太(青い帽子と教えてくれた公園の木のおかげだ)
おじさん「立派なお子さんですね。私も同じ年ごろの子どもがいますが、自慢の息子さんで羨ましいです」
母さん「ありがとうございます」
おじさん「また、改めてお礼に伺わせてください」
おじさんは、商店街のケーキ屋さんの箱を置いて帰った。
〇二階建てアパート
ミア「私も、帰ります」
ミアが置いていった袋の中には、颯太へのプレゼントが入っていた。
母さん「あら。ミアさんがかぶってるの、 弟さんとお揃いだったのね」
颯太「あ!青い帽子!」
ミアは、颯太と同じ青い帽子をかぶっていた。
声が届いたのか、ミアは振り返り、大きく手を振った。
母さん「颯太、昨日は怒ってごめん」
颯太「ぼくも、黙っていてごめんなさい」
母さん「今年はプレゼントがたくさんね」
颯太「ぼくも、母さんになにかプレゼントをしたかったんだけど・・・」
母さん「プレゼントなら、もうもらったわ」
母さん「今日は、颯太のいいところをたくさん聞けて、母さん、こんなに、うれしい日はないわ」
母さん「颯太は、青い帽子のサンタクロースだね」
雪の舞い散る空に、きらりと青い星が光ったように見えた。
青い鳥「メリークリスマス」
素敵にお話ですね。
現実的にこうしたことが起こりにくい殺伐とした現代だからこそ、心にしみるお話でした。
お金を拾った後の颯太くんの葛藤に涙が出そうになりました。ミアちゃんが何気に物語全体の潤滑油というか読者の心の箸休めというか、颯太のそばにいてくれてホッとする存在でした。
颯太くんが動物にも人にも優しくできてお母さん想いでいいなと思いました。青い鳥の恩返しも可愛くて、絵本にもなりそうなストーリーでよかったです!