白繭の同居人

彼岸りんね

第三糸「包帯男の受難」(脚本)

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〇古いアパートの一室
「・・・ん」
???「・・・はぁ・・」

〇白いバスルーム
???「・・・」
  シャカシャカ、洗面台で歯を磨く。
???「・・・ぺ」
  そして吐き出す。
  次は顔を洗う為にガーゼを濡らす。
  ・・・以前はガーゼを濡らさなくても豪快に手で洗えていた顔は、もう無い。
???「・・・痛っ」
  気を抜くと肉を傷付け、血がすぐに出てくる。

〇アパートのダイニング
???「・・・」
  ──俺は『大神魎兵』22歳。無職。
  旧日本軍の退役軍人だ。
  今は給付金で生計を立てている。
  ・・・働こうにも、そもそもこんな包帯だらけの男、雇ってくれない。
  というか雇ってくれた所で、客が怖がって瞬殺だ。
大神魎兵「・・・俺だって、顔があればまあまあなトコ行けたっての」
  ゴミ袋片手に、そんな悪態を付いて家を出る。

〇通学路
  ドサッ・・・
  気怠げにゴミ袋を投げ置く。
大神魎兵「・・・」
  こんなゴミでも行く所があるのに、俺にはどこにも無い。あるとするなら・・・
子供「あっ!包帯のにーちゃん!!」
大神魎兵「おっ、久しぶり」
子供「おはようございます」
子供「にーちゃん最近元気なさそーだぞ」
大神魎兵「そうかぁ・・・?」
子供「ま、今度カードバトルしましょーよ!」
子供「おっ!いいないいな!やろやろ!」
子供「場所はにーちゃん家な!」
大神魎兵「・・・別に良いけど負けても泣くなよー」
子供「なっ、泣かねーっての!」
子供「じゃあ放課後〜!」
大神魎兵「おう!」
  ・・・なんか、
  空気ぶち壊されたー!!!
  ま、まあ、子供はかわいいから好きだけど・・・
大神魎兵「・・・」
  ああして学校に行って、話聞いて、帰って来て、誰かと遊ぶ。
  それがどんなに素晴らしかったことか、
  今になっては思い出せない・・・
  あんな約束しちまったけど・・・給付金も底をつきそうで、結構カツカツだし
大神魎兵「・・・!」
  その時、俺はとある話を思い出した。

  この話は俺が軍にいた時、知人となった奴が言っていたことだ。

〇作戦会議室
大神魎兵「・・・」
呑気な男「ん?どした大神」
大神魎兵「!・・・いや、」
呑気な男「なんだよ〜話してみろよ〜」
大神魎兵「──その」
大神魎兵「・・・・・・もし、大怪我して帰ったら・・・その、生活どうしよう・・・って」
  当時。俺は大怪我を負い、戦争が終わった後、働けなくなったときのことを考えていた。
  あの時は本気で心配していたけど、
  本当に大怪我を・・・大火傷を負うなんてことは微塵も思わなかった。
  俺が生きている間に戦争が終わるとも限らなかったし、
  周りからは無駄だと思われていたかもしれない。
呑気な男「あー・・・まあ最低でも給付金は出るだろうけど」
呑気な男「貰えるのも最低で4年だろうな〜」
大神魎兵「・・・」
大神魎兵「そうですよね!?」
呑気な男「・・・・・・まあ俺なら家にいるより「刑務所」を選ぶな」
  呑気そうな男は俺に、にへら、と笑ってみせた。
大神魎兵「・・・・・・け、刑務所・・・って」
呑気な男「普通に帰れたら良いけどさ、大怪我とロクに働けなくなるときた。・・・正直、」
呑気な男「家族から見れば「ただのお荷物」だってことさ」
大神魎兵「・・・」
呑気な男「そこらの家畜と同じように扱われたくないなら、適当に軽い罪でも犯して」
呑気な男「刑務所生活ってのも悪くはないと思うぜ?」
呑気な男「自分の出来る作業やって、給料貰ってさ? 決まった時間に飯食わせてもらってよ」
呑気な男「そう考えると娑婆より刑務所の方が良いってもんだ」
大神魎兵「・・・そうすね」
  俺は、「自分の心配に真面目に答えてくれたこと」
  「思ったより先のことをちゃんと考えているんだ」となんだか落ち着いたのとおんなじように関心した。
  「この先輩はなんだかんだだ頼りになる。」
  そう思った瞬間でもあった。
呑気な男「まあ女は抱けねえけどさ!!」
大神魎兵「・・・」
  ・・・・・・・・・・・・やっぱ嘘。

〇通学路
大神魎兵「・・・」
  俺はそれの話の内容で頭をいっぱいにして
  家に帰った。

次のエピソード:第二糸「逃亡」

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