実験ファミリーの日常

ココチビ

読切(脚本)

実験ファミリーの日常

ココチビ

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実験ファミリーの日常
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〇森の中
  春の始め、森には多くの生命が溢れていた。
「おはよう」
  呼びかけても誰も返事をしない。
  すると、急に一人が空に向かって飛び立った。
  それに続くように、何人もが一斉に空に飛び立つ。
  僕も慌てて、それに付いて行こうと飛び立った。

〇アマゾンの森
  初めて見る空からの景色は、とても美しかった。
「きれいだ」
  どこに向かうのだろう?
  目的地も分からないのに、なぜか向かわなければならないことだけは分かる。

〇アマゾンの森
  やがて日も暮れようとしていたが、僕らは気にせず進み続けた。

〇アマゾンの森
  そして、次の日も、また次の日も、僕らは休みなく羽ばたき進み続ける。
  途中、力尽きて地面に落ちていく者。
  敵に襲われ、命を落とす者。
  そんな仲間さえも見捨てて、ただ必死に進み続けた。

〇森の中の沼
  やがて、僕らは目的地まであと半分という場所にやって来た。
  そこで、僕らは子をなし。
  そして、力尽きた。

〇森の中の沼
「お父さん? お母さん?」
  呼びかけても返事はない。私は産まれた時から一人だった。
  別に寂しくはない。
  やるべき事は分かっているから。
「そろそろ時間だわ」
  私を含んだ皆が一斉に空へと羽ばたいた。

〇空
「キレイだわ」
  私は希望と期待に胸を膨らませて羽ばたく。
  しかし、そんな気持ちは長くはもたなかった。

〇空
  それは、この旅路が決して楽なものではないとすぐに思い知ったから。
  止むことのない雷は不安を煽るかのように鳴り響く。
  吹き荒れる風には多くの仲間が犠牲になった。

〇沖合
  嵐が過ぎ去っても、困難は続く。
  それでも、私達は目的の場所に着くまで羽を休めることはしない。
「この命のバトンを、決して私で途絶えさせてはいけない」
  みんな、気持ちは同じだった。

〇睡蓮の花園
「着いたわ」
  長い道のりだったが、私達はようやく目的の場所たどり着いた。
  そして、私達は子を作り次の子孫に思いを託した。

〇睡蓮の花園
「今日もいい天気だ」
  言葉を返す者はいないが、私は平気だった。
  なぜなら、自分には使命があったから。
  私は代々続いているこの命のバトンを、次の世代に繋げなければならない。
  道は険しい、世代をまたいでやって来た道を私は一人で戻らなければならない。
  しかし、不安はない。
「行こう、そろそろ奴らがやってくる」
  私は羽を思いっきり羽ばたたせて飛び立った。
  それを見て回りも一斉に飛び立つ。

〇沖合
「きちんと付いて来ているか?」
  仲間の心配をしてやる義理はないのだが、群れの長として確認を行う。
  これからの旅は、私の立ち回りによって犠牲者の数が決まる。
「おっと、スピードの出しすぎだな」

〇空
  旅は順調だった。
  嵐や雷にも見舞われたが、私の指示で事なきを得た。
  これも、心に刻まれたこれまでの家族の経験のおかげだろう。

〇森の中の沼
「ここは・・?」
  途中、なぜか懐かしさを覚える景色があった。
  立ち寄ろうかと考えたが、そんな時間はないようだ。
  奴らは、もうすぐそこまでやって来ている。

〇アマゾンの森
「あと少しだ。皆、頑張れ!!」
  私は皆に檄を飛ばしながら、最後の力を振り絞って飛んだ。
  後少し、・・・あと少しなんだ。
  目の前がかすんで、もう諦めようとした・・・その時――!?
「見えた!!」

〇森の中
「着いた。ついたぞーーーー!!」
  感情の高ぶるままに声を上げた。
  不可能とさえ思えた距離を、遂に私はこの身一つで渡り切ったのだ。
  遅れて仲間達が、次々に到着する。
「皆、ご苦労。それでは早速、各自で冬支度を澄ませるように!!」
  私達は先祖が代々身を寄せて冬を過ごしてきた、一本の木に降り立った。
  その木に皆で身を寄せ合い、奴ら(冬)から身を守り、耐え忍んで春を待つのだ。
  そして、子をつくり。その子がまた旅立つ。
  オオカバマダラ
  この蝶は、世代をまたぎ移動を繰り返します。カナダからメキシコまでの距離を、数百にも及ぶ群れで移動を行うのです。
  また、南下は一世代で行うのに対して、北上に関しては世代をまたいで行います。
  永遠に続く命のバトン。
  オオカバマダラは会うこともできない家族の思いを背負い、今日もそのバトンを見知らぬ道を進み次の世代に繋いでいくのです。

〇魔法陣のある研究室
ロボくん「で、こんな物をVRで見させて何を考えているんですか、ハカセ?」
ハカセ「いやー、オオカバマダラはすごいよな」
ロボくん「いや、何か企んでるのは分かっていますから」
ロボくん「こんな、大がかりなVR映像まで作って。 しかも、ハカセは3匹目でカッコいい役をやってたし」
ロボくん「一体何をさせようと言うんですか? あと、隣にいるその人は誰ですか?」
ハカセ「あぁ、この人はお前の新しいお母さんだ」
ロボくん「は!?」
ハカセ「いやー、よかったな。君にも、お母さんができて」
ロボくん「いや、急にそんなこと言われても困ります。それに僕ロボットだし、母親とかいらないと思います」
ロボくん「あとその人、人間じゃないですよね? どこで拾って来たんですか?」
ハカセ「いや、人間だ。 ロボ君、失礼だぞ」
ハカセ「それに拾ってきたわけではない。 雇ったんだ?」
ロボくん「雇った?」
ハカセ「知らないのか、ロボ君。 最近はレンタル何とかって流行っていて、対価を払うと何でもしてくれるんだよ」
ロボくん「対価?」
ハカセ「あぁ、彼女はなぜか血液を対価として欲しいそうだ」
キュウ・ケ・ツキ「(ニコッ)」
ロボくん「・・・」
ハカセ「名前はキュウ・ケ・ツキさんだ。 これから実験的に一緒に暮らすことにしたから、仲良くするように」
  僕はショートしそうな頭を無理やり働かせて、初めの問題から片付けることにする。
ロボくん「まぁ、とりあえずそれはいいです。 話を戻しましょう。いったい何が目的なんです?」
ハカセ「家族リレーに出たい!!」
ロボくん「家族リレー?」
ハカセ「そう、家族リレーだ。オオカバマダラみたいにバトンを繋ぐんだ」
ロボくん「えっ!?  家族リレーって運動会とかで、親子でリレーをする競技のあれですか?」
ハカセ「そう、それだ!!」
ロボくん「いや、何で急にそんなことを?」
ハカセ「よく聞いてくれた。 朝、散歩をしていた時なんだが、向かいの家に住んでる男にたまたま会ったんだ」

〇海岸線の道路
向かいの男「やぁ、こんにちはハカセさん」
ハカセ「あぁ、お向かいの」
向かいの男「お散歩ですか? いいですねー、健康的で。僕も今日からランニングを始めたんですよ」
ハカセ「(いや、何も言ってないんだが)」
向かいの男「いや実はですね、今度息子の体育大会で家族リレーに出ることになりましてね。 今なまった体を鍛え直しているところなんですよ」
ハカセ「・・・」
向かいの男「あっ息子達が追い付きましたね」
向かいの男「よし、ゴールまで競争だ!! じゃあ、ハカセさん失礼します」
むさし「あっ、ずるいよパパ。 じゃあね、おじさん」
さおり「いつまでも子供なんだから。 すいません、失礼します」
ハカセ「・・・」

〇魔法陣のある研究室
ハカセ「あぁーーーー。 何だ、あの青春家族は。思い出すだけで、胸の中から何とも言えない感情が溢れてくる」
ロボくん「つまり、向かいの家族が羨ましかったんですね」
ハカセ「いや、別に羨ましくなんてない」
ロボくん「でも今、羨ましくて叫んでいましたよね?」
ハカセ「いや、これは違う。 断じて違う」
ロボくん「(めんどくさいな。こういう時、絶対認めないんだからハカセは) じゃあ、何で家族リレーをしようなんて言い出すんですか?」
ハカセ「それは・・・」
ハカセ「あぁ私は効率厨だからだ」
ロボくん「!?」
ハカセ「私が健康のために散歩するのに対して、奴は健康と家族の絆、さらに運動会での名声までも得ようとしている」
ハカセ「効率厨の私としては、奴に負けておれん。 とりあえず、もう申し込みは済ませてある。明日、運動会に向けて皆で頑張ろう」
ロボくん「明日!?」
ハカセ「ちょうど明日開催する学校を見つけてな。我々の絆ならぶっつけ本番でも大丈夫だろう。奴よりも手っ取り早く青春を謳歌してやろう」
ロボくん「(ついに本音が)」
  しかし、ロボ君はそれ以上何も言わず、その場からそっと離れるのであった。

〇グラウンドのトラック
  そして翌日、僕らは運動会の家族リレーに参加した。
  しかし、走るたびにオイル漏れを起こすロボット、日傘をさしながら軽やかに歩く吸血鬼、バテバテで走ることもままならない博士と
  家族リレーよって絆を深めるどころか、
  ハカセの黒歴史がまた一つ増えただけだった。
ロボくん「僕ら家族のバトンはいつか繋がる日が来るのだろうか」

  fin

コメント

  • オオカバマダラの3匹目がやけに暑苦しくて違和感あったけど、ハカセのカメオ出演だったんですね。ツッコミに特化したロボくんと昼間は役に立たないキュウさんと効率厨のハカセが非効率にドタバタする即席ファミリーの日常、面白かったです。次回は家族丸ごとチェンジしてそうだなあ。

  • 物語の冒頭の飛び立つシーンからどんどん物語に引き込まれていき、それがオオカバマダラの生体だと明かされ、さらにそれをVRで見せられているロボくんという設定がよかったです!同じVRを見ていた気持ちになりました。そこからの変わったハカセのストーリーはユーモアたっぷりで面白かったです。

  • 自然界は天候だったり気温だったり、敵がいたり、毎日の食べ物が保証されていなかったり、本当に厳しいんだと、このお話を読んで改めて考えさせられました。
    そんな中、命のバトンを繋ぐ姿に感動しました。

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