届かない月

藤崎 りりす

届かない月(脚本)

届かない月

藤崎 りりす

今すぐ読む

届かない月
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇本棚のある部屋
  私は、ありがちな話だけれど、両親は不仲で、通っている中学ではわかりにくい形でいじめを受けていた
  学校にいる最中は、クラスメイトが私のことを見ながらヒソヒソ、ニヤニヤとしていた
  一度、スマホの録画機能で、皆が私を嘲笑する光景をこっそり撮影しようとした
  でも、すぐにバレてしまい、担任に報告され、私がスマホを没収されただけで終わった
春樹「なんだよそれ。俺がお前と同じ学校だったら、そいつら全員潰してやるのに!」
  幼なじみの春樹が、電話で心底怒っているように言う。そう、私には、幼なじみという、この世で唯一の味方がいた
  春樹と小学校は同じだった。でも、春樹は頭がよくて、中学校は私立に進学した
  そのために引っ越ししたので、極端ではないけれど、あいにく距離が離れてしまったのだ
主人公「こうして春樹に電話で話を聞いてもらえるだけでもじゅうぶんだよ」
  私がスマホを没収されたことを、パソコンのメールで春樹に伝えたら、春樹から家電に電話がかかってきたのだ
  それからは、お互い、家電で電話している。子機を持って、自分の部屋でこっそりと。まるで秘密のデートみたいで、ドキドキした
春樹「そう言ってもらえるのはうれしいけどさ。何もできない自分が情けなくなる・・・」
主人公「ほんとに、気にしないで! そういえば、『こころ』読んだよ」
  春樹は、夏目漱石が好きなんだそうだ。だから、その影響で、私も夏目漱石の作品を読むようになった
春樹「おっ、どうだった?」
主人公「うーん、ヒロインが悪女って感じ!」
春樹「ははは、お前らしいな」
春樹「・・・そういえば、今日は月が綺麗ですね」
主人公「春樹、いきなり口調変わってない? 確かに、今日は月が綺麗だけど」
春樹「ごめん、今の忘れて!!」
主人公「・・・変な春樹」
  なんだかまるでラブコメのようなやり取りだな、と思った

〇本棚のある部屋
  後日、「月が綺麗ですね」で検索して、その意味を知ると、春樹との会話は、本当にラブコメまがいだったのだとわかった
  春樹が、夏目漱石が「I love you」の日本版で言ったという逸話があるこの言葉を、ふざけて使うことはないと思う
  ということは、普通に考えてみて、春樹は私のことが好きなんだろう・・・
  私は、緊張で震える手で、パソコンから『今度の日曜、渋谷で会えない?』と春樹にメールした
  すぐに返事があって、『あー、いいよ』と、素っ気ないものの、OKだった。待ち合わせ場所と時間を決めた
  会う前日は、緊張して一睡もできなかった

〇広い改札
  当日
春樹「よっ、お待たせ」
主人公「えっ?」
春樹「何キョドってんだよ、春樹だよ」
主人公「ああっ、うん!」
  春樹って、こんなにノリが軽かったっけ・・・?
  それに、髪の色も派手になっている
主人公(まあ、あんまり細かいことは気にせず、楽しもうっと!)

〇公園のベンチ
春樹「ふー、今日は遊んだな!」
主人公「う、うん。楽しかったね」
  私は、一日中春樹と遊んで、楽しかったは楽しかったものの、なんだか春樹に違和感を抱いていた
主人公「月が・・・綺麗ですね」
  だから、おもいきってそのセリフを言ってみた
春樹「あ? 何それ?」
主人公「えっ・・・春樹が、電話で教えてくれた言葉じゃん」
春樹「あー、それか」
春樹「そろそろネタバレしようかな」
春樹「あのさ、お前がいつも電話してるの、実は俺じゃないんだよ」
春樹「同中のクラスメートで、男友達もろくにいない陰キャがいるんだけど、そいつなんだ」
春樹「お前のこと、直接紹介しようとしたんだけど。そいつ、自分じゃどうせ女の子と仲良くするのは無理だ、とかウジウジしててさ〜」
春樹「そしたら、ちょうどお前が、スマホ没収されたっていうから、じゃあ俺のフリして電話しろよって、お前の家電の番号、教えたんだ」
  ショックだった。それは、電話の相手が春樹ではなかったことというよりも
  あの楽しい電話の時間が、偽りのものだと知ったからだった
春樹「陰キャ同士、うまくいってたみたいだな! 楽しい時間のお礼にやらせろよ」
  そう言って、春樹は私のことを冷たい目で見てきた。学校のやつらと、同じような目つきをしていた
  私は何も言わず、その場から逃げ出した。後ろから、ふざけんなよドブス、とか春樹の罵声が聞こえてきた

〇本棚のある部屋
誰か「・・・もう、わかっちゃったかな」
  次の日の夜、いつものように私は家電で、“誰か”と電話をする
  誰かは、電話をかけてくるなり、そう言った
主人公「どう? いじめられっ子からかって、楽しかった?」
誰か「からかってたわけじゃないけど・・・そう思われても、仕方ないよね」
主人公「さようなら」
  カッとなって私は“誰か”に別れを告げた。電話を切り、子機を投げた
  窓から見る月は、涙でにじんで、三日月なのか満月なのかも、よくわからなかった
主人公(月が、綺麗ですね・・・)
  私の想いは、きっと誰にも届いていない

コメント

  • 切なくなりました。フランダースの犬を思い出しました。現実に甘えないようにせねばと思いました。感謝。

  • 幼馴染みを信じていただけに切ないですね。しかし、こんな性格ひねくれてるやつと幼馴染みだったなんて、、許せなさとやるせなさが混じります。
    電話してた陰キャの男性、文学のフレーズで愛をさりげなく伝えてくれて素敵でした。ぜひ、ここからの展開で続きを読んでみたいです。

  • 幼なじみだから、とても近いような遠いような存在ですよね。気持ちを打ち明けたら、関係がなくなってしまいそうな。主人公の気持ちが伝わってきました。

コメントをもっと見る(5件)

ページTOPへ