川成ヒトミは成人しない

暖簾下ウォーター

1/2(脚本)

川成ヒトミは成人しない

暖簾下ウォーター

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〇街中の道路
  1月。
  年末年始の浮き足立った雰囲気も落ち着き始めた頃、世間は次なる一大行事に向けて動き出す。
  少し歩けばショーウィンドウを彩る振袖の数々に目を奪われる、そんな季節。
  即ち──
ヒトミ「成人式、か・・・」
  どこもかしこもそれ一色となった街の光景に、川成ヒトミは嘆息する。
  19歳、来月間もなく誕生日を迎える彼女もまた、今年の成人式の当事者だった。

〇黒
  昔から、当たり前であることが嫌いだった。
  なんとなく皆に合わせる。
  なんとなく褒められるように動く。
  そんな行いが苦手で、そんな周囲の人間がどこか気色悪く思える。
  家族や先生の期待をよそに、幼き日のヒトミは、子供ながらに自分なりの”自分らしさ”を確立していった。
  そして、世間もまた、彼女の成長と共に変化していった。
  ”個性を活かせ”
  ”常識に囚われるな”
  ”自分らしく生きろ”
  ネットが普及し、若い世代のこういった主張が広まり始めた世の中を前に、ヒトミは自分の正しさを確信した。

〇街中の道路
  故に今、誰の振袖姿を前にしても
  川成ヒトミは動じない。
  かねてから不参加を表明していた明日の成人式に、堂々と参加しない。
  ただそれだけのことと頭を切り替え、年内最初の連休を謳歌する、そう決めたのだった。

〇街中の道路
ヒトミ「っはあ〜、遊んだ遊んだ〜」
ヒトミ「マユってばほんと変わらないよね〜。 天才だし可愛いしそれでいて天才だし? ほんっと一緒にいて楽しいわ〜」
  スマホを片手に夜道を歩く。
  今日一日遊び歩いた相手と言えど、現代女子の長話は尽きることを知らないのだ。
ヒトミ「・・・でさ、そん時の飲み会でハナ先輩が──」
ヒトミ「・・・って、アレ? もしもーし、マユ? アンタ起きてる?おーい?」
ヒトミ「・・・寝息が聞こえる。 あんにゃろう、また寝落ちか〜」
  ポケットに手を突っ込み、スマホをしまいながら暖をとる。
  インナーに仕込んだ貼るカイロが温もりを残していることに気づく。
  少しでもその恩恵を受けるべく、グイッと背中を丸めて歩く。
ヒトミ(・・・そういえば元気なさそうだったな、マユ。 そりゃそうか、資格の勉強が大詰めだって言ってたしな・・・)
ヒトミ(徹夜続きで満身創痍とか、私にもそんな時期がありましたね〜。 まあもう関係なくなるんですが)
  年度末をもってヒトミの大学生活は終わりを迎える。
  2年で中退した大学生がそう簡単に就職可能なほど、世の中は甘くない。
  バイトをしながらの就活も望みは薄く、普通でない生き方では人生袋小路だ、ということを、流石のヒトミも理解するしかなかった。
ヒトミ(・・・正しくなかったのかな、私のやり方は)
ヒトミ「──なーんて、ちゃんとアテはあるんだもんね! そもそもここまで来て普通に就職なんて考えてないし!」
ヒトミ「決まりきった常識なんてこれまで散々壊してきたし? むしろ今風の生き方を確立してやった方が将来のためだったり!」
  ふと、目の前のコンビニから人が出てきたのに気づく。
  両手の袋いっぱいに缶や酒瓶を買い込んだその男性は見るからに陽気で、いかにも人生を謳歌していそうな顔つきに見えた。
ヒトミ(そういえばあの飲み会もハナ先輩の成人前夜祝いだったっけ。 ハナ先輩も早生まれだから・・・)
ヒトミ「なんだ、今の私と同じでギリギリ未成年だったんじゃん! ハナ先輩やってんな〜」
  そう言いつつ、それを咎める気持ちなどないことにヒトミは気づく。
  むしろ、それを口実にしようとしていることも自覚済みだ。
ヒトミ(・・・ま、ほんの1ヶ月早いかどうかの違いだし? 景気づけも兼ねてここらでひとつ人生初体験としゃれこみますかね・・・)
  進路を変更し、そのままコンビニの自動ドアをくぐろうとしたところで──
「・・・ヒトミ先輩?」
  じっ・・・と自分を見つめる眼差しに気づくのだった。

〇街中の道路
ヒトミ「おっ、なんだミヨじゃん! あけおめ〜ことよろ〜」
ミヨ「はい。喪中なのでご挨拶は遠慮いたしますが・・・ 今年もよろしくお願いします、先輩」
ヒトミ「あー・・・そういえば去年おばあちゃん亡くなったんだっけ? 大変だったねぇ」
ミヨ「その節はどうも・・・ 先輩に悼んでもらえて、祖母も嬉しかったと思います」
  ミヨの祖母はヒトミが小学生の頃に通っていた学童保育の先生だった。
  たった1人で学童を運営する彼女を見かね、中学からはヒトミもボランティアとして協力を名乗り出たのだが──
  そこで出会ったのが、当事小学校入学前のミヨだった。
ヒトミ「・・・あれから7年かぁ。 ずっと一緒だったから気にしてなかったけど、大きくなったね、ミヨ」
ミヨ「・・・! はい!先輩もすっかり大人になられまして・・・」
ミヨ「その、とてもカッコ良く・・・」
ヒトミ「?」
ミヨ「え、ええと! 先輩もこれからお買い物ですか?」
ヒトミ「”も”ってことはミヨも?」
ミヨ「はい。もう少し先のスーパーまで行くところだったんですけれど、せっかくなので私もコンビニにします」
ヒトミ「あ〜・・・確かに、あまり1人で夜道は歩かせたくないな〜。 大きいけどまだギリ小学生だもんねぇ」
ヒトミ「それじゃ一緒に買い物しよ。 家まで送るよ」
ミヨ「! はい!ぜひ、お願いします!」

次のエピソード:2/2

コメント

  • 彼女達の年齢設定が割と低いので、この関係性がこれからどのように変化していくのか興味深いですね。ひとみ先輩はとても凛として素敵な女性になりそうですね。

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