ただいま

鍵谷端哉

読切(脚本)

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〇オフィスのフロア
光喜「・・・ 麻田さん。俺、気付いてしまったんですけど」
麻田「ん?何?バグ?」
光喜「いや、そうじゃなくて・・・この会社、ブラックじゃないですかね?」
麻田「・・・え?」
光喜「やっぱり気づいてなかったですか」
麻田「驚いたな。今更?」
光喜「へ?」
玲香「麻田に宮田!リリース前の佳境の時期におしゃべりとは随分と余裕だな」
光喜「社長!この会社、ブラックなんですか?」
玲香「いいか、宮田。ブラックかどうかは他人ではなく自分で決めるものだ。心の持ちようでものの見方は変わる」
玲香「の程度の労働条件でブラックだと思うなら、それでいい。だが、その先に成長はないと思え」
光喜「社長。ブラックかどうかを決めるのは法律らしいです」
玲香「ほう。高度なプログラムを組みながら、ググったのか。なかなか肝が太いな」
光喜「あの・・・残業代を払わないのは違法だと書いてありますが・・・」
玲香「何を言っている?残業代なら払っているだろう?」
光喜「・・・ 貰った記憶がありません」
玲香「うちでは残業代は愛で支払っている」
光喜「貰った記憶がありません!」
玲香「お前たちを叱咤したり、寝落ちしそうになったら、ムチで打ってるだろ」
光喜「社長と俺の愛の概念が違うみたいですね」
玲香「まあ、愛の鞭って奴だな」
光喜「愛はいらないんで、お金で支給してください」
麻田「光喜よ。なにを勿体ないことを言ってるんだ?」
光喜「どういう意味ですか?」
麻田「よく言うだろ?愛はお金では買えない。つまり、愛はお金より価値があるんだ」
光喜「その言葉の使い方、絶対間違ってると思いますよ」
田中「あひゃはやひひゃひゃひゃひゃ!」
真下「社長!田中が壊れました!」
玲香「ちぃ。5日の徹夜程度で情けない。仕方ない。真下、田中を仮眠室に連れていけ」
真下「はい。おい、田中、行くぞ。睡眠の許可が出たぞ」
田中「あひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!」
玲香「いいか、みんな。田中が戦死した今、我々がその意志を継ぎ、このゲームをリリースさせるぞ!」
社員「おっす!」
光喜「辞めたい・・・」

〇大衆居酒屋
玲香「かんぱーい!リリースご苦労だったな。今日は私の奢りだ。存分に飲み食いしてくれ」
社員「・・・ ういーす」
光喜「社長・・・俺、もう帰って寝たいっす」
玲香「ん?仮眠室を使うのか?」
光喜「いや、帰るって言いましたよね?自宅ですよ、自宅。もう一か月以上、帰ってないっすけど・・・」
玲香「わかった。では私たちはお前の分まで楽しんでおこう」
光喜「あれ、楽しんでるんですか?みんな虚ろな目をして独り言をつぶやいてますが」
玲香「みんな、夢の世界に行ってるいるんだろうな。まさしく夢のような時間だ」
光喜「お疲れ様でしたー。お先ですー」

〇渋谷駅前
光喜「ああ・・・終電と始発以外で帰れるのホント、久しぶりだな」
恭弥「あれ?光喜?光喜じゃん!」
光喜「・・・ あっ!恭弥?久しぶり」
恭弥「高校以来か。光喜、今は何してんの?」
光喜「ブラック・・・ ゲーム会社だよ」
恭弥「ゲーム会社か。大変そうだな。やっぱ、忙しいのか?」
光喜「あれで忙しくないなら、世の中から忙しいという言葉は絶滅すると思う」
恭弥「あのさ、俺、人事部なんだけど・・・」

〇オフィスのフロア
玲香「ほう。うちを辞めたい、と?」
光喜「もう搾取される人生から抜け出したいです」
玲香「そうか。残念だ。私はお前のことが好きだったんだがな」
光喜「え?」
玲香「従順な犬として」
光喜「お世話になりました。今日限りでやめさせていただきます」
玲香「宮田。いつでも戻ってきていいからな」
光喜「はは。寝言は寝て言ってください。二度と戻るわけないですよ、こんな会社」
玲香「わかってないな。既にお前には毒が回っている」
光喜「毒・・・?」
玲香「それにこの会社にだっていいところがあるぞ」
光喜「へー。面白いこと言いますね。どんなところですか?」
玲香「アットホームなところだ」
光喜「・・・ お世話になりました」

〇オフィスのフロア
係長「それじゃ、宮田君の席はあそこになるから。机に指示書が置いてあるから、それにそって仕事して」
係長「わからなかったら、チャットで聞いてくれればいいから」
光喜「あの・・・ 皆さんに入社の挨拶とかしなくていいんですか?」
係長「ああ、うちはそういう古臭いの無しにしてるの。あとで、全社員向けにメールを送ってくれればいいから」
光喜「・・・はい。わかりました」

〇オフィスのフロア
男性社員「あの・・・宮田さん。このタスク、消化したの宮田さんですか?」
光喜「え?あ、はい。こっちの作業をするときについでにやった方が早いと思って」
男性社員「あれ、僕のタスクなんですけど。勝手なことしないでくれませんか?」
光喜「いや・・・その・・・」
係長「どうしたの?」
男性社員「宮田さんが、自分のタスクを勝手にやってしまって」
係長「宮田君。他人のことはいいから、自分の仕事して」
光喜「いや、自分のタスクは消化しましたよ。手が空いたんでちょっとやっただけで」
係長「そういうのいいから。自分のタスクだけやって」
光喜「は、はい・・・わかりました」

〇オフィスのフロア
係長「あ、定時よ。みんな上がってー」
光喜「あの・・・ 係長。飲み会とかってやったりしないんですか?」
係長「うちはそういうのしないの。それにほら、今はやれパワハラだのモラハラだのうるさいからね」
光喜「それなら、自分とこれから飲みに行きません?色々話を聞きたくて」
係長「ああ、ごめんさい。私もそういうの面倒くさいって思うタイプなんだ」
光喜「・・・ そうですか」

〇一人部屋
光喜「ふう・・・。早く帰れるのはいいんだけど・・・帰っても暇なんだよなぁ」

〇オフィスのフロア
光喜「あの・・・ ここの仕様なんですけど」
男性社員「質問ならチャットで送ってください」
光喜「いや、隣なんですし、話した方が早くないですか?」
男性社員「口頭だとログが残らないですから言った言わないになりますよね?」
光喜「・・・ そんなこと言わないですよ」
男性社員「あと、俺、人と話すの苦手なので」
光喜「そう・・・ですか」

〇オフィスのフロア
係長「宮田君。困るのよ」
光喜「えっと、タスクを消化するのがですか?」
係長「違うわ。早く終わらせ過ぎ。周りと合わせないと。これじゃ、同じ作業をしている人が遅いってなるでしょ」
光喜「でも、タスクを早く終わらせれば、次のタスクも消化できますし、時間があまれば新しいことだって・・・」
係長「あー、うちの部署、そういうの求めてないから」
光喜「・・・ ・・・」

〇オフィスのフロア
玲香「おかえり、宮田。シャバはどうだった?ん?」
光喜「社長が言った、毒が回っているという理由がわかりました」
玲香「ふふ。そうだろうそうだろう。お前は既に、こちら側の人間だ。さぞかし、うちのアットホームが恋しかっただろう?」
光喜「い、いえ・・・ そんなことは・・・」
玲香「隠すな隠すな。私も宮田が戻ってきてくれて嬉しい」
光喜「え?」
玲香「よし、宮田が戻ってきてくれたお祝いとして、これから30日間のデスマーチをやるぞ!」
社員「おー!」
光喜「・・・ やっぱ俺。戻ってきたの、失敗だったかも」
  終わり。

コメント

  • 社長の強キャラに笑ってしまいました。
    私自身も、作中の2つの職場のような環境で働いた経験があり、同じような感想を抱いたこともあり懐かしくなりました( ´ཫ` )
    それと、キャラクタープロフィールの内容には吹きましたww

  • ブラックではないけど、結構労働条件がきついところで働いたこと、たまに懐かしくなるのは、そこで何か学べたという自覚があるからだと思います。なんとなく社長の言っていることが間違いではないなと思える私も毒が回っているんでしょうか(笑)!

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