一冊目:月刊キラメキ(2012年7月号)(脚本)
〇体育館の中
一葉 (ヒトハ)「・・・」
一葉 (ヒトハ)「これが、最後のシュート」
詩織 (シオリ)「お待たせ、一葉」
一葉 (ヒトハ)「お母さん」
詩織 (シオリ)「先生方へのご挨拶は済んだわ。一葉はどう?」
一葉 (ヒトハ)「私も気持ちの整理がついたトコ」
詩織 (シオリ)「学校のお友達に、お別れを言わないの?」
一葉 (ヒトハ)「うん。何を話せばいいか分からないし」
詩織 (シオリ)「そっか」
詩織 (シオリ)「じゃあ、甘いものでも食べて帰ろうか。 これから、忙しくなるわよ」
詩織 (シオリ)「元気出さなきゃ。ね?」
一葉 (ヒトハ)「そうだね」
一葉 (ヒトハ)(半年間、お世話になりました)
一葉 (ヒトハ)(この体育館もバスケットも大好きでした)
ペコッ
一葉 (ヒトハ)(バスケくらい夢中になれることなんて、 他に見つかるのかな・・・?)
〇高層階の部屋(段ボール無し)
詩織 (シオリ)「運び忘れた荷物は無いわよね?」
一葉 (ヒトハ)「ありませーん!」
詩織 (シオリ)「よろしい。じゃあ、行こうか」
〇マンション前の大通り
引っ越し業者「現地にはご家族が待機されているんですね?」
詩織 (シオリ)「はい。夫が立ち合います」
引っ越し業者「了解しました」
一葉 (ヒトハ)「お父さん、仕事じゃないんだ」
詩織 (シオリ)「また一葉と暮らせるのが嬉しくて、有給を取ったみたい」
詩織 (シオリ)「何でも手伝ってくれるそうよ」
一葉 (ヒトハ)「珍しい」
詩織 (シオリ)「いつまで続くかしらね」
一葉 (ヒトハ)「三日くらい?」
〇走行する車内
詩織 (シオリ)「先に、おじいちゃんのお店へ寄るわ。 憶えてる?」
一葉 (ヒトハ)「古本屋さんだよね。お醤油書店だっけ」
詩織 (シオリ)「ショーユじゃなくて、ショウユウ。 尚友書房」
一葉 (ヒトハ)「間違えちゃった」
詩織 (シオリ)「仕方ないわ。最後にお店に行ったのは、 一葉が小学生の頃だもの」
一葉 (ヒトハ)「お母さんたちが別居して以来だから、六年ぶりだね」
詩織 (シオリ)「久しぶりにみんなと会うけど、大丈夫?」
一葉 (ヒトハ)「お父さんとおじいちゃんは時々、会いに来てくれたし平気だよ」
一葉 (ヒトハ)「でも、お兄ちゃんとは全然会ってなかったから、ちょっと緊張してるかも」
一葉 (ヒトハ)「私のこと、忘れてないといいな」
詩織 (シオリ)「・・・もっと積極的に、兄妹が会う機会をつくるべきだったわ」
一葉 (ヒトハ)「お母さん、忙しかったし仕方ないって!」
一葉 (ヒトハ)「それに、お兄ちゃんを連れて来ようとするたび、逃げ回って無理だったって聞いたよ」
詩織 (シオリ)「あの子は、家を出た母さんに怒ってたの。 お父さんやおじいちゃんが可哀想だって」
詩織 (シオリ)「理解してくれなくても、あの子とは もっと話し合うべきだったと後悔してる」
詩織 (シオリ)「思慮が足りなかったわ。ごめんね」
一葉 (ヒトハ)「大丈夫、謝らないで」
一葉 (ヒトハ)「お兄ちゃん、優しかったもの。明るくて、爽やかで、何でも出来て、私の自慢だった」
一葉 (ヒトハ)「きっとイケメンの超絶ナイスガイになってるはずだよ!」
詩織 (シオリ)「んん~・・・?」
一葉 (ヒトハ)「六年間の空白なんか余裕で飛び越えて仲良くなれる! そう、ナイスガイならね!」
詩織 (シオリ)「ど、どうかなぁ~?」
一葉 (ヒトハ)「絶対だよ!」
〇古本屋
一葉 (ヒトハ)「懐かしい! こんなお店だったね」
一葉 (ヒトハ)「漫画が沢山あった気がする」
詩織 (シオリ)「ええ、尚友書房は漫画の古書専門店なの。単行本もあるけど、ほとんどが漫画雑誌よ」
詩織 (シオリ)「他には、昔の貸本漫画なんかも取り扱っているみたいね」
一葉 (ヒトハ)「貸本漫画って?」
詩織 (シオリ)「母さんも貸本世代じゃないから詳しくないのよ。えっと」
? ? ?「レンタルビデオ屋で、漫画のレンタルしてるだろ。貸本漫画ってのはああいうヤツのこと」
? ? ?「漫画の値段が高かったから、昔の子供は借りて読んだんだよ」
一葉 (ヒトハ)「誰!?」
詩織 (シオリ)「!!」
? ? ?「入り口に立たれるのスゲェ邪魔。迷惑なオバサンとガキは、早く帰ってくんねぇかな」
一葉 (ヒトハ)「何、その言い方! 人が通れるくらい、入り口から離れてるじゃない!」
一葉 (ヒトハ)「だいたいね、いきなり現れて会話に混じってくるとか、失礼にもホドが・・・」
詩織 (シオリ)「いいのよ、一葉。喧嘩しないで」
? ? ?「──ふん!」
一葉 (ヒトハ)「失礼すぎぃ!!」
? ? ?「まったく、その通りだねぇ。どうしたんだろ。腹でも壊したのかな?」
一葉 (ヒトハ)「また!?」
詩織 (シオリ)「誰!?」
? ? ?「先程の男の友人です。ツレが大変失礼しました」
? ? ?「店員の目付きは悪いですが、尚友書房は希少な雑誌が揃った良い店ですよ」
? ? ?「お気軽にお立ち寄りくださいね」
詩織 (シオリ)「急に話しかけられて驚いちゃった」
一葉 (ヒトハ)「・・・」
詩織 (シオリ)「一葉?」
一葉 (ヒトハ)「爽やかナイスガイだぁ・・・」
一葉 (ヒトハ)「はっ!!」
一葉 (ヒトハ)「まさか!!」
詩織 (シオリ)「え、急にどうしたの?」
〇古書店
一葉 (ヒトハ)「居た!」
一葉 (ヒトハ)「お兄ちゃん!」
ぎゅっ
一葉 (ヒトハ)「綴お兄ちゃんでしょ? 私、一葉だよ。 全然変わってないから、すぐ分かった」
一葉 (ヒトハ)「久しぶりだね、また会えて嬉しいな。 元気してた?」
? ? ?「いやぁ、ははっ。うん、まぁ元気だったよ」
? ? ?「な、綴お兄ちゃん?」
綴 (ツヅル)「・・・」
一葉 (ヒトハ)「えっ」
一葉 (ヒトハ)「間違っちゃった」
根古屋 (ネコヤ)「俺、あっちで『月刊ホラー少女α』読んでくる。二人で話し合いなよ」
根古屋 (ネコヤ)「じゃーね」
綴 (ツヅル)「二択で身内を間違えんなよ。ビックリだわ」
一葉 (ヒトハ)「記憶を美化し過ぎたみたい。特に爽やかじゃなかった気がしてきた。ゴメンネ」
綴 (ツヅル)「ったく、喧嘩売ってんのか」
詩織 (シオリ)「久しぶりね、綴」
綴 (ツヅル)「!!」
綴 (ツヅル)「じーちゃん、お客さんが呼んでる!」
一葉 (ヒトハ)「あっ、お兄ちゃん!」
文蔵 (ブンゾウ)「いらっしゃい。どんな漫画をお探しかな?」
文蔵 (ブンゾウ)「タイトルや掲載紙をお忘れでも、当店の目付きの悪い古書探偵が、たちどころに・・・」
詩織 (シオリ)「ご無沙汰してます、お義父さん」
一葉 (ヒトハ)「おじいちゃんだ!」
文蔵 (ブンゾウ)「詩織さんと一葉じゃないか。家より先に、店へ寄ってくれたのか!」
文蔵 (ブンゾウ)「嬉しいねぇ。立ち話もなんだ、奥の席に行こうか。お茶を煎れよう」
一葉 (ヒトハ)「わ、ブックカフェみたい」
文蔵 (ブンゾウ)「かふぇ? そんな大層なもんじゃないよ。 ははは!」
〇書斎
一葉 (ヒトハ)「──で、新しい学校の制服はブレザーなんだけど、赤いスカートが可愛いの!」
文蔵 (ブンゾウ)「うんうん。そりゃ良かったねぇ」
一葉 (ヒトハ)「あっ、そうだ! 話は変わるんだけど、不思議に思ったことがあってね」
文蔵 (ブンゾウ)「何だい?」
一葉 (ヒトハ)「さっき『古書探偵』って言ったよね。 尚友書房には探偵さんがいるの?」
詩織 (シオリ)「古書探偵か。居るわよ」
文蔵 (ブンゾウ)「おう、居るともさ! 会わせてやろうか?」
一葉 (ヒトハ)「会いたーい!!」
文蔵 (ブンゾウ)「よしきた!」
文蔵 (ブンゾウ)「おーい、古書探偵!! こちらのお嬢さんがたに、カステラをお出しして!」
綴 (ツヅル)「バイトだからって、こきつかいすぎ。 はい、ドーゾ」
一葉 (ヒトハ)「わぁ、美味しそぅ」
一葉 (ヒトハ)「じゃなくてっ、お兄ちゃんが古書探偵!?」
綴 (ツヅル)「・・・おう」
文蔵 (ブンゾウ)「綴はな、こう見えて記憶力が抜群なんだ。 我流だが、速読の技能も持っている」
文蔵 (ブンゾウ)「これまで目を通した漫画の内容、掲載誌、掲載日、作者まで全て憶えているんだよ」
文蔵 (ブンゾウ)「子供時代に好きだった漫画を読みたいが、題名どころか断片的にしか記憶がない」
文蔵 (ブンゾウ)「そんなお客さんから話を聞いて、どの雑誌に載った何の漫画か探し出す・・・」
文蔵 (ブンゾウ)「それが尚友書房の古書探偵だ!!」
一葉 (ヒトハ)「スッゴい!!」
綴 (ツヅル)「べつに、すごくねぇし」
詩織 (シオリ)「ふふっ」
詩織 (シオリ)「ねぇ、古書探偵さん。依頼してもいいかしら?」
綴 (ツヅル)「あ、えと・・・」
詩織 (シオリ)「十年くらい前の読み切り漫画なんだけど、内容はうろ覚えで、タイトルも思い出せないの」
詩織 (シオリ)「しかも、少女漫画なんだけど、無理かな?」
綴 (ツヅル)「・・・少女漫画だろうが、探せるし」
詩織 (シオリ)「そう? じゃあ、お願いします」
一葉 (ヒトハ)「お手伝いしたーい!!」
綴 (ツヅル)「・・・邪魔だけはするなよ」
一葉 (ヒトハ)「はーい!」
詩織 (シオリ)「その漫画について憶えてることを伝えるわね。まず、掲載誌の表紙が・・・」
〇古書店
綴 (ツヅル)「当時、アニメ化して女児に人気だった魔法少女ピュアピュアが表紙だ」
綴 (ツヅル)「原作の漫画は、月刊キラメキが掲載してる。連載は四年続いた」
綴 (ツヅル)「根古屋はメモに書いた2010~2011年分を探してくれ」
綴 (ツヅル)「俺と一葉は2012~2013年分を探す」
根古屋 (ネコヤ)「二年分っていうと多そうだけど、探すのは五冊くらいか。結構、候補が少ないね」
綴 (ツヅル)「読み切りのスポーツ漫画で、主人公はポニーテールの少女、動物も登場するらしい」
綴 (ツヅル)「月刊キラメキは、小学校低学年女児が読者層だから、スポーツ漫画が少ないんだよ」
根古屋 (ネコヤ)「少年漫画とは違うんだな。じゃ、探してくる」
綴 (ツヅル)「俺たちも始めるぞ」
パラパラパラ・・・
一葉 (ヒトハ)(凄い速さで読んでる!!)
一葉 (ヒトハ)(私も頑張ろう)
〇古書店
一葉 (ヒトハ)「あっ、お兄ちゃん、これ!」
月刊キラメキ(2012年7月号)
綴 (ツヅル)「この漫画って・・・」
〇スーパーの店内
一葉 (ヒトハ)「ピュアピュアの漫画欲しいよ!!」
詩織 (シオリ)「じゃあ、ピュアレッドお絵かき帳を戻してらっしゃい」
一葉 (ヒトハ)「どっちも欲しい!!」
詩織 (シオリ)「片方だけね。だいたい、まだ漫画なんて読めないでしょ」
一葉 (ヒトハ)「お兄ちゃんみたいに読めるもぉん!!」
詩織 (シオリ)「ひーちゃん・・・」
綴 (つづる)「ひーには、俺の漫画見せてやるよ!」
綴 (つづる)「にーちゃんは店でバイトしてっから金持ちなんだ。ちょっと買ってくるな」
一葉 (ヒトハ)「ピュアピュア!!」
〇実家の居間
綴 (つづる)「面白いか?」
一葉 (ヒトハ)「うん!」
一葉 (ヒトハ)「女の子とウサギさんが、ドッチボールしてる漫画が可愛いの!!」
綴 (つづる)「えー!! ピュアピュアじゃねぇのかよ!?」
詩織 (シオリ)「ふふっ」
〇古書店
綴 (ツヅル)「・・・」
綴 (ツヅル)「やる。引っ越し祝い」
一葉 (ヒトハ)「でも・・・」
綴 (ツヅル)「あの人も、お前にやるつもりだろ。代金はバイト代から引いて貰うから」
綴 (ツヅル)「店の前で嫌味みたいなこと言って悪かった。ちょっと戸惑ってさ」
綴 (ツヅル)「お帰り、一葉」
一葉 (ヒトハ)「あ・・・」
〇古本屋
──ただいま、お兄ちゃん
過去の兄妹の出来事を覚えていて調査を依頼したお母さんも、それを思い出した一葉に再びプレゼントした綴もみんな素敵ですね。イケメン風の根古屋くんは綴探偵の助手の役割なのかな?彼の活躍するエピソードも見てみたいです。
人に歴史あり、そういう言葉がありますが、購読漫画にも歴史があるって思わされますね。いつ、どのようなシチュエーションで読んだ漫画か思い出されれば、その当時の記憶が一気に蘇りますよね。それと家族の絆を結びつけた本作、とっても魅力的ですね
こういう再会って理想ですね。大人の理由で離れ離れになった兄弟って、それぞれ辛さや悲しさを分かち合えるからこそ、こういうシーンが生まれるのでしょうね。