君の晴れ姿

市丸あや

君の晴れ姿(脚本)

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君の晴れ姿
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〇アパレルショップ
棗絢音「素敵・・・」
  ・・・藤太が産まれて半年。
  2回目の結婚記念日を迎えた、冬の終わり。
  京都市内の貸衣装屋に、藤次と、藤太を抱いた絢音がいた。
  初めて見る純白のウェディングドレスに、絢音はうっとりする。
棗藤次「ほらっ、藤太預かるよし、納得行くまで探してき!」
棗絢音「う、うん・・・」
  そうして、いそいそと担当者についていき、店の奥に消えていく絢音の背中を見送りながら、藤次は側の椅子に腰掛ける。
棗藤次「式も挙げよう言うたのに、藤太の為に無駄遣いしたないて聞かんかったし、ほんま頑固なお母ちゃんやなぁ〜。藤太?」
  ぱあぱ。ぱあぱ。
棗藤次「おお、可愛い可愛い。お前もおめかしさしたるからなぁ〜」
  きゃー!!
  自分の腕の中で無邪気に笑う息子と戯れていたら、担当者がゆっくりこちらにやってくる。
担当者「棗様、奥様の試着完了されましたが、ご覧になられますか?」
棗藤次「あ、は、はい!!」
担当者「では、こちらにどうぞ」

〇試着室
担当者「こちらです」
棗藤次「あ、ハイ。 ありがとうございます」
  まあま!まああ!
  ドキドキと胸を高鳴らせながら試着室のカーテンを開けると・・・
棗藤次「・・・・・・・・・ッ!!」
  ぱあ?
  忽ち熱を帯びる顔。
  不思議そうに自分を見上げる藤太に構わず、藤次は小さく震えながら、口を手で押さえる。
  でなければ、こんな公衆の面前で、彼女への愛を・・・叫んでしまそうになったから・・・
棗絢音「藤次さん・・・」
  華やかなレースとフリルがあしらわれた、純白のウェディングドレスに包まれた、真っ白な素肌。
  黒い大きな双眸が、優しく自分を見つめるその姿は、言葉では表現し難い美しさに呆然としていると、絢音の眉がしゅんと下がる。
棗絢音「おかしい?」
棗藤次「い、いや・・・ ええんちゃう・・・か?」
  我ながら、何とも気の利かない台詞だったと後悔していると、絢音は益々不安げな顔をする。
棗絢音「和装に、する?」
棗藤次「な、何言うてんや! ゆ、夢やったんやろ?! ウェディングドレス着るの・・・」
棗絢音「そうだけど・・・ けど、藤次さん、あんまり嬉しそうじゃないし・・・」
棗藤次「!」
  瞬間、藤次の中で何かが切れる。
  何をしている・・・棗藤次。
  怖がるな・・・
  
  恐るな・・・
  幸せにすると、決めたのだろう?
  まごつくのはもう、飽きたはず・・・
  パパパパと、腕の中で必死に何かを訴える藤太。
  この子も、彼女が自分を見つけてくれたから、受け入れてくれたから、今こうして、自分は父親として立っていられる。
  なら、その彼女に、自分にとっての女神に・・・言う言葉は一つ。
  はあと息を吐き、藤次は絢音を真っ直ぐ見つめる。
棗藤次「ほんなら、はっきり言うえ?」
棗絢音「う、うん・・・」
  不安げに頷く絢音に、藤次はニコリと笑う。
棗藤次「綺麗や・・・ ホンマに式、挙げたい。 京都中に、日本中に、世界中に、見せびらかして自慢したい」
棗絢音「本当?」
棗藤次「ホンマや。 そやし、何度も言わせんなや。 恥ずかしい・・・」
棗絢音「藤次さん・・・」
  そうして忽ち、花のような笑顔をむけてくれるから、藤次は優しく微笑み、彼女の手を取る。
棗藤次「ありがとう・・・ ワシ、最高に幸せや・・・」
棗絢音「そんなの、私も幸せよ・・・ 藤次さん・・・」

〇綺麗な教会
担当者「はーい!! じゃあ、こっち向いてくださーい!!」
棗藤次「はい! ほら藤太、絢音! カメラあっちや! 笑って!!」
棗絢音「うん! ほら、藤太!! 笑って笑って!!」
  まあま!!ぱあぱ!!
担当者「はーい! じゃあいきまーす!!」
担当者「はい! オッケーです!! じゃあ、次はこちらで・・・」
  そうして別の場所に案内していく担当者の後ろをついていきながら、藤次は綺麗にドレスアップされた絢音と藤太を抱き寄せる。
棗絢音「と、藤次さん?!」
  ぱあ?
棗藤次「・・・幸せにするからな。 それから、そろそろ子供・・・2人目も考えよ? お前似の女の子、ワシ欲しい・・・」
棗絢音「や、やだ・・・ 藤太まだ6ヶ月よ? ふ、2人目は、もう少し大きくなってからにしましょ?」
棗藤次「なんでや。 お互い歳やし、早いに越したことないやろ? せやから、今夜から避妊、無しにしような?」
棗絢音「もー・・・ そんな事今言わないでよ。 バカ・・・」
棗藤次「バカで結構。 こないな幸せ続くなら、ワシ・・・バカでええ・・・ 愛してる・・・」
棗絢音「藤次さん・・・」
担当者「あ、あの〜」
棗藤次「ああすんまへん!! せや!確かこのプラン、スマホ用の待ち受けデータもありましたよね?!」
担当者「えっ?! え、ええはい」
棗藤次「せやったら、嫁さんと息子だけ撮って下さい!!」
棗絢音「えっ!?」
  瞬く担当者と絢音に、藤次は笑いかける。
棗藤次「世界中に見せびらかしたい言うたけど、あれ、取り消す。 ワシのスマホの待ち受けの中だけに閉じ込めて、独り占めする」
棗絢音「藤次さん・・・」
担当者「わ、分かりました。 じゃあ、奥様、こちらへ・・・」
棗絢音「ハイ・・・」
  そうして藤太を胸に抱いて、絢音はカメラを向ける担当者と、自分を優しく見つめる藤次に向かって、精一杯の笑顔を見せる。
担当者「ハイ! いきまーす!!」
棗藤次「うん! ええ笑顔や!! これからもよろしくな! 絢音、藤太!」
棗絢音「うん! こちらこそよろしく! 藤次さん、藤太!」
  ぱあぱ!まあま!!
  そうして笑い合って、手を取り合って、3人は込み上げてくる幸福を噛み締めながら、明るい未来へ、歩を進めていくのでした。

コメント

  • ウェディングドレスは一般的には女の人の夢を叶えるための衣装なんだろうけど、この夫婦の場合は藤次さんの方が喜んだみたいで。それもまた良しですね。親子水入らずの挙式もいいものですね。

  • 前にもこちらの作品のシリーズを読ませて頂きましたが、相変わらず旦那さんが奥さん大好きな感じがとっても伝わってきて、読んでいるだけで何だか目がウルウルして来ちゃいました🥹これからもこの家族が幸せでありますように😌💐

  • はち切れんばかりの絢音さんへの愛がこちらまで伝わってきました。人生の先輩に、夫を幸せにしようと努めれば、きっと自分へその幸せが跳ね返ってくると教わったことがありますが、2人を見ているとその言葉の意味がよくわかります。

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