服屋にて

孫一

服屋にて(脚本)

服屋にて

孫一

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〇アパレルショップ
ヒロ「・・・・・・」
アヤメ「ヒロ、目が死んでるよ。しっかりして」
ヒロ「いや、本当に苦手なんだよ。服屋」
アヤメ「あ、店員さんに話しかけられるのが嫌?」
アヤメ「このお店は大丈夫だよ」
ヒロ「それもあるけど 俺ジャージかスーツしか着ないから」
ヒロ「服屋自体が苦手なんだ」
アヤメ「だから私服を買いに来たんでしょ」
アヤメ「私、嫌だよ。新婚ほやほやなのに 旦那がジャージしか着ないなんて」
ヒロ「そりゃそうだけど」
ヒロ「それなら俺が今まで持ってた服も 捨てなくて良かったんじゃない?」
ヒロ「引越しの時に軒並み処分したでしょ」
アヤメ「中学生の時に買った服とかばっかり だったし血の入れ替えをと思って」
アヤメ「それに三十路手前にもなって 逆さ十字柄のロンティー、着る?」
ヒロ「着ない」
アヤメ「まあ今でも着られる物はとってあるし それに合う服も選ぶからさ」
アヤメ「おしゃれしてあちこち一緒に出かけよう! ね?」
ヒロ「(下から覗き込むなよ、可愛いじゃん)」
ヒロ「わかったよ」
ヒロ「でも本当に服のことはわからないから 選ぶのはお願いします」
アヤメ「あたぼうよ!」
ヒロ「江戸っ子!?」

〇アパレルショップ
アヤメ「取り敢えず3セットくらい揃えれば 着回せるよね」
アヤメ「あ、この上着可愛い ちょっと羽織ってみて」
ヒロ「はい」
アヤメ「いいじゃん! 可愛いよ 鏡見てみ」
アヤメ「どう? 着た感じ」
ヒロ「感じって?」
アヤメ「いいな、とかイマイチだな、とか」
アヤメ「重い、軽い、暖かい、そうでもない 色々あるでしょ」
ヒロ「上着だなーって」
アヤメ「上着だよ! そうじゃないよ!」
ヒロ「カッワイインジャナイ?」
アヤメ「(片言の上に何そのアクセント?)」
アヤメ「まあいいや このアウターを基準にして選ぶか~」
  ← アウターって何だ? と思っている
  まさかアウターを知らないわけ →
  無いと思っている
アヤメ「表が緑で裏地がベージュね」
アヤメ「この色ならズボンはこれかなー もうちょい明るくてもいいかなー」
アヤメ「試しに茶色とか? うーん、どう思う?」
ヒロ「緑と茶色じゃ 沼からあがって来た妖怪みたい」
アヤメ「言い方!」
ヒロ「何となくだけど そのくすんだ白のズボンがいい」
アヤメ「くすんだって、いや確かにくすんでるけど」
アヤメ「あ、でもいいかも」
アヤメ「この色で、ジーパンとチノパンの どっちがいい?」
ヒロ「足が短く見えない方」
アヤメ「どっちも変わんないよ」
ヒロ「ジーパンは洗濯が大変なイメージだけど」
ヒロ「あれ、でも触ってみると意外と薄いね」
アヤメ「今はどれも軽い素材でできているのよ」
ヒロ「へぇー。十年服屋に来ないと変わるね」
アヤメ「十年!?」
ヒロ「十年。スーツは作ってたけど 私服を買いに来たのは十年ぶり」
アヤメ「これからはいっぱいおしゃれしてね 新妻のためと思って」
ヒロ「選んでくれるならね」
アヤメ「ちっとは勉強しようと思わんのか!」
アヤメ「まあいいけどさー愛しの旦那様のためなら」
アヤメ「取り敢えずジーパンとチノパン 両方持って」
アヤメ「試着して気に入った方を買おう」
ヒロ「(ズボン二本も試着するの!?  面倒臭っ!)」
ヒロ「(でもおしゃれって  そういうものなんだろうな)」

〇アパレルショップ
アヤメ「次はシャツだ!」
アヤメ「どんなのが着たい、とかある?」
ヒロ「無い」
アヤメ「即答!」
ヒロ「そういや昔 自分でチェック柄のシャツを買ったな」
アヤメ「結果は?」
ヒロ「家族にはゲーセンとか本屋の 隅にいそうって言われた」
アヤメ「どんなシャツなのか目に浮かぶよ」
ヒロ「結果、俺は更に服屋へ近寄らなくなった」
アヤメ「見返そうとは思わなかったんかい」
ヒロ「近寄らなければ傷付くことも無い」
アヤメ「繊細だなぁ」
ヒロ「だからああ言う陰口を 叩かれないシャツがいい」
アヤメ「要求が斜め上方向だ!」
アヤメ「お、この明るい白のシャツいいね」
アヤメ「無地だと垢抜けないから」
アヤメ「ボーダーが入っているやつにしようかな」
ヒロ「(囚人服みたいだなあ)」
ヒロ「(もしくはパジャマ)」
ヒロ「(あ、でも結構おしゃれかも?)」
ヒロ「(ん? じゃあ囚人服って  案外おしゃれなのか?)」
ヒロ「(悪いことをした人達は  俺よりもおしゃれ?)」
アヤメ「セーターとパーカー、どっちがいい?」
ヒロ「・・・・・・」
アヤメ「聞いてる?」
ヒロ「アヤメ。俺、おしゃれ頑張るよ」
アヤメ「急にどうした」
アヤメ「それよりセーターかパーカーか選んでよ」
アヤメ「触った質感とかも含めてさ」
ヒロ「・・・・・・パーカー」
アヤメ「その心は?」
ヒロ「セーターは静電気が起きるから嫌 あと乾燥機マークにバッテンがついてる」
アヤメ「意外と細かいところを見てるのね」
ヒロ「こう見えて独り暮らしが長かったからね」
アヤメ「頼りにしてるよ、その家事力」
ヒロ「任せとけ!」
アヤメ「(服選びにもそのくらい  積極的にならないかなぁ)」
アヤメ「(おしゃれって結構  楽しいんだぜ、ヒロ!)」
アヤメ「取り敢えず一式完成! 試着しようか」
ヒロ「・・・・・・」
アヤメ「何?」
ヒロ「付いて来てくれるんだよね?」
アヤメ「初めてのお使いに行く 子供みたいな空気を醸すな」
アヤメ「大丈夫大丈夫、一緒に行ってあげるから」
ヒロ「ありがとう!」
アヤメ「はいはい」

〇試着室
ヒロ「・・・・・・」
アヤメ「おー、いいじゃん! 印象が明るくなったよ!」
ヒロ「俺、辛気臭かった?」
アヤメ「・・・・・・」
ヒロ「別にいいけどさ」
アヤメ「次、今持ってきたこれを着て」
ヒロ「いつの間に!?」
ヒロ「上下白だとさ あの世の住人みたいじゃない?」
アヤメ「そんなことないよ」
ヒロ「迷いでた死人だと思われないかな」
アヤメ「こんな血色のいい死人はいない 次はズボンを履き替えて」
ヒロ「(そういや二本持って来たっけ) あーい」
ヒロ「どう?」
アヤメ「逆にどう?」
ヒロ「逆にどう!?」
ヒロ「いや、ズボンだなーって」
アヤメ「感想が上着の時と一緒じゃん!」
アヤメ「(ここまで服に理解が無いのも  希少だな!)」
アヤメ「(最早絶滅危惧種?)」
アヤメ「あー、どっちの方が履き心地いい?」
ヒロ「チノパン」
アヤメ「じゃあそっちを買おう」
ヒロ「あとさ」
アヤメ「ん?」
ヒロ「大岡越前か? ってくらい裾が余った」
アヤメ「裾上げしよう 店員さんを呼んでくる」
ヒロ「ありがとう」
店員「お待たせしました。裾上げですね」
ヒロ「ハイ、お願いシマス」
アヤメ「(随分深々と頭を下げてるな  ところどころ片言になってるし)」
アヤメ「(もしかして店員さんに怯えてる?)」
店員「腰の高さはこちらでよろしいでしょうか」
ヒロ「ア、ちょっと待ってクダサイ ・・・・・・はい、ダイジョウブです」
店員「ピンでお留めしますね」
店員「はい、こちらでお直しさせていただきます」
店員「会計後、カウンターにお預け下さい 三十分ほどで出来上がります」
ヒロ「わかりました。アリガトウございマス」
「(赤ちゃんの服が作れそうなくらい  裾余ったな)」

〇アパレルショップ
アヤメ「取り敢えず一式完成!」
アヤメ「あとは家に残っている服と 合わせたりしてみよう」
ヒロ「つ、疲れた・・・・・・ 服を買うのって大変だね」
アヤメ「でもその分格好良くなったり 可愛くなったりするよ」
アヤメ「おしゃれに目覚めてよ、旦那様!」
ヒロ「そのうちね。お会計しよう」
店員2「合計2万8千円になります」
ヒロ「(高っ! え、高っ!  俺の昼飯何日分!?)」
ヒロ「カードで」
店員2「かしこまりました」
アヤメ「今、高っ! って思ったでしょ」
アヤメ「顔に出過ぎ!」
ヒロ「5千円くらい買うのかなーって 予想しながら今日ここへ来たから」
アヤメ「本当に服を買ったことが無いんだね」
ヒロ「俺、しばらく昼飯抜いた方がいい?」
アヤメ「そうだね」
ヒロ「わかった。二度と服買わねぇ」
アヤメ「冗談だよ」
アヤメ「服を買う度に絶食してたら 痩せてサイズが合わなくなって また買い直す羽目になるよ」
ヒロ「最悪の永久機関だな」
ヒロ「あ、裾上げお願いシマス」
店員2「かしこまりました」
ヒロ「待ってる間、お茶でも飲もうか」
アヤメ「賛成!」

〇シックなカフェ
ヒロ「そういやさ」
アヤメ「ん?」
ヒロ「付き合ってる時 俺の私服ってどう見えてた?」
アヤメ「聞きたい?」
ヒロ「・・・・・・」
アヤメ「服選びのセンスに自覚があるから デートの時までスーツで来てたんでしょ」

〇遊園地の広場
アヤメ「普通、遊園地デートにスーツでは来ない」
ヒロ「あの時は究極の選択だった 私服を見せるかスーツで行くか」

〇シックなカフェ
アヤメ「せめてカジュアルなジャケットと スラックスにしてほしかったなぁ」
アヤメ「仕事用のスーツじゃなくてさ」
ヒロ「その手があったか」
アヤメ「あるわ! 気付け!」
アヤメ「ま、そういうところも好きだけどさ」
ヒロ「あ、私服へのコメントは上手く避けたな?」
アヤメ「はっはっは」
アヤメ「ヒロ、これからは一緒に服を買おう」
アヤメ「ううん、服だけじゃない」
アヤメ「二人で色々なことを一緒にやろう」
アヤメ「夫婦なんだから」
ヒロ「夫婦か」
アヤメ「赤面するなよ~顔に出過ぎ!」
ヒロ「アヤメ」
アヤメ「ん?」
ヒロ「これからもよろしくね」
アヤメ「服選び?」
ヒロ「だけじゃなくて!」
アヤメ「あはは、わかってるよ」
アヤメ「改まって何言ってんだか」
アヤメ「おしゃれして 一緒にいっぱい楽しいことしようね!」
ヒロ「ところで スーツで登山って出来ると思う?」
アヤメ「貴様本当に昼飯を抜かれたいのか?」
ヒロ「さて、帰りにファッション雑誌でも 買って行こうか」
ヒロ「おしゃれの勉強も大人の嗜みだからね」
ヒロ「(今、夫婦間のパワーバランスが  決まった気がする)」
アヤメ「そうしましょう旦那様♥」
ヒロ「はぁ~い・・・・・・」

コメント

  • 「逆さ十字柄のロンティー」ってディティールの細かさに笑いました。服のセンスない人に選んであげると「なんでもいい」とか言ってたくせに結構的確なダメ出しするのもあるあるで面白かったです。ボーダーの囚人に負けていたヒロもアヤメのおかげで素敵なファッションライフを送れそうでよかったですね。

  • 終始、新婚さんならではの穏やかな甘い空気が気持ちいいですね。無頓着男子と改善を試みる女子、よく見かける組み合わせではありますが、ヒロさん程の無頓着は笑えてきますね。このラストにはニヤニヤしてしまいました。

  • ヒロさんのように服に無頓着でも、素材が良ければ彼女や奥様次第でなんとでもなりますよね。私は女性ですが、洋服にあれこれとお金をかける男性は苦手です。奥様を信用してるところがとても愛おしいかったです。

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