私達にはもう一つ秘密がある

千博

誰にも言えない秘密(脚本)

私達にはもう一つ秘密がある

千博

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〇教室
  キーンコーン・・・
深山隼(あ、次体育だ)
  高校一年生秋 
  『男子高校生』という肩書にも大分なれた私だけど、この時間はいつになっても慣れそうにない
柳朔也「着替えだから、ほら」
深山隼「あ、うん ありがとう柳くん」
柳朔也「朔也(さくや)って呼んでよ  今は『隼』なんだから」
  そう言って柳朔也君は私を隠すように立って着替え始める
  私はいつも通り柳君に背中を向けて制服のボタンを外す
柳朔也「・・・大変だよね、八木さんも  はやく元の身体に戻れるといいね」
  そう、私の本当の姿は
     『八木楓』という女子高生だ

〇街中の階段
  あれは、中学生最後の日
  卒業式を終えた私は柳君を探していた
  既に帰ったと聞き急いで学校を出ると、
  学校前の長い階段を降り始めた彼の姿が目に入った
  ずっと眼で追っていた横顔は遠くから見ても間違える筈がない 
  私は勇気を振り絞り、駆け寄った
八木楓「柳くん!」
柳朔也「えっ?」
八木楓「あなたに伝えたい事が」
八木楓「―――きゃあっ!!」
  下り階段に差し掛かった瞬間、私の脚は階段を大きく踏み外した
  上半身から階段を転げ落ちはじめる 
  このままじゃ柳君を突き飛ばしてしまう
深山隼「朔也、危ない!」
  声と共に、柳君の隣を歩いていた男子が咄嗟に私の前に立った
  ドカッ!!
深山隼「いててて・・・あれ?」
  ゆっくりと体を起こした私の目の前には、私がいた
八木楓「痛ぇな! 急に走ってきたら危ないだろ馬鹿!」
  私は眉をつり上がらせて私に怒鳴り散らすけど、
  みるみるとその表情は困惑したものにかわっていく
八木楓「え、なんで俺がいるんだ」
柳朔也「二人とも大丈夫!?」
深山隼「柳君!」
柳朔也「怪我してない? えーっと、八木さん」
  柳君が私の名前を憶えて・・・
  と、感動する私の視界には、私に手を差し伸べる柳君の姿
八木楓「いや、何言ってるんだ朔也 俺は・・・」
  そこでやっと私は状況を把握した 
  これってもしかして
深山隼「嘘、知らない男子と入れ替わっちゃったの?」
  中学生最後の日は私の女子最後の日になった

〇教室
  あれから半年 私達は元の身体に戻る方法を探しながらお互いの生活を続けている
  男子は深山隼と言って、柳君の幼馴染だ
  思い出せば、柳君の姿を目で追っていた時に時々視界の隅にうつっていたかもしれない
  二人は同じ高校への進学が決まっていたので、入れ替わりを知る唯一の人物の柳君は高校で私が隼のふりをするのを助けてくれている
柳朔也「男子のフリをするなんて辛いだろうけど、僕もフォローするから」
深山隼「うん、ありがとう」
  私と柳君はいつも一緒だ
  真剣に元に戻る手段についても考えてくれている
  柳君だって本当は、仲良しの隼と一緒に高校生活をおくりたかった筈だ
深山隼(元の身体に戻ったら、朔也君と会う口実は無くなっちゃうのか)
  わかっているけど、いつも考えてしまう
  もし卒業式の日に普通に告白してフラれていたらこんな日々はなかった、って
深山隼(こんな気持ち、本気で困っている隼にも、協力してくれている朔也君にも申し訳ない  でも・・・)
  それは、秘密を共有する二人にさえ言えない『私だけの秘密』
深山隼(元に戻りたくない、って・・・そう思ってしまうのはいけないことだよね)
  このままの生活が、ずっと続いて欲しい

〇レトロ喫茶
  休日
  私達は近況報告を行うために毎週末ファミレスに集まることにしている
八木楓「ごめーん、待った?」
  あはは、と口を大きく開けて豪快に笑う私の姿
  この姿に最初は違和感と嫌悪感があったけれど、今ではそれも薄まっている
深山隼(・・・とはいえ)
深山隼「その恰好、派手じゃない?」
八木楓「えっ!? そ、そうか?」
深山隼「スカートも短いし・・・」
  お洒落なのはいいんだけど、なんか複雑
八木楓「で、でもクラスの女子がこれくらいは普通だって言ってたし」
八木楓「女子高生として浮かないように努力してんだよ、俺も」
深山隼「うーん、それならいいんだけど」
八木楓「朔也も可愛いと思うだろ?この格好の八木」
柳朔也「えー・・・」
柳朔也「まぁ、確かに可愛いとは思うよ」
深山隼(か、可愛いって言われちゃった)
  中身が私じゃないのは残念だけど、私を見て照れてる柳君が見られるなんて・・・
深山隼(ナイス隼!)
柳朔也「それで今日は・・・」
  そんな感じで、いつも通りファミレス会議がはじまる

〇市街地の交差点
柳朔也「じゃあ僕は八木さんを家まで送って帰るけど  隼も今は女子なんだから、気を付けて帰りなよ」
八木楓「わかってるって、じゃあまた来週な!」
  二人と別れ、俺は薄暗い帰り道へと歩き出す
  自然と弾む歩調は、先ほどの朔也の反応を思い出しているからだ
  『確かに、可愛いとは思うよ』
八木楓「・・・へへ、あいつ、照れたな」
  俺に、ではなく俺が借りている八木の見た目に対してだということは充分に理解している
  それでも俺は朔也が俺を意識しているという事実が嬉しかった
八木楓(俺は幼馴染の朔也の事が好きだ)
八木楓「この姿なら、いつか朔也に・・・」
八木楓「って、駄目だ! これは八木の身体なんだから、いつまでもこのままでいられるわけないんだ」
  そんな事、願ってはいけない。わかってる
  男で親友の俺から好意を抱かれているなんて知ったら朔也は困るだろう
  でも、今の姿ならほんの少しでも勝機はある
  今日みたいに、俺の姿に照れてくれる
  意識してくれる
八木楓「・・・二人とも真剣に悩んでるのに、俺って本当に最低だな」
八木楓「こんな事を願っているなんで、二人にだって絶対に言えない。俺だけの秘密だ」
  このままの生活が、永遠に続けばいいのに

コメント

  • 男女の体が入れ替わって半年も経てば性格も変わってくるのかな?二人とも柳くんが好きなら今のうちにって思うけど。このストーリー系は大好きです。

  • まさかの三角関係でびっくりしました、人を思う気持ちは時にコントロールを失いますよね、今後の展開が気になります、どうなるんでしょうか。

  • 朔也君をめぐる三角関係になってたことに驚きました!
    楓さんの気持ちはわかってたんですが、まさか朔也くんまで!?
    大変なことが起きてるのに、二人ともこのままでいたい…と思ってるんですよね。
    恋は人を狂わせるものですよ!
    とても面白かったです!

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