読切(脚本)
〇田舎の病院の病室
このみさん「いままでありがとう 私のわがままに付き合ってくれて」
このみさん「みんなに会えてよかった 私がいなくてもちゃんと生きてね 自由に。 本当にありがとう」
もえ「おかあさん、やだよぅ」
もえ「もっと一緒にいたいよぅ」
このみさん「おかあさん、ちゃんともえちゃんの近くにいるから 離れても、どこに行っても大丈夫」
もえ「おかあさん! おかあさん!!」
たくまさん「このみさん......! このみさんーー!!」
このみは安らかに目を閉じ天国に旅立った。
しだいにキラキラと輝きだし、消えてしまった。
このみは謎の病で遺体も残ることはなかった。
〇ダイニング(食事なし)
たくまさん「もえちゃん、これからどうしようか」
たくまさん「ぼくはこのままもう少しこの家にいたいと思ってる。 もえちゃんはどうしたい?」
もえ「私もここにいたい おかあさんと一緒に住んだこの家にいたい」
たくまさん「もう少しだけ一緒にいよう。 このみさんは、いろんな用意をしてくれているけれど」
このみ、もえ、たくまは、本当の家族ではない。
自分の病気を知ったこのみが、たくまに偽装結婚をもちかけたのだ。
そして、もえを養子に迎えた。
このみはたくまともえが不自由なく暮らせるだけの用意をしていた。
その額は大きく、二人が金銭的に困ることは今後ないほどだった。
しかし、このみのために家族をしていた二人は家から離れようとしなかった。
二人ともこのみと離れたくなかったのだ。
このみのいない部屋で、このみのために家族をしていた二人は、どう接していいのかお互いにわからなかった。
〇古びた神社
たくまさん「ぼくは一体。ここはどこだろう? 職場から家に向かったはずなのに」
たくまさん「近所にこんな神社あったかな? けどなぜか懐かしい気がする。 もしかして来たことがあるのかな」
たくまさん「どうか、このみさんに会えますように。 他は何もいらないから、このみさん......」
もえ「たくまさん? ここはどこ? 私どうしてこんなところにいるんだろう?」
たくまさん「もえちゃんも来たんだね ぼくもいつの間にかここにいたんだ。 なぜか、願えばこのみさんに会える気がするよ」
もえ「ううん、違うよ ここ、なんかすごく怖いよ」
たくまさん「怖い?そうかな、静かですごくいい場所な気がするよ ぼくたちとこのみさんを繋いでくれるような」
たくまさん「もえちゃんだってこのみさんに会いたくない?」
もえ「会いたいよ 私のおかあさんはこのみさんだけだもん おかあさん...... 何もいらないから会いたい でも苦しい、苦しいよ」
もえ「う、うう、うううう」
たくまさん「もえちゃん? もえちゃん!?!?」
もえの体はガタガタと震えだした。
風がびゅうびゅうと音を立てる。
もえ「ががが、が、が、あ、あ、あ、どうして、あ、どうして、ひどい、そんなこと願うだなんて、がががががが」
もえ「ころして、や、殺したくない、がががががご、ががが、逃げて、がががごがが」
たくまさん「これは......わかる......こっちにいけば、このみさんがいる場所に行くって、わかる......」
たくまさん「けど、それをこのみさんが望んでないってこともわかるよ......」
たくまさん「ごめん......」
びゅうびゅうと風は強く吹き付けた
もえ「おかあさん...... おかあさんが助けてくれたよ......」
たくまさん「うん、そうだな、このみさんはちゃんと近くにいるんだよな......」
もえ「うん、私のそばにいるって約束してくれたもん」
たくまさん「そうだな......」
〇ダイニング(食事なし)
気づくと二人は家にいた。
たくまさん「このみさんはちゃんといるんだよな」
もえ「うん、いるよ 一緒にいるよ、ちゃんと」
もえはたくまの手をぎゅと握った。
もえ「お父さんて呼んでもいいかな?」
たくまさん「こんなぼくだけど、 よければ、これからもどうぞよろしく」
もえ「おかあさんも喜んでる気がするよ」
たくまさん「そうだね、そうだといいな」
ん?これはファミリーのほんわか話なの?なんかホラーでしたよね。亡くなったこのみに二人は神社に呼び寄せられて、もえの体の中にこのみが入ったように見えた。だから帰宅後も「これからもずっと一緒にいる」というセリフが。このみさん、いろんな人の体に入って永遠に誰かの家族になって生き続けたい人だったりして。
血の繋がりもなく、本当の家族では無いと言っていたけれど、お互いのことを大切に思い合っているこの3人は本物の家族だと思いました。こういうお話を読むと、血のつながりは関係ないなあと改めて思います😌
もえちゃんとたくまさんの間に吹いた風はきっと穏やかな春の陽気のように温かいものだったと想像します。ほんと、血の繋がった家族だからとか、そうではないとか、人の心が少し薄情になってきたこの世の中、家族の形なんてひとそれぞれで良いように思えます。