ある勇敢な戦士に捧げる文字列

相沢梓

読切(脚本)

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〇基地の広場(瓦礫あり)
  隣国との戦争は20年前に始まった。
  お互い豊富な資源と広大な国土をもち、豊かな国だったが、いつしかもっと大きな国にしようと資源の奪い合いが始まった。
  昔は関係が良く、交流も深かったが今では見る影もなくなってしまっていた。

  元気ですか?
  毎日危険なところでのお勤めご苦労様です。
  ケガはしてないですか?
  俺は大丈夫だ。
  早く戦争を終わらせて必ず帰る。
  待っててくれ。

〇野営地
上官「よし、今日はここで夜明けを待つ 明るくなりしだいここを発つので各自体を休めておけ」
全員「はい」
上官「それとタケル。お前にまた手紙が届いている。後で取りに来るように」
タケル「はい」
上官「では以上だ」
「休めって言っても少ししか時間ないよな」
「ああ。きついよな。 木崎上官なら俺たちのことをもっと気づかってくれたのにな」
タケル「・・・」
アキラ「タケル」
タケル「アキラ」
アキラ「手紙ってまた彼女からか?」
タケル「多分ね」
アキラ「だったらもっと嬉しそうにしろって」
タケル「ああ。そうだな」

〇テントの仮眠エリア
タケル「ふー」
アキラ「返事書き終わったのか?」
タケル「アキラ。まだ起きていたのか」
アキラ「まあな。それにしても帰りを待っててくれる女がいるなんて幸せなやつだね」
アキラ「こりゃー是が非でも帰らなきゃな」
タケル「...」
アキラ「ん?なんだよ」
タケル「アキラ。 友達のお前だけには言っておこうと思う。 ただし絶対誰にも言うなよ」
タケル「実はな...」
タケル「...と言うことなんだ」
アキラ「ま、マジかよ。 でもお前そんなのいつかは」
タケル「ばれるだろうな」
タケル「でも僕はできるだけ隠し通したい。 だからアキラ。もし僕が戦いの中で命を落としたら」
タケル「その時は君が僕の代わりに手紙を書いてくれ」
アキラ「...分かった」
タケル「ありがとう」
アキラ「...一つ聞いて良いか?」
タケル「ん?」
アキラ「なんでお前がそこまでするんだ? まさかまだあれが自分のせいだと思ってんのか?」
タケル「間違いなく僕の責任だろ」
アキラ「そんなわけねえよ。 少なくとも俺はそう思っているぜ」
タケル「...もう寝よう。明日も早い」
タケル「お休み」
アキラ「タケル...」

〇モヤモヤ
  あの日以降毎日同じ夢を見る。
  木崎上官を失ったあの日を何度も繰り返している。
  木崎上官はみんなから好かれていた。
  部下思いで、優しくて、頼りになって、かっこよくて。
  そんな彼を殺したのは僕だ。
  捕虜になった僕を一人で助けに来て殺された。
  僕の罪は捕まったこと以上に彼を見捨ててしまったことだ。
  助けてもらった僕は怖くてすぐに逃げた。
  とにかく遠くに逃げようと必死で走った。
  助けに来てくれた木崎上官のことなんて全く気にもかけないで逃げたのだ。
  あの時二人で力を合わせれば木崎上官は死ななかったかもしれない。
  醜い。なんて醜い人間だと僕は思った。
  だからせめての罪滅ぼしとして、彼の奥さんのサキさんに彼のふりをして手紙を送っている。
  ただ自分が許されたくてやっている。
  僕はなんて醜い人間だ。

〇テントの仮眠エリア
アキラ「タケル、タケル!」
タケル「ん?ああもう朝か。悪い。起こしてくれたのか」
アキラ「それどころじゃないんだって。大変だ。俺たち帰れるんだ」
タケル「は?何言って」
「やった。終わった。戦争が終わったんだ」
タケル「え?」
アキラ「ちょうど今日隣の国と平和協定が結ばれたんだ。もう戦わなくていいんだ」
タケル「ま、まさかそんな急に」

〇朝日
  長い戦争はあっけなく終わりを告げた。
  ただただお互いを傷つけあい幕を閉じた。
タケル「もうすぐ港につく。 サキさんはきっと木崎上官の帰りを待っている。もうすべて話すしかないのか」
「お帰りなさいー。兵士の皆さん。お疲れさまでしたー」
  僕たちが船から降りるとみんなが出迎えてくれた。そしてその中に写真で一度だけ見たあの人がいた
タケル「サキさんだ。言うしかない。自分のせいだと。自分が木崎上官を殺したと」
サキ「タケルさん?」
タケル「え?」
サキ「やっぱり。いつも主人の代わりにありがとうお手紙。嬉しかったわ」
タケル「なんで僕の名前を。いやそれよりもまさか知っているんですか?木崎上官が亡くなったことを」
サキ「ええ。手紙が主人の字と違っていたから。なんとなく気づいたの。誰か優しい人が私のために代わりの手紙をくれてるって」
タケル「でもなんで僕を知って」
サキ「主人の手紙にいつもあなたがでてきたもの。 軍人とは思えない細い身体に優しい目をした部下のお話」
サキ「一目であなただと分かったわ。そして手紙を書いてくれてるのもきっとあなただと」
サキ「...主人の代わりに生きて帰って来てくれてありがとう。タケルさん」
タケル「僕はお礼を言われることなんて」
サキ「辛いことが多かったと思いますけど、これからはあなたの好きなように生きてくださいね。 タケルさん」
タケル「...」
タケル「...はい」
  木崎上官。僕はあなたの代わりに生きます。もう二度とこの国が過ちを繰り返さないように

コメント

  • 手紙の文体は騙せても、字体は人を騙せないものなんですね。奥さんはご主人の手紙と違うと分かっていても、手紙の返信をしてくれるなんてとっても優しいです。

  • 感動で泣けました。サキさんはすべてみぬいていた、それでいてご主人を失っても、あんなに優しい言葉をかけることができるなんて、やはり素晴らしい方は素晴らしい方と結ばれているんですね。

  • 優しさをすごく感じる作品でした!
    上官もこんな部下を持って幸せ者。
    そしてこんな出来た奥さんも。
    やっぱり立派な人には人はついていくものですね。

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