読切(脚本)
〇豪華なベッドルーム
とある朝
起きろ...起きるんじゃ...
はよう起きなされ
ガバッ
幽人「・・・」
やっと起きたか
あまり老体に声をあげさせるものではないぞ
五爺「老体というより媒体じゃがな!わはは」
寝起き早々冷めた目で見つめる俺をよそに爺さんは笑う
俺の・・・スマホの中で・・・!!
〇おしゃれなリビングダイニング
・・・
五爺「・・・」
幽人「・・・」
幽人「何をしている...?」
五爺「趣味の盆栽の手入れじゃよ」
幽人「それ盆栽じゃねーよホーム画面だよ!」
幽人「昨日からやたらと緑色したアイコンのアプリ増えてんなと思ったらそのせいか!!!」
幽人「容量無くなるだろ消せ!いらんもん消せ!!」
五爺「むー数少ない老後の楽しみを奪うものではないぞ」
幽人「人のスマホで余生謳歌すんじゃねぇ!!」
五爺「おや、友人からメールが来たぞ」
幽人「マイペースな...」
幽人(うん?友達からメール?チャットアプリが主流のこの時代にわざわざ誰が...)
五爺「どうやら簡単に稼げる方法をお主だけに伝授してくれるようじゃぞ!」
幽人「それ絶対スパムメールだろ!!」
五爺「スパム...?煮るなり焼くなり好きにしてのあれかの?」
五爺「イニシャルはSなのに本音はMなmeetのことかの?」
幽人「その風貌で横文字絡めたボケやめてくれ!!なんかモヤッとする!!!」
五爺「誰がボケジジイじゃ!!まだ孫の顔を忘れた程度じゃ!!!」
幽人「そこまで言ってねーしもう重症じゃねーかよ!!!」
幽人「・・・いや孫の顔わすれたって俺のこと誰だと思って今まで話してたんだアンター!!!」
五爺「孫じゃよ」
幽人「もうボケどうこうのレベルじゃねぇ!」
幽人「何でこんなことに...」
なぜスマホの中に爺さんが入っているのか
それは昨日父から送られてきたメールから始まった
最新の医療テクノロジーを研究していた父と母
その二人から突然爺さんの”事実上の死”を告げられる
近頃会えて居なかったせいもありショックを受けたのだが
そのメールには『これは私達二人の愛(AI)結晶よ』
などと謎のイラ立ちという暖かみを覚える文章とともに爺さんの精神を移植したアプリのURLが付随されていた
幽人(家族揃ってくだらんダジャレばっか並べやがって...)
当の本人達は倫理にかける人体実験を行っただので今は警察のお世話らしい
幽人(面倒事を増やした文句の一つも言ってやりたいところだが・・・)
五爺「おや、次は1000万円相当のギフト券が当たったそうじゃの、善は急げじゃ早速サイトに・・・」
幽人「物思いに耽る隙もねぇ!!!」
〇街中の道路
・・・
幽人「・・・」
幽人(パン屋で朝食でも買おうと思ったが今日は定休日か・・・)
幽人(大人しく近場のコンビニにでも行くかな)
幽人「ヘイsyari、近くのコンビニ探して」
「ピコン・・・」
「20メートル先、右折です」
幽人「カーナビか!」
五爺「その声まさか...ばーさんか!?」
幽人「スマホの音声ガイドだよ!!耳までボケたのか!!!」
幽人「ややこしくなるから出てくんな!!」
「ピコン・・・」
「・・・申し訳ありません」
幽人「そっちじゃねぇ!」
五爺「おなごには優しくするものじゃよ...」
幽人「マッジでこのっ...!」
〇シックな玄関
・・・
幽人「ただいまー・・・」
幽人「あれ、暖かいな暖房消し忘れたか?」
「ふふふ・・・」
「どうじゃ驚いたか」
「わしじゃよ」
五爺「わ し」
幽人「すっと出ろよ」
五爺「家に帰る道すがら遠隔操作で暖房を付けて置いたのじゃ」
幽人「そんなこともできるのか、これは素直に助かるな」
五爺「そうじゃろうそうじゃろう」
五爺「他にも電気やテレビまでわしの思い通りじゃ!」
幽人「なるほどね・・・」
幽人「レコーダーの録画欄全部時代劇で埋め尽くされてたのアンタかぁ!!!!」
〇おしゃれなリビングダイニング
・・・
幽人「折角の休日なのに疲労が貯まる一方だ・・・」
幽人「よし、一旦スマホは置いてテレビでも観よう」
幽人「録画したやつ・・・は全部時代劇になってんのか」
幽人「他に好きな番組ないのか爺ちゃん・・・」
幽人「ん?これは違うな、なになに『健康寿命を引き伸ばす長寿の秘訣スペシャル』・・・」
幽人「体無いだろ!」
幽人「事実上死んだことになってんの分かってんのか爺ちゃん・・・」
ツッコミの自主練かの?
幽人「うわああああああああああ!?」
五爺「驚かせてしまったかの?わしじゃよ」
幽人「いきなり画面に現れるなー!!」
五爺「わはは悪気はないんじゃすまんすまん」
幽人(テレビの操作だけじゃなくてモニターにまで映せるのか・・・)
幽人(無駄にハイスペックだなうちの爺ちゃん・・・)
幽人「落ち着いてテレビも見れねぇ・・・」
五爺「渾身の驚き顔も見れたことじゃし盆栽の手入れでもするかのぅ」
幽人「絶対悪気あっただろ!」
幽人「・・・」
幽人「そういや盆栽ってホーム画面だろ?アプリの場所変えるだけで楽しいのか?」
五爺「形はもう整っておるよ、後は度々湧き出る虫食いをキレイにしていくのじゃ」
幽人「虫食い?アイコンにそんな機能あったか?」
「ピロリン♪」
五爺「ほれ、この音とともに虫食いが生まれるんじゃ」
幽人「・・・」
五爺「それを一つ一つ中に入って消していくんじゃよ」
幽人「虫食いってそれアプリの通知じゃねーか!!!」
幽人「なんだ今日はやけに誰も連絡無いなと思ったらそのせいか!!!」
幽人「うわぁガッツリ既読スルーしちゃってるよどうすんだこれ!信頼関係に確実なヒビが・・・!!!」
五爺「その程度でヒビが入とはえらく脆い関係性じゃのぉ」
幽人「いやそうだけど・・・ッ!!!」
〇豪華なベッドルーム
その夜
幽人「今日1日でどっと疲れた・・・」
五爺「今日は色々と迷惑をかけてしまったようじゃのぉ」
幽人「散々だ」
五爺「きっぱりじゃな」
五爺「ああそうじゃ」
五爺「いい忘れておったがわしはただのアプリじゃ」
五爺「アプリを消せばわしも消える・・・」
五爺「わしは最新の世界随一のこの世のものとは思えないほどの類まれに見る現代科学の塊じゃが」
幽人「自称ががなげーよ」
五爺「ほんとうに嫌になったときはいつでも消してくれて構わんぞ・・・」
五爺「元々わしは死んだも同然じゃからな!」
幽人「・・・」
幽人「まぁ今のところ邪魔、うるさい、カメラのレンズ老眼鏡仕様にしやがったな、ポンコツ、迷惑極まりないが・・・」
五爺「批判が長い・・・」
幽人「もう少し、このままでやってみるよ」
幽人(騒がしいし面倒事ばっかりだけど・・・孤独は感じないしな)
五爺「ゆうと・・・」
五爺「お前ならそう言ってくれると思っておったぞ!」
五爺「じゃからお前の友達にわしの自己紹介をしておいたぞ!」
幽人「・・・は?」
どうも皆様方はじめましてじゃ
ゆうとの亡くなった祖父である五爺と申す
幽人「何を勝手に・・・」
お近付きの印にとはなんじゃがこの
『あなただけの1分で簡単に50億稼げる方法!?』というサイトのURLをお贈りしますじゃ
幽人「おおおおおおおい!!!」
幽人「あああ!皆に詐欺にでも加担してると思われてブロックされてるじゃねーか!!!」
幽人「どうしてくれんだーーーー!!!」
五爺「現代っ子たちの友情は薄っぺらいものじゃなぁ」
幽人「うるせー!!!」
──こうして死んだはずの祖父としばらくの同居(?)生活が始まるのだった・・・
幽人「散々だ・・・散々だ・・・!!!」
──
5Gだから五爺って👍。幽人がおじいちゃんに生活の全てを乗っ取られていく様子を見ていると、現代人にとってはスマホ=自分自身なんだなあ、と改めて実感しました。肉親ならまだしも他人に入られたら地獄ですね。
面白かったです。おじいちゃんの愛情なのか自己中なのか分からない行動が予測不能で、それを全部拾って主人公がツッコむのが良かったです。録画が全部時代劇なのに声を出して笑いました。こくやってほんとにおじいちゃんおばあちゃんと話せたらいいなーとほっこりしました。
いかにも令和時代的な、とても斬新なストーリーでした! 亡くなった故人とこんな形で相接することになった彼は、しばらく混乱がつづくことでしょうね。でもいつもそばにいてくれる存在ができたことには代わりない!