フィクサーなる男(1)(脚本)
〇国際会議場
元老「震災より既に50日が経過した」
元老「目下、完全に治安が回復しているとは言い難い状況である」
元老「蓬莱街」
元老「政府に不満を持つ者共の温床となっている」
元老「国家の代表として状況の説明を求める」
「国家の代表として」
大泉「て、帝都復興における治安回復は戒厳司令部に一任しておりますので」
大泉「け、憲兵隊はあくまでも政治犯検挙に特化した職務でありまして」
大泉「む、無論治安回復においても全力で対応しております。今後も足並をそろえて。はい」
元老「戒厳司令」
天粕「何もかも想定内いやむしろこちらの思惑に叛徒共が引っかかっている事の証左それが蓬莱街」
元老「おびきよせて一気に叩く。果たして上手くいくのかね?」
元老「帝都臣民を悪戯に怯えさせる仕儀にはならんのかね?」
元老「ファシズムはいかんよ。ファシズムは」
『ご安心ください。その為の財界です』
実朝「軍部の暴走なきよう、我が帝都日報が公明正大な視点で日々の論評を行っております」
天粕「監視の間違いでは?」
元老「く、口が過ぎるぞ天粕」
実朝「ははは。その監視の目を光らせていても、天粕司令肝入りの虎の子たる戒厳警備兵の人気はうなぎ登り」
実朝「荒みきった帝都の希望と、子供達の憧れの的になっておりますよ」
〇崩壊した噴水広場
めっちゃ食う子「カッケー!」
〇国際会議場
実朝「恥を忍んで、道化の衣に身を包んだ甲斐がありましたな」
天粕「それについては良くも悪くも言葉もない」
実朝「とまれかくまれ帝都復興事業に我が来栖川財閥の提唱する『ユートピア―ド計画』が選ばれたのです」
実朝「復興のみならず、これを国家躍進の好機と捉え、官民一体となって働くことを改めてミカドにお誓い申し上げます」
元老「しかしその来栖川財閥家の当主といえば」
元老「蓬莱街に集う叛徒の首魁、自由の女神なる者の正体であるとの醜聞これあり」
元老「更に言えば、叛徒に金を流して国家反逆を企てる不良ブルジョワの大本とも」
天粕「己の手を汚さぬ『新種の活動家』」
天粕「仕方ありますまいそれもまた自由の代償」
天粕「して軍部の暴走と倫理の崩壊、国家の代表の方々はどちらを選択されますか?」
元老「僭越だぞ天粕!軍属の政治介入はいかん!」
元老「国家運営は我ら政党が今後も高い緊張感をもって注視しつつ検討を加速させる方向で議論を続けるものである!」
天粕「・・・承知いたしました」
実朝「ははは。元老の皆様は老いても益々盛んでありますな」
実朝「我が来栖川財閥も方々の国家運営に対する人的金銭的協力は惜しみません」
実朝「で・す・の・で」
実朝「こちらの当主の件に関しても、どうか私に一任されたく存じます」
実朝「てか、それってお前らに関係あるの?」
元老「ああ、いや、そちらを責めているわけではありませんよ。ははは」
元老「さ、左様!」
元老「むしろ我々は、亡き義孝卿やかの小娘に取って変わりあなたが来栖川家を仕切って頂ければと」
実朝「僭越である」
実朝「あまり調子にのるなよ。お前達の首なんていつでも挿げ替えることが出来るんだぜ」
実朝「ああ?」
元老「そ、それは勿論」
元老「実朝先生の人脈と御助力あっての我々です」
実朝「いいか。次の投票で仕事失いたくなきゃ人んちのイザコザにまで口出すんじゃねえ」
実朝「潰すぞ」
元老「せ、僭越でした」
元老「ユートピア―ド計画の完遂、引き続きお支えいたします。はい」
実朝「そうなされませ」
実朝「なんつって」
〇荒廃した国会議事堂の広間
実朝「ね。一応顔出しといて良かったろ?」
天粕「助かりました」
天粕「金と投票用紙を用いた戦い方、は流石に私には出来ませんので」
実朝「早く計画を成し遂げて、そんな回りくどいやり方をせずに済む新時代を作りたいものだね」
天粕「構わないのですか?」
天粕「ユートピア―ド計画はデモクラットにとってはディストピアード計画でしょう?」
天粕「だから一度却下されている」
実朝「まあ頭の固い前当主の無理解もあったし、それに・・・」
実朝「誰がデモクラットだって?吐き気がするよ」
天粕「失礼しました」
実朝「じゃあまたね。新時代の独裁者君」
天粕「よく言う。金の亡者、めが」
天粕「いや。維新の亡者、か」
戒厳警備兵「お待ちしておりました。すぐに戒厳司令部にお戻りください」
戒厳警備兵「憲兵隊の最上少尉がお見えになっています」
天粕「最上が・・・?」
つづく