愛でたい王子としゃべらずの姫(脚本)
〇豪華な部屋
アルノー「エステル、口を開けて」
エステル「で、でも・・・」
アルノー「ほら、あーん」
小さな果実を、遠慮がちに開かれたエステルの口内に滑り込ませる
恥ずかしそうにしながらももぐもぐと口を
動かすエステルに、僕は頬を緩めた
アルノー「この果物が好きだと聞いて取り寄せたんだ」
エステル「・・・ありがとうございます」
エステルの口元についてしまった果汁を指で拭って、ぺろりと指を舐める
アルノー「うん。甘くて美味しいね」
エステル「殿下!」
頬を染めたエステルの愛らしさに、その唇にキスを落とす
抱き締めると、遠慮がちに僕の服をきゅっと握り返してきた
アルノー(──やっぱり、嫌われている訳ではなさそうだけど)
僕はそっとため息をついた
〇綺麗な港町
エステルの故郷はこの王都まで数日を要する国の端
〇大広間
夜会で、僕が辺境伯令嬢の彼女に一目惚れをして我が儘を通して娶った妻だ
そんな彼女と婚姻を結んでからもう三月が経とうとしている
〇貴族の部屋
閨は共にしているし、今みたいなやり取りを嫌がる素振りもない
〇豪華な部屋
だと言うのに、何故か会話が出来ない
僕がいくら話しかけても「えぇ」「いいえ」と短い返事ばかり
しかもすぐ部屋に籠ってしまうものだから、ちっとも可愛らしい声を聞くことが出来ない
アルノー(僕は時間の許す限り共に過ごして色んな話をして、エステルといちゃい・・・愛で倒して互いを理解し合いたいのに――!)
しかしこの日も結局、ロクに声を聞けないまま午後のティータイムは終了
彼女はそそくさと自室へ戻ってしまった
アルノー(緊張しているのかと思ったけど、そういう訳でもなさそうだし)
一体なぜ話をしてくれないのかと、盛大にため息をついた
〇結婚式場の入口
このままではいけないと、その日の晩僕は意を決してエステルの部屋を訪れた
けれどドアを叩く直前、室内から聞こえて来た声に手を止める
〇結婚式場の入口
「――そいでわざわざ取り寄せて下さって。美味しかったぁ」
「まぁ、それは良かったですねぇ」
「・・・やけどね。ありがとうございますって。美味しかった、嬉しいって言いたかったのに」
「また言えんかったわ・・・」
しょんぼりとしたようなその声は、間違いなくエステルのものだろう
だけど──
〇結婚式場の入口
「おっしゃれば宜しいんですよ。このままずっと殿下とお話しないつもりですか?」
「お話したいわ!」
「やけど・・・きっと嫌われてまうもの・・・」
「嫌われはしないと思いますけどねぇ」
「嫌われるわ!もし、もしもそいで離縁なんてなったら・・・」
「うち・・・うち、絶対悲しゅうて死んでしまう・・・!」
わぁんっと泣き声が聞こえて来て、僕は堪らずに部屋のドアをぶち開けた
〇貴族の応接間
アルノー「エステル!!」
エステル「きゃあぁあっ!?ででで殿下!?」
室内にいたのは、エステルと彼女の侍女の二人だけ
アルノー(間違いない――!)
僕は大股で足を進めて、エステルの肩を掴む
アルノー「今話していたのは、エステルだね?」
エステル「う・・・あ、あの・・・」
視線を彷徨わせているエステルの肩を掴む手に力を込める
アルノー「僕がエステルを嫌う、と?」
エステルの身体がびくりと跳ねた
アルノー「なぜ、そんな事を思ったの?」
エステル「だって・・・だって私・・・」
エステルが目を潤ませて、ぎゅっと胸の前で手を組む
エステル「うち・・・すごく訛っとるんです! きちんと話さなって思うて練習しとるんですけど・・・全然上手う話せんで!」
アルノー「ぐっ!?」
エステル「殿下の奥さんなのに、こんな訛っとるなんてバレたら、きっと殿下にご迷惑おかけしてまうって、思うて・・・」
エステル「そいで・・・」
アルノー「ぐぅ・・・っ!」
エステル「そうしたら、おそろしゅうて、話せんくなって・・・!」
エステルの目から涙が溢れ出す
僕は興奮で震える手でその涙を拭うと、エステルをぎゅっと抱き締めた
アルノー「訛ってるくらいで僕がエステルを嫌うと――離縁すると、思った?」
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ファンタジー溺愛ものが大好きなので、ドキドキしながら読ませて頂きました✨
エステルがとっても可愛かったです。
そして色気たっぷりの表現が好みでした。またぜひ読みたいです😆
エステルは遠い国の出身だから言葉に訛りがあったのですね。なんだか聞き覚えのある訛りでした。私は関西弁のツッコミが好きです。物語はハッピーエンドで良かったです。
訛りがあるからお話出来ない…ってかわいい女性ですね!
私は絶対にかわいいと思うんですが、殿下も同じだったみたいで。
いっぱいお話出来るようになって良かったですね。
きゅんきゅんさせていただきました!