背徳感は蜜の味(脚本)
〇大企業のオフィスビル
社員A「ちょっと見てよ、コレ」
社員B「なになに?」
DO!STRIKE社
恋愛禁止令で急成長!?
社長橘傑氏にインタビュー
社員A「橘社長のインタビュー記事、かなりのPV数なの」
社員A「社内恋愛禁止令なんて、馬鹿げたルールだと思ったけどさ~」
社員B「意外と悪くないよね」
〇豪華な社長室
八尾 千尋「橘社長、まもなくxyzTVの岡島社長との会食のお時間です」
橘 傑「ああ」
八尾 千尋「ネクタイが緩んでいます」
秘書の八尾は、俺のネクタイにそっと手を触れた
橘 傑「あ、おいっ!?」
八尾 千尋「いい加減、慣れてください」
橘 傑「そう言われてもな・・・簡単に慣れるものじゃないんだよ」
八尾 千尋「すぐに照れるところ、可愛いですね」
橘 傑「あまりからかわないでくれ」
八尾 千尋「そんなこと言って。 こういうのが好きじゃないですか、社長」
八尾 千尋「反応が初心で可愛くて、ついいじめたくなるんです」
八尾はやたらと細くしなやかな指先できゅっとネクタイを締めると、耳元で囁いた
八尾 千尋「マンションで待ってますから」
八尾 千尋「会食は早めに切り上げてください」
橘 傑「わ、わかったからそんなに近づくな」
〇高級マンションの一室
橘 傑「ただいま」
八尾 千尋「おかえり、待ってましたよ」
八尾 千尋「風呂、湧かしておきました」
橘 傑「ああ、ありがとう」
〇白いバスルーム
橘 傑(このままでいいものか)
恋愛禁止令を出した当事者の俺が、秘書の八尾と恋愛をしているなんて
橘 傑「あうう・・・」
背徳感から俺は最近、胃がキリキリと痛むようになっていた
〇豪華な社長室
翌日──
記者「今後の事業計画など、お話を聞かせて頂きありがとうございました」
記者「ところで御社はユニークな社内規則があるようですね」
橘 傑(もしや)
恋愛禁止令のことかと、俺は内心ドキッとした
記者「恋愛禁止令で社内風紀が整ったそうですね」
橘 傑(やはり、それか)
橘 傑「おっしゃる通りです」
橘 傑「社則として潔く、仕事は仕事。プライベートはプライベートと切り分けたところ、作業効率が改善しましてね」
建前上そう言ったが、実際の所は毎度、秘書に恋愛感情を抱かれてしまう面倒くささがきっかけだった
仕事に専念したかった俺は、秘書を女性から男性に変え、社内恋愛禁止令を社則に加えた
その時期にやってきた新秘書こそが、
八尾 千尋(やお ちひろ)だった──
予定は狂いに狂った
完璧な仕事ぶりと、愛嬌。
初めて同性に興味を持ち、すぐに恋に落ちた
記者「なるほどですね。しかし、現在では御社も多大な収益をあげています」
記者「ちまたで、”時代錯誤な社則”なんて噂も聞きますが」
記者「社内恋愛禁止令が撤回されることは、あるのでしょうか」
橘 傑「将来のことはわかりかねます」
記者「はは、橘社長は慎重ですからね。 本日はありがとうございました」
橘 傑「こちらこそ、ありがとうございました」
橘 傑「ふう」
〇大企業のオフィスビル
社員A「ねえ、聞いた~?」
社員A「人事部の三浦さんと、エンジニアの北川君、付き合ってるらしいね」
社員B「うん、聞いたよ~」
社員B「三浦さん、北川君と恋愛を続けるために、転職を決めたらしいよね」
橘 傑(そんなことがあったのか)
八尾 千尋「社長、まもなく車が参ります」
橘 傑「ああ、わかった」
俺が決めたルールが、社員達の人生に影響を与えている
橘 傑(このままでは、よくない)
八尾 千尋「社長、大阪到着後の予定ですが・・・」
橘 傑「・・・」
八尾 千尋「社長・・・!?」
〇シックなバー
八尾 千尋「どうしましたか?」
橘 傑「すまないな、業務後に呼び出して」
八尾 千尋「いいえ。むしろ光栄です」
橘 傑「大事な話があるんだ。聞いてくれ」
八尾 千尋「はい」
橘 傑「単刀直入に言うが」
橘 傑「別れよう」
八尾 千尋「話って、そのことでしたか」
橘 傑「恋愛禁止令の社則を作った者として、社員にケジメがつかない」
橘 傑「理由はただ、それだけだ。すまない」
八尾 千尋「社長、あなたは本当に、素直な人ですね」
八尾 千尋「それから、クソ真面目な人です」
橘 傑「はあ・・・」
これで、よかったんだ
〇ホテルの部屋
橘 傑「ふぅ」
橘 傑「くっ・・・千尋」
橘 傑「愛していたよ・・・」
八尾 千尋「俺のこと嫌いになったわけではなさそうですね」
橘 傑「どうしてここに!?」
八尾 千尋「納得がいかなかったので」
橘 傑「だからといって、人の部屋に勝手に入るな」
八尾 千尋「視点を変えてみるのはいかがですか、社長?」
橘 傑「視点か?」
八尾 千尋「社長は今、自分が決めたルールを自分で守らないことに対して、背徳感を抱いている」
橘 傑「その通りだ」
八尾 千尋「社内恋愛禁止令を出した張本人が、社内恋愛をしている。それはいけないことだ」
八尾 千尋「しかし社長。あなたは、俺との秘密の恋を楽しんでいるように思えました」
橘 傑「それは・・・」
橘 傑「楽しかった。それが俺の本音だ」
橘 傑「出来ることなら、背徳感を感じないまま、お前を愛し続けたかった」
八尾 千尋「それなら、愛し続ければいいんです」
橘 傑「無茶を言わないでくれ」
八尾 千尋「無茶ではありません。なぜなら──」
八尾 千尋「風紀を整えたり、仕事を効率化させるために、社内恋愛禁止令を作ったっていうのは建前だからだ」
八尾 千尋「本音は、社長自身がこの背徳感を楽しむために作った規則なんですよ」
すると千尋は俺をベッドに押し倒した
橘 傑「お、おい!?」
八尾 千尋「制約のための規則ではなく、社長自身が、背徳の恋を楽しむために作った規則──」
八尾 千尋「そういうことにしてしまえば、いいと思いませんか?」
橘 傑「そんな理屈でいいものか?」
八尾 千尋「いいんですよ、この会社のボスはあなたなのですから」
八尾 千尋「職権乱用してしまうあなただからこそ、俺は惹かれました」
八尾 千尋「だから、これからも俺を愛してくれませんか?」
橘 傑「たしかにその理屈は、筋が通っているな」
八尾 千尋「さすが社長、判断が早いです」
千尋は俺に口づけをした
橘 傑(背徳感を味わうためのルールか。悪くない)
言いくるめられてますね。笑
でも背徳感を味わうには最高のシチュエーションですよね!
個人的にはその社則を廃止してもよかったんじゃないかな?と思いました。
優秀な人材がそれで会社を辞めても困りますよね。
千尋に言いくるめられてしまう社長の純粋さは女性秘書にはたまらなかったのでしょうね。同性にして恋愛禁止例を出したのにやっぱり秘書にモテモテ!性別関係なく構いたくなる社長っていいな。
社内恋愛禁止のルールの中での男性同士の恋愛、背徳感の2乗ですね。キャラクターの個性・設定も楽しめました。ごちそうさまでした。