良薬口に苦し(脚本)
〇西洋風の受付
ユウ「はい、今日の分」
今日は朝から街の薬師に指定された薬草を摘んでくる依頼をこなしていた。
袋に詰まった薬草の束をギルド受付のお姉さんがしっかりと、しかし手早く確かめていく。
受付「・・・うん、確かに十分な量ですね。お疲れ様です、ユウさん」
やがて袋の帯を締め直して目線をこちらに戻したお姉さんは労いと共に笑みを浮かべた。
受付「もう日も暮れるし、ジオさんには私達から納品──」
ユウ「ああいや、途中まで帰り道だしボクが持っていくよ!」
ユウ「それよりも、納品書とかの手続きを代筆してくれると嬉しいな!」
ボクはお姉さんの気遣いを半ば遮っていた。でも、お姉さんは苦笑すると頷いた。
受付「──まったく。分かりました。では、報酬は振り込んでおくので配達も追加でお願いします」
ユウ「はぁい!おつかれさまっしたぁ!」
〇西洋の街並み
ボクはカウンターに置かれた草の袋を抱え直すと外へ飛び出した。まだ夜にはなっていない。
ヴィー「仕事熱心な事だな」
ユウ「わっ」
冷えつつある外の空気を吸うと同時に、服と首の隙間からにょろ、と顔が覗く。
ユウ「ヴィー。急に動くからびっくりしたじゃん」
ヴィー「ヒトの肌は脆弱、いや、敏感と言うべきか。難儀な事だな」
ヴィーは素知らぬ風に人の文句を聞き流してそのままボクの肩へと全身を移動させる。くすぐったかったのは言うまでもない。
ユウ「う、うひゃあ!」
ヴィー「声を洩らすな、はしたない」
ヴィーはボクが召喚した時から態度がまるで変わらない。最初は喋る蛇を召喚できた、なんて嬉しさに飛び跳ねたけど──
ユウ「誰のせいだと思ってんのさ!」
ヴィー「誰のおかげで仕事を早く終えられたと思っているのだ」
ユウ「・・・ヴィーのおかげです」
ヴィー「ふん。分かればいい」
〇山の中
ああ言えばこう言うけど事実だ。
薬草の自制する町の外で魔物を蹴散らしてくれたのは本気を出したヴィーだし、
〇草原
薬草を集めるのを手伝ってくれたのもヴィーで、
〇山道
移動するためにボクを運んでくれたのもヴィーだった。
口にしたら照れ臭いからナイショだけど、ボクが召喚士として生計を立てていられるのはヴィーのおかげ。
〇レンガ造りの家
ジオ「おお、助かるぜぇ!こんなに採ってきたのか!坊主、あんがとよ!」
薬師のジオさんは薬草の束を一目見てボクの頭をゴツゴツした無骨な掌で撫でた。力任せに髪型が崩されて慌ててボクは飛び退く。
ユウ「う、ううん。ちょうど、手頃な依頼があったからこなしただけ。ヴィーも手伝ってくれたし」
ジオ「おお、ニョロリもありがとさん!」
ヴィー「・・・・・・」
ヴィーはいつもジオさんと口を利かない。他の人前ではこちらからわざわざ見せないと
姿も出さないくらいに不愛想だ。ギルド内では大抵ボクの服に篭ってしまうし。
ジオ「しばらく依頼もしねぇし、今度はソッチが客として来てくれよな!」
ユウ「えっ・・・」
ジオさんの何気ない一言に胸が詰まった。
ジオ「って、クスリの世話なんぞならん方がイイか!がっはっは!」
ボクが驚いた事に気付いた様子もなくジオさんは笑う。
ユウ「・・・うん。でも、私もいつもジオさんの塗り薬は効くって評判だから今度買いに来ようかな」
ジオ「おお、いつでも歓迎だ!なんせ坊主が摘んできたクスリだ。たんまりオマケしちゃうぜ!」
ユウ「ありがとう。それじゃ今日は疲れたから私はこのまま帰るね」
ジオ「そうか。暗くなったし気ィつけてな!」
ユウ「うん。おやすみなさい」
そうして、ボクはジオさんの店を出た。
〇ヨーロッパの街並み
ヴィー「・・・せっかく気合いを入れても無駄骨だったな」
ユウ「止めてよ!ボクだってびっくりしたんだから!」
開口一番に飛び出るヴィーからの皮肉に顔を覆う。
ヴィー「形だけ淑やかにしても無意味だ。時間が惜しいのならすぐにでも伝えれば良い」
ヴィー「ボクは貴様にホの字なのだと」
ユウ「できたら苦労しない!それに表現が古い!」
分かってる。分かってる。分かってる!ちょっといつもより大人しくして、会う前に整えた髪もぐしゃぐしゃにされた。
女子なのに、ボクの見た目が女っぽくないからって相手になんてされていない。
・・・でも、撫でられたのはちょっと嬉しかったな。
ヴィー「みすみす会う口実を減らしたとは、本末転倒だな」
ユウ「うぅ・・・」
ジオさんの事を好きになっちゃって、今月は依頼にかこつけて5回は会っている。
でも張り切った自分のせいでもう依頼もない。どうして行動力だけは人一倍になっちゃうのかなぁ・・・。
ヴィー「下手に飾るよりも素を見せれば良かろう」
ユウ「人の気も知らないで。ロボとかキーンには言ってないよね?」
ヴィー「我が歯牙がそんな軽いものか」
〇魔法陣2
ボクがジオさんを好きだってことは幼馴染のキーンやその相棒のロボには知られてない。ヴィーが秘密にしてくれているからだ。
〇ヨーロッパの街並み
ユウ「・・・疑ってごめん。先に帰ってて?」
ヴィー「良かろう」
そしてボクは恥ずかしさのあまり独り夜の街に駆けだした。
きっと、こういう発散しかできないから”坊主”なんて思われちゃうんだろうなぁ。
ヴィー「・・・・・・」
ユウの背を見送り、残されたヴィーは裏路地から壁を這って空き家の屋根に登った。
〇綺麗な港町
ヴィー「人の気も知らないで、か」
ヴィー「・・・我が召喚士への恋慕にも同じ事が言えるな」
ヴィー「・・・しかし、所詮はヒトと使い魔。結ばれることはあるまい」
ヴィー「せめて、我がマナビトの幸せを明日も願いこの力を振るおうではないか──」
〇沖合
ヴィーの呟きは黒と青の混ざる星空へ静かに溶けていった。
片思いって、甘くて切ないですよね。
彼女の片思いもそうですが、使い魔さんの片思いもそうですよね。
どんな気持ちで、彼女の話を聞いてるのかな…と思いました。
切ない片想いのお話しだっんですか。私はてっきり冒険活劇のお話だと勝手に思いました。でも、片想いは素敵な事です。人を愛することは自分の事も愛せるから。
うまく恋心を表現できない女の子、でも空回りしながらもがんばっちゃう彼女が可愛いなと思った。そしてもうひとつの、結ばれない片思い。同じように片思いしてがんばっちゃうへびさん、切ないけどピュアな恋っていいですね。