悪食たちの邂逅(脚本)
〇教室の教壇
人の不幸は蜜の味。
人気者の裏の顔はジューシーでステーキのようだ。
偉そうなあいつの失態はジンジャエールのように喉を潤す。
人の秘密は最高の御馳走。
誰もがゴシップに飢えている。
校内で女神と呼ばれる立花アカネ。
彼女の裏の顔はどんな味がするだろう。
捏造しても構わない。
人は極上の食事を求めているんだ。
〇学校の廊下
金曜日の放課後。
人気者の彼女は数多の誘いを断って、
親友の水晶アオメと二人でどこかへ消える。
今まさに、その後ろ姿を追っている。
アカネ「今日の小テストどうだった? みんな、難しいって言ってたけど」
アオメ「前に授業でやっていた範囲。 ちゃんと授業を受けてたら解けないわけがない」
アオメ「みんなが怠惰なだけなのに、文句を言う」
アカネ「さすが、アオメ。 でもね、それってアオメがすごいのよ」
アカネ「自分がすごいんだってわかってほしいな 私のアオメは偉いのよ」
アオメ「べつにそんなこと・・・」
品行方正な少女二人、特にあのアカネが、
もしも、放課後にいかがわしい非行行為を行っていたら。
その記事は最高のごちそうになる。
捏造、誇張、虚偽の証言、悪意ある切り抜き。
どんな手を使ってでも、誰もが飛びつくニュースにしてやる。
ケイト(ほとんど使われてない空き教室に入っていく・・・? これはもしかすると本物かもしれないぞ)
〇教室の教壇
アカネ「さ。アオメ、座って」
アオメ「うん・・・」
アカネ「いいこね、とってもいいこ」
ケイト(・・・なんだ? アオメが床に座り込んでいる)
ケイト(アカネが椅子に座って、まるでペットみたいにアオメの頭をなでている)
ケイト(この光景だけでも最高のスクープだ)
アカネ「アオメ、昔は悪い子だったのにね」
アオメ「あ、あ、ごめんなさい」
アカネ「私を、うさんくさいって言ってたもの 誰にでもいい顔して気味悪いって」
アオメ「私、ばかだったの」
アカネ「うふふ 教室で私に面と向かって言ったわよね」
アカネ「おかげで私の信者どもから責められて、かわいそうだった」
アカネ「強気なあなたがどんどん弱くなって、 ひとりになったの」
アオメ「おねがい ゆるして、ゆるして」
アカネ「私が助けてあげたときのあなたの顔、 わすれられない」
アカネ「私のことを怖がって、 手をはたいてきたよね」
アカネ「そのときに、思ったの」
アカネ「あなたはきっと私の極上のデザートなるって」
アオメ「あ、ああ・・・」
ぽろぽろ泣くアオメの涙を、アカネが口で吸っていく。
それはなぐさめではなく、のどを潤すように。
まさに食事風景だった。
アオメはずっと涙を流しながら、ぼうっと虚空を見つめている。
アカネ「ああ、おいしい」
アカネ「催眠をかけて私に心酔させても、 本心では私を軽蔑してる 自由がきかず、私の言いなり」
アカネ「心酔でコーティングされたこってり甘い味」
アカネ「その奥のほろ苦い、軽蔑の味 ぴりりと刺激的な屈辱の味」
アカネ「何度味わっても飽きがこない 最高のデザート」
アカネ「大好きよ、アオメ」
アオメ「ああ、アカネ、アカネ・・・」
非現実的な光景だ。
ケイト「こんな、こんな・・・」
ケイト「こんなすばらしいスクープがあるなんて!」
ケイト「消音カメラで写真はばっちり撮った 来週には校内中大騒ぎだ」
アカネ「あなたもいらっしゃい 一人でかくれんぼなんて、さびしいわ」
ケイト「え」
ケイト(体が勝手に動く・・・!)
ひざまずいた俺の前髪を、アカネがつかむ。
アカネ「これは私たちだけの秘密よ 下衆なスクープになるつもりはないの」
アカネ「でも、そうね」
アカネ「何かの役には立ってもらおうかしら 私の下僕として、信者として」
アカネ「私を信仰なさい」
ケイト「俺は、俺、俺は・・・」
ケイト(ああ、意識が遠のいていく)
ケイト(ポケットに入れておいたボイスレコーダー これだけでも、どう、に、か・・・)
〇教室の教壇
アカネ「報道部が下僕になってくれてよかったわ 特にこの人、しつこかったし」
アオメ「アカネ・・・」
アカネ「あら どうかしたの、アオメ?」
アオメ「あなた、最低だわ・・・」
アカネ「・・・うふふ アオメ、だぁいすき」
アカネ「ずっと一緒にいましょうね だから、秘密よ」
ゴシップを追いかけてると、自分の身も危なくなると思うんですが、彼は目の前のスクープに夢中で気づかなかったようですね。笑
それにしても催眠とは…なかなか怖いものですね。
スクープやゴシップは人の興味を惹くものですよね。
最後、追いかけていた彼は完全に催眠術にかかってしまうのでしょうか。ノイズレコーダーが何かの役にたてば…
何だか怖いような不思議なようなストーリーでした。催眠術、本当に存在したらとっても怖いですよね。ストーリーの展開が楽しいと思いました。