〇一戸建て
　　ぴーちゃん。ぴーちゃん。ぴーちゃん

〇おしゃれなリビングダイニング
浜田将「ぴーちゃん。ぴーちゃん。ぴーちゃん」
　　将（まさる）は、鳥かごに入った小さな黄色のインコに声をかけている。
浜田将「ぴーちゃん。ぴーちゃん。ぴーちゃん」
浜田咲「うるっさいなー、朝早くから。せっかくの土曜日なのに落ち着いてられないよ」
浜田将「ぴーちゃん。ぴーちゃん。ぴーちゃん」
浜田咲「ねえ、ママ。何とかならないの？」
浜田多恵「ほら、こないだ喋ったじゃない」
浜田多恵「何度も訓練するのがいいんだって」
浜田多恵「はい、どうぞ」
　　コーヒーを差し出す。
浜田実「ああ。ありがとう」
浜田将「ぴーちゃん。ぴーちゃん。ぴーちゃん」
浜田咲「あーもううるさい！ バス、まだなの？」
　　プップー
浜田多恵「あら、ちょうど来たみたい」
浜田多恵「将。幼稚園行くよー」
浜田将「ぴーちゃん。ぴーちゃん。ぴーちゃん」
浜田多恵「咲（さき）、今日何時に帰ってくるの？」
浜田咲「夕方。どうせすぐ負けるから」
浜田多恵「そう。でも、頑張ってね」
浜田将「ぴーちゃん。ぴーちゃん。ぴーちゃん」
浜田咲「私もう行く。うるさくてしょうがない」
浜田咲「パパ、よく新聞なんて読んでられるね」
浜田実「ん？ ああ。俺は平気だ」
浜田咲「・・・信じられない」

〇一戸建て
　　キュイーン

〇おしゃれなリビングダイニング
　　掃除機をかける多恵と、寝転がってテレビを観ている実（みのる）。
　　実がテレビのボリュームを上げる。
　　多恵は、ムッとして浜田とテレビの間を掃除する。
浜田実「・・・・・・」
浜田多恵「何？ 何か文句でも？」
浜田実「いや。特に」
浜田多恵「休日くらい、お掃除手伝ってくれてもいいのよ？」
浜田実「・・・俺は、何をすればいい？」
浜田多恵「手伝ってくれるの？」
浜田実「・・・ああ」
浜田多恵「じゃあ、ぴーちゃんの鳥かごの掃除お願い」

〇一戸建て
　　ガラガラガラ
　　窓を開ける。

〇おしゃれなリビングダイニング
　　キュイーン
　　掃除機の音が鳴り響く。
　　鳥かごを覗き込む実。
浜田実「おい。これ、どうすればいいんだ？」
　　掃除機の音にかき消されて実の声は多恵に届かない。
　　鳥かごの扉を開けてインコを捕まえようとする。
　　しかし、インコは実の手をするりとすり抜け、鳥かごの中を飛び回る。
浜田実「おい、コラ！ おとなしくしろ！」
　　鳥かごを手に持ち、捕まえようとする。
浜田実「あ！」
　　インコが扉から外に飛び出す。
浜田実「ああ、おい！」
　　インコは部屋の中を飛び回る。
浜田実「待て！ この！」
　　インコを追いかけて部屋の中をぐるぐると回る。
浜田多恵「あなた！ 何やってるのよ！」
浜田実「こいつが！ この！」
インコ「ぴーちゃん。ぴーちゃん。ぴーちゃん」
　　インコは部屋をぐるぐると飛び回る。
「喋った！」

〇おしゃれなリビングダイニング
「はぁ、はぁ」
　　部屋を飛び回るインコと、インコを追いか
　　けまわす２人。
浜田多恵「これじゃらちが明かないわ」
　　箒を手にする多恵。
浜田多恵「私がこれでそっちに誘導するから、あなたはそこにいて」
浜田実「ああ」
浜田多恵「えい」
　　多恵が、箒をインコに向けて振り降ろす。
　　インコは箒を避けて実の元へ飛んでいく。
浜田実「とりゃ」
　　飛んできたインコを捕まえようとするが、空振り。
「あぁ!!」
　　インコは窓から羽ばたいて飛んでいく。

〇一戸建て
インコ「ぴーちゃん。ぴーちゃん。ぴーちゃん・・・」
　　黄色いインコが羽ばたいていく。

〇おしゃれなリビングダイニング
浜田実「・・・なんで窓閉めておかないんだよ」
浜田多恵「え？ 何？ 私の所為って言いたいの？」
浜田実「・・・・・・」
浜田多恵「どうするのよ・・・」

〇一戸建て
実と多恵の声「ぴーちゃん。ぴーちゃん。ぴーちゃん」
浜田咲「ん？」

〇おしゃれなリビングダイニング
「ぴーちゃん。ぴーちゃん。ぴーちゃん」
　　鳥かごに話かけている実と多恵。
浜田咲「ただいまー」
「ぴーちゃん。ぴーちゃん。ぴーちゃん」
浜田咲「何やってるのよ。２人して・・・」
浜田多恵「何って、喋る訓練じゃない」
浜田実「ぴーちゃん。ぴーちゃん。ぴーちゃん」
浜田多恵「ほら、咲も一緒にやろう」
「ぴーちゃん。ぴーちゃん。ぴーちゃん」
浜田咲「ばっかじゃないの。パパまで・・・」
　　咲、インコに目をやる。
浜田咲「え!?」
浜田咲「どうしたのそれ!?」
　　インコに近づき、インコをじっと見る。
浜田咲「ぴーちゃんは!?」
浜田多恵「ここにいるじゃない。ねえ、あなた」
浜田実「ああ」
浜田咲「これ、ぴーちゃんじゃないじゃん」
　　鳥かごには、明らかにぴーちゃんより一回り大きな黄色のインコが１羽。
浜田実「そんなわけないだろう。どうみてもぴー ちゃんじゃないか。なあ、お前」
浜田多恵「そ、そうよ。間違いないわ」
「ぴーちゃん。ぴーちゃん。ぴーちゃん」
浜田咲「うるさい！」
「・・・・・・」
浜田咲「どうみても違うじゃない。ぴーちゃんはもっとちっちゃかったでしょ」
浜田実「成長が早いからな」
浜田咲「なわけないでしょ！ ねえ、どうしたのよ」
浜田多恵「・・・逃げた」
浜田咲「え？」
浜田多恵「パパが鳥かごから出しちゃって」
浜田実「な、俺だけの所為じゃないぞ。そもそも慣れないことを俺に任せるお前だって──」
浜田多恵「どう考えたってあのたの所為じゃない！」
浜田実「いや、俺だけの所為じゃない。お前だって少しは──」
浜田咲「そんなことはどうでもいいの！」
「・・・・・・」
浜田咲「どうするのよ。将、もうすぐ帰ってくるよ」
浜田実「だからこうやって」
浜田咲「あきれた。将だってこれがぴーちゃんじゃないことぐらい気付くわよ」
浜田多恵「そうかしら？ 私は大丈夫だと思うわ。 ねえ、あなた」
浜田実「ああ。瓜二つだ。問題ない」
浜田咲「親が子どもを騙していいの？」
「・・・・・・」
　　プップー
　　バスが停まる。
浜田咲「あ、帰ってきた。将、泣くわよー」
浜田実「バレなければ嘘にはならない」
浜田咲「は？」
浜田多恵「いい？ 咲。 大人になるってことはそういうことなの」
浜田咲「ええ？ 何言ってんの？」

〇一戸建て
浜田将「ぴーちゃん。ぴーちゃん。ぴーちゃん」

〇おしゃれなリビングダイニング
「ぴーちゃん。ぴーちゃん。ぴーちゃん」

〇おしゃれなリビングダイニング
浜田将「ただいまー。ぴーちゃんいるー？」

〇おしゃれなリビングダイニング
「ぴーちゃん。ぴーちゃん。ぴーちゃん」

〇おしゃれなリビングダイニング
浜田将「わあ。僕もやるー」
　　インコの前にやってくる将。
浜田将「!」
「・・・・・・」
浜田将「おっきくなったね！」
浜田咲「・・・・・・」
浜田実「今日、いっぱいご飯あげたからな」
浜田多恵「そ、そうね。もりもり食べてたわ」
浜田将「もっと大きくなるんだぞ。ぴーちゃん」

〇一戸建て
皆の声「ぴーちゃん。ぴーちゃん。ぴーちゃん」