太陽と月が交わるところ(脚本)
〇地球
パチン。
と。世界は弾けた──
〇地球
〇幻想空間
〇水中
〇花火
〇スペイン坂
〇高速道路
〇山の展望台(鍵無し)
ソル「わあ 綺麗だね、世界っって」
ルナ「フン 退屈だわ」
ルナ「私にとって綺麗なものは、ソルが作るお菓子だけ」
ソル「私の・・・お菓子だけ?」
ルナ「あー、もう さっさと帰りましょ」
ソル「風が気持ちいいし 飛んじゃおうかな」
ルナ「バカ そんな事して見つかったら──」
ソル「その時は、ルナの魔法で消し去ってよ イヤなこと全部──えいっ!!」
〇雲の上
〇東京全景
〇バスの中
ジュリ「ん・・・?」
ジュリ「あっ」
〇ゆるやかな坂道
ジュリ「あれー? この辺だと思ったのにな」
ソル「お嬢さん」
ジュリ「ふぁっ!!」
ソル「さっきからずっとウロウロしてるね お目当ては何かしら?」
ジュリ「あ、あの」
ジュリ「ケーキの美味しい、洋菓子店があると聞いて」
ソル「ふ~ん・・・”ここ”に?」
ジュリ「・・・はい」
ソル「そうなんだ 嬉しいな じゃ、食べてく? うちのケーキ」
〇店の入口
〇レトロ喫茶
ジュリ「美味しい♡♡♡」
ジュリ「あ、あの、私も調理クラブでお菓子を作るんですけど、」
ジュリ「私がずっと追い求めている理想の味は、これだ! ってくらいです!!」
ルナ「フン 当然 ソルのお菓子は世界一よ」
ジュリ「ひっ」
ソル「嬉しいな、ジュリちゃんがそう言ってくれて」
ソル「もっと褒めて褒めて」
ルナ「調子に乗らない」
ジュリ「で、でも本当のことですから まるで──魔法みたい」
ソル「あ・・・魔法、か」
ソル「やっぱり、そうなっちゃってるのかな」
ジュリ「あ、あの、何か気に障りましたか?」
ルナ「アンタね」
ルナ「たしかにソルは優れた太陽の魔法使いだけど、お菓子だけは真剣にその手で拵えてるんだ!」
「!?」
ルナ「この喫茶『ジャルダン』の中で、無粋な魔法を使った事は一度だって──!!」
ジュリ「魔法!?」
ソル「ルナ 何を」
ルナ「どうせすぐジュリは忘れる」
ルナ「だから教えろ──この店のことを、誰から聞いた?」
ジュリ「そ、それは・・・」
ジュリ「ど、どうしたんです?」
ルナ「──お客様だよ」
ルナ「訂正! この喫茶『ジャルダン』で初めて使うわ 月の魔法! ルナ──」
ソル「太陽の魔法──ソル・ティアラ!」
ルナ「バカッ!! 店内で炎なんか出すなっ」
ルナ「ルナ・アウロラ!」
ジュリ「・・・」
ルナ「言いたいことはちょっとタンマ 動くよ」
ジュリ「へ!?」
〇サイバー空間
〇レトロ喫茶
ジュリ「って、え!?」
〇テクスチャ
〇レトロ喫茶
ジュリ「あ・・・」
ルナ「出てみろよ、外」
〇海辺
ジュリ「・・・」
ソル「この世界は一度滅びて、今は『二周目』なんだ」
ソル「前の世界も 今ととってもよく似ていたのだけれど」
ソル「薄皮をめくれば、今よりうんとグロテスクだった」
ソル「一周目の世界ではただ息を潜めていた『魔法使い』たちは、『二周目』の世界を作り出したんだ」
〇魔法陣
「太陽の魔法使い」が暮らす「陽の国」
〇魔法陣2
「月の魔法使い」が暮らす『陰の国』
〇東京全景
二つの国でこの『世界』を挟むことで、人が衝突に向かうエネルギーの流れを調和させる事に成功した
〇海辺
ソル「私は太陽の魔法使い、ソル」
ソル「彼女は月の魔法使い、ルナ」
ソル「そして、一人前の魔法使いになって、太陽と月、どちらかに決まったら」
ソル「二つの国の魔法使いは交わってはならない──」
ジュリ「そんなの、寂しい・・・ってアレ?」
ジュリ「おふたり一緒にいるじゃないですか」
ルナ「・・・」
ルナ「お前 陰の国と陽の国、どっちの手先だ?」
ジュリ「ええ~っ!?」
ソル「わあ ジュリちゃんも魔法使いなの? どうりで飲み込みが早いと思った」
ジュリ「ちちち、違います! 私はただの人間!」
ルナ「ルナ──」
ジュリ「吹き飛ばさないで~」
ソル「ルナ 話を聞きなさいっていうか魔法止めて」
ソル「ジュリちゃんも、何か言いたいことあるんだよね? どうして私たちのお店、探してたの?」
ジュリ「だって、私、私・・・昔、あのお店──」
ジュリ「喫茶『ジャルダン』に入った事あるんです!」
ジュリ「うんと、小さい頃」
〇レトロ喫茶
その味に追いつきたくて 追いつけなくて
なのに、あったはずの場所にお店がない
それで、ネットで噂を見つけたんです
〇電脳空間
その店はいつのまにか街角にあって、一度出ると記憶があやふやになる
店主の女性二人はきっとカップルで、それから──
〇レトロ喫茶
ジュリ「二人は歳をとらない!」
ジュリ「魔法使いだって驚きません」
ソル「ここは私達が密かに会う為に、太陽と月の魔法を重ねた特殊な空間」
ソル「一応「世界」と繋がることで安定させてるから、迷い込んだお客様からは記憶を消して」
ソル「時間の流れも外とズレ続けることで、秘密にしてきたんだけど」
ルナ「もう時間切れみたいだな 私たちの、おままごとは」
ジュリ「え?」
ソル「この世界の平和を保つ理(ことわり)を完成させるにあたって、魔法使い達は離別の悲しみを背負うことにした」
ソル「『太陽と月がくちづけを交わす時、世界は再び滅び、そして二度と目を覚まさない』」
ジュリ「そんな」
ソル「ありがとう、ルナ 少し長めのモラトリアム、一緒に過ごせて楽しかった」
ルナ「・・・」
ジュリ「ダ、ダメだよそんなの!」
ジュリ「私の思い出を悲劇で終わらせないで 二人は──」
「?」
ジュリ「二人は私の憧れだったの!」
ジュリ「もう一度二人に出会えたら、決めてた事があるんだ」
ジュリ「私、同じ塾に通ってる女の子に、告白する」
ジュリ「だからお願い、私の記憶を消さないで そして、二人は別れないで」
ジュリ「滅ぼさないで、世界を変えて!」
ジュリ「魔法使い、なんでしょ?」
「・・・」
ジュリ「私、もう行きます ケーキ美味しかった」
ジュリ「二人のこと、絶対に忘れたりしませんから」
ソル「・・・嵐みたいなコだったね」
ルナ「・・・ねえ、ソル」
ソル「ねえ、ルナ 私思ったの」
ルナ「『太陽と月がくちづけしたら、世界が壊れる』」
ソル「その『世界』って、何を指すんだろうね?」
ソル「そんなことで、滅びるような世界なら──」
ソル「・・・して、みよっか」
ルナ「・・・」
ルナ「ソル・・・私、伝えたいことが」
ソル「おいで」
〇黒背景
〇レトロ喫茶
ソル「・・・」
ルナ「・・・」
ソル「今、『少し未来』の外の世界と繋げた」
ソル「扉を開いた時、外の世界がまだ滅びずに、踏み留まってくれていたら」
ルナ「・・・その時は、成長したジュリのお菓子でもご馳走になろうかしら」
ソル「さあ、行こ」
〇店の入口
私たちが認識している世界の外側で様々なパラレルワールドが誕生したり滅びたりしていると考えると、魔法使いの世界があっても不思議じゃないですね。ソルとルナの喫茶店に行ってみたい。ジュリちゃんの無銭飲食が気になったけど、記憶がなくなるから大丈夫。それもある意味ファンタジー。
長編作品にできてしまいそうなくらいしっかり設定が作り込まれていて、2000字の中でも深い世界観を感じることができました。
これから何が起こるんだろう?と思わせるような掴みバッチリの冒頭シーンや、多くを語りすぎないラストも良かったです!😊
百合の口付けで壊れる脆い世界など壊してしまいましょう!
扉の外で再会できたら良いですね☺️